納得できる音をめざしてそれなりに工夫してみた
■■■OPアンプ式反転型ヘッドホンアンプ■■■
OP-amp based Headphone Amplifier

■コンセプトと基本構成

動機はきわめて単純です。OPアンプを使ったヘッドホンアンプを1つくらいは作ってみよう、ということです。CQ出版の「理解しながらつくるヘッドホンアンプ」に掲載した回路は非反転型ですがこちらは反転型である点が異なります。

  • チャネルあたりOPアンプを1個だけを使い、バッファ段などは付加しないでできるだけ簡単な回路で仕上げる。
  • 一般的な非反転型ではなく、反転型とする。
  • 廉価で一般的な部品のみを使い、廉価なこと。
  • 誰が作ってもテスター一丁で調整なしで完成し、安定に動作すること。
  • できるだけ私の好みの音であること(そうなったかどうかは別)。
片チャネルあたりOPアンプユニットを1個使った反転アンプです。通常、OPアンプ1発構成のヘッドホンアンプというと非反転回路を使ったものばかりで反転回路のものは滅多に見かけません。反転回路にすると、入力側の信号経路にシリーズに抵抗を入れなければなりませんし、それなりに高い入力インピーダンスを確保しようとすると抵抗値が大きくなって、そうしたことが敬遠されるようです。しかも、バイアスの与え方に制約が生じるのでさらに嫌われてしまったという感じがします。

しかし、OPアンプを使った反転回路は苦労しなくてもナチュラルでヌケの良い音が得られやすいというメリットがあります。ですから、そういった回路設計上の嫌な感じをものともせずに反転回路1発のヘッドホンアンプは一度は作ってみないといけないなあ、と思いつつなかなかできずにいたのでした。やってみれば実に簡単であっという間にできてしまいました。部品点数がやや多いですが、反転アンプは位相補正の利きがよいので誰が作っても安定した性能が得られます。

がしかし、満足できる音は出ませんでした・・・。


■回路説明

<アンプ部>

入力抵抗には47kΩを充てていますので、アンプ部の入力インピーダンスは47kΩということになります。これよりも大きくすると雑音性能的に不利になり、小さくすると入力インピーダンスが下がってしまいます。音量調整ボリュームに50kΩタイプを使用したため、入力インピーダンスが低いとボリュームの音量変化が不自然になってしまいます。この回路方式で最もシンプルな反転回路というと出力側から100kΩ〜150kΩくらいの抵抗1本で入力側に負帰還をかける方法一般的ですが、高抵抗は浮遊容量があること、ジョンソンノイズ的に不利であることなどからちょっとだけ工夫を入れて負帰還回路を2段階に分けてあります。1つめの負帰還回路は2個の47kΩによって構成され、2つめの負帰還回路は680Ωと1kΩによって構成されます。1つめだけですとこのアンプの利得は1倍(0dB)となりますが、2つめが2.47倍の利得を持ちますので、総合利得は約2.5倍になります。負帰還抵抗に高抵抗値のものを使わずに済むというメリットがあります。ジョンソンノイズも2dBほど低くなっています。

もうひとつ特徴はOPA2134を2個用意し、それぞれ一方のユニットだけ使っているという点です。こうすることで電源を左右に分離することができています。シングルユニットのOPA134を使えばいいではないかと思われるかもしれませんが、OPA134はあまり流通しておらず誰でも容易に入手できるわけではありませんので、手に入りやすいOPA2134を使い、一方のユニットは殺しています。ユニットの殺し方ですが、すべての端子を接地するとプラスマイナス電源の電圧を狂わせるアンバランス電流を生じる原因になるので(後述)、ほどほどに利得を持たせたアンプにして無理のない安定状態で飼っておくようにしてあります。デュアルOPアンプの2ユニット間のセパレーションは数値的には十分なものを持っていますが、やってみるとわかるとおり2個分けることの効果ははっきり認識できます。OPアンプには、OPA2134を使いましたがOPA2604も使用可能です。それ以外のOPアンプ、特に入力差動回路にバイポーラトランジスタを使ったもの・・・5532や4580など・・・は使用できません。

入力のところに3.3μFのコンデンサを入れたのは、これがあるのとないのとで出力端のオフセットが2倍違うためです。DC電圧がかからないところにアルミ電解コンデンサを入れていいのか、と思う方もいらっしゃるでしょう。アルミ電解コンデンサは1V以下の低い電圧あるいは0Vであれば無極性のように使うことが可能です。耐圧が50V品なのは、低圧のものは部品屋で扱っていないからという単純な理由です。オフセットをミニマムなものにするには680Ω側もコンデンサを入れてDCを遮断するのがスジですが、そこは省略しているのでOPアンプ固有のオフセットは2.5倍に拡大されて出力端に現れます。本機の場合、出力端に現れるDCオフセットはOPA2134の個体差を入れて実測で±0V〜2mVくらいの範囲です。

<電源部>

電源回路は、150Ω×2個による擬似プラスマイナス電源方式で、DC12Vを供給した時のブリーダー電流は40mA、DC15Vの時は50mAです。このような抵抗などを使った擬似プラスマイナス電源は、プラス側から供給される電流とマイナス側に戻ってくる電流が一致することが前提で成り立っています。もしプラス側とマイナス側とで電流値に差が生じると、その差分の電流は150Ωの抵抗の中を流れることになり、中点電圧が変動します。いいかえるとプラス側の電源電圧とマイナス側の電源電圧が等しくなくなります。もっとも、OPアンプはプラスマイナス両電源の電圧が少々アンバランスでも性能的には問題ありません。

この電流のアンバランスの主たる原因は、出力端に生じるDCオフセットです。DCオフセットが20mVくらい出ていても負荷に何もつながなければ電流のアンバランスは無視できる程度に小さいですが、16Ωのヘッドホンをつないだ瞬間に、20mV÷16Ω=1.25mAのアンバランス電流が発生します。このアンバランス電流を小さくするには、何よりもDCオフセットを小さくすることが基本ですが、次いで有効なのが大きめのブリーダー電流を流す方法です。150Ωに2W型を充てているので電源供給電圧は19Vくらいが上限です。

その先に左右に振り分けをした単純なCR2段フィルタが続きます。4700μFは負荷を流れるオーディオ信号の重要な通り道ですので容量はケチらないようにします。0.0047μFはOPアンプの安定目的のものですので、可能なかぎりOPアンプの近くに取り付けます。


■特性と調整

本機の回路定数で利得は2.5倍(8dB)です。利得の調整ですが、もうすこし利得を高くしたい場合は680Ωの値を小さくしてください。470Ωにすれば3.13倍(10dB)位になり、330Ωにすれば4倍(12dB)になります。逆に利得を下げたい場合は1kΩの値を小さくします。680Ωにすると2倍(6dB)になり、0Ω(ショート)にすると1倍(0dB)です。利得を変更しても他の回路定数を調整する必要は全くありません。以下の周波数特性も変化しません。

位相の手当てなしで抵抗だけで負帰還をかけると、抵抗器および配線の浮遊容量のために1MHzあたりで+1dB程度の山ができます。回路は非常に安定しているのでこのままでも特に問題はありませんが、3pFのディップマイカ・コンデンサを抱かせた位相補正を行いました。この位相補正は強烈に効くので、位相補正後の高域側はOPアンプにしてはやや低めの周波数から落ちています。しかし、このおかげで高域側の落ち方も波形もOPアンプを使ったとは思えないくらい素直なものになり、音も落ち着いたものになっています。

残留ノイズは30μVくらい(帯域=80kHz)ですので高能率なヘッドホンでも事実上無音です。歪み率特性はなかなか興味深い結果になりました。OPアンプは帯域によって帰還量が大幅に変化する都合上、高い周波数で歪み率特性劣化する傾向がありますが、本機ではそういった現象がほんのわずかで100Hz、1kHz、10kHzで特性がよく揃っています。もっとも、これはOPA2134の実力のおかげでもあります。

測定条件:
周波数特性・・・0.316V、68Ω負荷、供給電圧=12V。
歪み率特性・・・68Ω負荷、帯域=80kHz、供給電圧=12V。

左右チャネル間クロストークは50kHzまでの帯域で90dB以上が確保できています。申し分のない値です。

測定条件:
左右チャネル間クロストーク・・・1V=0dB、68Ω負荷、供給電圧=12V。


■聴感

なかなか良い感じです。非反転方式で耳につくイガイガ感(なに、それ?)が若干抜けました。しかし、OPアンプすっぴんで使って簡単に組んだヘッドホンアンプとしては、実用範囲に入れていないと思います。何故かというと、このヘッドホンアンプは棚に収まったまま全く使われていないからです。

CQ本で何台かOPアンプを使った単純なヘッドホンアンプを作り、さらにここでも異なる方式のヘッドホンアンプを作ってみたわけですが、これらを通じて何を学んだか・・・それは、私はOPアンプを使って納得のゆくヘッドホンアンプを作るスキルは持っていないということでした。作るの簡単だし、物理特性だけはなかなかいいんですがねー。



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