■■■FET差動バッファ式USB DAC Version1■■■
Simple and High Performance USB-DAC with FET Differential Buffer
ライントランスを使ったバージョンは予想外の好結果を得ましたが、トランスの単価が高い、供給が不安定という欠点があります。そこでトランスを使わずにバランス出力を得るバージョンも製作してみたわけですが、結論から言いますととても良いものができました。私は2012年9月に製作したものを使って4年目(2016.12現在)になりますが、十分に満足しています。
本機の母体となる秋月電子の廉価なDACキット「AKI.DAC-U2704」についてはこちらのページ(http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htm)を参照してください。
回路はFET差動ラインプリをアレンジしたものです。初期の製作ではCR型のLPFをつけていましたが、後にLC型のLPFに変更しました。AKI.DAC-U2704側
DACキットの基板側のアルミ電解コンデンサは、キット付属のものを使わずに以下のように置き換えています。キット付属のC16、C17と変更後のC5、C6は同じ100μF/35Vなので転用できます。この部分のコンデンサは通常タイプでかまいません。(表中のC5〜C17はAKI.DACの取説の回路図中の記号)LPF部
回路図部品名 キット付属 変更後 C5 47μF/25V 470μF/10〜16V(直径8mm以下のもの) C6 47μF/25V 470μF/10〜16V(直径8mm以下のもの) C11 47μF/35V 1000〜1500μF/10〜16V C14 470μF/25V 1000μF/10〜16V C16 100μF/35V 220μF/10〜16V C17 100μF/35V 220μF/10〜16V デジタルノイズをカットするためのLPF(ロー・パス・フィルタ)は、当初はUSB DACユニットを出たところにあるCRフィルタ(220Ω+0.015μF)とアンプ部(220pF)の2段構えでしたが、両フィルタともに効きはゆるやかなものでした。このLPFは後にLCフィルタ化して、最新版では2.7mHのインダクタと0.01μFそして430Ωのダンプ抵抗に変更になっています。アンプ部初期設計のCRフィルタから最新のLCフィルタに変更する場合は以下の部分が対象になります。
- AKI.DACの基板のC5、C6を100μF/35Vから470μF/10Vに変更する。
- CRフィルタをLCフィルタに変更する。必要部品は、2.7mH(20-25Ω)インダクタ×2、0.01μF×2、430Ω1/4W×2です。2.2mH(20-25Ω)インダクタの場合は0.012μFと390Ωで同等の特性が得られる。
DACキット単体の出力電圧は、デジタルフォーマットにおける最大振幅(0dBFS)時で0.64Vです。この信号レベルは普通のCDプレーヤの1/3くらいしかありません。このままプリアンプやヘッドホンアンプにつなぐと「音が小さい」と感じるでしょう。本機ではラインバッファアンプに3.3倍ほどの利得を持たせて約2Vの出力電圧が得られるようにしました(バランス出力時)。バランス出力とアンバランス出力の取り出しこのラインバッファアンプは、差動ラインプリと同じ2SK170(GR or BLランク)を使ったなんでもなさそうなただのエミッタフォロワ付き単段差動回路ですが、低雑音かつ非常に低歪みに仕上がっています。当初BLランクを使用しましたが、同じドレイン電流であればGRランクの方が利得が高くできるのでGRに変更しています。1V出力で歪み率0.005%以下の実力があります。発表当初は、ドレイン電流=1.6mA×2、ドレイン負荷抵抗=6.2kΩでしたが、手持ち部品が尽きてこの値での頒布が不可能となったため、回路定数を若干変更しました。精密に揃ったものを頒布していますが、自力で選別する場合は、最低限IDSSが±10%くらいは揃ったものを選んでください。
アンプ部で発生するノイズを目立たなくするために負帰還抵抗は10kΩ+2.7kΩとやや低めの組み合わせにしてジョンソン雑音のレベルを下げています。この種の反転回路では、負帰還抵抗の値が大きくなりやすく、これらの抵抗器で発生するノイズがばかになりません。これくらいの値が負帰還回路にはいると2SK170だけの出力回路では負荷が重すぎるので、2SC1815によるエミッタ・フォロワを追加してあります。エミッタ・フォロワをつけたおかげで2SK170の差動回路は動作に無理がなくなりました。本機では2SC1815のGRランクを使いましたがYランクでもかまいません。また2SC945、2SC2120、2SC2240といった小型のNPNタイプならばほとんどのものが使えます。
アンプ部は、アンバランス入力をバランス出力に変換する機能を持った反転アンプです。2つの出力端子を使えばバランス出力となり、片側だけを使えばアンバランス出力となります。アンバランス時の出力信号レベルはバランス時の1/2になります。反転アンプですので回路図では下側出力がHOTです。電源部電源は至極簡単なもので、24VタイプのACアダプタ(スイッチング方式、秋月電子扱い)を使い、24Vを5.1kΩと1.5kΩで分圧した擬似プラスマイナス電源です。この電源回路は特に説明は要しないでしょう。電源スイッチはつけていません。ACアダプタを入れっぱなしにしたくないので、どっちみちACテーブルタップ側のスイッチを切るからです。(後面パネル側に電源スイッチをつけるスペースがなかった、というのが真相)LED点灯回路LEDの点灯には3つの考え方があります。(1)USB DACがPCを認識した時に点灯・・・AKI.DACの基板上の青色LEDの両端から線を引き出す。駆動抵抗不要。
(2)とにかくUSBのバスパワー(電源)がきたら点灯・・・AKI.DACのC14の両端から線を引き出す(トランス式はこの方法)。駆動抵抗は820Ωくらいが適当。
(3)PCの有無に関係なくアンプ部のDC24V電源がONになったら点灯。駆動抵抗は5.6kΩくらいが適当。本機では(1)および(3)を採用しました。
まず(1)ですが、AKI.DACの基板上にある青色のLEDの両端に細い線をハンダづけして、その先に黄緑色のLED(PG3889Gなど)つなぎます。極性は左下の画像(クリックして拡大)のとおりです。非常に細かい作業になりますのでAWG27かAWG28くらいの非常に細い線材と先が細いハンダごてが必要です。LEDの順電圧は黄緑色よりも青色の方が高いですから、青色と黄緑色を並列にすると黄緑色だけが点灯します。基板上の青色LEDはそのままにして単に線を引き出して黄緑色のLEDをつなぐだけでOKなわけです。黄緑色以外では赤色や橙色もOKです。(下の方の画像では橙と黒のあまり細くない線材を使っていますが、これはやりづらいので赤と白のもっと細い線材を頒布します)
実際に使ってみると、ACアダプタからの電源がきているかどうかわかりにくいので(3)のLEDも追加しました。ジャンク箱にあった橙色で頭が丸い普通の形状のものです。LEDの場所は後面パネルのDCジャックのすぐ脇で地味に光るようにしてあります。画像では6.2kΩをつけていますがちょっと暗かったので回路図には5.6kΩと書き入れてあります。
(1)基板からの線の引き出し→ ←(3)DCジャックとLEDの接続
バランス出力が不要な場合は、キャノン端子を取り外してRCA端子だけにしてください。出力信号レベルは、回路図どおりですとバランス出力端子で2.13V、アンバランス出力端子で1.06V(ともに0dBFS)となります。バランス出力端子では一般的なCDプレーヤと同等となり、アンバランス出力端子ではその半分となってiPod nanoと同等になります。アンバランス出力が不足する場合は、4個ある負帰還抵抗(2.7kΩ)をすべて1.8kΩくらいに変更します。これで出力信号レベルは3dBほどアップして実用上十分な値になります。もっとも、パワーアンプの感度が高めであれば2.7kΩのままでも十分いけると思います。
なお、アンバランス出力しかつけない場合でも、出力をつながない上側のエミッタフォロワも残しておくことを推奨します。もちそん、その場合は上側の2SC1815周辺の回路(負帰還を含む)を撤去してもちゃんと動作します。しかし、一見無駄と思われる上側回路も重要な仕事をしてくれるのです。両方を生かしておけば上下2つのエミッタフォロワ回路のコレクタ電流は互いに打ち消しあってくれるので、アースラインおよび電源ループに流れ込むアンバランス電流はほとんどなくなり、後続機器の入力回路に流れる比較的小さな信号だけになります。余計な信号電流ができるだけアースラインや電源ループに流れ込まないようにする、という考え方は結構大切です。これにかかる追加費用はせいぜい200円程度です
ご注意:本機のキャノン端子では、キャノンの3pinと1pinをショートさせた市販の「バランス→アンバランス変換アダプタ」は使用できません。
主な部品は頒布しています。頒布ページはこちら(http://www.op316.com/tubes/buhin/buhin.htm)
キットの組み立て
詳しい説明はこちらにあります。→ http://www.op316.com/tubes/lpcd/aki-dac.htmケースの加工
ケースの加工で難しいと思われるのは、AKI.DACのUSB端子穴の位置決めとキャノン端子の穴あけでしょう。AKI.DACのUSB端子は基板から0.5mmほど出っ張っていますが、これがパネルに開けた穴に入るようにします。引っ込んだままですとUSB端子が奥まではいらず抜けやすくなります。キャノン端子の穴あけは、19〜20mmのホールソーがあればベストですが、ない場合はステップドリルかテーパーリーマーを使うことになります。しんどい作業ですが頑張ってください。楽な方法としては、穴あけが大変なレセプタクルを使わずに、小さな丸穴から2芯シールド線を出して先にプラグをつけてしまうという手もあります。ケースの向きは、本機のような縦型でも横型でもどちらでもいいように配置してあります。好みで決めてください。内部配線
平ラグの配線パターンは下図のとおりです。上側がL-ch、下側がR-chです。AKI-DACの基板からは左右チャネル出力とアースラインがありますが、アースラインは左右どちらか一方からだけ取り出します(私はR-ch側だけとつないでいます)。このアースはキットの基板上では互いにつながっており左右で分けて引き出す意味はありませんし、2本とも引き出してつないでしまうとアースループができるのでノイズ的に不利になります。下の内部画像では、茶色がL-chで紫色がR-chです。基板と平ラグの間に立っている5P立てラグがCRによるLPFです。立てラグのセンターの支柱がアースなので、ここをケースへのアース・ポイントにしてあります。もっとも、ケースへのアース・ポイントはここである必要はなく、RCA端子のところでもかまいません。
後面パネルには、基板、DCジャック、RCAジャック、キャノン端子がぎっしりと詰まっていますので、部品の位置関係はすべてがぎりぎりです。本機では、5Pの立てラグのところでシャーシ・アースをとっているのでRCAジャックには白い絶縁リングを当ててアース側とパネルが接触しないようにしています。画像で15P平ラグの端子が1個取れていますがこれは不良品だからで特に意味はありません。なお、この画像は2個目のLEDを取り付ける前のものです。(注意:この画像はCRフィルタを使った初期バージョンですので、5Pラグの部分とAKI.DACのC5,6が古いままです。)
本機の特性は以下のとおりです。回路の性質上、バランス出力とアンバランス出力とでは基準出力に6dBの差があります。アンプ部自体の残留雑音はバランス出力の時の方が小さいです。
DAC部を含む総合特性は以下のとおりです。周波数特製は厳密には完璧なフラットではなく、1kHzを基準にすると400Hz以下と5kHz〜10kHzでかすかに持ち上がり、10kHz以上ですこしずつ減衰しています。しかし、その変化はわずかなのでグラフにすると1本の直線になります。歪率特性のグラフの太い線が、最新バージョンでは帯域20kHzで取ったものであるのに対して、下の初期バージョンでは帯域80kHzで取ったものです。帯域80kHz同士で比べると最新バージョンの方が若干良くなっていますが、1kHzにおける歪率特性は新旧でほとんど同じです。
- 出力電圧(バランス/アンバランス): 2.16V/1.08V(0dBFS)・・・負帰還抵抗を2.7kΩから1.8kΩの変更すればアンバランス出力は1.5Vになる。
- DACとしての残留雑音(バランス/アンバランス): 61μV/31μV(帯域=80kHz)、45μV/25μV(帯域=20kHz)
- アンプのみの残留雑音(バランス/アンバランス): 14.2μV/19μV(帯域=80kHz)、9.2μV/16μV(帯域=20kHz)
- S/N比(バランス/アンバランス): 91.0dB/90.8dB(帯域=80kHz)、94.0dB/92.7dB(帯域=20kHz)
- LPF1: 2.7mH+0.01μF//430Ω
- LPF2: 220pF+NFB抵抗
CRフィルタを使った初期設計のデータはこちら。
製作6年後に、左右チャネル間クロストークの改善を行った上でのデータは以下のとおりです。きわめて優秀な結果となりました。アンバランス出力の低域側で若干の劣化が生じているのは、オーディオ信号の電源回路を伝っての漏れが原因です。
本機の完成直後は出音が落ち着かない状態がしばらく続きます。この時の音を聞いてがっかりしないでください。通電して20〜30時間くらい経つと、音に滑らかさや落ち着きが出てきます。この変化は、おそらくアルミ電解コンデンサの酸化皮膜の自己修復のせいだと思います。以後、年月が経つほどに音が良くなり続けるところが面白いです。本機の最初のバージョンは2012年9月の発表でしたが、当初はトランス式と比べて帯域特性は良いし音も良いのですが定位感がいまひとつ決まらないという不満感がありました。そのまま2年ほど使っているうちに音全体に落ち着きが出てきました。そして2014年10月にLPFをCR型からLC型に変更したわけですが、定位も含めてあらゆる点で良くなったという印象です。それは音を出した最初の瞬間から感じました。初期バージョンでお作りになった方は、LCフィルタ化を試してみる価値は十分にあると思います。
本機の音は、ワイドレンジ&明るく前に出る印象があります。トランス式DACがやや地味にきちっと出してくるのとは対照的です。