真空管もトランジスタも、同一名称のものが異なるメーカーによって生産されています。それは、各特性がある一定の範囲になっていれば、同一名称を付けることが許されているからです。とはいうものの、同一ロットであってもかなりのバラツキがあって当然ですし、メーカーが異なれば特性にも傾向というものがあってもおかしくありません。今回は、「μ」と「プレート特性の一部分」について、手持ちの12AX7/ECC83の何本かについて測定してみました。
12AX7/ECC83の増幅率(μ)は、100として広く知られています。この値は、(1) Ep=100V, Ip=0.5mA
(2) Ep=250V, Ip=1.2mAいずれの場合でも同じ値(100)であり、動作条件によって増幅率が変化しにくいという特徴を持った球でもあります。動作条件によって増幅率が極端に増減する12AT7と対照的です。
今回は、Ip=1mA一定となるような条件で、グリッド電圧をマイナス1Vからマイナス1.5Vまで変化させた場合のプレート電圧を測定することで増幅率を求めました。
Mullard製のCV4004/M8137は低雑音管、NEC製の12AX7Aは平たくない角張ったプレートを持つもの、Siemens製とTekefunken製のECC83はプレート形状がのっぺりした同一形状のもの、そして、松下製12AX7(T)は異なる2種類のロットのものです。
1つめのグラフ(↓)を一見してわかるように、μ値は88〜108の間でまんべんなく分散し、メーカーやロットによってμ値がかたまっています。松下製では、同一メーカー内で両極端値にバラツイていますから、これは要注意です。
2つめのグラフ(↓)は、松下製12AX7(T)/ECC83のプレート特性曲線のサンプルに、今回の測定結果をプロットしたもので、グリッド電圧を「0V」と「-1V」にしたときのプレート電流が1mAになるようなプレート電圧を示しています。要するに、Ip=1mA、Eg1=0V,-1Vの点がどのようにバラツクかを表わしたものです。(プロットの色は上のグラフのサンプルと同じです)こうして見てみると、同じIp、同じEg1であってもずいぶん左右に広がっていることに気が付きます。これが同じ名称を持った球かと思うほどです。
このレポートでは、12AX7/ECC83の第1ユニットだけを測定していますが、この種の球は1つのガラス管中に2つのユニットが封入されているわけで、同居している2つのユニット間でもこのようなバラツキが発生しています。お互いに相手を選ぶことができない、というのが複合管の宿命でもあります。ということは、真空管アンプにおいても、球に少々のバラツキがあっても、アンプの特性に影響の出にくいような設計が要求されるということです。
このレポートは、真空管のバラツキかたを調査したもので、どの銘柄がいいとか悪いとかいったことを調べる目的ではないので、くれぐれもご注意ください。むしろ、数本の球の差し替え程度のことで真空管の銘柄のよしあしを判断することの無意味さにすこしでも気づいていただければと思って、このレポートを作成しました。