ダンピングファクタの測定法


ダンピングファクタとは

アンプ内部を負荷(スピーカー)側から見ると、下図の点線の枠内ように見えます。すわなち、増幅回路は一種の発電機でオーディオ信号電圧Eoを発生させてこれでスピーカーを駆動しようとするのですが、その途中に多かれ少なかれ見えない抵抗ro(内部抵抗)が存在します。無負荷の状態でアンプの出力電圧を測定するとEoが表示されますが、負荷(8Ω)を与えて測定すると、このro(内部抵抗)が存在するために出力電圧ELは低く表示されます。そして、このroの存在は、スピーカーの低域における挙動に少なからず影響を与えます。

フルレンジスピーカーやウーファなど低域を受け持つスピーカーは30Hz〜150Hzくらいのどこかに共振周波数(f0という)を持ちます。スピーカーのインピーダンスは、共振周波数では極端に大きな値になるため、ro(内部抵抗)が高いアンプでは共振周波数において出力信号電圧が高くなります。加えて振動の制動が弱くなるため低域の鳴り方にしまりがない感じにあります。スピーカーの公称インピーダンスとro(内部抵抗)との比率をダンピングファクタ(略してDF)といいます。

ダンピングファクタ(DF) = スピーカーのインピーダンス ÷ ro(内部抵抗)
一般にダンピングファクタは高いほうがいいとされて、ダンピングファクタの高さを競った時期もありました。しかし、ダンピングファクタがスピーカーから出る音にインパクトを与えるのは、ダンピングファクタ値が1桁のオーダーの場合です。いまどきの半導体アンプのダンピングファクタは50以上あるのが普通ですが、それくらいになるといくつだろうが関係なくなってきます。

さらに、同じダンピングファクタ値でも、あるアンプの低域がしまりがなく、あるアンプの低域は制動が利いた感じに聞こえることがごく普通に起ります。単純にダンピングファクタ値で音が決まるものではないようです。私の印象としては、真空管アンプではシングルアンプはある程度高い値が必要で、プッシュプルアンプの方が低いダンピングファクタ値でも聴感上の問題がないように思います。


ON/OFF法

アンプの内部抵抗およびダンピングファクタの測定手順は簡単です。被測定アンプに信号を入力し、負荷を与えたりはずしたりして負荷の状態を変化させて、そこで生じる出力電圧の変化を測定します。測定結果から簡単な方程式を立てて計算で内部抵抗値を求めればいいのです。

無負荷状態でアンプのスピーカー端子に0.1V〜0.3V程度のやや低めの出力電圧が得られる状態にしておきます。そこに2.2Ω〜10Ωの測定用のダミーロードをつないだりはずしたりして、その差を測定して計算で求めます。測定用のダミーロードをつなぐと、roが存在するために出力電圧は若干低下します。話を簡単にするために、ダミーロード8Ωを使った時と2.2Ωを使った時のダンピングファクタ直読表を作りましたので、ご利用ください(下のグラフ)。

←8Ω / 2.2Ω→

グラフの使い方は、まず、ON/OFF法で出力電圧を測定し「減衰率」を求めます。

減衰率 = 8Ωor2.2Ω負荷時の出力電圧(EL) ÷ 無負荷時の出力電圧(Eo)
内部抵抗(ro) = ( 8Ωor2.2Ω / 減衰率 ) - 8Ωor2.2Ω
グラフ上の減衰率目盛から、ダンピングファクタ(太い線)とro値(細い線)が直読できます。たとえば、8Ωを負荷にして「減衰率」が0.5の時の内部抵抗(ro)は8Ω、ダンピングファクタは1ですね。2.2Ωを負荷にして「減衰率」が0.5の時のダンピングファクタは3.64、ro=2.2Ωです。

8Ωの負荷で測定できるダンピングファクタ値はせいぜい6くらいまでで、それ以上になると測定精度が出ません。2.2Ωであれば20くらいまで測定できます。


注意点その1・・・スピーカーやダミーロードはつけない

無負荷の時と一定の値の負荷を与えた時の電圧の違いを使って測定するわけですから、スピーカーやダミーロードをつけたままです正しい値が測定できません。
注意点その2・・・適切な信号レベルで測定する
あまり小さい信号レベルで測定すると、被測定アンプや測定系の残留ノイズの影響で測定結果は狂います。大きすぎる信号レベルでは、被測定アンプで歪んでしまってやはり測定結果が狂います。ダンピングファクタが高いアンプの測定では、2.2Ωあるいはそれ以下の抵抗値の抵抗器をスピーカー端子につないで測定します。8Ω負荷で1Wを出せたアンプでも、2.2Ω負荷では0.5Wも出せないかもしれません。どれくらいの信号レベルで測定したらいいかは、被測定アンプの特性に合わせて自分で考えてください。
注意点その3・・・測定用のダミーロードの抵抗値
半導体アンプの場合、スピーカー端子に2Ω以下の低抵抗をつなぐとスピーカーがショートしたと判断して保護回路が動作することがあります。オフセット電圧が高いパワーアンプでは、出力に過剰な電流が流れてしまうこともあります。ON/OFF法で使用する測定用のダミーロードの値は、2.2Ωあたりを下限としておくのが無難です。
注意点その4・・・DF値=20以上の高DFは正確に測定できない
8Ω負荷でDF値=20のアンプの内部抵抗は0.4Ωです。これを測定するためには1Ω以下のダミーロードが必要になりますが、それくらいの低抵抗になるとスピーカーケーブルや端子の接触抵抗など測定系で生じる抵抗の影響が無視できなくなってきます。DF値=20以上を正確に測定するには、次に説明する注入法を使います。

注入法

被測定アンプの入力側ではなく、スピーカー出力側から測定信号を注入(すなわち逆流)して行う測定法です。この方法を使うと、20以上の高いDF値を正確に測定できます。

測定原理は以下の通りです。今、ここに内部抵抗1Ωのパワーアンプと内部抵抗が600Ωのオーディオジェネレータがあるとします。このオーディオジェネレータを被測定アンプのスピーカー端子につないだらどうなるでしょうか。オーディオジェネレータの出力にはシリーズに600Ωの抵抗器が入れてあるため、出力信号は1/(600+1)すなわち0.001664倍に減衰してスピーカー端子に現れます。オーディオジェネレータの出力信号電圧が無負荷時に2Vであれば、被測定アンプにつないだ時の信号電圧は3.328mVとなります。

同様に、内部抵抗が50Ωのファンクション・ジェネレータの場合であれば、1/(50+1)すなわち0.0196倍の減衰ですから、被測定アンプにつないだ時の信号電圧は39.22mVとなります。

減衰率 = アンプのスピーカー端子の電圧(Er) ÷ オーディオジェネレータの無負荷の出力電圧(Eo)
内部抵抗(ro) = 600Ωor50Ω / (( Eo / Er ) - 1 )
内部抵抗(ro) ≒ 600Ωor50Ω * 減衰率
減衰率が0.05以下の場合は、オーディオジェネレータ(あるいはファンクションジェネレータ)の内部抵抗値に減衰率を掛けるだけで近似的に求めることができます。


注意点その5・・・測定系の抵抗成分に注意

8Ω負荷においてDF値が80のパワーアンプの内部抵抗はわずか0.1Ωです。もし、測定系に10mΩ程の抵抗成分があると測定値は10%も狂ってしまいます。ちなみに0.3sqの銅線の場合、40cmでも23mΩもあります。端子の接触抵抗もばかにならないので更に注意が必要です。

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