デッドコピー
2005.11.18
弟子 「今日のお題は『デッドコピー』です。」 師匠 「そのお題を選んだココロは?」 弟子 「私のアンプがそのデッドコピーなもんですから。」 師匠 「なるほどね。ところでさ、デッドコピーってどういう意味なんだろう。」 弟子 「えーと、Yahoo DICTIONARYで調べたら『そっくりそのまま模造すること。特に、製品開発の際、他企業の製品をそのまま模造し、生産上の問題点や改良点を探ること。また、その模造品。』とありました。」 師匠 「企業が、他社製品をそっくりそのまま模造することか。」 弟子 「企業じゃなくて、自作アンプの世界でもよく使う言葉ですね。雑誌の製作記事のデッドコピーとか。」 師匠 「その是非が問題なんだな。」 弟子 「まあ問題といいますか、どうなんでしょう。」 師匠 「じゃあ、ここでいうデッドコピーの意味をちゃんと定義しておこうか。」 弟子 「あ、それは必要ですね。回路だけなのか、シャーシ・レイアウトや部品配置、配線経路まで含めるのか。」 師匠 「なにからなにまでコピーしたもの・・・それがほんとうのデッドコピーなんだけどね・・・というのはものすごく難しいから、コピーの範囲は回路および回路定数と主要部品ということにしておこうか。」 弟子 「はい。回路定数や使用する球、トランスなど音に影響を与える主要部品が同じ、ということにしましょう。」 師匠 「アンプを自作する場合、そういうレベルのコピーというのはごくあたりまえにあると思うんだけど、君はどう思うね。」 弟子 「え、私ですか。そこまでコピーしたらちょっとオリジナリティがなくなってしまうと思います。」 師匠 「ふん、そうかい。じゃあ、どうなったらオリジナリティがあることになるんだい。」 弟子 「たとえば、全く同じトランスを使わないで別のブランドにするとか。」 師匠 「でもさ、たまたま同じトランスを持っていたら?別のブランドで気に入ったのがなかったら?」 弟子 「そういう時は、トランスじゃなくて回路定数を変えてみるとか。」 師匠 「言っていることがむちゃくちゃだねえ。」 弟子 「え、どうしてですか。全く同じ回路に同じ部品というのはどうなんでしょう。」 師匠 「そういうことじゃなくてさ、言っていることを聞いていると『同じにならないようにすること』が目的になっちゃてるよ。」 弟子 「あははは、それはそうですね。」 師匠 「人が作ったのと同じものを作るというのは、いけないことなのかなあ。」 弟子 「真似じゃないですか。」 師匠 「真似をした、真似しかできないお前は能無しだ、って言われるのが嫌なんだな。」 弟子 「そりゃそうです。」 師匠 「なんでそんな風に言う人がいるんだろう。」 弟子 「でも、よく言いますよね。」 師匠 「そんな風に言う人の方がある意味能無しだと思うがな。」 弟子 「でも、そう言う人はちゃんと自分で一から回路を設計できたりするわけだし。」 師匠 「そりゃ程度問題さ。だから、できないひとのことを真似しいとか能無しだとか言っていいわけ?」 弟子 「そこまで人を見下しているとは限りませんよ。よかれと思って言っているかもしれませんし。」 師匠 「僕からみたら、それは余計なお節介だといいたいね。」 弟子 「まあ余計なお世話といえばそのとおりですけど。」 師匠 「デッドコピー、という言葉の背景には記事などで紹介された回路をそのまま何も考えずに、というか何の工夫を加えることもなく真似して製作することに対するさげすんだ視線があることに間違いはなさそうだね。」 弟子 「じゃあ、師匠は人が作ったアンプの回路や主要部品とまるごと同じアンプを作っても意味があるとおっしゃるるんですね。」 師匠 「君、すごいこと言うねえ。そういうアンプは意味がないみたいじゃないか。」 弟子 「いえ、意味はあるんですけど、なんかね、なにかひとつくらい味付けとかオリジナリティのようなものが欲しいような。」 師匠 「そういうのは、味付けとかオリジナリティなんかじゃないよ。」 弟子 「じゃ、なんなんでしょうか。」 師匠 「普通に作ったらね、必ずといっていいくらい元になったお手本とは同じにならないんだ。」 弟子 「え?」 師匠 「同じに作る方がすごく難しいんだよ。違えて作る方がはるかに簡単さ。」 弟子 「そんなもんなんですかねえ。」 師匠 「一度やってみたらわかるよ。アンプを1台作って、少し間をあけてから全く同じアンプを作ってみなよ。まず無理だから。」 弟子 「同じ回路を使って、同じ部品を揃えればいいわけで、あまり難しそうには思えませんけど。」 師匠 「ところがさ、次に同じ電解コンデンサを買いに行ったら同じメーカーのがあったとしてもサイズが小さくなってたり、製造中止になってたりするんだよ。サイズが変わったり部品の種類が変わったら配線の都合も変わったりするしね。」 弟子 「なーるほど。」 師匠 「それからね、回路図を見ているうちに絶対にいじりたくなるもんさ。ここのコンデンサ容量はもうちょっと大きめに、とか元の回路では通常タイプのダイオードだったところがさ、ファースト・リカバリ・ダイオードに変えたくなってみたりするしな。」 弟子 「予算とかシャーシの大きさの都合でチョークじゃなくって、トランジスタ式のリプル・フィルタになっちゃうかもしれませんね。」 師匠 「ものは言いようでね、『原回路では通常の抵抗負荷の増幅回路だが、本機では回路インピーダンスを下げるためにSRPP構成に変更した』とかさ、『電力供給の瞬発力を増すために10倍量のコンデンサ容量を投入した』とか言ってみるんだけど、この程度だったらコピーから出てないよ、と言ったら作った本人は怒る(傷つく)かな。」 弟子 「球の数が違っても、師匠からみたらコピーの範囲ですか。」 師匠 「僕からみたら、抵抗負荷だろうがSRPPだろうがアンプの構成としては大した違いではないと思うし、ダイオード整流と整流管による整流は違いのうちにはいらないよ。」 弟子 「ということは、原回路のまんま作ろうが、少々の・・・私はかなりの、と思うけど・・・変更や改良をやっても、どっちもおんなじだとおっしゃるんですね。」 師匠 「そういうこと。だから、デッドコピーがどうとかこうとか言うなんてうのはちいさい話だね。」 弟子 「でも、製作者のオリジナリティってとっても大切なことだと思うんですけど、師匠はそういうものはあまり意味がないとおっしゃるんでしょうか。」 師匠 「僕はオリジナリティなんていうものにこだわる気は全くないね。じゃ聞くけど、オリジナルってなんだと思うね。」 弟子 「その人独自のもの、じゃないんですか。」 師匠 「そういうのは個性って言うんじゃないの?オリジナルとは異なるもんだよ。originalとかoriginarityで調べてごらん。」 弟子 「『独創的な、発明の才のある』とか『起源、根源』って出てきました。」 師匠 「ほらー、そんな大変なもん誰もが持っているわけないじゃん。」 弟子 「ははは、確かにとても手の届くようなもんではなさそうです。」 師匠 「じゃ、個性的なアンプってなんだと思うね。」 弟子 「う〜ん、やっぱり、『その人しか作れないもの』ですかね。」 師匠 「いや、『その人が作ったもの』で十分なんじゃないかい。」 弟子 「そっかー、自作アンプって工業製品じゃないですもんね。自作は自作、それがどんなものであっても『他人が作ったもの』ではなくて『その人が作ったもの』なんですよね。」 師匠 「そういうこと。回路がどうだとか、使った部品がどうだとかいうのは単なる脇役に過ぎなくて、手持ちの道具をつかってその人が1台作った、ということで十分なんじゃないの?そういうことに敬意を払うのを忘れてないかい?」 弟子 「たぶん、シャーシの穴あけとか、配線の順序とか、いろいろ悩みながら作ったでしょうね。何回か間違えたりしながら。」 師匠 「慣れない人が作ったアンプってさ、ハンダ付けひとつ見ても危なげだったり、あちこちに当って焦げていたりするだろ。こんなのをさ、立派な先生がお作りになったアンプのコピーなんて言えるわけないよな。」 弟子 「全く、そんなものをデッドコピーなんて言えませんね。」 師匠 「ねえ、デッドコピーの意味ってなんだったっけ。」 弟子 「『企業が、他社製品をそっくりそのまま模造すること』でした。」 師匠 「じゃ、聞くけど、自作って企業がすること?」 弟子 「そうか、アンプといっても何台も生産される製品としてのアンプと、個人が自作する1台のアンプとは根本的に意味が違いますね。」 師匠 「だよね。それに、人が工夫して設計した回路をさ、そのまま使わせていただくということは決して悪いことではないよね。そうしたからといって、使わせてもらった側の自作の価値が減るもんではないと思うね。」 弟子 「そこのところは納得です。もうひとつ聞いていいですか。」 師匠 「どうぞ。」 弟子 「企業が製造した製品としてのアンプをまんまコピーするっていうのはどうなんでしょう。」 師匠 「もう何十年も昔の話になるんだけど、そうだな、トランジスタ式のアンプが出始めたばかりのことなんだけどね。Quad社が出した33というプリアンプとか、JBL社が出したSG-520というプリアンプを回路から見かけまでできるかぎりソックリ真似をして作ろう、という企画があったんだよ。」 弟子 「トランジスタとか、手にはいったんでしょうか。」 師匠 「それができないもんだから、当時の国産トランジスタでやりくりしてさ。PNPタイプのローノイズトランジスタなんかなかったから、当時ようやく出てきたNECの2SA539を無理やり担ぎだしたりしてそれは大変だった。ほかにも手にはいらない部品がいろいろあって工夫の連続だったみたい。」 弟子 「なんだか面白そうですね。」 師匠 「そう、ものすごく面白い記事だった。今思うとね、いくら頑張っても完全に同じにならないところで、あーだこ−だと工夫する過程が面白かったんだね。」 弟子 「コピーもばかにできませんね。」 師匠 「製品と全く同じものは基本的に作れるわけないので、製品をコピーする行為そのものが難題を抱えたひとつのゲームになるね。」 弟子 「どっちにしても、デッドコピーを否定することにはなりそうもないってことですか。」 師匠 「そういうこと。なによりも、人が入れる茶々なんか気にしないで自分で好きなように作ればいいってことさ。」
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