Rogers LS3/5A スピーカ・インピーダンス・データの測定


私たちは普段、メインアンプを設計する時も測定する時も、スピーカは8Ωか16Ωであるものとみなしています。しかし、実際のスピーカのインピーダンス常に8Ωあるいは16Ωというわけではありません。周波数によってかなり変化し、そのインピーダンスは一定ではありません。では、実態はどうであるのか、手許のスピーカ(Rogers LS3/5A)を測定してみました。

スピーカのインピーダンス

Rogers LS3/5Aの公称インピーダンスは8Ωでも16Ωでもない15Ωです。ところが、実際に測定してみると、おいおい一体どこが15Ωなんだい、と言いたくなるくらい変化に満ちています。(下図)

インピーダンス曲線

一般に、スピーカは30Hz〜100Hzあたりに低域の共振周波数(f0)を持ちます。この共振周波数では、インピーダンスは極端に大きな値となります。私のLS3/5Aのf0は83Hzで、この時のインピーダンスは85Ωもあります。

f0よりも低い周波数では、インピーダンスはどんどん小さな値となってゆき、やがてある一定の値に落ち着きます。この値は、スピーカのボイスコイルの直流抵抗値そのものです。ただし、スピーカが2way以上でネットワークが存在するような場合では、インダクタンスの直流抵抗分も含まれるのはいうまでもありません。

スピーカがフルレンジである場合(図中の青い線)は、f0よりも高い周波数ではインピーダンスは一旦直流抵抗値近くまで低下してから徐々に上昇をはじめます。スピーカのボイスコイルも立派なインダクタンスですから、周波数が高くなるにつれてインピーダンスが上昇するのは当然のことです。

LS3/5Aのような2wayスピーカ(図中の黒い線)では、2つのスピーカのインピーダンスが合成されます。しかもスピーカに内臓されたネットワークの影響もあって、インピーダンスはごらんのように複雑な曲線となるのが一般的です。

インピーダンス定格値と実際の関係

では、どの値を持って8Ωといったり16Ωというのでしょうか。図の青い線のカーブに着目してください。この例は、ごく標準的なフルレンジ・スピーカのインピーダンスもパターンですが、最小値がほぼ8Ωになっています。従来は、このようなインピーダンス特性のスピーカであれば8Ωと表示していました。つまり、直流抵抗値をもってそのスピーカのインピーダンスとするのが普通でした。よく測定の基準周波数として使われる400Hzでのインピーダンスもほぼ8Ωです。

しかし、小型で低能率のスピーカが増え始めた結果、8Ωと表示されていても実際は6Ω〜7Ωのものが出現するようになりました。なぜかというと、メインアンプからの出力電圧が同じであれば、インピーダンスの低いスピーカの方が大きな音が出るからです。まあ、スピーカの能率の上げ底といってもいいでしょう。

これは、半導体アンプの普及も大きく影響しています。出力トランスを使用した真空管アンプでは、巻き線のインピーダンス・マッチングをとる必要がありますが、半導体アンプのほとんどは、アンプの出力インピーダンスが極端に低く(つまりダンピング・ファクタが高い)どんなインピーダンスのスピーカをつないでもそれなりに動作してしまいます。

Rogers LS3/5Aのインピーダンスの最小値が8Ωなのになぜ15Ωと表示されているのでしょうか。理由は2つ考えられます。ひとつは、400Hzでのインピーダンスが15Ωだからです。もうひとつの理由は、f0でのインピーダンスを考えないことにすると、最小値8Ωと最大値28Ω)(700Hz)の加重平均値がちょうど15Ωになるからです。

アンプ設計での配慮

メインアンプ(特に真空管アンプ)を設計する場合は、このようなスピーカのインピーダンスの癖を理解しておく必要があります。たとえば、1次インピーダンスが5KΩで2次インピーダンスが16Ωの出力トランスを使用して、Rogers LS3/5Aをつないだ場合の出力トランス1次側の実際のインピーダンスは以下のようになります。

アンプ設計時に、ロードラインを引いてあれこれ考えながら最終的な動作条件を決めてゆくと思いますが、出力管からみた実際の負荷インピーダンスは周波数によってこんなにも激しく変化します。自分の持っているスピーカがどのようなインピーダンス特性を持っているのかについて理解することにより、設計時の負荷インピーダンスを高めあるいは低めに設定することも考えなくてはなりません。

この例では、5KΩよりもやや低めでの検証もやっておくべきでしょう。テスターで単純にスピーカの直流抵抗を測ってみるだけでも、ヒントが得られますので是非測定されることをおすすめします。


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