本音爆裂・神経逆撫

師匠と弟子のいいたい放題-15


私の音
2000.3.24

弟子「4月はさぼりましたね、師匠。」
師匠「春になると植木いじりが忙しくってね。」
弟子「月に一度のペースで書くって公言しちゃったんですから、やっぱり頑張っていいたい放題やっていただかないと。」
師匠「以前から気になっていたんだけど、メーカー製のアンプだけじゃなくて自作アンプも製作者の音っていうのがあるよね。」
弟子「回路方式に関係なく、その人の個性が音になって出てくるっていうのは、私も気がついていました。」
師匠「『やわらかい音』が好きな人が作ったアンプは、ちゃんと『やわらかい音』が出ているだろう?」
弟子「同じ2A3使っていても、作り手が違えば出てくる音も違うっていうのは、ほんとに不思議ですね。」
師匠「2A3使っても、EL34を使っても、作り手が同じだったら出てくる音も似ている。」
弟子「どういうことなんでしょうか。」
師匠「僕に言われてもねえ。」
弟子「答えようがないですか。」
師匠「ひとつ言えることはだな、アンプを作ってみて、出てきた音が気に入らなかったら、そのままにしてはおかないだろうね。」
弟子「納得のいく音になるまで手を加え続けるってことですかねえ。」
師匠「たとえばね、EL34シングルなんか、何度も何度も回路構成を変更してゆくうちに納得できる音になってきたし、6G-A4シングルだって大きな改造を1回やっている。」
弟子「6B4Gシングルも、かなり大きな改造をされていますよ。」
師匠「ほんとだ。いきなり作ったままの音でOKをもらえたのは、全段差動6AH4GTプッシュプルだけだなあ。」
弟子「じゃあ、改造前のアンプの音はどうだったんですか。何故、改造なさったんですか。」
師匠「EL34シングルは、最初、12AX7パラレルの単段増幅でEL34(3結)シングルをドライブしていたんだけど、音が練れていなくて、荒削りなところがあって、月並みなキットのような音だったからね。」
弟子「作った当初は、結構よかったって書いてありますよ。」
師匠「魅力的なアンプではあったけど、使っているうちに物足りなくなってきちゃったんだよ。」
弟子「で、6FQ7の2段増幅に変更したんですね。」
師匠「何度も改造を重ねることによって、非常に練れた音になってきた。」
弟子「具体的には、どういう特性に変化が出たんですか。」
師匠「クロストークが改善されて、帯域も広がったことだね。歪も減った。」
弟子「出力管(EL34)と出力トランス(TANGO U-608)は元のままですよね。」
師匠「だから、超低域特性だけはさしたる改善はなかったね。」
弟子「じゃあ、超低域を改善したアンプが欲しくなりませんでしたか。」
師匠「ははは、なっちゃんたんだよ。」
弟子「やっぱり。」
師匠「6B4Gシングルの構想に着手したのは、明らかに、EL34シングルで超低域の限界を感じたからなんだな。」
弟子「それで、出力トランスがXE-20Sに格上げされたんですね。」
師匠「それに、内部抵抗だってEL34(3結)よりも6B4Gの方がずっと低いから、低域特性はより有利になるしね。出来あがった6B4Gシングルの低域を聴いちゃったら、もう、EL34シングルには戻れないと思ったよ。」
弟子「その後、6B4Gシングルも改造されていますね。」
師匠「当初は、12AX7の片ユニットで1段増幅してから、6FQ7のカソードフォロワを経て6B4Gをドライブしていたんだけど、結局、超低rp管の5687の段増幅になってしまった。」
弟子「なんとなく、EL34シングルと似たような道をたどっていますね。どちらも最初は高μ管の1段増幅で利得を稼いでいたのに、やがて、低rp管の2段増幅に変更されています。」
師匠「面白いだろ。」
弟子「それなのに師匠は性懲りもなく6G-A4シングルで、高μ管の6SL7GTの1段増幅+6SN7GTのカソードフォロワを使っていますね。」
師匠「行動パターンが意味不明だねえ、まったく。」
弟子「しかも、このアンプも結局FETと6FQ7の2段増幅のドライバに改造されています。」
師匠「結局、行きつくところは同じだったんだねえ。」
弟子「出力段はさておき、初段〜ドライバ段の構成は低rp管を使った広帯域型で落ち着いていますね。」
師匠「そういえば、どのアンプも10Hz〜100kHzほぼフラットだな。そして、最低歪はどれも0.1%くらいで、DF値は4〜10の範囲にはいっている。」
弟子「ところで、ここに1995年MJ年自作アンプ・コンテスト評がありますけど、見てみます?」
師匠「どれどれ。」

<1995年MJ年自作アンプ・コンテスト評>
「6B4Gステレオ・シングル・アンプ」
・小出力なのによく鳴る。どんな曲も無難に、過不足なく鳴らす。中域のキレが魅力。(窪田氏)
・バランスがよく、音場感がよく出る。ボーカルも前に出て抜けがよい。出力以上のDレンジ感。(MJ編集部)
師匠「ふむふむ、面白いね。2人の評価者のコメントが共通している。」
弟子「『出力以上のDレンジ感』というのはあたっていますね。こないだ(2000.2.11)の黒川達夫氏のアンプ試聴会でも、全段差動6AH4GTppアンプはたった4W+4Wなのに、100名もはいった部屋でよく頑張ってましたよ。」
師匠「自分でもそれは感じるんだよ。MJの自作アンプ・コンテストでは、10W+10W出るアンプがみんなパワーを出し切れずにへばっていたけど、あの5W+5Wの6B4Gシングルはぼろが出なかった。」
弟子「『中域のキレが魅力』とか『ボーカルも前に出て抜けがよいなんて書かれていますけど、そのへんのところはどうなんですか。」
師匠「これは僕にとっても重要なポイントでね、中域に芯がないと声楽や室内楽それにジャズ・ヴォーカルは音楽にならないだろ。中域のエネルギー感がへこんじゃうアンプって多いだろ。だから、こちらの製作意図がちゃんと評価者の耳に止まったということだね。」
弟子「じゃあ『どんな曲も無難に、過不足なく鳴らす』とか『バランスがよく、音場感がよく出る』というのも、そういう製作意図があったわけですか。」
師匠「以前から自分でも薄々気がついていたんだけど、ソースを選ばない、どんなソースであってもちゃんと鳴らすアンプであるということは、明確に言えると思うんだよ。だから、MJの記事を読んだ時、あまりに言い当てられていたのでびっくりしちゃった。ただし、こういうアンプはあたりまえすぎてなかなか話題にならない。」
弟子「もひとつ、面白い評がありますよ。」

<百聞は一聴にしかずコンサート報告>
「全段差動6AH4GTステレオ・プッシュプル・アンプ」
・PPなのにSEの様な音がでます。あらゆるジャンルのソースをそつなくこなします。(Tさん)
・真空管アンプにありがちな脚色した音でなく正確で淀みの無い音であった。趣味の音と言うよりハイエンドの音と言うべきか。(匿名希望さん)
・普段常用されているものということで、さすがにこなれた感じの音でした。ここの常設の2S−305がこれほど、ボディのしっかりした、豊かなサウンドを聴かせてくれたのは私の記憶では初めてではないかと思います。(Nさん)
師匠「あれま、ここでも『あらゆるジャンルのソースをそつなくこなします』なんて書かれちゃったね。まいったな。」
弟子「自作真空管アンプらしくない優等生的な音だということですかねえ。」
師匠「良くいえば『趣味の音と言うよりハイエンドの音』という言葉がそれを表しているし、『真空管アンプにありがちな脚色した音でなく』という言葉も、そういうことを言っているのだと思うね。」
弟子「こうなってくると、逃げも隠れもできないですね、師匠。」
師匠「いや、全くだ。」
弟子「師匠が作るアンプの回路については個性的だという人が多いですけど、出そうとしているのは普通の音なんですね。」
師匠「そうだよ。僕は、変わった音、面白い音、人を驚かすような音を出そうとしているわけではなくて、毎日、朝から晩まで鳴らしつづけても、疲れない、しかも心の芯に届くような音が好きなんだよ。」
弟子「それだったら、メーカー製のアンプのアプローチと似たところがあるように思えますけど。」
師匠「そうなのかも知れないけれど、メーカー製のアンプの音は、それがどんなハイエンド・アンプであってもね、借り物の音っていうか、音楽を伝えていないっていうか、何か物足りなさを感じるんだよ。偉そうなことを言っちゃったけど、これが率直な感想なんだ。」
弟子「メーカー製のアンプだって、個性的な主張もあるし、クリアしてくる物理特性のレベルは高いですよね。」
師匠「すくなくとも、でしゃばった音は我慢ならないということと、どんなに特性が優れていてもちっとも楽しくない音っていうのもあるってことは確かだと思うよ。」
弟子「非常に微妙なところで、何か味付けが欲しいってことですか。」
師匠「味をつけて欲しいわけじゃないんだ。『ながら』じゃなくてちゃんと正面向いて聴いた時には、わくわくするような感じ、音楽が胸に当たってくるようなインパクトが欲しいんだよ。」
弟子「ずいぶん贅沢な注文じゃないですか。」
師匠「普段の生活ではただの感じのいいおじさんなんだけれど、出るところに出れば『おおっ』て思うようなキメ方ができる人っているだろ。僕は、アンプにも同じことを求めているんだと思うよ。」
弟子「そういう時って、力みすぎたりして浮いちゃう人が多いですよね。」
師匠「それは、作為があるからだよ。」
弟子「個性は作為からは生まれないですね。個性を表に出すのはほどほどに、ってことですか。」
師匠「『美しいドレスもデザイナーのイニシャルを削ればさらに見映えがする』ってことだね。デザイナーのイニシャルを前面に押し出したアンプが多すぎるよ。わかるかい。」
弟子「うわぁ、反対ですね。世間の嗜好はどちらかというと、デザイナーのイニシャルがついていないと売れないじゃないですか。」
師匠「ブルゴーニュ・ワインの世界ではね、最近、極端な低温浸漬法を行ったびっくりするほど個性的でパワフルなワインが出てきていてね、はじめて飲んだ人はぶったまげるんだよ。ドメーヌ(ワインの製造・元詰を行っている製造者)のなかにも信奉者が増えている。」
弟子「はあ。」
師匠「ところが、ワインの作り手の個性が出過ぎたために、どの畑の葡萄も似たようなワインになってしまって、ブルゴーニュを2分する論争になりかねない様相なんだよ。しかしね、ほんとうに品格のあるすぐれたブルゴーニュ・ワインは、作り手の『我』を控えめにしているから、畑の個性(テロワールという)が失われないで、それが長期熟成に耐えるしっかりとしたボディと熟成した時の豊かなアロマや繊細さを作り出すんだ。」
弟子「どこの世界も同じような問題があるんですね。」
師匠「まあ、好き嫌いの世界だから『べき論』をぶつ気はないけれど、その人の生き方だとか人生観みたいなものがファッションにもワインにもアンプにも出てくるんじゃないかと思うね。」
弟子「じゃあ、師匠はブランドには関心がないんですか。」
師匠「関心があるのはその品質の高さやデザインの良さであって、名前じゃない。だから『LV』とか『G』といった文字がこれ見よがしに表に出ているのは遠慮したいね。」
弟子「そういう考えの人は決して多くないですよ。」
師匠「そうなんだよ。だから、僕は普段生活していても肩身が狭い。」
弟子「その割には態度が大きいんじゃないですか。」
師匠「それは生まれつきだ。」
弟子「アンプの音の話に戻りますけど、これからの課題は何ですか。」
師匠「全段差動回路でやりたい実験がかなり残っている。」
弟子「わかった。直結回路ですね。」
師匠「うん。この効果だけは検証しておきたい。」
弟子「それだけですか。」
師匠「まだある。今は言えないけど。」
弟子「言ってくださいよ。」
師匠「だめだめ。言っちゃったら、やらなきゃならなくなるもん。HomePageの掲示板に『いつやるんですか』って書かれちゃう。」
弟子「ははは、そのとおりですね。こちらとしても、師匠にやってほしい実験はたくさんありますよ。」
師匠「うへっ。聞かないようにしよう。」
弟子「駄目です。たとえば、ヒーター電圧と球の特性の関係とか。」
師匠「うわあ、それは僕も気になっているんだから。」
弟子「ほ〜らね、実験したくなってきたでしょう?」
師匠「駄目駄目。時間もお金もないんだから。」
弟子「嘘はばれています。師匠、ガーデニングとワインにつぎ込んでるお金と時間をもっと真空管にまわさなければいけません。このページだって、更新をさぼってたじゃないですか。」
師匠「そんなこと言ったって、やりたいことがいろいろあるんだよ。」
弟子「じゃあ、とにかく、ヒーター電圧と球の特性の実験を優先してください。それから、書きかけになっている『全段差動プッシュプルアンプの直結化技術』のページを早く書き進めてください。いいですね。」
師匠「・・・。」


苦情とご質問は受け付けておりません、あしからず。

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