試聴会
2000.12.13
弟子 「師匠、前回は大遅刻でしたけど、今度は長期無断欠勤だったですね。もう、抗議のメールの嵐だったんですから。」 師匠 「胃潰瘍になっちゃったのと、オフ会の晩にひいた風邪がこじれてしまって、2ヶ月もの間ずっと咳が止まらなくなっちゃったんだ。」 弟子 「それは大変なことでしたね。」 師匠 「職場でも一日中咳してるから、『あいつはこれでおしまいだ。ざまあみやがれ。』なんて思われてた。」 弟子 「でも、ここんとこ妙に調子良さそうですね。」 師匠 「薬漬けになって、毎週、損傷粘膜復活剤を注射してたんだけど、11月の終わりに胃カメラで調べたら、その甲斐あって胃潰瘍は治ってた。」 弟子 「もしかして、1982年のシャトー・ペトリュスが出たとかいうワイン会の日って、まさに治療中だったんじゃないですか。」 師匠 「良く覚えてるな。ああいう責任を果たしながら治すってのは、なかなか大変なんだ。」 弟子 「それって、単に我侭な患者ってことじゃないですか。で、咳の方はどうなったんですか。こうして話していてもいつものがーがー、がほがほが全く出ないですね。」 師匠 「今月にはいってのことなんだけどさ、ある薬との運命的な出会いっちゅうもんがあったのさ。」 弟子 「はあ。」 師匠 「時々、キョーレオピンという怪しげなのぼりの立っている薬局があるだろ。」 弟子 「ありますね。あれは一体何だろうと思ってました。」 師匠 「あれがね、風邪や喉に素晴らしく効くんだってことを教わったんだよ。」 弟子 「誰にですか。」 師匠 「娘にだ。あいつは声楽をはじめてから愛用している。というより、声楽家御用達の隠れた人気商品であり秘密兵器なんだ。」 弟子 「一体どんな薬なんですか。」 師匠 「肝臓エキスとニンニクエキスにビタミンB1とB12を足したものなんだ。これを飲むと粘膜という粘膜がしなやかで丈夫になる。」 弟子 「粘膜ねえ。」 師匠 「鼻も喉も気管も声帯も非常に弱い粘膜だから、これを強くしてやると風邪ひいてもすぐ治っちゃう。僕の場合、アレルギー性の炎症で出た鼻水が喉を伝って気管を冒して、それが喘息や痰になってたわけだから、この薬の得意分野だったわけだよ。粘膜にいいってことは、痔にも効くと思うよ。喉と肛門は親戚だからね。」 弟子 「ふ〜ん。で、あっという間に元気になっちゃったってわけなんですね。」 師匠 「こんなに楽になるなんて、全く夢のようだよ。それも飲み始めて5日で著しい効果が出たんだからね。」 弟子 「今はどんな感じなんですか。」 師匠 「何というか、喉のひっかかりがなくなって、滑るように気持ちがいい。」 弟子 「じゃあ、僕も買ってこよっと。」 師匠 「120回分単位でしか売ってくんないから1回の出費は結構大きいからね。それから、飲み方がうんと変だからびっくりしないこと。」 弟子 「えっ、どうやって飲むんですか。」 師匠 「えへへへ、それは買った人だけのお楽しみさ。」 弟子 「なんだ、意地悪だなあ。」 師匠 「お楽しみをばらしちゃいけないからね。僕は優しい。」 弟子 「やっといつもの臍曲がりに戻ってきましたね。ところで師匠、今回のテーマはどうしましょうか。」 師匠 「今回はね、試聴会についていろいろと言わせてもらいたいと思っているんだよ。」 弟子 「そういえば、最近、自作アンプの試聴会って多いですね。MJなんかでも、よく記事になってますけど、師匠はそういうのに良く行かれるんですか。」 師匠 「実は、滅多に行かないんだ。」 弟子 「忙しくて行けないとか。」 師匠 「それもある。行ったら行ったで、1日潰れちゃうわけだから、ちょっと躊躇するな。」 弟子 「でも、どの試聴会も満員みたいですね。」 師匠 「休日のおじさん達は、家にいても居場所がないからじゃないか。」 弟子 「ちょっと言いすぎですよ。でも、当たっているかもね。」 師匠 「困った話だね。休日は、家族と一緒に過ごすのがいちばんなのにね。」 弟子 「じゃあ、師匠は休日はご家族と一緒にどこかに出かけたりするから試聴会に行く時間はない、ということなんですか。」 師匠 「そういこっちゃ。」 弟子 「でも、アンプを自分で設計したり作ったりするんであれば、人の作ったアンプを見たり聴いたりするとか、できれば自分が作ったアンプを持ち込んで他流試合みたいな経験を積むのも意味があるんじゃないでしょうか。」 師匠 「ぼくは、そういうメリットは決して否定しないんだけどさ、それにしても試聴会なるものはいろいろと問題多いね。」 弟子 「はあ。」 師匠 「たとえばね、仲間同士が自作のアンプを持ち寄って開くプライベートな試聴会ではね、カラオケ現象というのが起きちゃうんだ。」 弟子 「なんですか、カラオケ現象って。」 師匠 「カラオケってさ、人が歌っているのなんか、誰もろくに聴いちゃいないじゃないか。自分が歌う歌のことばっかり考えていてさ。」 弟子 「はははは、よくわかります。」 師匠 「そうだろ。主催者側にとって何が大変かっていうと、エントリーされたアンプの数が多すぎて、収拾がつかなくなるってことだよね。」 弟子 「そういえば、1人1台までとか決めても、勝手に2台以上持ってきちゃう人ってよくいますね。」 師匠 「それからね、エントリーしてないくせにこっそり持ってきて、どさくさに紛れて鳴らしちゃう奴ね。」 弟子 「だったら、最初からエントリーしとけばいいのに。」 師匠 「自信がないから、こっそり持ってきてさ、様子見てこれなら出しても恥かかないってわかってから出すんだと思うね。」 弟子 「したたかですね。」 師匠 「そりゃあそうだよ、人生経験豊かで悪賢いおじさん達の集まりだからね。」 弟子 「結局、見せびらかしたい、自分が前に出たいんですね。」 師匠 「一見でしゃばり風よりも、奥ゆかしいふりしたおじさんの方が手強いんだな。」 弟子 「試聴会でいつも不思議に思うんですけど、何故かみなさんが試聴用に持ってこられるCDって、同じ物がダブりますね。」 師匠 「ものすごい種類のCDが世に出ているっていうのに、なんで、アンプ自作おじさんが持っているCDはお揃いなのか、ということかい。」 弟子 「そうなんです。」 師匠 「僕にとってもね、それは偉大なる疑問なんだ。」 弟子 「なんだか、打ち合わせしたみたいじゃないですか。ひとつの会場に同じCDが3枚くらいあったりする。」 師匠 「僕はね、『こんなCD知ってる奴いないだろうな』なんて期待しながら行くことが多いよ。」 弟子 「で、それでも『そのCD、僕も持ってます』なんていう人がいたりするんですよね。」 師匠 「バレンボイムがトリオでやっているアルゼンチン・タンゴのCD知ってる奴がいた時は面食らったね。」 弟子 「そういう珍し系じゃなくて、定番ものもあるみたいですね。」 師匠 「ヘレン・メリルの"You'd be so nice to come home to"だとか"綾戸智恵"のアルバムなんかそのくちかな。」 弟子 「試聴会で誰かが持ってきてかけるでしょう。で、それがいいなと思ったひとがそれと同じ物を手に入れることも多いんじゃないでしょうか。」 師匠 「おれは大いにあると思うね。CD持って来る人はその人なりに厳選して持って来るわけだから、アタリで当然かもよ。」 弟子 「逆のケースもありますよ。『なんでそんな変な演奏のCDなんかかけるのさ、時間の無駄だ』っていうの。」 師匠 「まあ、好き嫌いだからねえ、音楽っていうのは。」 弟子 「生録を持ってくる人もいますね。」 師匠 「あれは勘弁してもらいたいよ。特に、録音の良さを言いたくて持ってきたやつね。」 弟子 「いい音だったらいいじゃないですか。」 師匠 「一生懸命生録やっている人には申し訳ないけどさ、これまで聞かせてもらった素人の生録って、いいのは音だけだからね。参るよ。」 弟子 「演奏がいまいちっていうことですか。」 師匠 「そうじゃなくて、演奏者が聞いたら泣くだろうな、っていう録音ばかりだもんな。」 弟子 「わかった。音ばっかり妙に生々しくて、音楽が録音されていないということですね。」 師匠 「まさにそのとおり。いわゆる生録の大半は、音を録っても、音楽を録ってない。だから、異常に大きな音量で琴の炸裂音がSFXのごとくスピーカーの間を駆け巡るってわけだ。」 弟子 「結局、俺は演奏家と付き合いがあるんだ、生で取らせてもらってんだ、どうだいい音だろう、って言いたいだけなんじゃないですかね。」 師匠 「あとねえ、1本数万円のケーブルを勝手に持ち込んで、どさくさにまぎれて試聴会をケーブルの比較会にすり替えようとする奴ね。」 弟子 「いますいます。」 師匠 「そういう自分を人の前に出したいということに尽きるね。」 弟子 「まさに自己表現の競演ですね、試聴会は。でも、師匠だって人前に出て目立つの大好きじゃないですか。どうして、試聴会には出かけたがらないんですか。」 師匠 「ま、そう言われてしまうとそのとおりなんだけど、なんで行きたくないと言うとだな、それはおっさんばかりだからだ。」 弟子 「あ、そうか。試聴会には女性は滅多に来ませんね。」 師匠 「そこが大問題なんだよ。おっさんばっかり、それもどう見ても地味でしけたのばっかりじゃあ、行きたくなんかならないじゃないか。」 弟子 「う〜む、それは確かに大問題です。」 師匠 「そうだろ。女がいない会合なんて、どこが面白いんだって言いたいね。」 弟子 「でも、それは本末転倒なような気がします。」 師匠 「じゃあ聞くけどさ、女はいらないんだね。」 弟子 「え、その、女性に来て頂けるのならそれはもう、お願いいたしたいところですが。」 師匠 「でも、女性は来ないよ。絶対に。」 弟子 「そうかなあ。」 師匠 「中年のおっさんの自慢話の会合なんて、おしゃれな女性が来るわけないだろ。」 弟子 「そう言われて見れば、そうですけど。」 師匠 「試聴会が無駄だって言てるんじゃないよ。試聴会に行って自分の作品を俎板の上に載せてみれば、いろいろと勉強になる。人が作ったアンプのハラワタを見れば、とても参考になるからね。」 弟子 「そのとおりだと思います。」 師匠 「ただね、試聴会のたびに毎回アンプを作ってばかりいるのは、僕は好きじゃない。」 弟子 「そういえば、師匠は寡作ですもんね。」 師匠 「その時にたまたまいい作品が出来あがっていたら、出て行くことはあるさ。僕だって、いいアンプができた見せびらかいしたいからね。」 弟子 「へえ、師匠も自分のアンプを見せびらかしたいんですか。」 師匠 「あたりまえじゃないか。人間誰しもそういう欲求はあるもんさ。程度の違いや表現スタイルが違ってもね。反動で逆の行動に出る人もいるな。」 弟子 「そうかぁ、師匠も人の子ですもんね。」 師匠 「そうでなきゃ、こんなHomePageなんか作るもんかね。」 弟子 「っていうことは、師匠は誰よりも見せびらかしたがりってことになりはしませんか。」 師匠 「よく気がついたね。だから、これ以上目立っちゃまずいから、出て行かないのさ。」 弟子 「なるほど。でも、やっぱり違いますね。師匠は愚図でなかなかアンプ作らないから、ネタがないんでしょう?」 師匠 「むむっ、ばれたか。」
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