ヘッドホンのカタログや取扱説明書には、16Ωとか32Ωとか63Ωという風にインピーダンス値が記載されていますが実際のインピーダンスはどうなのでしょうか。スピーカーのインピーダンスが周波数によって大きく変動して一定でないのと同様に、ヘッドホンのインピーダンスも必ずしも一定はありません。ヘッドホンアンプやヘッドホン出力を持った回路を設計する時、ヘッドホンのインピーダンス特性を知っておくと参考になります。
測定方法は至って簡単で、内部抵抗が600Ωのオーディオジェネレータの出力にじかにヘッドホンをつなぎ、その両端信号電圧を測定する方法で行いました。オーディオジェネレータには、無負荷の状態で1000mV一定の信号を出力させ、ヘッドホンの両端に生じた信号電圧をRxとすると下図の式によってRxの値を計算で求めることができます。
測定したヘッドホンは以下の5種類です。
モデル メーカー 公称インピーダンス タイプ MDR-CD900ST SONY 63Ω 密閉 RH-5Ma YAMAHA 32Ω 密閉 PX-90 SENNHEISER 32Ω オープンエア MDR-EX90SL SONY 16Ω インナーイヤー SHE-9700 PHILIPS 16Ω インナーイヤー ヘッドホンの公称インピーダンスは、ユニット本体のインピーダンスを表記することが多いようですが、実際には2mほどのケーブルのDCR(直流抵抗)が加算されます。一般にケーブルのDCRは1Ω〜数Ωほどもあります。
MDR-CD900STは、90Hz付近にピークを持ち、高い周波数で上昇を示しており、フルレンジスピーカーに似た特性です。300Hz付近と4kHz付近に小さな山があります。密閉型でそれなりのサイズのハウジングを持つヘッドホンの多くは、このように低域側に何らかのピークを持つ傾向があります。
RH-5MaとPX-90はとても良く似た特性で、全体的にフラットですが60Hzあたりに低い山があります。オープンエアタイプは一般に平坦な特性になります。
2つのインナーイヤータイプはかなり平坦ですが、良くみると完全な平坦特性ではなく、周波数によってわずかなうねりがあります。
10kHzよりも高い周波数ではどのモデルも共通して一定の上昇傾向をみせます。
ヘッドホンを駆動するアンプ側の内部抵抗が、ヘッドホンのインピーダンスと比べて十分に小さな値(数Ω以下)であれば、定電圧駆動となるためインピーダンスの影響を受けにくくなります。しかし、ヘッドホンを駆動するアンプ側の内部抵抗が10Ω以上になると、周波数特性がヘッドホンのインピーダンス値の影響を受けるようになり、インピーダンスが高い周波数でレスポンスが上昇します。従って、パワーアンプの出力を流用して、100〜470Ωくらいの抵抗1本で信号をドロップさせるような回路方式では、ヘッドホンのインピーダンスの癖が音に顕著に現れます。右図は、ドロップ抵抗を介してMDR-CD900STを鳴らした時のインピーダンスの影響の様子をグラフにしたものです。ドロップ抵抗が330Ωの時と10Ωの時について、前述の実測インピーダンス・データをもとに計算で求めています。
10Ωの場合は±0.3dB以内に収まっていますが、330Ωでは最大2.5dBのピークができています。