自慢たらたら
1999.8.7
弟子 「師匠、前回の続きのようなテーマですね。」 師匠 「この話題だったらたっぷり盛り上がるんじゃないかと思ってさ。」 弟子 「我が国のオーディオの将来を考えると、これは非常に重要なテーマですよ。」 師匠 「ところで、早速だけど君のオーディオ自慢は何だね。」 弟子 「えっ、私ですかぁ。アンプはキットでそんなに高くないし、出力だって3W+3Wしかないし。大きいスピーカは持ってないし。う〜ん。」 師匠 「ということは、出力がデカかったら自慢できるってかい。」 弟子 「よく言うじゃないですか。大出力アンプの音はゆったりしていて余裕があるって。」 師匠 「やっぱり大出力のアンプを手に入れたらうれしいんだろうね。」 弟子 「なきゃないでどうってことはないんですけど、人に自慢されるとどうしても防戦しちゃいますね。」 師匠 「昨日まで5Wのアンプを大事に使っていた奴がね、300W出るアンプを手に入れた瞬間から『出力は最低300Wはないと駄目だな。』なんて言い出すから面白いね。」 弟子 「わかった、自分が300Wのアンプを持っているってことが言いたいんですね。」 師匠 「実にかわいいね、人間ってやつは。」 弟子 「それまでは、『出力は5Wもあれば十分だ。』なんて言っていたりするんですからね。」 師匠 「自己の正当化だけは常に怠らないわけだな。」 弟子 「君子豹変す、と言いますけど。愚者も負けずに豹変しますね。」 師匠 「ところが、500Wのアンプのオーナーが現われると、ちょっと面白いことが起こるんだよ。」 弟子 「どうなるんでしょう。」 師匠 「300Wの奴は500Wの奴の肩を持って、一緒に10W以下のオーナーをいじめはじめるんだな。」 弟子 「例の、互いに譲らず、という議論がはじまるんですね。」 師匠 「逆に、500Wの奴が、6BM8の3Wユーザなんかに気を遣って、いたわりのお言葉をかけたりすることもあるね。」 弟子 「麗しい光景ですね。」 師匠 「いずれにしても、大出力派の信者は多いよ。ま、この一派の教義はカラッポだけどね。」 弟子 「大きいといえば、スピーカ自慢の大型信仰はどうなんですか。」 師匠 「以前は、オーディオの行き着くところ、オールホーンスピーカなんていう時代もあったけど、最近はめっきり信者が減ったみたいだね。」 弟子 「アルテックのA7だの、ヴァイタヴォックスなんていう大箱スピーカも流行りましたね。」 師匠 「問題は、こいつを6畳だの8畳間に突っ込もうって奴がかなりいるってことかな。」 弟子 「こういうのって、音を聞いた時にコメントしずらいですよね。」 師匠 「俺も真似して買ってこよう、なんて思わないし、なんでこんなの買っちゃったのさ、なんて言えないし。スピーカより先に買うべきものがあるんだよなあ。」 弟子 「先に空間を買えってことですね。」 師匠 「うん。」 弟子 「でも、本人は幸福なんでしょう?」 師匠 「これでよかったんだろうかという迷いと一抹の不安があるんじゃないか、と思えて仕方ないんだよ。」 弟子 「買おうかな、どうしようかな、って迷っている時、周囲がけしかけるじゃないですか。買っちゃえ、買っちゃえって。」 師匠 「人の不幸は我が身の幸福っていうじゃないか。」 弟子 「6畳間にA7を買わせるってことは、そいつを不幸に陥れようとしたってことですか。」 師匠 「たぶんな。俺だったらそうする。だって、どうなるか興味あるじゃないか。」 弟子 「どうせ、うまくゆくなんて思ってないでしょう、師匠。」 師匠 「はっはっは、そりゃわからんよ。」 弟子 「そうかなあ、師匠はかなりのワルですね。知りませんでした。」 師匠 「俺は、世のオーディオ愛好家が、素晴らしい音に巡り合って、幸福な人生を送ることを願っているのだよ。」 弟子 「うそばっかり。さっき、人の不幸は我が身の幸福って言ったばかりじゃないですか。」 師匠 「やっぱり、人生、自分に素直じゃないといけないな・・・ぶつぶつ・・・」 弟子 「師匠、ぶつぶつ言ってないで先に進みましょう。今度は、オーディオの金額です。」 師匠 「おっ、ついに出たか。金額信仰だな。」 弟子 「やっぱり、これに尽きるんじゃないでしょうか。」 師匠 「まあ、どんなもんでも、金さえ出せばうまいもの、いいものが手にはいるからなあ。お金は欲しいなあ。」 弟子 「師匠がそういうことをおっしゃっちゃあ、オシマイじゃないですか。」 師匠 「正直なところを述べただけだよ。やせ我慢はいかん。」 弟子 「でも、率直に言わせていただくと、師匠は高価なオーディオ機材はあまりお持ちではありませんね。」 師匠 「そんあこたぁないよ。生活用品と比べたら十分高いと思うよ。LS3/5Aなんてあんなちっぽけなスピーカが、当時1本9万円、我が家の冷蔵庫と同じ値段がしたんだぞ。そんなこと、かみさんには言えなかったんだぞ。」 弟子 「そうかあ。」 師匠 「ストックとか何とか言って買い込んだ真空管だって、1本1万円以上のものだってかなりある。そんなこと、家族にばれたらえらいことになるんだからな。」 弟子 「そういうお金はどこから出るんですか。」 師匠 「それはだな、人間必ずしも清く正しく正直に生きているわけではないということだ。」 弟子 「(@_@)」 師匠 「話題を変えよう。とにかく、オーディオに首を突っ込んでしまうと、生活を脅かすほどに金がかかるということだよ。それも、50万、100万なんてもんじゃなくて、300万円以上なんてあたりまえだからな。300万円あったらロマネコンティが何本買えると思う?だからこそ、金をかけたということを自慢しなければならないわけだな。」 弟子 「自慢することで、少しは元を取ろうって発想なんですかね。」 師匠 「人間誰しも、そういう根性は持ち合わせていると思うよ。オーディオなんかやろうって奴は特にね。」 弟子 「行き着くところ、見栄なんでしょうか。」 師匠 「金がかかる趣味は、常に見栄を伴うということかな。」 弟子 「歌に生き恋に生き、じゃなくて金に生き見栄に生きかぁ。」 師匠 「だから、金額の張るアンプやスピーカは、ちゃんと高そうに見えなければいけないんだよ。」 弟子 「で、高そうに見える機材は、見せなければ意味がないわけですね。」 師匠 「特に、安っぽい家に住んでいる場合はね。」 弟子 「はあ。」 師匠 「ものすごく高い家に住んでいて、オーディオ機器以上にむちゃくちゃ高価な家具やら内装やらがついている家に住んでいる奴の場合はね、オーディオ機材なんか見せる必要なんかないだろ。」 弟子 「じゃあ、そんなに高くない家で、家具もまあまあで、オーディオもそこそこの人はどうしたらいいんでしょうかね。」 師匠 「これこれ、もっと重要なことを忘れておるがね。」 弟子 「?」 師匠 「悪趣味な高級住宅と、センスの良い普通のマンションと、どっちがお好みかね。」 弟子 「『センスの良い普通のマンション』です。でも、できれば『センスの良い高級住宅』ってのがいいなあ。」 師匠 「そうだろ。どんなに高級なオーディオを見せびらかされても、それが、ほんとうに良い音で、しかもインテリアや部屋の雰囲気まで素晴らしくセンスが良ければ、俺は、それを認めたいと思うよ。」 弟子 「否定しないということですか。」 師匠 「否定しないどころかあこがれちゃうね。そういう知り合いがいることを誇らしく思うよ。」 弟子 「逆にいうと、高価なオーディオの多くは、さほど良い音ではなくて、しかも悪趣味だということになりませんかね。」 師匠 「『ほんとうに良い音だ』と思うようなオーディオシステムというのは実に少ないと思うよ。『センスの良い家』というのは最近はかなり増えてきたけどね。」 弟子 「お金かけても、なかなかいい音にならない、ってのは悲しいですね。」 師匠 「『しけた四畳半で、銀座レカンのディナーメニューをいただくようなもん』だって言ったのは誰だい。」 弟子 「そうでした。バランスが崩れたところでは、一点だけ豪華にしても駄目なんでしたね。」 師匠 「一点豪華主義というのは、結局意味がなかったんだよ。貧しい時代の苦し紛れの発想だね。」 弟子 「確かに、どれも豪華ではないけれど、全体としてよくデザインされた、センスの良さというのが最近は注目されはじめていますね。」 師匠 「そういう目で見ると、自慢たらたらオーディオってのは、バランスが崩れた実に醜悪な世界だとは思わないかね。」 弟子 「自慢たらたらオーディオの条件は、高価な機材であること、しかも、音がいまいちだったり、センスが悪いということが望ましい、しかも、御本人はそのことに全然気がついていなくて、周囲のみなさんもそのことを言わないでいる、ってことになりますね。」 師匠 「なかなかよくまとめてくれたね、ありがとう。」 弟子 「どういたしまして。」
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