一般に「順電圧=0.6V」として認知されているシリコンダイオードですが、その「順電圧」なるものが一体どれくらいの値であるのか、ダイオードの種類によってどの程度の違いがあるのか、について実測してみました。測定したのは、小信号用ダイオード「1S1586」、1000V/1Aタイプとして安価に流通している「IN4007」、100V/1Aタイプでもっともポピュラーな「10E1」、秋月で入手できる1000V/2Aの高速スイッチング・タイプの「UF2010」、超高速スイッチングとして入手容易な「1R5NH」、1500V/3Aタイプの「3NH」の6種です。
測定結果を通常目盛でプロットすると右図のようになります。1S1586では、1mAで順電圧は0.6Vになりますが、10E1では3mA、UF2010では10mA以上になります。電流容量が大きいものほど、順電圧が0.6Vになる電流値は大きくなります。
温度補償回路などで、1mAを流した時にちょうど0.6Vが欲しい場合は、1S1586がぴったりだということです。しかし、1S586の場合、3mAが流れるような場所だと順電圧は0.65Vくらいになりますので、そのあたりの設計の配慮が必要です。ダイオードの順方向電圧はいつも0.6Vであるわけではありません。
測定条件:気温25℃
同じ測定結果を対数目盛でプロットすると右図のようになります。これが、ダイオードの順電圧の正体です。ダイオードの種類に関係なく、順電圧はきれいな直線的な電流依存性を示します。順電圧は電流が10倍になるごとに0.1V増えるのだと理解しておけば、設計の際に何かと役に立つことでしょう。
たとえば、10E1に100mAを流した時の順電圧が知りたいような時は、10mAの時の順電圧に0.1Vを加えておけばよいというわけです。
測定条件:気温25℃
順電流をどんどん減らしてゆくとどうなるのか、10DDA10と1S1586類似の1S2076Aで測定してみました。なお、10DDA10のグラフが0.01mA以下で切れているのは単に測定し損ねただけです。ご覧のとおり、順電流を減らしていっても順電圧の対数的電流依存性は変わりません。
測定条件:気温25℃
上記のダイオード順特性データは、気温25℃の時のものです。そもそも、半導体は温度変化に敏感です。シリコン・ダイオードでは、順電圧が温度依存性を持っています。順電圧 = 「25℃時の順電圧」+「-0.0017V〜-0.002V × 温度変化(℃)」で表すことができます。1℃の温度上昇があると、順電圧は概ね-2mV変化するということです。25℃の時の順電圧が0.6Vの動作をしているシリコン・ダイオードがシャーシ内の温度上昇で50℃(つまり+25℃)になった時の順電圧は、順電圧 = 0.6V + ( -0.002V × 25℃ ) = 0.65Vとなります。温度変化1℃あたりの順電圧の変化は3.3%もあるのです。この変化は、周囲温度の変化だけでなく、ダイオードの自己発熱によっても起こります。たとえば、「10E1」は順電流が3mAの時の順方向電圧は0.6Vですから、30mAの時は約0.7V、300mAでは約0.8Vになります。この時に10E1が消費する電力は、0.8V×0.3A=0.24Wになるわけですが、米粒大の10E1に0.24Wもの発熱が生じると、数十℃の温度上昇を引き起こします。このような場合、電源ONしてダイオードの自己発熱で温度が徐々に上昇するのつれて、順電圧は少しずつ低下してきます。ダイオードの順電圧を利用するような回路設計では、こういった変化も計算に入れておく必要があります。
なお、回路をいろいろに工夫して、この温度依存性を打ち消すことを「温度補償」といいます。詳しい説明や実例は、半導体専門書に譲ります。