■■■デジタルオーディオ概々論■■■
Basic Knowladge of Digital Audio
WaveSpectra / ProTools LE / Audacity / Sound it!
私が子供の頃、我が家にはトランクほどもある大きなSONY製のテープレコーダーがありました。カセット・テープではなくもっと大きいオープン・リール・テープというのを使って録音するのです。こういう機械は私のようなメカ好きの子供にはいいおもちゃでした。カセット・テープが登場すると録音機材は非常にコンパクトになり、手軽に録音を楽しむことができるようになりました。ちょうどその頃、単三乾電池1本で動作するでエレクトレット・コンデンサ・マイクというのが開発されて、より音の良いマイクロフォンが比較的廉価に手にはいるようになり、家庭での録音が急速に普及しはじめました。私はNakamichi製の350というカセットデッキとSONY製のECM990ワンポイント・ステレオ・マイクロフォン(バランス接続に改造)を使って、当時所属していた室内合奏団の録音をやっていました。
出典:http://www.vintagecassette.com/やがて手持ちのマイクロフォンの数も増え、ミキサーを自作して使うようになりました。Nakamichiのカセットデッキは非常に良い音がしましたが、いかんせんカセットテープのダイナミックレンジの狭さはどうにもなりません。今思えば最大のボトルネックはマイクロフォンにありました。ECM990は家庭用にしては上等な部類でしたが、全くといっていいくらい音に潤いがなく帯域も狭いものでしたし、カセットテープのヒスノイズと勝負するくらい非常にノイジーでした。当時からレコーディング用にはノイマンなど優れたマイクロフォンがたくさんありましたが、とんでもない値段でとても手が出るようなものではありませんでした。そうこうするうちに就職して録音ごっこどころではなくなってしまいました。
時は流れ、2000年代にはいります。友達が作曲家としてプロ・デビューをしたのをきっかけにインターネットで最近のレコーディング事情をみていると「ハード・ディスク・レコーディング」という聞き慣れない言葉が目にとまりました。大掛かりなミキサーなどを使わずに、何本かのマイクロフォンとPCを使ってマルチチャネル録音ができるらしいのです。それも大変な高品質で。これは面白いかもしれない、と直感して調べ始めたがとにかく情報が少ない。断片的な情報ばかりで体系的な説明がどこにもない。何を揃えたらPCで録音ができるのか理解するのにえらく手間がかかってしまいました。
確証がないまま、とりあえずSOUNDBLASTERという5,000円くらいのプラスチック製のおもちゃのようなオーディオ・インターフェースなるものを購入し、PCにフリーソフトのWaveSpectraとAudacityをインストールし、マイクロフォン・アンプは自作し(↓)、MXL 2003というコンデンサマイクを購入しました。インストールで難航し、レベル合わせがうまくゆかなくてわけがわからなくなったりしながらも、とにかくこれらを使ってライブを録音したところ、これがなかなかいけるではないですか。30数年前の記憶に残る音とは雲泥の差です。マイクロフォンが格段に良くなったこともありますが、ヒスノイズのない明瞭な音はデジタルならではです。
次に行ったのはLPレコードの音をハードディスクに入れてからノイズ除去などの編集を行いCD化することです。LPレコードの音をデジタル化すると、音全体がエディタで視覚的に把握でき、しかも波形が編集できてしまうのには驚きました。LPのプチッというノイズは針のように尖った形状をしており、エディタでこれをなぞるときれいになくなってなめらかな波形になってしまいます。テープでは決してできなかったことがPCを使うとかくも簡単にできてしまうとは。
私自身がいろいろと学習し、いろいろなことが見えてくるのと同時並行で世の中もすごいスピードで変化を遂げていました。コンパクトかつまともなオーディオ・インターフェースが欲しくなり、いろいろ調べてみてM-AUDIOとTERRATEC PRODUCERが目にとまりました。プロ機材として普及しつつあるDigidesignも気になります。興味深かったのは、ほとんどのメーカーが普及品レベルでも24bit、96kHz対応であるのに対して、DigidesinのMBOX2は48kHzまでしかサポートがないくせにいちばん高価だったことです。これにはほんとうに迷いました。そして、購入したのがMBOX2です。Digidesignの音を聞いてみたいという気持ちの方が強かったのです。スタジオの定番ソフトProToolsが使えるというのが決定打でした。
結局買ったのはDigidesign MBOX2(24bit/〜48kHz)
MBOX2はなかなかいい機械ですがADコンバータが2組しかないため、同時に2トラックしか録音できません。室内楽や声楽を録音するのに2トラックではどうにもなりません。最低でも4トラック、できれば6トラック以上の同時録音ができる装置の定番というとDigidesignの002 Rackです。ソフトはMBOX2と共通のProToolsが使えるので具合がいいのです。録音後は複数のアナログ入力は不要なので大型の002 Rackではなく、コンパクトなMBOX2をつなげばマルチトラック編集やモニターができる、というわけでMBOX2が無駄になりません。AKGのC414がペアでころげ込んできたかと思うと、NeumannのKM184までやってきて、なんだかんだいいながら遊びというには充分過ぎるほどの機材が集まってしまいました。
アナログ8トラック同時録音ができるDigidesign 002 Tack、スタジオ定番マイクの一つAKG C414BXLS、手ごろな価格&サイズのNeumann KM184しかし、時代の変化は早いものでPC環境が変化するとProtoolsの手持ちバージョンが動かなくなってしまいました。加えてUSBインターフェースが主流になり、Firewireが使えるPCの選択肢がどんどんなくなってきてしまいました。Protoolsの動作環境に対する気難しさにも参っていたため、脱Digidesign(現AVID)を考えるうちに目に止まったのがドイツのRMEです。RMEは、コンパクトながら高い信頼性と高音質を誇るハイエンド機で、お値段もトップクラスです。
RME UCXによるマルチトラック・ライブレコーディング
実際に使ってみると、PC環境への親和性、システムの安定性ともに素晴らしいものがあり、Digideisnでつきまとった不安感が全くありません。加えて、ストレートでしっかりとした音、充実した機能にすっかり参ってしまいました。但し、私がここでベタ褒めしたからといってどなたにもおすすめすることはできません。ミキシングコンソールの基本的知識、とりわけデジタル卓のルーティングの基本原理がわかっていないと本機を使うことはまず無理だと思います。
デジタル機器およびPC上のソフトウェアを使ったデジタルオーディオレコーディング環境のことをDAW(Digital Audio Workstation)といいます。DAWは、音楽制作とレコーディングを画期的にコストダウンしたと言われていますが、私もまさにそれを実感しているわけです。本HomePageでは、DAWに関する実用的な知識を私なりに取捨選択した上で整理して説明します。私はレコーディングのプロではありませんので、内容には誤りや偏りがありますがどうか大目にみてください。
デジタルオーディオについての基礎知識に関する書籍で、文系の人でも読めるもの、そして理系の人でもやっぱり読んで欲しいというのがこの「デジタル・レコーディングの全知識」(Claudus Bruese著/リットーミュージック/1995円)です。デジタルとアナログでは、信号レベルの考え方が根本的に違うのですが、それがわかっていないとCDプレーヤのスペックを見てもそれが何を意味しているのかわかりませんし、プリアンプなどの設計もできません。テープデッキに精通していても、デジタル録音はできないのです。CDなどのデジタルソースにどのように録音されているのか、ダイナミックレンジはどう考えたらいいのか、デジタルフォーマットはどうなっているのか、そうしたことについて難しい話や計算式を抜きにしてわかりやすく解説されています。デジタルソースをPCに取り込んで編集したり、再構成してCDRに焼いたりするための基礎知識も得ることができます。
量子化ビット数については、しかるべきサイトや書籍を参照していただきたいところですが、ごく簡単に説明します。アナログ信号は無段階に連続した交流波で表されます。一方、デジタル化されたオーディオ信号はCDならば16bit×44.1kHzで区切られたマス目で表されます。アナログ信号をデジタル変換する際は、まず、時間を1秒あたり44,100個のスライスで刻み、その一瞬一瞬の信号の大きさを測定して、16bitすなわち65,536の点のいずれにあてはまるかを判定し、これをデジタル信号として記録します。この信号の大きさを表す点のことを量子化ビットといいます。この点の大きさは、パワーアンプで8Ωスピーカーを鳴らした時の最大音量が12.5Wである時、最小解像度が0.15mVの大きさになります。ダイナミックレンジは96dBほど(※1)になります。ちなみに、1mV程度のハムは生活雑音の中でスピーカーからかなり離れても聞き取れるくらいの大きさで、0.15mVというとスピーカーの耳を押しつけたらやっと聞こえる程度の音量になります。かなりすぐれた性能ともいえるし、その程度なの?と言うこともできます。
しかし、この数字は16bitで得られるダイナミックレンジを天井からいちばん下まで全く無駄なく有効に使えた場合のはなしであって、もし、ヘッドルーム(最大音量で歪まないために大音量側に設けた余裕)を12dBすなわち2bit取ってしまうと、有効なダイナミックレンジは14bit、すなわち84dBまでダウンしてしまいます。現実には、最下位のbitではもはや音にならないのでそのための処理などを行うと現実のダイナミックレンジはもう少し狭くなり、70dB台のどこかになります。こうなってくると高品質なアナログを下回る数字になってきます。
つまり、16bitのデジタル・オーディオの世界ではダイナミックレンジにはあまり余裕がありません。では、何故、16bitのCDがハイエンド・オーディオの世界も含めてこれほど普及したのでしょうか。それは、完成されパッケージングされたCDではヘッドルームの問題はもはや生じないからです。マスタリングという過程を踏んで16bitの能力を無駄なくめいっぱい使うようにして完成されたのが市販の音楽CDであり、その限りにおいて16bitあればぎりぎりで足りているといえます。もちろん、それでは不十分だという人もいるので24bitソースが話題になってきます。
24bitとなると、16bitに対してその下にさらに48dBのダイナミックレンジがあるので、ここまでくると流石に人間の耳はついてゆけません。都合144dB(※2)のダイナミックレンジが確保できる計算になりますが、最高レベルのADコンバーターの性能が120dBどまりですから、もう過剰なほどの余裕だということになりそうです。
実は、プロ・オーディオの世界では24bitでもまだ足りないのです。64チャネルのミキシングを行うと有効に使えるダイナミックレンジが4bit分目減りし、さらにフェーダー操作のマージンを4bit確保すると、実質的なダイナミックレンジは、24bitから16bitまで落ちてしまい、これでは話になりません。世界中のスタジオで最も良く使われているDigidesign社のProToolsでは、ミキシングに関わる内部処理は実に48bitで行われています。ミキシングを行わない前提のLPのCD化でも、処理の過程ですくなくとも6dB(=1bit)のヘッドルームを確保してAD変換を行いますし、スクラッチ・ノイズの除去やレベル調整など、いくつかの処理をデジタル環境で行うことを考えると、16bitで足りる保障はありません。
現実的には、16bitでもほとんど何の問題もなくLPからデジタルデータを起こすことができます。何故なら、生の楽音と違って、LPのソースはすでにダイナミックレンジが管理された状態だからです。慣れてくればAD変換時のヘッドルームは6dB以下で済ますことができます。ミキシングしませんからミキシングによるビットのロスもありません。LPの盤面で生じる本来的走行ノイズがかなり大きいのでデジタルノイズも目立ちません。
※1:16bitにおける理論値はデジタル・ノイズが処理前で98dBであり、適切にデジタル・ノイズが処理された場合で92.3dB。
※2:24bitにおける理論値はデジタル・ノイズが処理前で146.3dBであり、適切にデジタル・ノイズが処理された場合で141.5dB。
16bitデジタルフォーマットのダイナミックレンジは96dBです。その基準点はデジタルフォーマットに記録可能な最大振幅で、そこを0dBと置きます。このポイントのことをフルビットとか0dBFS(ゼロ・デシベル・フルスケール)とも呼びます。16bitデジタルフォーマットにおける最も小さい音は-96dBということになります。アナログのダイナミックレンジの考え方はデジタルとは根本的に異なります。オープンリールやカセットテープにはVUメーターが0dBを示す0VUというポイントがありますが、0VUを超えてもまだ余裕があって音は歪みません。2トラックのオープンリールでは+13dBくらい、カセットテープでは+6dBくらいの余裕(ヘッドルーム)があります。ヘッドルームの大きさはテープの種類や走行速度によって異なります。
アナログレコードには0dBあるいは0VUという考え方はありませんが、レコードに刻まれた溝の1秒間の振幅が3.54cmになる時を基準としています。カートリッジの出力電圧はこれを基準にして表示されています。実際のレコードに刻まれている溝の振幅の最大値はレコードごとにまちまちです。
これを絵にすると右図のようになります。アナログとデジタルの考え方の違いは、基準レベルをどこに置くのかにあります。
CDプレーヤの多くは、0dBFS(フルビット)の信号の時に、アナログ出力端子に2Vrmsくらいの出力電圧が現れます。デジタルフォーマットではこれ以上大きな音は記録できませんから、このCDプレーヤからは2Vより大きな出力信号は絶対に出てきません。
プロ用のオープンリールのマスターレコーダーは、0VUの時に1.228Vrmsを出力します。AMPEX 456などの標準的なマスターテープを使った場合のヘッドルームは12dBくらいありますので、最大振幅では5Vくらいの出力信号が出てきます。
コンシューマー用のカセットデッキでは、0VUの時の出力電圧は機器ごとにまちまちで、0.2V程度のものもあれば1Vくらい出るものもあります。共通していえるのはヘッドルームがせいぜい6dBどまりだということです。
アナログレコードではどうなるでしょうか。出力信号電圧が4mVのカートリッジを使い、利得が100倍(40dB)のフォノイコライザーアンプと組み合わせた時のラインレベルの出力信号は400mVになります。LPレコードには基準レベルの3〜4倍の大きさの信号が刻まれていますので、最大振幅では1.2V〜1.6Vくらいの出力信号が出てくることになります。
話をデジタルに戻すと、デジタルではデジタルフォーマットに記録可能な最大振幅を0dBとして、CDを制作する時にはそのソース全体で最も振幅が大きくなるポイントがぴったり0dBとなるように調整します。録音した音楽ソースをCDに記録する時に、16bitが持つダイナミックレンジを1dBの無駄もなく使い切るようにレベル合わせをするわけです。これをノーマライズと言いますが、コンピュータ処理をするからこそできる芸当です。ピークを表示してくれないVUメーターの時代には絶対にできなかったことです。
さきに、アナログ信号をデジタル変換する際は、まず、時間を1秒あたり44,100のスライスで刻み、その一瞬一瞬の信号の大きさを測定して、16bitすなわち65,536の点のいずれにあてはまるかを判定し、これをデジタル信号として記録します、と書きました。そこで問題です。アナログ信号の大きさは無段階の無限な値で表されます。一方、デジタル化するためには16bitで表現可能な点としてあてはめなければなりません。しかし、無限の値を持つアナログ値が、有限の個数しかないデジタルのマス目にぴったり合うはずがありません。マス目とマス目の間のどこかに存在するアナログ値は、強引にでもどこか近いところにあるマス目を割り当てざるを得ません。こうして、アナログ信号をデジタル変換する際には宿命的に「ずれ」が生じたまま処理が行われます。もちろんそのマス目は人間の耳が検知できそうにないぎりぎりの細かさなわけですから、気にすることない、と言ってしまえばそれまでなんですが、とにかく、これは必ず発生する誤差です。この誤差のことを「量子化エラー」といいます。
売られているCDの場合はもう済んだ話なのでどうすることもできませんが、自分でAD変換してデジタルソースを作る場合は、この量子化エラーの存在はしっかりと覚えておいた方がいいでしょう。アナログテープで録音する場合は、ヒスノイズが目立つことを避けるために録音レベルをめいっぱい高く設定したものですが、デジタルレコーディングでは(特に16bitで録音する場合は)量子化エラーの問題があるためにやはり録音レベルをめいっぱい高く設定することになります。但し、アナログテープの場合は少々の過大入力があっても歪みは目立ちにくかったですが、デジタルの場合は過大入力があってフルビットまで行ってしまうとたちまちクリップして耳障りな歪みを生じますので、「絶対に」許容レベルを超えることは許されません(※3)。24bitでレコーディングすると、ヘッドルームを12dBくらい確保してもまだ22bitも生きてますから量子化エラーのことは忘れることができます。いずれ16bitに落とすにしても、ぎりぎりまで24bitで処理をしておき、最後の最後に16bitに落とせば、品質の高い16bitデジタルソースを作ることができます。
※3:プロが使う機材やソフトでは、そのようなことが起こっても波形がひどいことにならないように処理してくれますが、廉価な機材やフリーソフトではクリップすると波形がすぱすぱ切れて意味不明で不規則な方形波になってしまうものもあります。
これについてもしかるべきサイトや書籍を参照していただきたいところですが、ごく簡単に説明します。「周波数帯域が制限されている限り、変化するオーディオ信号は不連続な点で表現可能である」という理論にもとづいて設定された音楽信号を時間でスライスする周波数のことです。CDでいういわゆる44.1kHzというやつで、アナログ信号をデジタル化する際に1秒間を44,100回スライスしたそれぞれの点をデジタル・データ化します。44.1kHz以外にも48kHz、192kHz・・・いろいろあります。
デジタル・オーディオで扱える周波数帯域は、サンプリング・レートの1/2の周波数までが限界です。AD変換する際には、サンプリング・レートの1/2よりも高い周波数が存在すると、エイリアシング(※)という不愉快なノイズが発生します。そのため、サンプリング・レートの1/2より上の周波数帯域は徹底的に排除されます。昔は、16kHzあたりから22.05kHzに向かって急峻にカットするアナログ・フィルターが使われたこともありますが、この手の急峻なアナログ・フィルターは音質を損ねるので今は使われていません。今は基準としたサンプリング・レートよりも数倍以上高いサンプリング・レートでAD変換し、デジタルのアルゴリズムを使って音質を劣化させることなくバッサリと切る方法が使われています。この方法をオーバーサンプリングと呼びます(聞いたことあるでしょう?)。8倍オーバーサンプリングを行うと、サンプリング・レートの1/2が176.4kHzにできるので、22kHzから176.4kHzにかけてのんびりとカットすればよいことになり、アナログ・フィルターが廉価で無理のない構造にできます。
CDのサンプリング・レートは44.1kHzですから、AD変換でも44.1kHzを採用すれば足ります。但し、CDに焼かないで、PCからじかに再生して聴こうというのであれば44.1kHzにこだわる必要はないので、贅沢に96kHzレコーディングされてもいいわけです。なお、48kHzというサンプリング・レートの扱いはちょっと微妙です。48kHzでデジタル化した場合、CDに焼くためには一旦44.1kHzに落とさなければならないからです。
ところで、贅沢をする場合は、サンプリング・レートよりも量子化ビットを優先します。従って16bit、44.1kHzをワンランクアップする場合は、16bit、96kHzではなく24bit、44.1kHzとします。音のよしあしへのインパクトはサンプリング・レートよりも量子化ビットの方が大きいからです。
※エイリアシング:オーディオ周波数とサンプリング周波数とで一種のうなりが生じる現象です。サンプリング・レートの1/2が22.05kHzの場合、25kHzのオーディオ信号が存在すると、25kHz−22.05kHz=2.95kHzの信号が現れます。2.95kHzは元の25kHzとは何の関係もない周波数であり、しかも可聴帯域の耳に敏感な帯域に出やすいので、AD変換では昔から悩みの種だったようです。
今、「音のよしあしへのインパクトはサンプリング・レートよりも量子化ビットの方が大きい」と書きました。サンプリング・レートを44.1kHzに設定すると記録・再生できる周波数の上限は22kHzどまりになります。これで問題ないのでしょうか。オーディオファンの間に広く流布している話として「LPレコードには周波数の上限の制約はないが、CDは22kHzから上がスパッと切れていて存在しないから音が悪いのだ」というのがあります。「20kHz以上は人の耳に聞こえないから関係ない」という説もあれば「聞こえない帯域でもその音が存在することで音のよしあしに重大なインパクトがある」という説もあります。
ハイレゾという言葉が流行っている昨今ですが、いまひとつ歯切れが悪いのはどういうことなのでしょうか。ハイレゾとは、ハイレゾリューションオーディオの略で、CDのサンプリングレート」(44.1 kHz, 16bit)よりもレゾリューションが高いデジタルオーディオのことを指すかなり大雑把な概念です。
JEITAによると、16bitであってもサンプリング・レートが48kHz以上であればハイレゾに分類されますし、44.1kHzであっても量子化ビット数が16bitを上回ればハイレゾと言っていいそうです。日本オーディオ協会によると、その程度ではお話にならず、デジタル側は24bit/96kHz以上でなければならず、加えて録音用マイクロフォンから再生アンプやスピーカーまで40kHz以上の帯域がなければダメ、という定義があります。
世間の認識はどうなのでしょうね。
・・・つづく・・・
注意すべきは、サンプリング・レートは高ければ高いほど音が良くなるかというと、単純にそうとは言い切れない事情があります。私は(2016.1現在)3台のオーディオ・インターフェースを使い分けていますが、1台は48kHzが上限で、2台は192kHzまでサポートがあります。48kHzどまりの機材がへぼいかというと全くそのようなことはなくて、良くできた48kHz機は廉価な96kHz機をはるかにしのぐ音がします。数値的なスペックだけ良くしても駄目だということです。確かに44.1kHzのレートであっても、高品質なAD変換を行うためにはハードウェア能力的には余裕があった方が有利です。96kHz以上の高いサンプリング・レートで高品質なAD変換を行うためには、さらに余裕がないとかえって音の品質を落としてしまいます。最近のオーディオ・インターフェースは、カタログスペック競争がや加熱気味のところがあって、192kHz対応を謳わないと売れない時代になりました。
しかし、本サイトでご紹介しているAKI.DACを使ったDACは48kHzが上限ですので、いわゆるハイレゾリューション・ソースには対応していませんが、市販のハイレゾ機器に負けない高品質な音を出します。デジタルは、表向きスペックだけでは語れない要素が大きいのです。我が家の標準のデジタル環境は、44.1kHz/16 or 24bitですが、これで不足はありません。
アナログ信号をデジタル信号に変換した場合、そのデジタル信号はWAV形式のファイルとしてコンピュータのディスクに格納し、それを編集してからCDに焼くためのファイルを作成します。ところで、WAVフォーマットとは何者であるかですが、音楽のデジタル・データにはいくつかのフォーマットがあり、WAVはその中でも最もメジャーなフォーマットのひとつです。WAVフォーマットは、MicrosoftとIBMが決めたフォーマットです。もともとはWindowsの世界で使われたもので、今ではMacintoshでも読むことができるようになりました。ファイルの拡張子は".wav"です。
WAVフォーマットでは、1つのファイルで1チャネル(つまりモノラル)をしまうこともできるし、1つのファイルで2チャネル(つまりステレオ)のものもあります。通常は、1チャネルか2チャネルです。マルチチャネルも扱うことができますが、編集する時は1度に全部のチャネルを同時に扱わなければならないので、ミキシング用途などではかえって不便なので、1つのファイルで1チャネルだけ持たせて複数ファイルを使ってマルチチャネルを扱うのが普通です。しかし、一旦2チャネルのステレオとして完成されたものは、2チャネルでまとめて管理した方が具合が良いので、ステレオ・フォーマットで扱われます。CDに焼く場合も、最終的にはステレオのWAVフォーマットを作成します。
WAVフォーマットは、量子化ビット数を自由に設定できます。CDデータは16bitですが、16bitで表現できるダイナミックレンジは理想値で96dBであり、現実にはそれよりも10〜20dB下回ります。完成されたCDソースでは、ダイナミックレンジが最適化され、16bitを無駄なく使っているためにかなり高品質な音が得られますが、レコーディング後の編集中のソースはダイナミックレンジが流動的で無駄も多いので16bitではとても品質を維持することができないため、24bitが使われます。8bitというのもありますが、音楽ではとても実用にはなりません。右の画像は、Sound it!で新しいデータを設定する際の画面です。
WAVフォーマットでは、サンプリング・レートも自由に設定できます。CDデータは44.1kHzですが、DATは48kHzが標準ですね。プロのレコーディングの現場では96kHzや192kHz、まれに88.2kHzが使われます。44.1kHzや48kHzということもあります。
WAVフォーマットは、デジタル信号を真っ正直に記録するフォーマットなので、他の圧縮可能なフォーマットに比べてファイルサイズが大きくなります。画像フォーマットにたとえるならば、WAVはBITMAPに対応し、他の圧縮可能なフォーマットはJPEGやGIFにたとえることができます。以下の表は、ステレオ(2CH)形式のWAVオーマットで必要なディスク容量をまとめたものです。
<1分あたりのWAVファイル容量>
量子化ビット数 サンプリング・レート 44.1kHz(ステレオ) 48kHz(ステレオ) 96kHz(ステレオ) 16bit 10.08MB 10.98MB 21.96MB 24bit 15.14MB 16.48MB 32.96MB <60分あたりのWAVファイル容量>
量子化ビット数 サンプリング・レート 44.1kHz(ステレオ) 48kHz(ステレオ) 96kHz(ステレオ) 16bit 600MB 660MB 1.32GB 24bit 900MB 1GB 2GB A面、B面合わせて60分のレコードを24bit、44.1kHzのWAVファイルとしてPCに取り込み、これを編集したものを別ファイルとしてSAVEし、それをCDに焼くために16bit、44.1kHzのWAVファイルに変換したとすると、900MB+900MB+600MB=2.4GBの容量が必要になるという計算になります。ちなみに、CDRは最大で700MBしか記録できませんから、CDRを媒体として処理は事実上無理なので、作業はすべてハードディスクで行うことになります。
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