■■■平衡回路の基礎4・・・平衡回路の実装■■■
Basic Theory of Balanced Circuit



●実装における基本的な考え方

平衡伝送系では、「HOT」と「COLD」そして「GROUND」の3本の線によって結合されるというのが基本です。通常、機器の接続には「2芯シールド」と呼ばれるケーブルが使われます。民生機の接続に使われているRCAピン・プラグ付のケーブルは「単芯シールド」といって、中央の細い1本の芯線を囲むように編組シールドが巻かれていますが、平衡用のケーブルはその中央の芯線が2本あるわけです。

そして、2本の芯線は互いに捻ってあります。芯線を捻ることで、外部から誘導される磁気を帳消しにしようという考えがあるからです。この「HOT」と「COLD」を互いに捻る、ということは非常に重要な考え方です。磁気による誘導ノイズはシールドを貫通するので、銅やアルミで囲っていくら厳重なシールドを施しても防ぐことができません。しかし、「HOT」と「COLD」を互いに捻ると、捻ったピッチごとに誘導されたノイズの位相が互いに逆になるためにうまく打ち消されて1/10〜1/100くらい減らすことができます。

ところで、市販のケーブルには芯線が4本あるものがあります。このようなケーブルでは、4本ある芯線のうち2本が「白」、残りの2本が「青」という風に2本ずつセットになって同じ色が対角線となるようになっています。同じ色が2本ずつありますからどっちがどっちだか区別できません。しかしそれでいいのです。このようなケーブルでは、「白」同士、「青」同士をつないで結局3本として使うからです。このようにすると前述した「捻る」ことよりも更に効果的に誘導ノイズをキャンセルすることができます。


●平衡度の確保

これまで述べてきたとおり、平衡伝送系では、外来ノイズは「HOT」と「COLD」の両方に飛び込むことを利用してノイズをかわしてしまおう、という考え方の上に成り立っています。そこには『「HOT」と「COLD」が均等にノイズの影響を受ける』という大前提があります。もし、ノイズが「HOT」と「COLD」に均等に飛び込んでくれなかったら平衡伝送のメカニズムは機能しません。

従って、平衡回路が平衡であるためのさまざまな工夫が必要になってきます。まず、「HOT」と「COLD」の線の長さは同じである必要があり、露出の具合や配置も揃っていなければなりません。「HOT」と「COLD」それぞれの線がアースとの間で生じる浮遊容量が異なると平衡さが失われます。従って、「HOT」と「COLD」それぞれの線とアースとの距離も揃っているとが必要です。実装上、平衡度を確保する最も簡単な方法は、「HOT」と「COLD」をできるだけ接近させること、できれば捻ってしまうことにつきます。

上図の(A)のように実装してしまうと平衡度は確保できませんが、(B)のように「HOT」と「COLD」を接近させてやると平衡らしくなってきます。そして(C)のように「HOT」と「COLD」を捻ってやることでほぼ理想的な平衡状態をつくり出すことができます。

下の画像は、私が製作したレコーディング業務用マイクプリアンプの入出力部分です。左端のキャノンコネクタがマイク入力部ですが、「HOT」と「COLD」をしっかり捻ってあります。ローレベルの信号を扱う非常にデリケートな部分ですが、シールド線は使っていません。これでも立派にレコーディング業務に耐えているところが平衡回路のすごいところです。右側のキャノンコネクタがライン出力部で隣のラグ板が出力ラインアンプですがこちら側も「HOT」と「COLD」が捻ってあります。


●対アース・インピーダンス

平衡伝送系では、「HOT」、「COLD」、「GROUND」の3本の線が存在します。「HOT」〜「COLD」間のインピーダンスは明記されますが、「HOT」〜「GROUND」間や「COLD」〜「GROUND」間の関係はあまり明記されません。そして、現実の回路の実装では実にさまざまなケースが存在します。

下図の3つの平衡回路は、ソース側からみた入力インピーダンス(=負荷インピーダンス)はいずれも10kΩで同じです。しかし、アースとの関係は同じではありませんね。

(A)では、「HOT」も「COLD」もアースから完全に浮いています。つまり、対アースインピーダンスは無限大(∞)です。SHUREのSM58のようなダイナミック・マイクロフォンの結線はこのようになっています(下図)。このマイクロフォンを(A)の回路で受けた時と、(B)あるいは(C)の回路で受けた時のマイクロフォン・ユニットからみた負荷は同じでも、アースとの関係は同じではありません。「HOT」、「COLD」両方のラインの外部ノイズの影響の受けやすさは(A)>(B)>(C)の順になります。もっとも、「HOT」も「COLD」がシールドされていて、しっかり平衡が保たれている限り、実用上はほとんど問題ありませんが、シールドが甘くかつ平衡が保たれなくなってしまうとたちまち差が出てきます。ソース側がトランス式の場合にこのような違いが生じます。

このような回路では、受け側の回路構成によって平衡度が決まってしまうため、高い平衡制度を得るためには(C)の回路でいうと、2つの10kΩの抵抗値が揃っていることが要求されます。また、この抵抗値が小さいほど伝送系が拾うノイズの総量は小さくなります。

下図はソース側が電子式平衡の場合です。電子式平衡出力回路では、送り出しアンプ自体がアースされているために前述のトランス式の時のように回路そのものをアースから浮かすことができません。また、レコーディング機器の出力インピーダンス(Ro)は100Ω程度であるのが普通なので、対アースインピーダンスは最初から数十Ω程度まで低くなっています。従って、受ける側が(A)、(B)、(C)いずれの場合でも対アースインピーダンスはほとんど同じになります。トランスを使っていないコンデンサ・マイクロフォンがこれにあたります。

このような回路では、ソース側の回路構成によって平衡度が決まってしまいます。高い平衡制度を得るためには「1/2Ro」にあたる2つの抵抗値が揃っていることが要求されます。また、この抵抗値が小さいほど伝送系が拾うノイズの総量は小さくなります。


●アースの扱い


●アースのグランドループ問題

オーディオ機材の中には、AV100Vプラグに3Pタイプを持ったものや、2Pタイプでも別にアース端子を引き出したものがあります。この3番目の端子は通常、オーディオ機材のシャーシ(またはアースライン)と導通があります。この3番目の端子をアースするかどうかは非常に難しい問題です。何故かというと、以下に述べるような「グランドループ」の障害を引き起こすからです。

普通、オーディオ機材をキャノンケーブルやRCAケーブル等で接続すると、ほとんど例外なく(光ケーブルは例外の代表)各機材のアースは互いに結合されます。すべての機材のアースをつないで同電位を保証してやることで正常な動作が期待できるようになり、また感電の事故を防ぎ、そして外部からの誘導ノイズからオーディオ信号を守ることができます。

ところが、3PタイプのAC100V電源ケーブルを使い、アース端子を電源側のアースにつないでしまうと、各機器はAC100V電源というもうひとつのルートによっても互いにアースが結合されることになります。下図は、マイクプリとミキサーを接続した状態で、AV100Vのアースを経由してグランドループができてしまったケースです(赤い線)。さらに、ミキサー側でとった大地アースもAV100vラインのアースとの間で別のグランドループができています(青い線)。グランドループができてしまうと容易にハムを拾います。悪くすると感電の危険があります。また、落雷時の迷走電流を家屋内に誘引します。

オーディオ機材は基本的に大地アースやコンセントのアースを必要としませんし、このような外部のアースをつなぐとかえってトラブルを誘発します。従って、3Pコンセントの3番目の端子は「使わない」、「つながない」と割り切った方がいいでしょう。


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