■■■測定用不平衡→平衡コンバータ■■■
Unbalanced to Balanced Converter
★よくみたら、この回路はちと問題があったので修正しました。反転回路のつなぎかたです。
右の画像は中古で広く出回っている高性能のオーディオアナライザVP-7723Aのパネルです。オシレータ出力側はBNC×1個によるアンバランスですが、測定入力側はBNC×2個のアンバランス/バランス切替えになっています。オシレータ出力がアンバランスのみですから、これではレコーディング用のマイクプリなどのバランスの入出力を持った機材にバランス信号を送り込むことができません。さらに言うと、何故VP-7723Aのバランス入力はキャノンではなくBNC×2なのか?その答えは、被測定アンプにはキャノンがついていない、キャノンとは無関係なアンプだからです。それは一体どんなアンプ?そのアンプの入力は必ずアンバランスで、出力はアンバランスのこともあればバランスのことももありますが、その多くはバランスでしかもキャノンは使わない。そしてそんなアンプがこの世にたくさんあります。みなさんも知らぬ間に使っていると思います。さあ、何でしょう?
その答えは・・・カーステレオのアンプの製品開発や製品検査で使うから。
右図は典型的なカーステレオアンプのブロック図です。乗用車の電源はDC12Vの低圧大電流が基本ですが、12Vの電源電圧ではパワーが得られません。そこでBTLアンプにして大パワーを得るように工夫しています。BTLアンプはバランスアンプの一種ですから、これを検査・測定するためには測定器側にバランス入力が必要になります。しかし、カーステレオのアンプの入力側はアンバランスなので、オシレータ出力側はアンバランスだけで足ります。VP-7723Aはメーカーの製品開発や製品検査用途の機材ですから、マーケットとして大きいカーステレオ対応機能は必須なのでしょう。
カーステレオ用のBTLアンプでは、両スピーカー端子にはDC12Vが露出します。一般のオーディオアンプではありえないことですが、カーステレオではスピーカー配線が隠蔽されるのでこれでも問題ないわけです。そのため、VP-7723Aの入力側の右隅にはグランド・フロートにするスイッチがついています。このスイッチは、通常の測定ではシャーシアース(左寄り)にセットします。
オーディオアナライザには正式なバランス入出力を備えたモデルもありますが、価格が跳ね上がってしまうのと、滅多に中古が出てきません。そこで、比較的廉価かつ容易に入手可能なVP-7723Aやそれに類したモデルでもなんとかバランスアンプの測定ができるように工夫しようというわけです。
形式にこだわらなければ不平衡信号を平衡信号に変換するのはわけもないことですが、測定目的となると相当な低歪みであること、低雑音であること、広帯域であること、そして広い帯域にわたって正確な平衡が得られることが要求されます。このサイトにも不平衡→平衡変換のための実験回路を掲載していますが、これらは音楽を聞くにはいいのですが測定器としての要件が十分ではありません。そこで、測定目的に対応できるような「測定用不平衡→平衡コンバータ」なるものを作ることにしました。コンセプトは、超廉価、1日でできる、誰でも作れる、そして高性能です。
最終回路はOPアンプを使ったきわめて簡単・安直なものです。HOT側はOPアンプをボルテージ・フォロワで使い、COLD側はOPアンプによる利得=1の反転アンプにするだけですので、タネを知ってしまえば「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれません。この安直な方式に決まるまでに、もっともらしい凝ったか回路をいくつか作って実験しています。基板にコネクタがついているのはいくつも作ったユニットを交換できるようにするためです。しかし、いろいろやってみましたが、平衡精度が出ない、精度が出せたと思ったら負荷の条件が変わると平衡が狂ってしまう、歪みが多い等々・・・なかなかいい回路がありません。最後にやってみてあっさり好結果を得たのがこの最も安直かつ原始的な方式だったわけです。
非反転側はボルテージ・フォロワですから何もしなくても非常に高い精度で利得=1になります。反転側の利得が正確に0dB(=1倍)となるように調整用の半固定抵抗を入れてあります。使用した抵抗器はすべて1%級の1/4W型金属皮膜抵抗です。
入力はBNC端子×1の不平衡で、入力インピーダンスは600Ωとしました(750Ωと3kΩが並列で600Ω)。OPアンプの出力側にはDCカットのために470μF/16Vのアルミ電解コンデンサ(通常品)を入れています。不平衡→平衡変換機能だけでは使いにくいので、出力側に約-20dBと約-40dBのアッテネータを追加しました。出力はBNC×2とキャノンXLR3の2系統パラレルの平衡で、出力インピーダンスも600Ωです。ただ、600Ωのままではレコーディング機材のマイクロフォン入力回路の測定で支障をきたすので、簡易方式ですが100Ωと50Ωもつけました。100Ωと50Ωは抵抗で分圧させただけなので出力電圧は落ちますが実用上の不便はありません。
使ったOPアンプは、超高利得・広帯域のLME49720。LME49860でも同等の結果が得られます。私が保有する程度のオーディオアナライザを使う限り、10個で300円のNJM4556でも、OPA2134でもかまわないと思います。
電源は、秋月で600円ほどで売っている24VのACアダプタを使い、限りなく簡単な回路で仕上げることにします。OPアンプはSVR(電源電圧除去比)が非常に高い性質があるのでそれをあてにします。そのため、リプルフィルタはCR×2段のシンプルなものとして安定化などという面倒なことはしません。プラスマイナス電源は抵抗2本によるいわゆる仮想センター方式です。こんな電源でも超低雑音、超低歪率が得られるのがOPアンプのすごいところです。
入出力特性・・・1.0Vの不平衡入力に対して正確に2.0Vの平衡出力です(利得=6dB)。歪み率・・・1kHz、2V出力、帯域80kHzにおいて0.00052%と表示されています(下画像)。しかし、手持ちのVP-7723Aの測定系の歪みが0.00048%あるので、本機の歪み率特性は0.0001%を割っています。何故、単純引き算で概算できるかというと、歪みの成分がともに奇数次高調波+ノイズであるためです。5.5V入力(=11V出力)までは測定限界を下回る十分な低歪みが得られており、歪みはじめるのは11.5Vから上です。
帯域特性・・・5Hz〜100kHzでほぼフラットです。1MHzにおいて-0.6dBほどの減衰がみられ、-3dB落ちするのは2.5MHzです。
(この減衰特性は電子電圧計LMV-189ARの特性であるため、本機の帯域特性はもっと広いようです)波形・・・心配した方形波形は意外に素直で全くといっていいくらいに乱れはなく、帯域特性に応じた形状・・・すなわち100kHz以上における肩の丸くなり具合・・・をしていました。
平衡度・・・100kHzにおいても高い平衡度が得られており、偏差は0.01%以下となりました。