ベーシック・アンプのレベルアップ・・・3段構成化
実装の検討と部品の手配
どういう風に組み込むか

実装の基本方針として、できるだけ手持ちのアンプを傷つけない、手間をかけない、見栄えを悪くしない、ということでいきたいと思います。標準シャーシを使った2段構成の全段差動プッシュプルアンプの裏蓋を開けて中をのぞいてみると、まとまった空きスペースは電源スイッチとボリュームの間、正面パネル裏にみつかります。もうひとつ考えられるのは両脇の側面でしょうか。

組み込む場所としてはどちらも電源トランスから離れているので悪くないと思いますが、入力端子〜音量調整ボリューム〜初段までの信号ケーブルの配線の流れを考えると、両脇に実装するのはちょっと冗長な気がします。電源スイッチとボリュームの間であれば、音量調整ボリューム〜初段が至近になるのと、初段〜ドライバ段の流れも無理がなさそうです。

というわけで、初段ユニットを作って電源スイッチとボリュームの間の空きスペースに実装することにします。

さて、次なる問題は、初段ユニットをどうやって取り付けるかです。ちなみに、初段ユニットはユニバーサル基盤または30Pの平ラグを使います(これも後で詳説)。

取り付けにはスペーサを使いますができればシャーシに穴を開けたくありません。何故って、スチールに穴を開けるのは少々しんどい作業だし、すでに部品が取り付けられた安定が悪いスチールへの穴あけは、油断するとドリルの先が滑ってシャーシにミミズが這ったような傷をつけかねません。しかも、正面パネル面にビスが飛び出すのは著しく美観を損ねます。だいいち、標準シャーシを使ってこのアンプを組み上げた多くの方々はドリルを持っていないでしょう。

こういう問題を解決する便利な道具が売られています。「貼付け式ボス、T−600(タカチ製)」と呼ばれる固定器具です(右画像、ほぼ実物大)。黒い方は、3mmネジの受け皿がついたもので、白い方は中央の出っ張ったところに穴を開ければ裏側からビスを立てることができます。どちらも強力な接着テープがついていてシャーシにぺたっと貼ればOKです。接着面に面積があるので強度もしっかり出ます。

私はこういう便利なものがあるのを知らなかったのですが、ご近所に住むある方が教えてくださったので悩みのひとつが簡単に解決してしまいました。いまどきは自動車の部品もその多くは接着剤のお世話になっているようで、なんでもかんでもネジ止めする時代ではなくなったのだなあと思っています。

※この部品は、秋葉原ならば「ネジの西川」に置いてあります(1F中央の棚)。
※入手困難な方には手持ちのものをお分けしますので、選別FETおよびダイオードの頒布の際にお申し出ください。・・・部品頒布ページ



部品リスト

電源トランスにTANGO PH-185を使用した標準アンプを3段構成化した時の部品リストですので、参考にしてください。ほとんどのケースで、このままかNo.10、No.11の抵抗値を調整するだけでいけると思います。

No. 種類 名称 規格・定格 数量 Notes
No.1 FET 2SK30A Yクラス 4 要選別。
No.2 定電流ダイオードとして使う 2SK30A-Y IDSS=約1.5mA 2 要選別、1.4〜1.7mAの範囲で揃った2個。
No.3 定電流ダイオードとして使う 2SK30A-GR IDSS=約4mA 2 要選別、3.8〜4.2mAの範囲で揃った2個。
No.4 ZD(定電圧ダイオード) HZ20 20Vタイプ 2 18V〜22Vの範囲であればよい。
No.5 抵抗器 2.2kΩ 1/4〜1/2W型 2 負帰還抵抗。
No.6 抵抗器 10Ω 1/2〜1W型 2 出力端子側安定化CR。
No.7 抵抗器 10kΩ 1/4〜1/2W型 4 初段ドレイン負荷抵抗。
No.8 抵抗器 1MΩ 1/4〜1/2W型 2 初段ゲート接地のための安全対策用。
No.9 抵抗器 56kΩ 1W型 4 ドライバ段プレート負荷抵抗。
No.10 抵抗器 2kΩ〜4.7kΩ 1W〜2W型 1 ※B電圧ドロップ用。B電源供給電圧と相談して決める。
No.11 抵抗器 15kΩ(12kΩ) 2W型 1 ※B電圧ドロップ用。B電源供給電圧と相談して決める。
No.12 抵抗器 27kΩ(30kΩ) 3W型 1 ※B電圧ドロップ用。B電源供給電圧と相談して決める。
No.13 半固定抵抗器 100Ω - 4 2個は初段差動DCバランス用、2個は負帰還量可変用。
2SK30Aの精度が出ていれば初段差動DCバランス用はなくても可だがあると便利。
No.14 コンデンサ 330pF(220pF〜470pF) - 2 ※負帰還の位相補正用。容量の妥当性は別途検討。
No.15 コンデンサ 0.1μF/50V - 2 出力端子側安定化CR。
No.16 コンデンサ 100μF/25V〜35V - 1 初段電源バイパス用。ないよりまし程度。
No.17 コンデンサ 470〜1000μF/10V〜16V - 1 マイナス電源発振防止。5個のダイオードと並列に追加。
No.18 平ラグ 30Pタイプ(15P×2列) - 1 平ラグではなくユニバーサル基板でもかまわない。
No.19 貼付け式ボス T−600(タカチ製) - 3 各自取り付け方法で判断。
No.20 ビス 3mm径 - 3 -
No.21 スプリングワッシャ 3mm径 - 3 -

*  *  *  *  *

2SK30A

"K30A"と印字されている。"Y"とあるのがクラス表示。
Idssの大きさによって"Y"クラス、"GR"クラスなどがある。
"GR"クラスの方がIdssは大きいが、同じ動作条件だと"Y"クラスの方がgmはわずかに大きい。
"Y"と"GR"どちらがいいかというものではない。
2SK30A-YはたまにIDSSが1.3mA以下のものがあるので要注意。

"2SK30ATM"pdfデータシート

ZDとCRD

縦がCRDで横になっているのがZD。
違いは、CRDのマーカー(帯)は黒だが、ZDのマーカーは青みがかっている。
CRDの印字は縦書き("15"と書いてある)だが、ZDの印字は横書き("20"と書いてある)である。

千石電商(2F or 通販)で入手可
"石塚電子CRD"pdfデータシート

半固定抵抗器

これは千石電商で廉価で売られていた25回転のもの。
難しい使い方をするわけではないので、どんなタイプのものでもかまわない。
実際にテスター(Ωレンジ)で各端子間の抵抗値をあたってみて、どっちに回したら抵抗値がどう変化するか確認すること。
2SK30Aが精度のとれたペアであれば初段差動DCバランス用は省略してもかまわない。

千石電商(B1 or 通販)で入手可



選別FETおよびダイオードの頒布について

<選別の方法>

初段とドライバ段を直結するため、初段で生じたプッシュプル動作条件のアンバランスはそのままドライバ段に引き継がれ、さらに増幅されます。

たとえば、2SK30Aのドレイン電流に0.1mAの偏差が生じてしまうと、差動出力である2つのドレイン電圧には1V(=0.1mA×10kΩ)の差が出ます。この1Vの差はそのままドライバ段の2つの差動入力のバイアスのアンバランスになってしまいます。ドライバ段のバイアスに1Vのアンバランス(偏差)が生じると、その偏差はそのまま増幅されてプレート電圧に現れます。ドライバ段の利得は16.7倍と計算されましたから、プレート電圧に現れる偏差は16.7Vにもなります。購入した2SK30Aを無作為に選んで差動回路に使うと、同じYクラスであっても容易に0.1mA程度の偏差が生じます。

特性が揃ったFETのペアを得る簡単でてっとり早い方法は、Idss(バイアス=0Vの時に流れるドレイン電流)での選別です。Idssが揃ったからといってバイアスを与えた実際の動作で特性が揃う保証はないといえばないのですが、Idssが2%以内で揃ってくれればこれで実用上問題ないくらい揃ったペアが得られます。初作のアンプではこの方法(Idss偏差2%)で選別しています。

なお、無調整で使えるペアを2本得ようとすると、少なくとも20本くらいの2SK30Aから選別する必要があります。10本から2ペアを得るのはまず無理でしょう。CRDのばらつきもかなり大きいので、必要本数の2倍程度を購入しても足りないと思います。

頒布する2SK30Aペアの選別では、もう1ヒネリした選別を行うことにしました(こちらで選んで頒布するとなると責任重いですからー)。実際の動作と同じドレイン電流(約0.75mA)を流した時のバイアス値が揃ったものでペアを組ませます。念のためにIdssもチェックします。また、揃ったペア(2本)×2ではなく、まとめて4本揃ったセットを作ります。こうすることで、バイアスと増幅率の両方が良く揃ったペアが組めるため、ドライバ段のDCバランスの精度が得られることに加えて左右での利得が揃いやすくなるのと、初段での歪み率特性も良くなると思います。

No. 種類 名称 規格・定格 測定項目 測定条件 Notes
No.1 FET 2SK30A Yクラス バイアス特性 Id=0.75mA、Vds=6V 2SK30A(Y)をバイアス特性で約30のグループで選別し、本設計に適した範囲で特性が近いもの同士4本で2ペア選別(±0.015V)。
Vgs Idss 念のためにIdssのばらつきをチェック。
No.2 CRD 2SK30A-Y IDSS=1.5mA選別 IDSS Vds=10〜12V 定電流特性が1.4mA〜1.7mAの範囲で良く揃った2本を選別。
No.3 CRD 2SK30A-GRまたは2SK246-GR IDSS=4mA選別 IDSS Vds=10〜12V 定電流特性が2本合わせて3.9〜4.1mAになるような2本を選別。
No.4 ZD HZ20 20Vタイプ Vz Iz=2.5mA 定電圧特性が19.6V〜20.3Vの範囲のものを1本選別。
(現実的には18V〜22Vの範囲であれば選別不要)

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<頒布の方法>

頒布する部品のセットは以下のとおりです。

金額は送料込みで1セット1,450円とします。通常の店頭価格あるいは通販価格での調達になるのと、すくなくとも50%くらいのロスは出そうなのであまり安くなりそうにありません。梱包用品代や秋葉原までの交通費や通販送料もかかりますので。

お申込〜送付手順、その他頒布部品等はこちらにあります・・・部品頒布ページ

※梱包を解いてCDRやZDが混ざってわけがわからなくなってしまったら、一度送り返してください。測定し直して再送します。その際は返信用切手もお願いします。

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