MOS-FETリップルフィルタ電源の基本特性


MOS-FETの一般的特性

MOS-FETは高耐圧・大電流・高gmのデバイスが作りやすいので、真空管アンプの高圧電源回路のリプルフィルタとして重宝します。下図はミニワッターで使用した2SK3767の特性図です。ミニワッターの消費電流は70〜85mAくらいですが、その時のバイアス(ゲート〜ソース間電圧)は常温で3V〜4Vくらいになることがわかります。

MOS-FETを1つだけ使ったシンプルなリプルフィルタは単なるソースフォロワですから、電源インピーダンスは1/gmにになります。下図は、TK5A50Dのメーカー発表データです。順方向伝達アドミタンス(いわゆるgm)は、ドレイン電流が0.1Aの時で0.3ぐらいですから電源インピーダンスは3.3Ω、1Aでは1.4ぐらいなので電源インピーダンスは0.7Ωと言うことになります。

ここでは、耐圧が400V以上で真空管アンプの電源に使えそうなTO-220タイプのMOS-FETのいくつかについて、電源回路として実装した時の基本特性を調べてみました。


実験回路

実験回路は以下のとおりです。リプルフィルタとして組んだ時のMOS-FETの動作電圧は10V程度なのでDC15Vで実験回路を組みました。負荷は75mAの定電流回路です。この実験回路ですとバイアス値によってMOS-FETのドレイン〜ソース間電圧が微妙に変化しますが、MOS-FETはドレイン〜ソース間の電圧依存が低いため気にしないことにします。バイアスのほかに、400Hzの信号を使った注入法でこの電源回路のインピーダンスを調べました。


実測結果

被測定デバイスは、頒布で使用した2SK3067や2SK3767のほかに、今や入手困難ではありますが代替可能と思われる2SK2662、2SK3563、2SK3567と、2SK3767の代替品として売られているTK3A60DA、そしてもうひとつTK5A50Dとしました。

バイアスの違いは電源回路として使った時のロスとなります。違いは1Vあるかないか程度ですが、ゲート回路に入れる抵抗値に差が生じるのと、フィルタの時定数にも影響を与えるので私としてはかなり気になります。電源インピーダンスは、ステレオアンプにおける左右チャネル間クロストークなど、アンプの特性にインパクトを与えるので、この実験で最も知りたかった数字です。

MOS-FETIdBiasOutput ImpedenceNotes
2SK306775mA3.3V1.97Ωなかなか優秀。
2SK376775mA3.7V2.02Ωなかなか優秀。
2SK266275mA3.3V1.50Ωかなり優秀。
2SK356375mA3.4V1.74Ωかなり優秀。
2SK356775mA3.6V1.46Ωかなり優秀。
TK3A60DA75mA4.0V3.36Ωインピーダンスやや高め。
TK5A50D75mA4.0V3.01Ωインピーダンスやや高め。

ミニワッターを発表した当初は2SK3067を選定しましたが、その選定は正解だったようです。2SK3067が廃番になってからは2SK3767に切り替えましたが、2SK3767はバイアスが高めであることに目をつぶれば、電源インピーダンスは2SK3067と同等です。2SK2662、2SK3563、2SK3567は電流定格が高くお値段も高めです。電流定格が大きいので小電流なミニワッターの電源としてどうかなと思いましたが結果は上々でした。2SK3767が入手困難になりつつある現在、代替品として登場したのがTK3A60DAですが、十分代替できるとも言えるし、バイアスが高くインピーダンスも3Ωを超えてしまうのがちょっとひっかかるともいえます。TK5A50Dは、計算上よりも低い値になりました。実際に組んで見ると何の問題も無く心配のしすぎでした。

注意点としては、電源インピーダンスがこの値を維持出来るのは20kHzが限界で、高い周波数では上昇します。ゲートに入れた3.3kΩが原因ですが、外すことはできません。抵抗値が大きいほど帯域は狭くなります。これを防ぐにはソース出力側に3.3〜10μFを入れます。

MOS-FETを使ったリプルフィルタ回路はリプル除去効果が非常に優秀で、加えて電源ON時の立ち上がりの遅延効果も得られるので今後も採用し続けたいと思っています。そのためには高耐圧のMOS-FETの確保がとても重要で、本データを参考にして今後の計画を立てたいと思っています。



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