本音爆裂・神経逆撫

師匠と弟子のいいたい放題-7


高級部品ジャンク部品
1999.9.16

弟子「師匠、以前から時々話題になっているテーマですけど、今回は本格的に取り上げるんですね。」
師匠「やっぱり、アンプを自作する人にとっては永遠のテーマなんじゃないかと思ってね。」
弟子「巷ではもう有名になっちゃいましたけど、師匠は高級部品嫌いなんでしょう?」
師匠「だから、このページみたいな企画があると、ジャンク部品派なんかはうれしくってしょうがないわけだよ。僕がバッサリやっちゃうんじゃないかってね。」
弟子「師匠は最初っからジャンク部品派なんですか。」
師匠「違うよ。僕だって、高級部品にはあこがれたさ。12AX7/ECC83だって、Telefunkenの◇マークやらMullardのCV4004なんか買っちゃってさ、ニタニタしながら差し替えて遊んだものさ。EL34だったら、MullardもTelefunken◇マークもGE太管も持っているよ。トランスだって、TANGOの安い伏せ型じゃなくて、TAMRAのケース入りの方がなんとなく良さそうに思ってたしね。やれ双信だ、東京光音だ、EROだ、ビタQだ、とあれこれいじったりしたし、銀線病にもちゃんと感染したから、我が家を捜索するとカートリッジのヘッドシェルあたりにその名残があるよ。」
弟子「な〜んだ、師匠もやってたんですね。」
師匠「もっとあるよ。」
弟子「いえいえ、もういいです。」
師匠「僕だってね、今思い出しても、一体何考えてたんだろうって思う時代があったんだよ。問題は、いつそこから脱出できるかなんだね。」
弟子「師匠が、高級部品派をボロカスに言うのは、過去の自分に対する嘲笑ってわけですか。」
師匠「うん。それだから、同じアホやってる奴を見ると、つい言葉がきつくなってしまう。」
弟子「そういうわけだったんですか。」
師匠「高級部品だって、全く意味がないわけではないんだ。それなりに金をかけて製造している場合がほとんどなんだからね。ただ、お金のすべてが音の改善につながっているかというと、そうでもないところが理解されていない。価格が高い=音が良い、という単細胞的反応をするから、あほだっちゅうんだよ。」
弟子「どういうことですか。」
師匠「部品の製造原価が高くなる要因のひとつは信頼性を高めた場合、もうひとつは精度を高めた場合だよ。どちらも音にはあまり関係がないだろ。もちろん、音に関係のある特性を改善するために、原価の高くなるような素材を使うことだってあるけどね。あと、高価な部品ほど中間搾取される流通マージンが大きいってこともあるよ。それに、精度を高めたってことは、精度が出なかった部品は捨てられたりしているわけで、資源問題からみたら犯罪行為だわなあ。」
弟子「そういうカラクリを見抜け、ということなんですね。」
師匠「そもそも、値段の高い部品しか扱っていない店はね、確信犯のイカサマ師だよ。うちは安い球は置きませんなんて言って、高いことがいいことなんだと思っているんだから始末が悪いね。」
弟子「高いものをより高く売るためには、安い部品は置けませんね。」
師匠「ところで、ジャンク部品というけどね、ジャンク部品の多くは決して安物ではないんだよ。むしろ、相当に良い部品で半端物がジャンクとして出回るんだから、それを識別できる眼さえあれば、思わぬ拾い物があるんだ。正真正銘の安物じゃあ、ジャンク市場にも出てこれないよ。なんでもかんでも金を積んで闇雲に高級部品を揃えるのと、ポイントをおさえて良い部品をうまくあてはめてゆくのと、ゲームとしてどっちが面白いかってことなんだね。精度の問題にしたって、絶対的精度が要求される場合なんか滅多になくて、ペアになった2個の部品の相対的精度が取れていればOKというのがほとんどなんだからね。1本\100の1%級の抵抗じゃなくても、1本\5の5%級の抵抗が10本あれば、いいペアがいくつも取れるよ。」
弟子「なんでもかんでも闇雲に高級部品を揃えるってことは、知恵を使わないで買っているということになるんですかねえ。」
師匠「だからそういう人のために『豚に真珠』って有り難いことわざがあるじゃないか。そして、豚のためにたくさんの真珠屋が店を開いているんだけどね、豚もそんなに馬鹿じゃないから、なかなか真珠を買ってくれない。そこで、真珠屋もあれこれ猿知恵を練るってわけだ。」
弟子「体中を真珠で飾った豚さんも結構いませんか。」
師匠「そういうお方が、並みの部品を使ったアンプを見た時の目って、なかなか面白いよね。」
弟子「さげすむような目ですね。」
師匠「あの視線を浴びちゃうと、気が弱い人は『やっぱり、もっとちゃんとした部品を使うんだった』なんて勝手に反省してしまう。」
弟子「アンプ作り仲間に入れてもらえない場合も多いんじゃないでしょうか。」
師匠「コンデンサのブランドの名前を並べて、あれがいい、こっちはどうだ、なんて盛り上がっているところには、名無しのゴンベのコンデンサを使っちゃった奴は流石に話題に参加できないだろうね。」
弟子「私だって、そういうみじめな思いをしたことがありますよ。」
師匠「そうか、それが原動力になって『今にみておれ、俺だってそのうち特注アルミくりぬきシャーシにオールMullard管と特注トランス並べたるわ、ぬわっはっはぁ〜』ってなるわけ?」
弟子「はははは、やっぱ恥ずかしいですね。」
師匠「物を見る目がない奴ほど、金額と見掛けでしか判断できないだろ。それが昂じてくると、金額=物の価値になっていっちゃうんだ。」
弟子「価格が安い=価値がない、なんですね。」
師匠「まだあるよ。もっともらしい箱にはいっているかムキダシのままかっていう違いもね。」
弟子「だから、こっそり贋物の真空管の箱なんか作って店に並べて売る奴が出てくるんですね。」
師匠「部品の正体を見抜けない奴は、外見で判断するしかないからね。その外見が信用ならないわけだから、ちゃんとしていそうな店で高い値段で売っているものを買い込むわけだな。ところが、そういう店ほど胡散臭かったりする。」
弟子「昔から、正直者よりも詐欺師や泥棒の方がりっぱな身なりしていますからね。」
師匠「カルピスバターっていうむちゃくちゃ旨いバターがあるけどさ、青山の紀ノ国屋あたりだと化粧箱入りで一箱\1400で売られているよ。あっという間に腹の中に収まってしまうような食い物を化粧箱に入れるなんて、馬鹿じゃなかろかと思うね。」
弟子「一流料理店だけで使っているという噂のバターですね。」
師匠「そういう店では、化粧箱入りのなんか買わないよ。銀紙でくるんだだけの剥き出しのを使っているんだからね。しかも、\1400なんていう馬鹿馬鹿しい値段じゃなくて、たいてい、一個あたり\800前後だと思うよ。もっと頭を使えば\600台でも入手可能だよ。そのかわり一度に30ポンド買わなきゃならないけど。」
弟子「でも、1ポンド\800といったら、やっぱり高いですよ。」
師匠「そりゃそうだよ。このバターは、パイ生地を打つ時の触感からして全然ちがうんだから。問題は、化粧箱なんかに入れて一個\1400なんかで売るっていう根性と、それを有り難がって買う奴の愚かさ加減だよ。」
弟子「そういえば、化粧箱入りの真空管ってありますね。」
師匠「化粧箱入りほどじゃなっくっても、メーカーオリジナルの箱にはいっていると、相場は跳ね上がるだろ。」
弟子「そういう箱にはいってないバラ球は買わない人もいますよ。」
師匠「そういう奴には、日本駄球協会認定のお駄球を桐の箱にでも入れて法外な値段つけて売ってやればいいさ。」
弟子「お宝鑑定団的様相を呈してきましたね。」
師匠「お宝というのは、実際の価値よりもいかに高く売り付けるか、が神髄なんだろ。そんなことは、テレビ番組で十分証明済みじゃないか。」
弟子「そういえば、ほとんどのお宝の鑑定金額は、入手した時の金額よりもずっと安いですね。」
師匠「この世には、MarantzだのMcIntoshだのという昔のお宝で、今となってはちょっとスペック不足なんていう代物がごろごろ残っているから、こいつに結構な値段を付けて豚を相手に売りさばこうってわけだね。」
弟子「師匠、そんなこと言ったら、MarantzやMcIntoshのオーナーが怒りますよ。」
師匠「そうかな。このページにアクセスするような人だったら、MarantzやMcIntoshなんかちゃっかり破格の値段で入手していると思うよ。だいいち、そんなことで腹を立てるような愚か者がこのページなんかにアクセスするもんかい。」
弟子「それもそうですね。問題は、法外な値段で売りつけられたかどうかでしたものね。」
師匠「お宝であることには変わりないんだから、持ってること自体に余計なことを言うつもりはないよ。」
弟子「ブランドであることに意味があって、これが価格に跳ね返ってくるんでしょうかね。」
師匠「それだけじゃないよ。なんとか先生ご推薦なんてのもあるだろ。」
弟子「半固定抵抗はどこそこが良くて、トランジスタはなになにがよろしい、なんていう記事が出るたびに、その部品を求めてあっちへぞろぞろ、こっちへぞろぞろってやつですね。」
師匠「これはなかなかサーヴィス精神豊かな書き手であると思うね。愚かなる読者はそういう情報求めているからね。どんな部品でも構いませんよ、なんて書かれるとかえって困るんだな。」
弟子「精神的に自立できてないっていう感じがしますね。」
師匠「部品にこだわるのは一向に構わないと思うけど、先生様の言うことばっかり聞いてないで、ちっとは自分で考えたり、確かめたりしろよ、って思うんだよ。」
弟子「月並みなものでも、なんのかんのと言いながら、もっともらしい価値をつけたいのとちがいますか。」
師匠「とにかく、人間ってやつは、先入観にはとことん弱いから、ガセネタひとつでいくらでも幸せになれるからなあ。」
弟子「それって、やっぱり幸せなんでしょうか。」
師匠「わからないかい。」
弟子「えっ、なんですか。」
師匠「だからさあ、人の不幸は我が身の幸福って・・・。」
弟子「師匠、なんだかうれしそうですねえ。」


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