■■■MDR-7506 平衡型ヘッドホンへの改造(旧版)■■■
Building Balanced Headphone
平衡型に改造したSONY MDR-7506
ヘッドホン側に4pinキャノンのメスがついているが、今は5pinキャノンのオスに変更されている。
右に見えるのはキャノン〜ステレオ・フォーン・ジャック変換アダプタ。
使いはじめてもうだいぶ経つMDR-7506です。ぼろぼろになったイヤー・パッドはすでに1回交換しています。気がついたらケーブルの表皮が疲労で弱くなってあかぎれのようになり、ついに切れてしまいました。中の芯線はつながっているのに外側だけ切れてしまい、なさけない見栄えになっています。「なんだ、おまえ、全然弱っちいなー」という感じ。なんとかならんか、と思ってとりあえずバラバラにしてみました。
ヘッドホンは一部の例外を除いて「共通インピーダンス問題」を抱えています。ヘッドホンプラグ〜ヘッドホンユニット間の結線は、HOT側は左右別個になっていますが、COLD側は左右共通というのが一般的です。COLD側には左右両チャネルのオーディオ信号が流れるわけですが、ここに共通インピーダンスが存在すると、左右チャネル間で音が混ざります。MDR-7506のカール・コードもCOLD側は左右共通になっています。ちなみに、MDR-CD900STの場合ですと、COLD側の共通インピーダンス(DCR)は1.11Ωあります。ユニットあたりのDCRは約72Ω(実測)ですので、左右チャネル間クロストークは-36dBになり、ばかにできない数字です。ものはためしですから、皆さんがお持ちのヘッドホンで実験してみてください。アンプ側は左チャネルの信号ケーブルを引っこ抜いて右チャネルだけ音が鳴るようにします。ヘッドホンの左側ユニットからは音が出ないはずですが、さあ、どうでしょう?何かちいさく鳴っていませんか。
しかし、ここで発生する左右チャネル間での音の混ざりは大きな問題にはなりにくい性質があります。反対チャネルに現れる信号は「逆相」だからです。「同相」であればステレオ感が損なわれて左右の広がりが狭くなったように聞こえますが、「逆相」なのでかえって広がったように聞こえます。まあ、一種のステレオ・エフェクトといってもいいかもしれません。
市販のヘッドホンの80%以上は、上記のようにCOLD側のリターンを左右共通にして1本にまとめていますので、左右チャネル間で逆相クロストークが生じます。改造によってCOLD側のリターンを左右で分離してやるとステレオ感がほんの少しですが狭くなったように感じます。一方で、音の輪郭がはっきりとして、今までマスクされて聞こえなかったいろいろな音がリアルに聞こえてくる現象が体験できます。「わっ、こんな音が鳴っていたんだ」と発見した気分になって、従来型の接続のヘッドホンで聞いてみるとちゃんと鳴っているんです。でも、今まではそれに気づかなかった。
「今まで聞こえなかった音が聞こえるようになる」という表現は正確ではなくて、「今までも鳴ってはいたが気がつかないでいた音が無理なくちゃんと聞こえるようになる」ということなんでしょう。この効果は、ヘッドホンアンプは従来どおり不平衡のままでヘッドホンだけ改造するだけでも得られます。厳密にいうとヘッドホンアンプ内部ではあいかわらずCOLD側のリターンは左右いっしょくたなわけですが、ヘッドホン・ケーブルの芯線は非常に細い上に2m以上あり、アンプ側は線材の太さが普通でかつ短いために相対的に影響度が低いのです。
もうひとつの話題は平衡化です。ステレオ・ヘッドホンはジャックの形状の都合で3端子構造であり、不平衡接続して使うという前提になっています。近いうちに本格的な平衡出力を持ったヘッドホンアンプを作る予定ですが、これを使おうとすると4端子構造にしなければならず、ジャックの形状を変えるだけでなく、ジャック〜ユニット間の結線も根本的に変えなければなりません。今回のMDR-7506のケーブル劣化事件はこのヘッドホンを改造するまたとないチャンスです。MDR-7506はRチャネル・ユニットから出たケーブルはツルの中を通って頭越しにLチャネル・ユニットのところで合流し、そこでCOLD側が左右いっしょくたで1本になります。ここのところを切り離さないと平衡化できません。そこで、ツルの中を通るケーブルをすべて切断してしまい、左右各チャネルごとに独立してケーブルを出すようにします。そのためLチャネル・ユニットに開いているケーブル穴はそのまま使いますが、Rチャネル・ユニットにはドリルで4mm径の穴を開けます。両チャネルのユニットそれぞれからケーブルを出して「Y字」型にするわけです。
最近(2010年)はオーディオ用に平衡仕様のヘッドホンアンプが製品としてちらほら見かけるようになりました。そのコネクタをみると、L-Rそれぞれに3pinキャノンを使っているようです。1台のヘッドホンにキャノン×2個はいくらなんでも大袈裟すぎるだろ、と思いコネクタには当初は4pinのキャノンを使いました。ケーブルに4mm径の太目のを使ってしまったしバランス的にもまあまあです。しかし、このままでは通常のヘッドホン・ジャックに適合しません。そこで、4pinキャノン〜1/4inchステレオ・フォーン・ジャック変換アダプタも作りました。当然のことながらこの変換ケーブルには4芯ケーブルを使い、共通インピーダンスの発生は回避しています。
後になって、この4pinキャノンは5pinに変更しました。その理由は、ヘッドホンケーブルにもシールドがかぶさっているため、4pinのままだとそのシールドがアースから浮いて浮遊容量になってしまって電気的に少々具合が悪いからです。また、機材側にオスピンがむき出しになるのも感じが悪いのでオス・メスを入れ替えました。
結線は下図のとおりです。ステレオ・フォーン・ジャックの結線は、Tip=L-ch、Ring=R-ch、Sleeve=共通アース、と決められていますが、バランス化した場合のキャノン(XLR)は以下の国際規格があります(AES14-1992)。1=GND、2=Hot(L)、3=Cold(L)、4=Hot(R)、5=Cold(R)です。下図には微妙に誤りがありますのでご注意ください。5pinXLRのところの4番と5番が逆です。
MDR-7506はプロの間ではもっぱら「音が悪い」として駄目出しを喰らっています。それはCD900STに比べて音が遠くストレートに鳴らない、妙な濁った響きがあるといったことのためにモニターとして使えないせいだと思います。この2機種の大きな違いは3つあります。イヤーパッドの厚みが違うため耳へのフィット感、耳道とユニットの距離、そこできる空隙の違い。ユニット・ハウジング内は、CD900STはグラスウールが入れてあるのに7506は空っぽなこと。そしてケーブルの形状と長さの違いです。私が着目したのは2番目のユニット・ハウジング内の吸音材の有無の違いです。ものはためしに、MDR-7506を分解してユニット・ハウジング内にそこいたにあったティッシュペーパーを1枚突っ込んでみたところ、あの嫌な濁った鳴きがほぼ解消してすっきりとしたストレートな音になりました。思い当たるふしのある方はお試しください。
MDR-7506のカールコードすでに撤去かつバランス化済みなのでこれはこれで問題解消です。