■■■巻頭言■■■
Preface
以前からずーっと、ずーっと、いろいろなこと、そう、それこそいろいろなことを考えているうちにたどり着いたひとつの答えが、信号経路のバランス化でありました。この、深〜く遠いテーマをどうするか、やるかやらないか、できるのかできないのか、できるとしてすごーく面倒くさいのではないか、どこかで矛盾しはしないか、などど考えつつ、あっという間に30年が経ってしまったのでした。ぐずぐずしていると、さらにまた30年くらい経ってしまいそうだし、そうなると僕は80歳を越えてしまうし、元気なうちにやってみよう、とごく最近(2006年4月)思ったのでした。
私達の身の回りにあるほとんどすべてのオーディオ機器は、不平衡(アンバランス)と呼ばれる伝送形態をとっています。RCAピン・ケーブル、ヘッドホン・プラグにジャック、マランツやマッキントッシュのプリアンプ、オーディオ・ジェネレータにオシロスコープ、まれに例外もありますがこれらはすべて不平衡型です。平衡型には何があるかというと、キャノン・プラグがついたマイクロフォン(キャノン・プラグがついていても不平衡のものもあります)があり、全段差動プッシュプル・アンプも入出力端子部分を除けば内部的には平衡型になっています。平衡伝送方式は、複数の機材の信号経路が錯綜するプロ・オーディオではごく普通に使用されています。一般家庭のオーディオ再生装置では、機器をつなぐケーブルは長くても5m程度でしょうし、信号経路はもっぱらソースからスピーカに向かって一方向に流れますから、あまり複雑な結線にはなりにくく、アース・ループができたとしても知れています。それに比べて、レコーディングやPAの現場では、50mを越えるケーブルの引きまわしはあたりまえですし(コンサートホールの天井から吊られたマイクロフォンから調整室までの距離を想像してみてください!)、オーディオ信号は機器の間を何度もいったりきたり、あるいは意図的にループするような結線になります。不平衡系の伝送方式を採用していたら、それはもう外部雑音とハムの嵐になってしまうでしょう。
不平衡伝送方式は、アースラインと信号のリターン経路を共有します。ステレオ伝送においては、アースラインと信号のリターン経路ともに左右チャネル間でも共有し、区別することができません。平衡伝送系では、アースは共有しますが、信号のリターン経路はチャネルごとに独立しています。アースにまつわるさまざまな問題からかなり開放されるといっていいでしょう。外来雑音に対して影響を受けにくい、ということは、雑音だけでなく、他チャネルの信号の影響も受けにくいことを意味します。
さらにもうひとつ。入出力が平衡であっても、世のオーディオ機材の多くは内部的には不平衡です。たとえば、業務用のコンデンサ・マイクロフォンの中の回路は不平衡ですが、平衡出力をするためにわざわざトランスを使ったり、OPアンプによる位相反転回路を持っています。今でも人気が衰えないオールドNEVEのマイク・プリアンプの回路はごく見慣れた不平衡増幅回路で、入出力でトランスを使って平衡系の入出力を得ています。とまあ、いろいろなことを考えているのですが、実験をしないでこれ以上ごたごた言っても埒があきませんので、実際にやってみようということになったわけです。
Balanced Line Technology(http://www.dself.dsl.pipex.com/ampins/balanced/balanced.htm)