<電源回路のチューンアップ・・・定位感のレベルアップ>
ミニワッターで採用した2SK3767(または2SK3067)を使った簡易型リプルフィルタの電源回路インピーダンス特性の実測データは、以下のグラフの黒線です。可聴帯域全体にわたって5.8Ωで平坦な特性を得ています。太い黒線がオリジナル回路のものです。30kHzから上の帯域で回路インピーダンスが上昇していますが、これはゲートに入れた発振防止用の4.7kΩが原因です。それを確かめるために、4.7kΩを3.3kΩに置き換えて測定してみたのが細い黒線ですい。案の定、3.3kΩにした方が帯域が広がりました。この抵抗値をさらに小さくしても5.8Ωそのものを下げることができませんし、2SK3767が発振してしまったら意味がないので、この抵抗値には触れないことにします。
次にやってみたのは、2SK3767のソース側とアースとの間に10μF/400Vのコンデンサを入れてみる、という方法です。その結果が青い線です。400Hzあたりからインピーダンスの低下がはじまり、30kHz〜60kHz間では1.4Ωまで下がりました。1.4Ωよりも下がらない理由は、10μF/400VのコンデンサのESRが1.8Ωほどあり、周波数が高くなってもこれ以下にはならないからです。
電源インピーダンスの改善効果が下の左右チャネル間クロストークのデータです。これは6DJ8シングル・ミニワッターのもので、コンデンサ容量は1μFと10μFの2つのケースでデータを取っています。濃い2本の線が改善前の状態で、L→R、R←Lいずれも同じ値でグラフがきれいに重なっていますので、浮遊容量が劣化原因ではないであろうこと、犯人は左右共通電源由来であろうことが推定できます。左右チャネル間クロストークの劣化は、100Hz以下と2kHz以上で生じていますが、高域側の劣化の方が目立ちます。1μFを入れるとかなり改善がみられますが、可聴帯域での変化はありません。10μFでは2kHz以上の帯域で著しい改善がみられました。
この結果を受けて、10μ/400Vのアルミ電解コンデンサを頒布対象リストに加えることにしました。
実装方法は下図に赤で書き込みました。図では、2個のR3のところからジャンパー線を出して、下のラグ端子とアース母線とをつなぐように10μF/400Vのアルミ電解コンデンサを取り付けるように描いてあります。ここに取り付けると、猿の綱渡りのような感じになります。それが嫌ならば、図のジャンパー線のところに10μF/400Vのアルミ電解コンデンサを割り込ませる方法でもいいでしょう。しかし、ここはかなり狭い上にR3の熱を避けなければなりませんから、コンデンサを横倒しにするなどの工夫をしてください。
<負帰還定数の見直し1・・・低域表現力の改善>
シングル版ミニワッターは使う球によって無帰還時の利得が変化しますが、6N6Pや5687のμはさほど高くないので利得は決して高くありません。下表は各管ごとの実測データをまとめたものですが、球によって無帰還時の利得にかなりの差があります。6DJ8と5670は高利得が得られるので最初から負帰還定数を変えてあり、負帰還量も多いためにD.F.値も十分に高いです。7119もそれらに次いで高いです。しかし、それ以外の球は負帰還時の利得をあまり下がらないように配慮して負帰還量は控えめであり、D.F.値もさほど高くありません。
使用真空管 | 5687 | 6N6P | 6350 | 7119/E182CC 7044 | 6DJ8 6922/E88CC 7308/E188CC ECC88 | 5670 2C51 396A | 6FQ7 6CG7 ※NEC | 12AU7 ECC82 5814A | 12BH7A |
OPT | ×2 | 7kΩ:8Ω |
原設計 |
R5 | 51Ω1/4W | 51Ω1/4W | 51Ω1/4W | 51Ω1/4W | 82Ω 1/4W | 82Ω 1/4W | 51Ω1/4W | 51Ω1/4W | 51Ω1/4W |
R7 | 560Ω1/4W |
1/β | 12 | 12 | 12 | 12 | 7.75 | 7.75 | 12 | 12 | 12 |
無帰還利得 | 5.6倍 | 5.9倍 | 5.6倍 | 8.9倍 | 17倍 | 16.5倍 | 6.9倍 | 4.9倍 | 5.6倍 |
負帰還利得 | 3.8倍 | 3.9倍 | 3.8倍 | 5.0倍 | 5.3倍 | 5.2倍 | 4.35倍 | 3.38倍 | 3.7倍 |
負帰還量 | 3.4dB | 3.7dB | 3.4dB | 5dB | 10.1dB | 9.5dB | 4dB | 3.2dB | 3.5dB |
D.F. | 2.8 | 3.3 | 2.8 | 4.0 | 6.9 | 4.5 | 2.0 | 1.7 | 2.4 |
修正後 |
R5 | 62Ω1/4W | 62Ω1/4W | 62Ω1/4W | 51Ω1/4W | 82Ω 1/4W | 82Ω 1/4W | 62Ω1/4W | 75Ω1/4W | 62Ω1/4W |
R7 | 560Ω1/4W |
1/β | 10.03 | 10.03 | 10.03 | 12 | 7.75 | 7.75 | 10.03 | 10.03 | 10.03 |
無帰還利得 | 5.6倍 | 5.9倍 | 5.6倍 | 8.9倍 | 17倍 | 16.5倍 | 6.9倍 | 4.9倍 | 5.6倍 |
負帰還利得 | 3.59倍 | 3.71倍 | 3.59倍 | 5.0倍 | 5.3倍 | 5.2倍 | 4.09倍 | 3.06倍 | 3.59倍 |
負帰還量 | 3.86dB | 4.03dB | 3.86dB | 5dB | 10.1dB | 9.5dB | 4.54dB | 4.1dB | 3.86dB |
D.F. | 3.02 | 3.51 | 3.02 | 4.0 | 6.9 | 4.5 | 2.19 | 2.0 | 2.54 |
最大出力 (変わらず) | THD=5% 1kHz | 0.7W | 0.6W | 0.5W | 0.7W | 0.38W | 0.25W | 0.35W | 0.34W(7%) | 0.6W(6%) |
修正後では、いくつかの球でR5の値を51Ωから62Ωに変更し、ほんのわずかですが負帰還量を増やしています。それに伴い、負帰還利得は少しダウンし、D.F.値はほんのすこしだけアップしています。ぎりぎりのところで設計しているため、このわずかな違いが低域の変化としてかなりはっきりと認識できます。