TUBE with Transformer Mic-Pre Amplifier
真空管+トランスで作る全段差動マイク・プリアンプ


上が1号機(本機)、下が2号機。


■コンパクトなマイク・プリがほしい。

機材が揃っているスタジオと違ってライブ現場での録音で何が大変かというと、それは機材の運搬〜セッティング〜バラシ作業なのであります。少し前までは、ラックケースにProToolsやらマイクプリやらを入れて運んでいましたが、4U以上になると流石に重量がばかにならなくていつか腰をやられるだろうと思っています。そこで2014年からできるだけコンパクトな機材に切り替えるべくいろいろと工夫をはじめました。まずはラックケースをやめるためにオーディオインターフェースを小型で高機能&高性能のRME UCXに切替えました。これにともなってマイクプリも1Uサイズで1チャネルから、ハーフサイズで2チャネル、つまり1/4にすることにしました。本機はその一環としての1台です。

このアンプは、とても苦労して作ったので非公開のつもりでしたが、今となっては自分で握っていても意味がないので公開することにしました。

なお、本ページは試作機の参考レポートであり、みなさんが製作されることを支援するものではありません。従って製作に必要な情報が親切に揃っているわけではありません。必要部品の頒布もありません。


■基本仕様

(1)ユニバーサル電源

小型化することでフットワークがうんと良くなります。最近は海外で音を録ることも増えてきたので、欧州でも使えるように100Vと220〜230Vのユニバーサル電源対応としました。

(2)ファンタム電源内蔵のバランス入力

レコーディングで使用するマイクロフォンの主力はNeumannやAKGなどのスタジオ用コンデンサマイクですので、入力仕様は標準的な48Vファンタム電源付きのバランス入力です。ファンタム電源の容量は6〜7mA程度とします。これくらいあればほとんどのコンデンサマイクをカバーできます。

(3)ラインレベルのバランス出力

OPアンプを使ってバランス出力を得ることは可能ですが用法に制約が生じます。本機では出力側にもライントランスを使うことでより徹底したバランス化を図りました。

(4)広い利得範囲

本機は可変利得方式ですのでいわゆるボリューム(フェーダー)というものがありません。利得の範囲は30dB〜50dBです。これくらいの利得範囲ですとオンマイクでは過大入力になることがあるので、-10dBのPADを追加しました。最大利得が50dBですから、出力電圧が低いベロシティマイクをオフで使った場合は利得不足になるかもしれませんが、そんなややこしいマイクロフォンは持っていません。


■回路の説明

<アンプ部>
マイクロフォン入力の直後にはファンタム電源回路があります。ファンタム電源をONにすると、100μFを充電するための突入電流が流れてLEDがフラッシュ点灯してファンタム電源が入ったことを宣言します。マイクロフォンがつながっていない時は、120kΩを経由してわずかに0.4mAが流れてLEDを暗く点灯します。マイクロフォンをつなぐLEDに流れる電流が増加するのでLEDが明るく点灯してマイクロフォンに電源が供給されていることを知らせます。

続いて-10dBのPADがあり、その後ろに1dBステップで利得可変のマイクアンプ部が続きます。Padは後片付けで右図の回路を入力トランスの二次側に入れたと思います。マイクアンプの利得は、30〜50dBですがこの設計に一番苦労しました。初段は2SK170の差動で終段は出力トランスつきの6DJ8差動プッシュプルです。10kΩのトランスを使っていますが、6DJ8の負荷は7kΩです。プレート側にはネオン管を使った簡単なピークインジケーターがついていて、本機の出力限界である10V(+22dBu)で点灯します。

利得の設計はシミュレーションで行いました(下図)。負帰還定数を変えることで利得を変化させていますが、初段のソース側の抵抗値を変えると裸利得も変化してしまいます。そのため利得の変化も計算に入れたシミュレーションが必要です。

上記の定数でかなり正確な1dBステップが得られました。負帰還量はごくわずかで11〜12dBです。これで低雑音と0.01%オーダーの低歪みを得ています。ロータリースイッチは2〜23接点の可変タイプで21接点にセットしています。

<電源部>
電源部は、100Vと220Vの両方に対応するために工夫しています。両方に対応したトランスは売られていないので2つのトランスを組み合わせています。ショート事故からMOS-FETを守るためにリプルフィルタには電流制限の保護回路をつけてあります。ヒーター電源は100〜240V対応のACアダプタを流用しています。12VのACアダプタを使うとヒーターの突入電流でACアダプタの保護回路が作動しました。7.5Ωを入れるために15Vタイプを採用しています。

ファンタム電源は、ツェナダイオードを使ったシャント型の定電圧電源です。16V×3個のツェナダイオードを直列にして7mAくらいを流すと自己発熱の影響で50Vくらいで安定します。ファンタム電源がOFFの時はツェナダイオード側に7mAが流れっぱなしになります。ツェナダイオードが出すノイズは、1kΩと100μFとによってカットされます。



■特性

周波数特性は以下の通りです。上は100kHz近くまでフラットでトランスを2つも経由しているとは思えない優秀さです。低域側は、コア飽和の影響が出ています。

最大出力電圧は10Vで、その辺りまでは何とか0.1%以下を維持しています。しかし、50Hzでは6V、40Hzでは5Vに落ちます。


■あとがき

私の手元には2台のコンパクトサイズのマイクプリが揃いました。1号機(画像右)はFET+真空管式で、これはあまりに凝った回路なので2台作る気はちょっと起きません。2号機(画像左)が本機です。この2台の外部仕様はほとんど同じにしてあります。



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