大人の自由空間 私が手に入れた真空管は、どんな球なの? |
そろそろ、みなさんの手元には何種類かの球が集まってきていると思います。あるいは、過去に入手した球を物色しつつ、どれが使えるかな、これは代用できないかな、などと思い巡らしているかもしれません。全くはじめての方でも真空管なるものがどんな構造、どんな仕組みなのか、ぼんやりを見えてきたと思います。このページでは、お手元にある球がどのような用途、性質、特性であるかについて整理ておきしたいと思います。
電圧増幅管
真空管式に限らず、CDプレーヤなどから送られてきたオーディオ信号を増幅し、スピーカーを鳴らすためには、何段もの段階を踏んで増幅しなければなりません。宇宙ロケットが、1段だけでは宇宙空間に飛び出せないために、2段、3段構成になっているのによく似ています。アンプの構成を言う時、「初段」、「ドライバ段」、「出力段」などいろいろな言い方がなされます。
「初段」・・・アンプの入口の最初の増幅回路。「初段」は、オーディオ信号電圧を増幅すれば足りるので、あまりエネルギーはいりません。このような役割の増幅回路のことを「電圧増幅回路」といい、このような用途の球のことを「電圧増幅管」といいます。初段で増幅された信号でそのまま出力段を駆動できてしまう設計と、「ドライバ段」が必要な場合があります。それは、「初段」だけでは増幅の度合いが足りない場合です。「出力段」の方式によっては、非常に大きな信号電圧が必要な場合と、電圧だけでは駄目で電力(エネルギー)が必要な場合、特殊な駆動方法が必要な場合などがあるからです。「ドライバ段」には、「電圧増幅管」を使う場合と、「(小型の)出力管」を使う場合があります。
「ドライバ段」・・・何段目かに関係なく、最終の「出力段」を駆動する増幅回路。
「出力段」・・・スピーカーを駆動するアンプのいちばん最後の力持ちな増幅回路。
今回製作しようとしている全段差動プッシュプル・アンプは、2段構成でいきます。2段で済ますために、「初段」には比較的増幅率が高い「電圧増幅管」を選びました。
6SL7GT
12SL7GT6SC7
6SC7GT6EM7
第1ユニット用途 電圧増幅管 電圧増幅管 電圧増幅管 外観 ガラス管 メタル管
ガラス管ガラス管 構造 双3極 双3極 3極 ヒーター規格 6.3V×0.3A
12.6V×0.15A
(2ユニット分)6.3V×0.3A
(2ユニット分)6.3V×0.9A
(2ユニット分)電極間容量 Cin (g-k間) 3.0pF/3.4pF 2pF 2.2pF Cout (p-k間) 3.8pF/3.2pF 3pF 0.6pF Cg-p 2.8pF/2.8pF 2pF 4.8pF 電気的特性 プレート電圧(Ep) 250V 250V 250V バイアス(Eg1) -2.0V -2.0V -3.0V プレート電流(Ip) 2.3mA 2.0mA 1.4mA 相互コンダクタンス(gm) 1.6 1.325 1.6 内部抵抗(rp) 44kΩ 53kΩ 40kΩ 増幅率(μ) 70 70 68 ベース US US US ピン接続 No.1 2G BS 2G No.2 2P 2P 2P No.3 2K 2G 2K No.4 1G 1G 1G No.5 1P 1P 1P No.6 1K 共通K 1K No.7 H H H No.8 H H H 接続図 6SL7GT / 12SL7GT
オーディオ用に開発された球で、1つのガラス管に同じ特性の3極管ユニットが2つ封入されています。おなじみの12AX7や12AU7のようなMT管ベースのオーディオ球よりの古い世代のものなので、絶縁性能、耐震性能、低雑音性能において劣りますが、2A3、6V6、6L6といった銘球が登場して大活躍するようになった1930年代の代表的なオーディオ球です。
ヒーター規格が6.3Vのもの(6SL7GT)と12.6Vのもの(12SL7GT)がありますが、12.6Vのものは非常に珍しいです。一般に、12.6Vタイプの球は不人気なので価格も安いことが多いです。米軍用の場合、"JAN-CHS-6SL7WGT"のようなJAN名がついたものと、"VT-229"(=6SL7GT)や"VT-289"(=12SL7GT)のようなVT名がついたものがありますが、いずれも特性は同じで差し替えは何ら問題はありません。
Ep-Ip特性は右図のとおりです。
本機では、できるだけ利得を稼ぎたいので、Ip=0.5mA、Ep=125V、Eg1(bias)=-1.5Vくらいで動作させようかな、と考えています。
6SC7 / 6SC7GT
すでに述べたように、6SC7はメタル管、6SC7GTは同特性のガラス管です。6SC7族はちょっと変わった球で、6SL7GTのように1つのガラス管に同じ特性の3極管ユニットが2つ封入されてるとことまでな同じなんですが、内部的にカソードがつなげられています。2つのユニットを別個に切り離して使うことができません。そのことが幸いして、2管のカソードをつないで使う全段差動プッシュプル・アンプにはうってつけ、というわけです。
メタルベースの6SC7は、1番ピンをアースして配線します。球全体がアースされた金属殻で守られるため、外部からのノイズに強いアンプに仕上げることができます。6SC7族は全くの不人気球であるため、入手はそう簡単ではないかもしれませんが、珍しい球でもあるので根気良く探してみてはいかがでしょうか。
Ep-Ip特性は右図のとおりですが、上の6SL7GTのEp-Ip特性とほとんど同じです。縦(プレート電流)のスケールをよく見ると、内部抵抗が高い分6SC7の方が角度がわずかに寝ています。従って、動作は基本的に6SL7GTと同じでよいと思います。
6EM7 第1ユニット
6EM7は、テレビのブラウン管の垂直発振出力用に開発された球で、オーディオ用の球ではありません。6SL7GT相当の電圧増幅用の3極管1個と、6AH4GT規模の電力増幅用(後述)の3極管1個が封入されています。この球1個で、シングル・アンプができてしまいます。これを2個使うことで、全段差動プッシュプル・アンプに仕立ててしまおうという作戦です。
第1ユニットの特性は基本的には6SL7GTに似ていますが、内部抵抗が低い分6EM7第1ユニットの方が角度が立っています。そのためこのユニットを初段で使った場合、6SL7GTよりもプレート電流を若干多めに流した方が動作の収まり具合がいいかもしれません。
電力増幅管
オーディオアンプに限らず、まとまったエネルギーを必要とする回路で使用されるのが「電力増幅管」です。電力増幅管は、電圧増幅管に比べて電極のサイズも大きく、より大きなヒーター電力を消費します。球全体から放射される熱量の大きいため、配置や実装時に球の放熱への配慮がいるのが普通です。
今回製作しようとしている全段差動プッシュプル・アンプでは、オーディオ用に開発された名球ではなく、もっぱらテレビ用に開発されたいわば駄球を採用します。テレビ球の特徴として、特性のばらつきが大きい、直線性が悪い、見映えがしない、といった欠点がありますが、お値段が比較的お安いのと(著名なオーディオ球はどうにも高すぎです)、全段差動で使用するとこれがなかなかイイ音なのです。
6AH4GT 6CK4 6BX7GT 6EM7
第2ユニット6F6族
6V6族
6L6族
(標準接続パターン)用途 TV垂直発振出力用 TV垂直発振出力用 TV垂直発振出力用 TV垂直発振出力用 オーディオ出力用 外観 ガラス管 ガラス管 ガラス管 ガラス管 メタル管/ガラス管 構造 3極 3極 双3極 3極 5極/ビーム→3結 ヒーター規格 6.3V×0.75A 6.3V×1.25A 6.3V×1.5A
(2ユニット分)6.3V×0.9A
(2ユニット分)6.3V×0.7A〜1.5A 最大定格 最大プレート電圧(Eb) 500V 550V 500V 330V - 最大プレート損失(Pp) 7.5W 12W 10W(1ユニットあたり)
12W(2ユニット合計)10W 10W〜20数W 最大カソード電流(Ik) - - 60mA 50mA - 最大グリッド抵抗(Rg) - - 2.2MΩ 2.2MΩ - 電極間容量 Cin (g-k間) 7pF 8pF 4.4pF/4.8pF 7pF - Cout (p-k間) 1.7pF 1.8pF 1.1pF/1.2pF 1.8pF - Cg-p 4.4pF 6.5pF 4.2pF/4.0pF 10pF - 電気的特性 プレート電圧(Ep) 250V 250V 250V 150V - バイアス(Eg1) -23V -28V -16.3V -20V - プレート電流(Ip) 30mA 40mA 42mA 50mA - 相互コンダクタンス(gm) 4.5 5.5 7.6 7.2 - 内部抵抗(rp) 1.78kΩ 1.2kΩ 1.3kΩ 0.75kΩ 1.?kΩ〜2.?kΩ 増幅率(μ) 8 6.6 10 5.4 - ベース US US US US US ピン接続 No.1 G G 2G 2G (Metal管の時はSI) No.2 H H 2P 2P H No.3 - G 2K 2K P No.4 - - 1G 1G G2 No.5 P P 1P 1P G1 No.6 - - 1K 1K - No.7 H H H H H No.8 K K H H G3,K 接続図 6AH4GT
浅野勇氏著「魅惑の真空管アンプ下巻」で'50シングル・ステレオ/モノ兼用アンプのドライバとしても起用されたのを見つけたのが、私と6AH4GTとの出会いでした。
最大プレート損失7.5Wと小ぶりながら内部抵抗1.78kΩの純3極管なので、一体どんな音がするのだろうと思いつつシングルアンプとして試用してみたところ、中域に艶のある、かなりしっかりとした音を出してくれました。もしかしてこれはオーディオ球として素質があるのではないか、と思って「全段差動プッシュプル・アンプ」で採用してみたところ、大当たりとなったのでした。
この球は、テレビの垂直増幅用に開発されたため、直線性が意図的に悪くなるようにチューニングされています。従って、シングルアンプで使うと2次歪みが盛大に出ますし、プッシュプルで使うと3次歪みが出ます。300Bや2A3のようなオーディオ専用の名球に比べると内部抵抗もかなり高めで、こんな球のどこがいいんだ、という気がします。駄球の代表といっていいでしょう。
プレートの形状や大きさは後述する6BX7GTと瓜二つでヒーター規格まで同じです。そもそも、オーディオ用としては不人気な球だったのですが、いつのまにか人気が出てしまい、一部で価格が上昇してしまったのが残念といえば残念です。
元々精度が要求されない用途の球であるため、ばらつきが非常に大きく、ペア球としての提供もありません。プッシュプルで使う場合は、不揃いをうまく吸収できるような回路デザインがポイントだと思います。特性がはみ出しているからといって、くれぐれも処分などしないで活用してください。それが、駄球への愛情というものです。
6CK4
6AH4GTと同じ用途として開発されたテレビ球ですが、最大定格は6AH4GTよりもひとまわり大きく、ヒーター電流はなんと1.2Aも食います。
ヒーター電力が大きいことを除けば、東芝が6BX7GTをベースに開発したオーディオ球6G-A4に非常に良く似ています。6G-A4が市場から姿を消して久しい今日、6CK4が代用球として狙われてしまったようで、入手困難な球になりつつあります。
Ep-Ip特性データが入手できていないので、標準動作から類推した暫定Ep-Ip特性を作ってみました(右図)。この球も、ご多聞に漏れず、直線性はよろしくないです。
ピン接続をよく見るとわかりますが、3番ピンを除いて6AH4GTと同じなので、この2管は差し替えが容易です。但し、最大定格が6AH4GTの方が小さいのでその点だけはご注意ください。
6BX7GT
6AH4GT相当のユニットが、6AH4GT1本のサイズに詰め込まれた双3極管です。ヒーターは、6.3V×1.5Aも食いますので、ヒーター電力だけで9.45Wという大量の熱を発します。そのため、プレートに食わせることができる損失は、2ユニット合計で12W、1ユニットあたりでは6Wしかありません。
しかし、ほんとうに2ユニット合計で12Wも食わせると、それこそ高温にヒートアップしますので、気持ち遠慮して2ユニット合計で11W以下、できれば10Wくらいで使ってやりたい球です。そのせいか、ありがたいことにいつまでも不人気球のままです。
直線性は6AH4GTと同様にかなり悪いので、シングルで使った場合などびっくりするくらい大量の2次歪みが出ますが、シングルで使っても、プッシュプルで使っても、癖のない透明感のある音が出ます。私が好きな球のひとつです。
6EM7
6SL7GT相当の3極電圧増幅ユニットと、ミニ2A3のような電力増幅に使えるユニットの複合管です。単球でシングルアンプが組めてしまう手軽さがあるのに何故か不人気な球です。
この球をうまく使いこなすには、プレート電圧は低めに設定し、プレート電流をちょっと多めになるような動作ポイントにしてやります。直線性の悪い3極管は、プレート電圧が高ければ高いほどその欠点が露呈するからです。
プレート電圧190V、プレート電流50mAにして5kΩp-pの出力トランスを使ってやるのがベストですが、これではプレート電流がまかなえる適当な電源トランスがありません(PMC-190Mでは定格オーバー)。プレート電圧175V、プレート電流45mAくらいがひとつの答えでしょうか。
バイアスが深いため、上記3管に比べると感度は3割ほど低いので、8kΩp-p以上の高い1次インピーダンスの出力トランスは不利です。
6F6族、6V6族、6L6族
オーディオ出力用に開発された多くの球は、ベースピン接続が一定の約束に従っています。特に、1930年代後半に登場した6F6、6V6、6L6一族はこのお約束が徹底しており、ピン接続は全く同じになっています。そのため、配線の見なおしをしなくてもいきなり挿し替えができそうに思えますがそうはゆきません。各管ごとに許容される最大定格が異なり、最適な動作のための出力トランスの規格が異なったり、最適な動作のためのバイアスの設定も異なるため、バイアスの再調整が必要です。あるいは、カソード抵抗を別の値のものに変更しなければなりません。
全段差動プッシュプル回路では、プレート電流は「定電流回路の特性」で一意に決まってしまうため、バイアスの調整やカソード抵抗の設定がありません。最大定格さえオーバーすることなく、しかもピン接続が同じであれば、そして出力トランスの1次インピーダンスがしれなりにマッチしていれば、どんな球でも簡単に挿し替えができます。
6F6族には、メタル管の6F6(別名1613、軍用名はVT-66)、ダルマ型の6F6G、その欧州名がついたKT63、スマートな形状の6F6GTがあり、いずれもピン接続、規格ともに同じです。ベースが5本足のUZタイプでは42と呼ばれています。オリジナルは、5本足(UYベース)で直熱フィラメントを持つ47です。6F6と兄弟といってもいい良く似た球に6K6(6K6GT)があり、これは7ピンMT化されて6AR5になりました。6F6族を3極管接続(3結ともいう)にすると、内部抵抗は2.6〜3kΩとかなり高めですが、少ないプレート電流(28〜30mAくらい)、高いプレート電圧(330V)、高めの1次インピーダンス(10kΩp-p)で動作させて約4Wを得ることができます。性能的・効率的には後述の6V6や6L6に劣るため、再生産が行われませんでした。そのせいか、元々安い球なのに高めな価格で取引されているようです。
6V6族もヴァリエーションは実に豊富で、メタル管の6V6(軍用名VT-107)のほかヒーター電圧が12.6Vの12V6、ダルマ型の6V6G、6V6GY、スマートな形状の6F6GT、6V6GTAがあり、いずれもピン接続、規格ともに同じです。MT化されてコンパクトな7ピンMTとなったのが6AQ5(5AQ5、12AQ5もある)です。3極管接続にした時の内部抵抗は6AH6GTとほぼ同じかやや高めで、ピン接続さえ変更してしまえば、特性的にはほぼそのまま挿し替えができます。
6L6族は、微妙に定格が異なる膨大なファミリーを持ちます。メタル管の6L6、ダルマ型の6L6G、6L6GA、太っちょて最大定格が大きい6L6GCがあり、その中間にスマートな6L6GB、5881、7027/Aなどがきりなくあります。いずれもピン接続、基本的な規格は同じです。3極管接続にすると内部抵抗は6AH4GTとほぼ同じ、定格はやや大きめなので余裕のある設計が可能です。なんといっても、ロシア製など供給が豊富で価格が安いのが魅力です。
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