定電圧放電管の特性の測定データ


ツェナー・ダイオードがなかった時代、真空管回路で安定した基準電圧を得るには定電圧放電管を使いました。定電圧放電管には真空管のようなヒーターはなく、また外側の円筒状のものがカソードで、中央に棒状のアノード(プレート)があります。安定抵抗を使用するという点で、用法はツェナー・ダイオードと良く似ていますが、放電が開始するまで定格電圧の120%〜130%の高い電圧を与えなければならないという点が異なっています。

あまりなじみのない素子であり、公表されているデータも少ないので自作アンプで使う人はあまりいません。そこで、定電圧放電管とは一体どんな特性を持っているのか、実際にデータを取ってみることにしました。


VR75MT

VR75MTは、ネオンが封入されているようで、動作させると橙色に発光します。放電開始電圧はかなり高く、102Vくらいが必要です。手持ちの4本を測定してみましたが、放電電流2mA以下では電圧は高くなって安定しません。定格上は放電電流5mA以上40mA以下と定められています。

放電電流が多くなるにつれて、電極間電圧が徐々に増加する傾向が見てとれます。電極間電圧がかなりバラツイているように見えますが、10mA時でプラス/マイナス1Vのバラツキですから、かなり高い精度だと思っていいでしょう。

75Vというと、6AU6のスクリーン・グリッドの電源として手ごろではないでしょうか。たまたま、Esg=75Vの条件で測定した6AU6のEp-Ip特性がありますから、参考にされたらいいでしょう。


VR105MT

VR105MTは青白く発光しますのでアルゴンが封入されていると思われます。放電開始電圧は120Vくらいです。許容最大電流は30mAで、定電圧放電管の常としてこれ以上流すと定電圧特性は失われて、電極間電圧はどんどん上昇してゆきます。

電極間電圧は1Vの範囲に収まっており、驚くほど良く揃っています。また、放電電流が5mA以上では電流依存性もあまりありません。へたなツェナー・ダイオードよりもはるかに優秀です。

6DQ6-Aや6G-B3Aといった水平偏向出力管をオーディオ用途に使う場合、100V程度のスクリーン・グリッド電圧が必要になって苦労させられますが、VR105MTを突っ込むだけで一挙に解決です。


VR150MT

VR150MTも青白く発光しますのでアルゴンが封入されていると思われます。放電開始電圧は160Vくらいです。許容最大電流はこれも30mAですが、電極間電圧が高い分発熱量も多くなります。(7.5W=150V×30mA)

電極間電圧はやや不安定で、5mAを流していてもふらつく傾向があります。電極間電圧がかなりバラツイているように見えますが、5mA以上でプラス/マイナス1.5V以内のバラツキですから、精度はVR75MTよりも高いといえます。

定電圧放電管の並列動作はおすすめできませんが、直列に組み合わせれば、もっと高いさまざまな電圧を得ることができます。75V、105V、150V、180V、210V、225V、255V、285V、300Vといった具合です。但し、十分な放電開始電圧が印加できることが条件であることはいうまでもありません。


定電圧放電管を使う

定電圧放電管は、動作させると発光してくれるので、なかなか味のあるアンプに組み上げることができます。ただ、最低でも3mA(推奨5mA)以上の電流を流してやらなければなりませんから、電源に余裕がないと使いづらいかもしれません。

しかし、50V以上のツェナー・ダイオードの温度特性は決して良くありませんし、5mA以上を流した場合の放熱の問題(たとえば、150V×5mA=0.75W)もありますから、スクリーン・グリッドの安定化用として定電圧放電管を見直してみるのもいいでしょう。6AU6ならばVR75MT(=75V)がちょうど使えますし、スクリーン電圧が低い(たとえば150V)出力管にはVR150MT(=150V)が重宝します。


発振回路


定電圧放電管を使って発振回路を作ることができます。定電圧放電管は、一定以上の電流を流した時にはじめて安定動作しますが、安定して動作する放電電流以下の電流しか流してもらえない時に、定電圧放電管に並列にコンデンサがはいっていると電圧が上がったり下がったりを繰り返します→発振する。

発振回路は右図のようなごく簡単なものです。Rに流れる電流が数mA以下で発振開始します。それは、定電圧放電管の動作電圧よりも放電開始電圧の方がかなり高いことに起因します。電源ON後、電圧が上昇し放電開始電圧まで高くなった時に放電がはじまります。一気に動作電圧まで下がるわけですが、Rの値が大きいと充分な動作電流が得られずに放電は停止してしまいます。再び、電圧が上昇し放電開始電圧まで高くなった時に放電開始、電圧低下、放電停止、電圧上昇、放電開始、電圧低下、放電停止、・・・この繰り返しが発振です。この動作をぽこぽこと繰り返すわけですが、放電作用がON/OFFするため内部では点滅を繰り返すのです。


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