左右同ジデナケレバナラヌ問題
2002.11.10
弟子 「師匠、大変なおひさしぶりです。」 師匠 「いや、ほんとに。」 弟子 「復活宣言されたまま再び爆睡状態逆戻りでしたねえ。」 師匠 「いや、ほんとに。」 弟子 「大丈夫ですか、師匠。」 師匠 「今日はなんとか、いけそうだ。」 弟子 「今更のこのこ出ていらっしゃっても、もう、世間から完全に忘れ去られていると思いますよ。」 師匠 「いいじゃないか、1人や2人くらいはこのページあたりをうろうろしているかもしれん。」 弟子 「なんだか、張り合いないですね。」 師匠 「これこれ、そういうことを言っちゃいかん。」 弟子 「で、今日のテーマは何にしましょうか。」 師匠 「今日は『左右同ジデナケレバナラヌ問題』についてだ。」 弟子 「な、なんですか、それ。『デナケレバナラヌなんとか』?」 師匠 「『左右同ジデナケレバナラヌ問題』だよ。つまりステレオの話。」 弟子 「そりゃあ、ステレオを再生するんだったら、左右が違ったらまずいでしょう。」 師匠 「そうかな。」 弟子 「じゃあ、右は2A3シングルで、左はEL34プッシュプルでいいんですか。」 師匠 「これこれ、いきなり喧嘩売るような例を持ち出してどうする。たとえばさ、左はRCAの2A3で、右はSYLVANIAの2A3だったらどうする?」 弟子 「微妙ですね。」 師匠 「プレート負荷抵抗がさ、右は1/2W型のカーボン抵抗で、左は1W型で同じメーカーのカーボン抵抗とか、どう?」 弟子 「いやーいじめないでくださいよ、なんか、いやーな質問じゃないですか。」 師匠 「アンプ作っている最中にさ、買ってきた抵抗が1本だけW数を間違えたことに気がついたら、君だったらどうするね。」 弟子 「私だったら、作業を中断して急いでもう1本買いに行きますね。」 師匠 「ふ〜ん、じゃあ、買いに行ってみたらその店は閉まっていて、別の店に行ったら別のタイプの抵抗しか売っていなかったら?」 弟子 「2個セットで買います。」 師匠 「余った1/2W型1個と1W型1個はどうするの。」 弟子 「とっておいて、何かの時に。」 師匠 「なるほどね。じゃあ、新たに買ってきたお揃いの2個の抵抗のうち、1個が不良品だっていうのが家に着いてからわかったら?」 弟子 「嗚呼、師匠!もう最低!いじわる!」 師匠 「どうするね。もう一回秋葉原まで足を運ぶかい。」 弟子 「わかりましたよ、最初に買っておいた1/2Wのと1Wのを使います。」 師匠 「無理しなくていいんだよ。もういっぺん、秋葉原に行ってきたらどうだい。」 弟子 「しかし、師匠。なんで左右の部品が違うと気持ち悪いんでしょうね。」 師匠 「不思議だね。車なんか、運転席もハンドルも右か左に偏ってついていて、運転手もハンドルと一緒に片側に寄っているから重心がずれているのに、ちゃんとまっすぐ走るからね。」 弟子 「でも、左右で違うタイヤをはくのはNGですよ。危険だし。」 師匠 「給油口はたいがい片側だけだね。デイムラーのリムジンなんかは両側についていて、どっちのタンクのガソリンを使うのかスイッチで選んで走るんだけど。」 弟子 「そういえば、世の中、左右非対称なのにそれで済んでいるものって、多いですね。」 師匠 「だいたい、人間のカラダからして左右対称ではないからな。」 弟子 「心臓の場所とかですか。」 師匠 「腕の太さだって左右同じではない。」 弟子 「歯並びも。」 師匠 「身につけているものもだ。」 弟子 「腕時計は左腕で、財布も左ポケットです。」 師匠 「それでよく、転ばずにまっすぐ立っていられるね。」 弟子 「右ポケットに小銭入れいれてますから。」 師匠 「なるほど、バランスは大切だ。」 弟子 「そういう左右の違いは、普段は困らないですね。」 師匠 「全然ね。人間の脳はそういう五感のアンバランスをうまく補正してくれているからね。」 弟子 「ということは、ステレオ・アンプも決して左右は同じではないということなんでしょうか。」 師匠 「そうじゃないかね。」 弟子 「そういえば、左右の利得がぴったり揃うなんてうことは滅多にないですし、周波数特性を測ったら、左右では大概違いが生じてます。」 師匠 「じゃあ、ボリュームはどうだい。」 弟子 「ボリュームねえ。そういえば、ボリュームって、回していくうちに左右でバランスがおかしくなることってありますね。」 師匠 「普段聞くちょうどいい音量になる位置でね、左右のバランスが崩れてしまったらどうするかい。」 弟子 「困りましたね。私のアンプには左右のバランス調整がありません。」 師匠 「僕は、秋葉原で140円で買ってきた2連ボリュームの左右偏差は大きかったので、こんなことをやってみたんだけど、どう思う?。」 弟子 「え〜っ。片チャネルにだけ補正抵抗を入れちゃうんですか。なんか、気持ち悪いです。」 師匠 「でもさ、補正してない時は音が左に寄ってしまって嫌だったんだけど、補正抵抗を1本入れてからは実に快適だよ。」 弟子 「そうですかー。ちょっと考えちゃいますね、そういうアプローチって。」 師匠 「だったら、もうひとつ。我が家ではアンプは部屋の右端にあるからスピーカーまでの距離は左右で違うだろ。右チャネルが1mで、左チャネルは3mだ。君だったら、スピーカー・ケーブルをどういう長さにするかい。」 弟子 「やっぱり、左右ともに3mにするでしょうね。」 師匠 「我が家では、スピーカー・ケーブルの長さは左は3mで右は1mだよ。」 弟子 「そういうのって、ありなんでしょうか。」 師匠 「じゃあきくけど、アンプの中の配線はどうなんだい。このアンプなんか、ボリュームから初段までのシールド線(黒くて太い線)線の長さは左右同じじゃないぜ。B電源からの配線の長さだって、左右同じじゃないぜ。」 弟子 「それに、左右の球の特性も同じじゃないっておっしゃりたいんでしょう。」 師匠 「アンプの中身もそうなんだけど、部屋の方はどうだい。」 弟子 「できるだけ左右同じ条件になるようにしています。」 師匠 「座る位置は?」 弟子 「かなり正確に左右のスピーカーから等距離の位置です。」 師匠 「そこから動かない、いや、動けないわけだね。」 弟子 「いろいろやってみて、最良のリスニング・ポジションを決めたんです。」 師匠 「それはご苦労なことだね。では、そのポジションのすぐ右側に毛布を吊るしたりはできないね。」 弟子 「それはちょっとまずいですね。」 師匠 「じゃあ、毛布じゃなくてきれいなおねえさんを座らせたらやっぱりまずいんだろうねえ。」 弟子 「いえ、それはまずくありません。むしろ大歓迎なわけでして・・・。」 師匠 「なんだい、調子がいいなあ。」 弟子 「師匠、さっきから意地悪質問ばっかりじゃないですか。」 師匠 「いやー、せっかくちゃんとセッティングしたリスニング・ルームなんだから、アンプもリスニング・ポジションもちゃんと左右揃えないといけないんじゃないかと思ってさ。」 弟子 「左右は揃えたい、でも、すべてが左右揃っていなくてもいい、ということなんでしょうか。」 師匠 「それはわからないよ。物差しを持って来て、左右のスピーカーからきっちり等距離に座って動くな、という人もいるかもしれない。スピーカー・ケーブルの長さもぴったり揃えよ、って言う人がいるかもしれない。」 弟子 「真空管も20本くらい買い込んで、その中から精密に揃った4本を選ぶとか。」 師匠 「いかにもいそうだな。」 弟子 「師匠だったら、箒で叩き出したくなるでしょう。」 師匠 「なるけど、しないよ。次からは決してお茶に誘わないようにするだけだ。」 弟子 「左右が同じでないアンプといえば、浅野勇氏がお作りになった『プレイ・トライオード・ステレオ・アンプ(魅惑の真空管アンプ上巻P262)』がありますけど。」 師匠 「この製作記事に触発された人は多いんじゃないかい。」 弟子 「でも、やっちゃう人は滅多にいないみたいですね。」 師匠 「頭で理解できても、いざ実行となると脳味噌の中のどこかでブレーキがかかるわけだな。」 弟子 「球のアンプを4台も5台も作った人のガラクタをかき集めたら、その人なりの『プレイ・トライオード・ステレオ・アンプ』のひとつも出来るかもしれませんね。」 師匠 「たとえばさ、左チャネルが6BM8のプッシュプルで、右チャネルが50BM8のプッシュプルでもいいじゃないか。」 弟子 「なぁんだ、簡単ですね。左が6FQ7と6AQ5、右が6SN7GTと6V6GTでもいいわけか。」 師匠 「その6V6GTのところに、知らんぷりして6F6GTを挿して、負帰還いじって利得を揃えといて人をからかうわけだよ。」 弟子 「そういうアンプだったら、部品の些細な違いはどこかに行ってしまいそうですね。」 師匠 「いえてるな。」 弟子 「では、最初の質問に戻りますかけど、師匠だったら1/2W型の抵抗と1W型の抵抗、どうされますか。」 師匠 「おいおい、突然そういう話に戻るのかい。う〜ん、やっぱり、秋葉原まで行きそうな気がする。但し、必要なのが2本だとしても、4本以上買ってくるから1本くらい不良品があっても困ったりはしない。そこが君と違うね。」 弟子 「なあんだ。なんだかんだ言っても、師匠だって左右を揃えたいんじゃないですか。」 師匠 「ま、そういうことだ。その時の頭のスイッチの入り具合で決まるような気がする。しかし、今回は君に一杯食わされたな。」 弟子 「お褒めにあずかって光栄です。しかし、スピーカー・ケーブルの長さは左右で違うんですよね。それでいいんですよね。」 師匠 「それもまた真なりだ。スピーカー・ケーブルの長さが左右で同じでない人は非常に多いんだよ。それもね、どっちにするかいろいろ考えた上での結論としてね。」 弟子 「そういう話を聞いていると背中がむずむずしてきます。」 師匠 「ここに2つの写真がある。どっちがいいかね。」
弟子 「あ、わかりました。これはたとえばなしですね。左の写真は、左右をきちんと揃えたイメージで、右の写真は、左右のアンバランスが生じているイメージ。どちらの写真が駄目ということはないですね。」 師匠 「部品の正確な位置関係を確認したかったら左側の写真の方が都合がいいけど、アンプのデザインの雰囲気とか、実際に部屋に置いた時の姿をイメージしたかったら右側の写真の方が都合がいい。」 弟子 「カタログにするとしたら、結局、両方の写真がいりますね。」 師匠 「コンサートでいうとさ、左の写真は、ステージを正面にした中央の席で、右の写真は、壁際のボックス席のイメージかな。」 弟子 「つまり、ステレオは必ずしも正確に中央に座して正面向いて聞くわけでもない、ということなんでしょうか。」 師匠 「そういう状態の方が特殊で、普通は左右非対称なものだと思うんだけどね。人によっては大いに異論があるところだとは思うけど。」 弟子 「左右非対称が普通なんでしょうか。」 師匠 「そういうのを曖昧さに対する許容度というんだ。芸術家やデザイナーは曖昧さに対する許容度が非常に高いので素晴らしい作品を生み出すことができるんだけど、そういう訓練を受けていない技術屋や頭でっかちのコンサルタントは曖昧さに対する許容度は著しく低いみたいだね。」 弟子 「私の場合、曖昧さに対する許容度はかなり低そうです。」 師匠 「たとえばさ、家でミニコンサートを開いたとしよう。すてきなお嬢さんが声楽を披露してくれたとして、君は彼女の真正面に陣取って正座して聞くかい?」 弟子 「いえ、とんでもない。そんなことできません。」 師匠 「そうだろ。音楽とはそういうもんなんだと思うね。」 弟子 「でも、スピーカーごしに、音楽ではなくて、耳で音を測定している人もいますから。」 師匠 「あはは、そういう人は、物差しと吸音材と反射板で遊んでいればよろしい。音楽の方からさっさと逃げていくさ。」
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