セラミックコンデンサの多くは印加する電圧によって容量が変化する性質があります。他のコンデンサもクーロン力による影響は若干ありますが、セラミックコンデンサはその度合いが格段に大きい点が特徴的です。セラミックコンデンサをオーディオ回路に使った場合、コンデンサにオーディオ信号がかかると、信号電圧の変化に応じて容量も変化してしまうために、信号波形が変化してしまうことがあります。実験を行う前の仮説としては以下の項目を挙げてみました。
・フィルムコンデンサの容量は印加する電圧の影響をほとんど受けない。
・そのため、フィルムコンデンサの両端に生じる信号はほとんど歪まない。
・積層セラミックコンデンサの容量は印加する電圧の影響を著しく受ける。
・そのため、積層セラミックコンデンサの両端に生じる信号は歪む。
・歪の大きさは印加する信号電圧にほぼ比例する。
実験回路はシンプルで、オシレータ出力信号を600Ωに抵抗と被測定コンデンサで作った簡易ブリッジに印加し、被測定コンデンサの両端に生じた信号に歪を測定するというものです。被測定コンデンサとしては、ごく廉価なメタライズドフィルムコンデンサ(ポリエチレン、0.33μF)と、ムラタの積層セラミックコンデンサ(0.33μF)を使いました。
実測結果は、ほとんど冒頭の仮説のとおりになりました。フィルムコンデンサの最低歪率は0.0004%ですがこの値は測定限界値ですので、実際の歪はもっと小さい値だと思います。1V以下の領域で歪率が増加しているのは雑音の影響です(簡易な測定なので被測定回路はシールドをしていません)。従って、このデータのいずれもがノイズまたは測定系の限界によるものと思いますので、フィルムコンデンサによる歪というのは完全に測定限界の外にあると思われます。
積層セラミックコンデンサは非常に大きな歪を出してくれました。歪の大きさは信号電圧にほぼ比例して大きくなってゆきますので仮説どおりです。フィルムコンデンサと比べて1000倍以上の開きがありますので、印加する電圧によって生じる容量変化の度合いが1000倍以上違うとみていいでしょう。
積層セラミックコンデンサはこのように大きな歪を発生させますので、トーンコントロールやイコライザ回路での使用はできません。100mVの信号電圧でも0.02%もありますので、小信号回路であっても出番はなさそうです。
結合コンデンサとして使う場合は素通しとしての使い方なので、扱う信号電圧が高くても実際にコンデンサに印加される電圧は非常に低いので本データほど大きな歪は発生しないように思います。しかし、そうとも言えないので以下に理由を説明します。
仮に10Hzのカットオフの時定数を持たせて2Vの信号レベルを扱う回路の結合コンデンサとして使ったとします。積セラ・コンデンサ自体の非直線性歪は0.3%ですから、10Hzでの歪は概算で0.15%になります。100Hzでは影響はだいぶ減りますが0.03%くらいが生じます。そして1kHzでは0.003%です。周波数が高くなってもその影響はゼロにはならず案外大きいのです。フィルムコンデンサは常に0.0004%を下回りますから、これに比べると1kHzですらフィルムコンデンサよりもずっと劣ります。これでは音が変わらないわけがありません。