自作派・自作しない派
1999.6.17
弟子 「師匠、またまた新シリーズ登場ですね。」 師匠 「いいのかな、こんなタイトルつけちゃって。」 弟子 「わくわくするじゃないですか。」 師匠 「君がわくわくしてどうするのさ。」 弟子 「だっていいたい放題言ってもいいっていう企画なんでしょう?」 師匠 「まあね、だからこのページではメールでのお問い合わせができないようにしといた。」 弟子 「それは賢明ですね。ややこしい奴に議論を吹っかけられると、たまんないですからね。」 師匠 「特にな、アンプの自作派と自作しない派で議論がはじまると、まず間違いなく骨肉の争いになるしな。」 弟子 「そういえば、どっかのパソコン通信でも、以前、ひと騒動あったみたいですね。なんで、自作派と自作しない派は仲が悪いんですか?」 師匠 「そらー、自分でアンプを作れん奴のひがみってやつさ。」 弟子 「私はキットくらいしか作れませんけど、ひがんでなんかいませんよ。」 師匠 「ほんとうかい?自作アンプがうらやましくないかい?」 弟子 「う〜ん、そう言われてしまうと、ちょっとうらやましいと思いますけど。」 師匠 「そーら、うらやましいだろ。それは嫉妬っちゅうもんだな。三省堂「新明解国語辞典<第三版>」で『嫉妬』を引いてごらん。」 弟子 「えーと、『嫉妬』とは『自分より下であると思っていた者が自分よりも多くのものを持っていたことに気づいた時の、むらむらとしたねたみの気持。』と書いてあります。」 師匠 「ほらほら、『自分より安物のアンプしか持っていないと思っていた者が、自分では作れないアンプを自作できる能力を持っていたことに気づいた時の、むらむらとしたねたみの気持。』なんだよ。しかも、作った本人はその喜びを謳歌しているんだな。」 弟子 「ふむふむ、『謳歌』とは『はたから見るとうらやましくも思われる環境に身を置く幸福感を、だれはばかる所無く言動に表わすこと。』と書いてあります。」 師匠 「嫉妬しているところに持ってきて、謳歌されたんじゃあ、頭にくるわな。」 弟子 「じゃあ、努力して作れるようになったらいいじゃないですか。」 師匠 「ははは、甘いね。人間はね、努力なんかするよりも、自己を正当化する方を選ぶもんなんだよ。」 弟子 「たとえば、どんな風にですか。」 師匠 「決まり文句ってのがあってね、『アンプは音楽を聴くための道具であり僕(しもべ)なんだから、アンプ作りなんかにこだわるのは本末転倒だ』っていうのさ。」 弟子 「そういっている本人が、メーカー製のアンプのどこがどうだとか、線材を変えたらどうだとか、結構はまってたりしますね。」 師匠 「アンプを作る側から見るとね、『やーい、アンプの中味がわからないもんだから、アンプに重しを載せてみたり、線材を取り替えるくらいしか能がない奴め』って見えるんだよ。」 弟子 「意地が悪いですね。」 師匠 「オーディオケーブルを替えて音が変わったなんて言おうもんなら『アンプ内部の配線は安物だねえ。接点も金メッキじゃないし。そんなんで、ケーブルだけ替えたって意味ないよ。馬鹿じゃないの。』なんてやっつけられちゃう。」 弟子 「自作しない派だって、筐体開けて真空管の差し替えくらいはやりますよ。」 師匠 「AEGとSIEMENSのECC83なんかを取り替えたりしてね。すると『AEGもSIEMENSも同じ工場で作られたOEMなのに、差し替えて音が違うなんて言ってるけど、あほくさ〜。』てな具合でいじめてくる。」 弟子 「師匠っ、ずいぶんいやみの台詞が手慣れてますね。普段からやってますね。」 師匠 「・・・。ちょっと悪乗りしすぎたか・・・。」 弟子 「こうなってくると、自作しない派からみたら、自作派は天敵ですね。」 師匠 「自作しない派も必死の反撃をしてくるよ。『趣味でやっている程度のモンで偉そうなこと言うな、悔しかったらかつてのウェスターン並の研究開発やってみろ』ってくるからね。」 弟子 「うーん、ウェスターン教の信者は特に恐いですね。」 師匠 「でもさ、結局、他人のネタで争ってるだけなんだよ。自作派に言わせれば、『ウェスターンの1台や2台持ってるからって威張るな』ってね。」 弟子 「持ってる側からみれば、『お前ら金がなくて買えないからしょうがなしに自分で作るんじゃないか、貧乏人め。このエムブレムが目にはいらぬかっ』ってとこなんでしょうか。」 師匠 「お互い、ムキになるからね。どっちも馬鹿だね、ほんとに。」 弟子 「なんでそうなっちゃうんでしょうか。」 師匠 「答えは簡単さ。どっちも、お互いに劣等感を持っているからなんだ。自作アンプをメーカー品に似せて作る奴がいるだろ。劣等感丸出しじゃないか。自作アンプは、自作らしい美しさってもんがあるのにねえ。故浅野勇氏の爪の垢でも煎じて飲めって。」 弟子 「自作しない派は、中味を触れないもんだから線材の着せ替えごっこやったり、ホスピタル・グレードのACプラグ探して巷をうろつくことになるんですね。」 師匠 「劣等感を持った奴はね、先に相手を叩くことで、自分の立場を守ろうとするんだね。ネットワーク上の会議室なんかで自分の考えや反論をまくしたてるタイプの人は、弱さの塊だと思って間違いないよ。反論の文字数の多さでわかるね。」 弟子 「劣等感や弱さがない場合ってのはあるんですか。」 師匠 「あるさ。お互いの素晴らしさを認めることができる人は、そんな愚かしい議論にはとんと縁がないんだよ。経験や知識が少なくても、りっぱな人はいくらでもいるよ。」 弟子 「でも、2ちゃんねるとかYahoo板を見ていると、すこしでも知識が足りないのをあげつらって馬鹿する人が目立ちますね。」 師匠 「そういうのは、自分の阿呆さ加減を全国版で宣伝しているようなもんだなあ。」 弟子 「『純粋に音楽を楽しむためには、オーディオ機材なんかどうでもいいはずだ』なんていう人もいますね。」 師匠 「それはね、『はしか』なんだよ。僕だって、学生時代にそういう病気に罹ったことがあるよ。」 弟子 「え、そうなんですか。」 師匠 「目つぶって腕組みなんかしてさ、眉間に皺を寄せてね、音楽と対峙したくなる年頃ってのがあるのさ。」 弟子 「死ぬまでそのまんま、っていう人もいますよ。」 師匠 「今思うと、そういうのってばっかじゃなかろうか、と思うね。」 弟子 「人間って極端ですね。」 師匠 「そういう病気にかかっている時はね、ボロアンプやボロスピーカなんかで聴くモノラル録音なんかも気にならなくなったりするのさ。」 弟子 「なんだか暗くて、やだな、そういうの。」 師匠 「そのへんのところはね、精神の屈折度合いで決まるんだと思うよ。」 弟子 「私は屈折してますか?」 師匠 「君はかなりまっすぐだね。素直にキットを楽しめるってことは、精神が屈折していない証拠だよ。」 弟子 「えーっ、どうしてですか。」 師匠 「精神が屈折している奴はね、自分に素直じゃなかったり、現実を受け容れることができないんだよ。そういう奴は、キットみたいな中途半端は認めようとしないからね。」 弟子 「中途半端・・・。」 師匠 「あちゃー、つい本音が出ちゃった。」 弟子 「師匠、さっきから十分本音が出てますよ。でもね、師匠、キット中途半端発言については少しくらい弁解しといとほうが良さそうですよ。」 師匠 「それもそうだな。キットはね、馬鹿にしちゃいかんのだよ。」 弟子 「あれっ、さっき、馬鹿にしたじゃないですか。」 師匠 「いやー、最近のキットは良くできているからね、僕なんかが使うへぼシャーシに比べれば、はるかにいいデザイン、しっかりした加工をしているよ。価格もリーズナブルだし。」 弟子 「じゃあ、キットはどこがまずいんですか。」 師匠 「これこれ、僕はまずいなんて言ってないよ。中途半端だと言ったんだよ。成功すればそこそこの結果が得られる、失敗しても悲惨な結末にはなりにくい、ってことさ。」 弟子 「安全牌なんですね。」 師匠 「そういうこと。失敗のリスクが低いってことは、成功した時の上限も知れているってことなんだ。」 弟子 「じゃあ、一から自分で設計して製作した場合は、失敗のリスクもあるけど、すごい成功をすることもあるんですね。」 師匠 「あははは。それがねえ、失敗のリスクばっかりだったりして。だから、キットはもっと活用したらいい。」 弟子 「でも、やっぱりキットじゃねえ。」 師匠 「格好悪いかい?」 弟子 「はい。なんだか、半人前みたいで。」 師匠 「だいたいねえ、はじめてキットを作った人はみんな、ちょっと卑屈なところがあるね。『あのう。真空管アンプ作ったんですけど・・・まだ、よくわかんないんで、キットですいません。』なんてね。あなた、一人前の人間でしょ。もっと堂々としなさいよ、って思うよ。」 弟子 「そうかなあ。」 師匠 「はじめてキットを作った人とさ、自分でシャーシ加工してアンプ作った人がさ、一体どれくらいのもんなのよ。」 弟子 「でも、初心者は6BQ5シングルで、上級になったら6L6だとか2A3で、ベテランは300Bプッシュプル、なんていう人もいますよ。」 師匠 「うんうん、でかくて高価な球のアンプを持ってる奴の方が威張っている、という世界もあるねえ。」 弟子 「ベンツのSシリーズに乗ってる奴は、Cシリーズ乗りよりも偉いってわけですね。」 師匠 「いやいや、そうじゃなくて、ベンツのSシリーズに乗ってる奴の方が、Cシリーズ乗りよりも偉そうな態度が出やすい、ってことさ。信号待ちをしていて、自分と同じ車種で1ランク上のモデルが隣に来るのって、とってもいやだってのは良く聞く話だね。」 弟子 「世の中、なんでもそうですね。普通席よりもグリーン席の客の方がフンゾリ返ってるし。」 師匠 「たぶん、フンゾリ返った角度と知性とは反比例する思うよ。」 弟子 「ははは、いえてますね。でも、いつかは俺もグリーン席に座ってやる、いつかは俺も845アンプを並べてやるってね。」 師匠 「せこい家で、211やら845ブッ立ててる奴の気が知れんよ。」 弟子 「師匠、あんまり言うといよいよ敵を増やしますよ。」 師匠 「そうだな、ぼちぼち引き揚げるか。」
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