真空管増幅回路を設計していて、時々、高いμで低いrpの電圧増幅管はないものかと思うことがあります。12AX7や6SL7GTのように高いμ(70〜100)が得られる球は軒並みrpも高く(40〜100KΩ)、これでは低インピーダンス回路にはフィットしません。12AT7は、μが60、rpが10KΩ前後ということになっていますが、これはプレート電流を10mAも流した場合のことであって、オーディオ回路で一般的な150V、2mAあたりの動作ではμ=45、rp=20KΩくらいになってしまって面白くないのと、そもそも低雑音性能に劣り、直線性もかんばしくありません。真空管マニュアルを調べてみるとμが47、rpが6.3KΩという球(5965、Ip=8.5mA時)が見つかります。5965は5687と同様に電子計算機用に開発された球です。5687の直線性はすばらしかったですから、2匹目のドジョウをねらって5965の特性を測定してみました。
Name 5965 Base MT9 Eh 6.3V/12.6V Ih 0.45A/0.225A Cin 4pF Cout 0.5pF(unit1),0.36pF(unit2) Cgp 3pF Eb 330V Pp 2.4W IK 16.5mA Ec1 -75V Rg 0.1M(F),0.5M(C) ehk +200V,-100V Eb 150V Rk 220Ω Ib 8.5mA gm 6.7 μ 47 rp 6.3kΩ pin connection 1P(6),1G(7),1K(8),2P(1),2G(2),2K(3),H(4,5),HM(9)
測定したのは1本だけです。どこかで見たことのあるプレート形状だと思って、12AT7と比べてみたらそっくりです。そこで、プレート特性カーブの形をよくみてみると、電流レンジこそずいぶん違いますが、全体の雰囲気がなんだか似ています。そこで、12AT7のプレート特性の電流値を3倍にして5965と比較したところなんとぴったり重なり合ってしまいました。この5965は、12AT7をちょうど3本パラレルにしたのと同じ特性のようなのです。カーブの立ち上がり方、直線性の悪さ、いずれをとってもよく似ています。特性図中の赤い実線が12AT7(NEC)単体の特性で、赤い点線が12AT7を3パラにした特性です。
ということは、プレート電流を多めに流さなければ特性が安定しない、直線性が悪い球ということになります。
μ=40、内部抵抗=6.3kΩというと、高μ低rp管の代表みたいで、12AX7の超低rp管のように使えそうですが実はそうではありません。μは、Ip=8.5mA時で約50ありますから表示に偽りはありませんが、Ip=2mA時では40に低下し、rpは15KΩくらいになってしまい、前述の12AT7といい勝負です。ちょっと期待はずれというところでしょうか。
これも測定したのは1本だけです。特性カーブの形はTUNG-SOL製5965によく似ていますが、-4V以上のバイアスの深い領域での直線性はかなり悪くなっています。μは、Ip=8.5mA時でも約40しかなく、Ip=2mA時では30に低下し、rpも15KΩくらいでいよいよきびしい数字です。
Sylvania製5965は2本測定すべきでした。Eg=0Vのカーブの根元が極端に寝ています。すべてのSylvania製5965がこうであるとは思えません。μは、Ip=8.5mA時で約45、Ip=2mA時では35くらい、rpは18KΩくらいです。
どうやら5965に対する期待が大きすぎたのかもしれません。総じて直線性は悪く、特性はバラツいていました。ディジタル信号しか扱わない電子計算機ならばこれでいいのかもしれませんが、同じ電子計算機用の5687や6922、7308とはずいぶん趣が異なります。こんな球で2段増幅回路を組んだら、左chの増幅度が900倍で右chの増幅度が1600倍なんていうことにもなりかねません。この3社の5965を我が家の「真空管式MCヘッドアンプ」の初段の12AX7と差し替えてみての結果ですが、5965は増幅度が落ちるものの、その低雑音性能だけは相当に優れているということがわかりました。しかし、μにかなりのバラツキがありますのでちょっと増幅回路に使おうという気はおきません。同じ目的ならば精度が良く、rpの低い6DJ8/6922の方がおすすめです。5965はカソード・フォロワくらいしか用途が思いつかない、というのが今回の測定での感想です。残念。