■■■簡易平衡→不平衡コンバータ■■■
Balanced to Unbalanced Converter


●OPアンプを1個使ってバランスをアンバランスに変換する

下図の回路は広く知られている、OPアンプを1個使って「平衡」を「不平衡」に変換する回路です。回路を良く見てみるとHot側とCold側の抵抗器(10kΩ)の配置は似ていますがOPアンプとの接続が対称ではありません。Cold側は、利得が1倍の反転増幅器そのものですが、Hot側は抵抗器2本によるただのアッテネータのように思えます。これでは、Cold側は1倍の反転増幅をするとしてもHot側は利得が半分になってしまうのではないかと思えてしまいます。

ところが、素直にこの通りに回路を組んで実測してみると、Hot側もCold側もちゃんと信号をとらえて1倍の利得で不平衡出力が得られます。全くもって不思議な回路です。

がしかし、入力信号と出力信号の関係を精密に測定してみると、ちょっと様子がおかしいことに気づくのです。というのは、不平衡出力で1000mVが得られた時のHot側/Cold側それぞれ入力信号電圧を確かめたところ、Hot側が507mVでCold側が493mVだったのです。Hot側とCold側を足せば1000mVになるので、この回路の利得はきっかり1倍ですからそこのところは問題ありません。おかしいのはHot側、Cold側同じ信号電圧が入力されているはずなのに、実測してみると同じではないなんていうことが起きるのです。


●回路動作の解説

この回路がどのようなしくみで動作し、平衡信号を不平衡信号の変換しているのか下図を使って説明します。先ほど書いたHot側とCold側の入力信号電圧が同じにならないという話は最期に説明しますので、そのことは一旦忘れてお読みください。

1000mVで正確にバランスした信号を入力したとします。アースを基準として考えると、Hot側は+500mV、Cold側は-500mVです。「+」や「-」は位相の状態を表しており「-」というのは逆相という意味です。

まず、Hot側について考えてみましょう。Hot側は確かに10kΩの抵抗2本による-6dBのアッテネータなので、この抵抗器によって250mVずつに分圧されてOPアンプの入り口のところでは+250mVになります。

Cold側は、入力信号電圧は-500mVです。この回路が平衡信号を能書き通りに受け止めて出力側から+1000mVの反転出力を得たとします。Cold側の2本の10kΩは直列につながっていて、その一端は入力側で-500mV、反対側は出力側で+1000mVですからその差は1500mVです。ということは、値が等しい2本の抵抗器によって750mVずつに分圧されて、その中点すなわちOPアンプの入力のところでは+250mVになっているはずです。実際に回路を組んで測定してみると、確かに+250mVが観測されます。

現実には、OPアンプの入力のところの信号電圧は+側/-側は厳密に正確に+250mVではありません。ぴったり同じだったらOPアンプの入力はゼロとなって出力もゼロになってしまいます。OPアンプの素の利得が100,000倍だとすると、OPアンプの入力のところの信号電圧には250mV÷100,000=0.0025mVの差が生じており、ゼロではありません。OPアンプの素の利得が非常に大きいためにゼロとみなして考えることができるわけです。
OPアンプにおける負帰還回路は、+端子を基準として-端子に生じる出力からの帰還信号との差を検出しそれを入力として動作しています。この回路では、その+端子がHot側の信号によって+250mVずれるというトリックを使っているわけです。

さらにこの回路は非常に面白い性質を持っています。Hot〜Cold間に1000mVのバランス信号を入力しても、Hot側だけに+1000mVのアンバランス信号を入力しても、Cold側だけに-1000mVのアンバランス信号を入力しても、いずれも場合も出力側からは+1000mVが得られるのです。つまり、Hot側とCold側はバランスしていても、正確にバランスしていなくても常に利得が1倍の動作をする回路なのです。


●動作の仕方の変化

「Hot側とCold側がバランスしていても、正確にバランスしていなくても常に利得が1倍の動作をする回路なのです」と書きましたが、入力側の条件によって動作の状態は変化します。

(1)Hot側にアンバランス入力

まず、Hot側は10kΩと10kΩによる-6dBのアッテネータが形成されますので、OPアンプへの入力は常に1/2に減衰します。次に、Cold側を接地するのかしないのかで話がガラッと変わります。Cold側を接地するとCold側の2個の10kΩはごく普通の負帰還回路となり、利得が6dBの非反転増幅器になります。入力のところで-6dBの減衰があって、それが6dB増幅されるため、トータルでは0dBの非反転増幅器となります(下図左)。Cold側をオープンにすると実質的に利得0dBのボルテージフォロワになるため、トータルでは-6dBの非反転増幅器にたってしまいます(下図右)。

(2)Cold側にアンバランス入力

この場合、Hot側には入力がありませんから実質的に接地したのと同じになります。ということは、この回路はごく普通の利得0dBの反転増幅回路となります。この場合、Hot側を接地するとOPアンプの-入力は5kΩで接地されたことになり、Hot側がオープンのままだとOPアンプの-入力は10kΩで接地されつつ一方の10kΩが泳ぐのでノイズ的には不利になります。

これらについてまとめたのが下の表です。

バランス入力Hot側にアンバランス入力Cold側にアンバランス入力
Hot側入力+500mV+1000mV+1000mV(接地)(オープン)
Cold側入力-500mV(接地)(オープン)-1000mV-1000mV
アンバランス出力+1000mV+1000mV+500mV+1000mV+1000mV
コメント1000mV-6dBアッテネータ
+利得6dBの非反転増幅器
利得0dBのボルテージフォロワ利得0dBの反転増幅器利得0dBの反転増幅器
ノイズやや不利


●何故、入力信号電圧がHot=Coldにならなかったのか

もういちど、この図を見てください。

Hot側の対アースの入力インピーダンスは、10kΩ+10kΩ=20kΩです。ではCold側はどうでしょうか。OPアンプを使った普通の利得=1倍の反転増幅回路の場合だと、2本の抵抗器のつなぎ目は「イマジナリ・ショート」ですからCold側の対アースの入力インピーダンスは20kΩではなくて10kΩです。しかし、この回路では10kΩではなくもっと低いのです。

直列になった2つの10kΩすなわち20kΩの一端は-500mVで反対側の一端は+1000mVです。「イマジナリ・ショート」のポイントというのは0Vと見なせる場所ですが、それがどこにあるかというと全体の1/3のところになります。20kΩを1/3と2/3に分けるポイントというのは、Hot側入力から6.67kΩのところになり、この6.67koΩというのがCold側の入力インピーダンスになります。別の考え方をしても同じ結果になります。Hot側の10kΩの両端の信号電圧は250mVですが、Cold側の10kΩの両端の信号電圧は750mVで3倍ですから、10kΩに流れる信号電流も3倍、すなわち入力インピーダンスは6.67kΩとなります。

つまり、この回路の対アースの入力インピーダンスはHot側とCold側が同じではなく、Cold側はHot側の1/3しかありません。インピーダンスに関しては平衡ではないのです。バランスのソース信号の出力インピーダンスがゼロでない場合は、Hot側とCold側の対アース入力インピーダンスの違いが冒頭で触れた信号電圧の差を生むことになります。

この回路は、平衡→不平衡変換機能は非常に優れていますが、入力インピーダンスはバランスしていない要注意な回路なのです。ですから、外部の条件の影響を受けないようにするためには、下図のように前段に何らかのバッファを設けてやる必要があります。

入力インピーダンスが高くなくても良いというのであれば、こんな方法もあります。Cold側の2つの抵抗値をHot側の3倍の値にします。

注意しなければならないのは、入力信号の与え方によって対アースのCold側の入力インピーダンスが変化する点です。4個の抵抗値をすべて10kΩとした場合の入力インピーダンスがどうなるのかについて以下にまとめました。

バランス入力Hot側のみの
アンバランス入力
Cold側のみの
アンバランス入力
Hot側入力インピーダンス20kΩ20kΩ(接地)
Cold側入力インピーダンス6.67kΩ(接地)10kΩ



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