■■■全段差動プッシュプル・ベーシック・アンプの平衡化■■■
Balanced All Stage Differential Push-Pull Amplifier
まずは手始めに全段差動プッシュプル・ベーシック・アンプを平衡化してみることにします。どのようにすれば、最も簡単に全段差動プッシュプル・アンプが平衡化できるかについて考え、実験をしてみるのが本章のテーマです。
平衡信号を差動プッシュプル・アンプに入力するには、HOTとCOLDそれぞれの信号を初段6SL7GTの両グリッドに入力してやります。標準回路では、2つの初段6SL7GTユニットのうち(回路図でいうと)上側球のグリッドは入力端子へ、下側球のグリッドは負帰還抵抗によって事実上アースされています。この下側球のグリッドを負帰還抵抗からはずして、平衡入力のCOLD側につないでやれば、平衡入力回路はできあがりです。無帰還アンプであればこれでいいのですが、このままでは負帰還がかかりません。負帰還をかけるためには、ちょっと工夫してやる必要があります、。その方法について、以下に述べます。
入力からアンプ内部、そして出力まですべてを平衡回路で構成しようとすると、負帰還回路も平衡型になります。出力信号を初段に戻して負帰還をかける場合、戻す先は「初段カソード回路」と「初段グリッド回路」の2つが考えられます。<初段カソードにかける>
これは、シングル増幅回路で良く見慣れた方式の差動版です。これでも立派に負帰還がかかってくれますが、1つ欠点があります。差動回路では、負帰還を戻した先の初段カソードはアースからフロートされており、このままではスピーカ端子は初段カソードと同電位(本回路では約1.5V)になってDCが出てしまいます。万一、スピーカ・ケーブルの一端がアース(シャーシ)等に接すると、初段の動作が狂ってしまい、安全な回路とはいえません。この問題を解消するのには、負帰還ループにDCを遮断するコンデンサを入れなければならず、回路としてはあまり望ましくない、美しくない方向に行ってしまいます。
<初段グリッドにかける>
もうひとつの方法は、初段グリッドにかけるという方法です。上記の方法とは位相が逆転するので、かける先は上下が入れ替わります。この方法だと、スピーカー端子はアースと同電位になるので、万一スピーカ・ケーブルの一端がアース(シャーシ)等に接しても、負帰還が十分にかからなくなるだけで、DCの問題は生じません。但し、通常のアンプがスピーカ端子の一方がアースにつながているのに対して、平衡型差動プッシュプル回路では、スピーカ端子は両方ともにアースから浮いた状態になります。入力から出力まですべて平衡伝送しようというのですから、こうなって当然といえば当然の結果といえます。
下図は、負帰還を初段グリッドにかけた時のブロック図です。基本的には、560kΩと27kΩによる反転増幅器で、これが平衡構造になっています。XLRからの入力の時は平衡動作していますが、RCAジャックからの入力ではスイッチによって下側の一端がアースされるため、不平衡入力対応になっています。
上の回路の場合、裸利得が大きい3段構成の全段差動PPアンプでは、560kΩにあたり抵抗値が1MΩ以上の高抵抗になってしまいます。高抵抗値の抵抗器は浮遊容量を持つので高域特性の位相補正がうまくできません。利得が大きい回路の場合は、下の回路のように2段構成の負帰還にすればいいでしょう。