Parallel Box for PA and Recording
便利機付きパラBOX×2題


ただの箱なんですが・・・・ないと困る重要アイテム。スタンドの向こう側が本機でその右側がTOMOCA製。


■パラBOXとは

別名分岐BOXとも呼び、1つの信号を2つ以上に分岐させるための箱です。最もよく使われているのがTOMOCA製のパラBOX(右画像)で、左端のキャノン・メスが入力で、3つのキャノン・オスが出力です。

使う場面はいろいろですが、最も一般的なのはミキサーのライン出力でしょう。MIXされて2CHになったステレオ信号は、PAであればスピーカーを鳴らすパワーアンプに送られますが、パワーアンプが複数台ある場合は分岐させなければなりません。同時にレコーダーで録音しておきたい場合もあるでしょう。

ミキサーのヘッドホンモニターがしょぼいので、外付けのヘッドホンアンプを使うエンジニアはたくさんいます。ライブ録音では、マスターレコーダーのバックアップとして必ず別のレコーダーもまわしますから複数の分岐が必要です。レベル監視用に外付けのピークメーターやVUメーターを使うこともあります。モニタールームを確保して、別室でモニタースピーカーを鳴らしたい場合も分岐が必要です。


■基本仕様

こちらが私のパラBOXの1号機(上)と2号機(下)です。

<1号機・・・アッテネータ付き>

コネクタは、入力側はメスのXLR3、出力側は=オスのXLR3×3です。2ch仕様なのでこれが2系統あります。

ミキサーからの出力は+4dBuの標準レベルと相場が決まっていますが、ライブ録音の場合は何が起きるかわからないので、ヘッドマージンは16〜20dBくらい取ります。ということは、最大で+24dBuすなわち19.6Vというとんでもないレベルの信号が出力されることもあるわけです。レコーダー側がこれに耐えられればいいのですが、バックアップなどで使うコンパクトなPCMレコーダーやUSB電源で動作するコンパクト型のインターフェースでは、フロントエンド・アンプで歪んでしまうことがあります。たとえば、私が使っているPMD661の場合、ライン入力のクリッピング・ポイントは実測で8Vでした。この制限はレコーダー側のフェーダーで絞っても解消されません。そこで、-10dBと-20dBの2ステップのアッテネータを内蔵させることにしました。

<2号機・・・TRS〜XLR変換>

コネクタは、入力側はメスのXLR3とTRSのコンボジャック、出力側は=オスのXLR3×2とTRS×1です。2ch仕様なのでこれが2系統あります。

ライブ録音では、PA側の機材のオーディオ信号を分けてもらうことがあります。ライブはPAがメインですから、オーディオ信号を分けてもらう側はライブの邪魔をしたりわがままを言うことができません。こちらからパラBOXを持ち込んで「よろしくお願いします」と頭を下げることもよくあります。そのような場合、XLRあり、2pinのフォーンあり、3pinのフォーンありでさまざまな条件に対応しなければならないので、TRSフォーンとXLRが混ざったパラBOXとなりました。こちらも2ch仕様なのでこれが2系統あります。

2pinのフォーン(アンバランス)と3pinのフォーン(バランス)が混在する場合、Ring側の扱いが問題になります。たとえば、2pinのフォーン(アンバランス)出力のリズムBOXからの信号を3pinのフォーン(バランス)使用のレコーディング機材で受ける場合がこれに該当します。2pinのフォーンがついたケーブルであれば何の問題もありませんが、3pinのフォーンケーブルを使うと、レコーディング機材の入力でCold側がオープンになってしまうという問題が生じます。これを放置するとノイズを拾います。そこで、各チャネルごとにCold側をアースするスイッチをつけました。

この2台のパラBOXは、どちらも左側の3列だけに着目すれば、1-in→2-outの普通のパラBOXとして機能します。スイッチとその右側に付加した端子がちょっと変わっているだけだともいえます。


■全回路図

最終決定した全回路は以下のとおりです。回路的に難しいものはありませんが、1号機のアッテネータおよび2号機のCold→アーススイッチについて理解するには平衡回路に関する基本的理解が必要です。


■アッテネータの設計

バランス伝送なので、抵抗器3個によるごく一般的なL型アッテネータとします。今どきのプロ機材はインピーダンス・マッチングはしませんのでT型あるいはそれに類する方式である必要はありません。アッテネータの入力インピーダンスは10kΩくらいとしました。

-10dBの設計:

回路定数ですが、ソース側の2個の抵抗器を共用したいので、-10dBの時と-20dBの時のいずれの場合も10kΩに近い値となる組み合わせを探したところ、3.9kΩという値を得ました。出力側を4.7kΩとすると、無負荷では-8.5dBですが、20kΩ負荷では-9.7dBとなり、10kΩ負荷では-10.7dBですのでこれくらいが使いやすそうです。入力インピーダンスは、10.6kΩ〜12.5kΩの範囲になります。

-20dBの設計:

ソース側の2個の抵抗器を3.9kΩとして、出力側を910Ωとすると、無負荷では-19.6dBで、20kΩ負荷では-20.0dBとなり、10kΩ負荷では-20.3dBですのでこれで十分です。入力インピーダンスは、8.6kΩ〜8.7kΩの範囲になります。


■製作

製作は特に難しいものはありませんが、コンパクトに仕上げるには手頃なサイズのケースを見つけることが最も重要かもしれません。使用したのはグレー塗装したアルミボックスで、LEAD製のP-104(W=150、D=70、H=40、http://www.lead.co.jp/rackcases/pdf/case/P.pdf)だと思います。

もう一つのポイントは、キャノン・レセプタクル用の24mm径の穴あけです。私は、24mm径の精密ホールソーを持っているので穴あけは簡単でしたが、これがないとなるとちょっと手がかかります。新タイプのキャノン・レセプタクルは不定形ですが24mm径の丸穴でOKです。

内部の様子は右の画像のようになっています。中央が共通アースラインですが、1号機、2号機ともにレセプタクルのうちの1つの筐体端子につないでシャーシアースを取っています。2号機の6Pトグルスイッチは並列接続にして信頼性を高めてあります。

回路図上では、メス・コネクタとオス・コネクタが同じように表記されていますが、実際のコネクタ端子はメスとオスとで2pinと1pinの位置が逆転しますので、配線では注意してください。



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