大人の自由空間 全体の構成の検討 |
設計コンセプトコンセプトとは、割り切りであります。後から誰かに問題を指摘された時のための、あらかじめ用意されたもっともらしい言い訳でもあります。いずれにしても、コンセプトは大切であることに間違いはなさそうです。本機のコンセプトは以下の5点です。
(1)初めてアンプを作る人であってもマイペースでいろいろ勉強しながら無理なく製作できる。これらのコンセプトから、いくつかの必要条件が導き出されます。
(2)出力は欲張らない。
(3)構造がシンプルで、部品点数が極少である。
(4)オリジナルの回路や部品に縛り付けられることなく、工夫や応用の自由度がある。特に、真空管の選択の範囲が広い。
(5)全段差動プッシュプル・アンプの特徴がちゃんと出ていて、実用になる。
・高価な部品、入手が難しい部品は使わない。この最後の「充分に卓越した性能」とは一体どの程度のものをいうのでしょうか。
・特殊な部品、実装が難しい部品は使わない。
・細かい配線を避けるために、小型のMT管ではなく大きさのあるUSベースの球を使う。
・別の球に差し替えても、わずかな調整で動作できるような回路である。
・周波数特性、残留雑音、歪み率特性、チャネル・セパレーション等において、充分に卓越した性能を出せること。
「充分に卓越した性能」
ねえ、みなさん、どうなんでしょう。
「こんな駄球を使った割には結構いい音。」というのはいかがでしょう。いえ、そんなんじゃ「充分に卓越した性能」とは言えないですね。
そもそも真空管アンプなるものは、市販の半導体アンプとはちょっと異なった鳴り方をします。それだけで、何か特別なものを手に入れたような、得をしたような気分になれます。しかも、はじめて自分で作った真空管アンプともなれば、大いなる満足感でちょっとハイになり、暫くの間はそういういい気分にひたれてしまいます。しかしやがてしらふの状態に戻ってみると、やっぱりちょっと物足りない、もうすこしなんとかならないものか、と思うようになります。
アンプ自作の満足感、充実感は主観的なもの。その愛する自作の賜物にも、いずれ、客観的な評価が下ります。本講座では、その客観的な評価にも耐えうる水準のアンプをめざしたいと思います。つまり、手持ちのメーカー製のアンプと比較して、一ランクレベルアップしなければ駄目だということです。そこで、まず物理的スペックです。
くらいの数字くらいは出しておきたいですね。実用になる一人前のアンプとして。幸いなことに、全段差動プッシュプルアンプは使用する球の出来・不出来の影響を受けのくい、どんな球を使ってもかなりのレベルの音が得られる、という特徴があります。300Bでなければ駄目だ、TELEFUNKENかMullardのEL34でなければ駄目だ、なんていう注文はつけるつもりはありません。
- 周波数特性: 10Hz〜50kHz -3dB
- 最大出力:球の能力に応じて2〜5W×2
- チャネル間クロストーク: 20Hz〜30kHz -70dB以上
- 残留雑音: 0.5mV以下
真空管マーケット事情
ところで、2002年現在の真空管マーケット事情についてもちょっと考えておかなければなりません。それは、ごく一部のオーディオ球を除いて、真空管はとっくの昔に製造が中止されており、今や、過去の遺産を食い潰しているということです。そして、手頃で使い易い3極出力管だけでなく、かつては駄球と称されていた球の中にも枯渇してしまったものが出てきているという実情です。
良い音がする3極管の代表といえば、RCAの45があります。今や、中古でも1本1万円します。6BX7GTをベースに東芝がオーディオ用にリファインした6G-A4などは、とっくの昔に、超高級球になってしまいました。45に近い音が得られる本機でも推奨しているTV球6AH4GTは、かつては見向きもされない駄球でしたが、今や人気球のひとつになってしまい、兄弟球の6CK4はすでにマーケットから姿を消しつつあります。秋葉原の某真空管屋のおやじによれば、6CK4はもう探しても出てこないというのです。比較的まとまった数が残っている6AH4GTであっても人気の出方次第では余談を許さない状況にあります。
一方で、ロシアや東欧で製造された球の中には、価格も驚くほど安く、入手が容易な球もあります。6L6GB/5881、EL34、6V6GTなどです。本機は、こういった球も視野に入れています。6L6GB/5881を3極管接続にすると6AH4GTと良く似た特性が得られ、ピン接続さえ変更すればそのまま差し替えができます。そこにいきなり6V6GTを挿しても、それなりに動作してしまいます。本講座の冒頭では、一応6AH4GT、6BX7GT、6EM7を取り上げていますが、決して、この3種の球でなければいけないということではありません。
むしろ、本講座をマスターすることによって、みなさん自身の工夫で、今ご紹介した以外の球であっても自在に活用して「充分に卓越した性能」の全段差動プッシュプル・アンプに仕上げていただきたいと願っています。
全体の構成
本機は、2段構成の全段差動プッシュプル・ステレオアンプとします。その理由は、
の3点に集約されます。
- 設計コンセプト、「(1)初めてアンプを作る人であってもマイペースでいろいろ勉強しながら無理なく製作できる。 」
- 設計コンセプト、「(3)構造がシンプルで、部品点数が極少である。」
- 設計コンセプト、「(5)全段差動プッシュプル・アンプの特徴がちゃんと出ていて、実用になる。 」
2段構成の全段差動プッシュプル・アンプに決定しただけで、電源以外のアンプ本体の条件はほとんど決まってしまいます。決めなければならないのは、初段と出力段にどんな球を起用するか、そしてその動作条件だけです。ブロック・ダイヤグラムは以下のとおりです。以下、初段がμ70程度の高増幅率3極電圧増幅管(たとえば6SL7GT)、出力段が内部抵抗1〜2kΩ程度の3極電力増幅管(たとえば6AH4GT)であるものとして説明します。
入力からはいってきたオーディオ信号は、初段上側の高μ電圧増幅管のグリッドに与えられます。初段は、定電流ダイオードによってカソードが縛り付けれられた2つの高μ電圧増幅管による差動回路になっています。上側管のプレート電流が増加すれば、下側管のプレート電流は同じだけ減少し、互いにシーソーのように動作します。その結果、対になって差動動作する2つの高μ電圧増幅管からの出力信号は位相が逆になります。この時、入力信号は半分ずつになって2つの高μ電圧増幅管のグリッドに入力されます。6SL7GTを使った場合、単体では約44倍の利得が得られているため、入力1に対して、上側管の出力は+22、下側管の出力は-22になります。
互いに位相が逆の2つのオーディオ信号は、それぞれ出力段の3極電力増幅管のグリッドに入力されます。出力段も初段と同様、定電流回路によってカソードが縛り付けれられた差動回路になっています。2つの出力管の負荷が出力トランスで、ここで最大2〜4W程度の出力が得られます。出力トランスは、1次インピーダンスが8kΩのものを標準とします。10kΩの出力トランスでも一向に構いませんが、新規に購入しようとした場合、8kΩタイプの方が選択肢が広く、安価なものでも良い性能のものが容易に入手でできるからです。
得られた出力はスピーカーに送られるわけですが、そのごく一部は負帰還回路によって初段下側管のグリッドに戻されます。初段上側管のグリッドには入力信号、初段下側管のグリッドには帰還された出力信号がそれぞれ入力されるわけです。この時、2つの初段管の間で、入力信号と帰還された出力信号が引き算されます。もし、帰還された出力信号の中に本アンプで引き起こされた(歪みなどの)「入力信号との不一致」が存在すると、引き算の結果、「入力信号との不一致」成分だけが抽出され、打ち消すかたちで再び増幅されます。これが負帰還のメカニズムです。「入力信号との不一致」とは、波形の歪み、ノイズの発生、周波数特性の劣化などのことをいいます。歪みを生じるアンプに対して、逆に歪んだ信号を抽出し送り込むことで、結果的に歪みを打ち消しそうというのです。
本アンプは、2段構成ということもあり、総合利得があまり大きくないため充分な負帰還をかけることはできないと思いますが、それでもわずかながらの負帰還をかけられるようにしたいと考えています。
利得の設計
本アンプがどれくらいの利得になり、どれくらいの感度になるかの見当をつけてみたいと思います。6AH4GTを例に計算してみます。動作条件は、Ep=230V、Ip=32.5mA、RL=8kΩp-p、バイアス=-20Vあたりを想定し、出力トランスでの電力ロスを0.9くらい見込んで差動プッシュプルの理想最大出力を求めてみると、
0.0325A×0.0325A×8000Ω×0.9÷2=3.8Wとなります。また、オームの法則により、8Ω負荷における4.22W時の出力電圧は、√(3.8W×8Ω)=5.51Vです。次に、6AH4GTの入力感度を求めます。
20V÷1.414=14.1V(r.m.s.)今度は、初段管の利得ついての検討です。単段で大きな利得が得られる球の代表選手である12AX7/ECC83、GTベースでは一番利得が大きい6SL7GT、そして超低内部抵抗管6DL8/6922についておおよそのところを計算してみました。プリアンプなしで、本機にCDプレーヤーをじかにつないで使用する場合、できれば最終利得で10倍くらい欲しいところです。12AX7/ECC83であれば3dBの負帰還をかけてもまだ10倍の利得が得られていますが、6SL7GTでは負帰還をかける余裕がありません。仮に3dBの負帰還をかけたとすると、最終利得は6倍となり、これで足りる人もいれば、ちょっと足りないと思う人もいるでしょう。微妙なところです。
実質内部抵抗
(rp)実質μ プレート抵抗
//次段グリッド抵抗交流負荷
インピーダンス初段利得 差動位相反転時の
初段利得(1/2値)最大出力時の
初段入力無帰還
総合利得12AX7/ECC83 約90kΩ 100 240kΩ//470kΩ 159kΩ 63.8倍 31.9倍 0.442V(r.m.s.) 12.4倍 6SL7GT 約60kΩ 60 240kΩ//470kΩ 159kΩ 43.5倍 21.75倍 0.648V(r.m.s.) 8.5倍 6DJ8/6922 約6kΩ 33 33kΩ//470kΩ 30.8kΩ 27.6倍 13.8倍 1.02V(r.m.s.) 5.4倍 初段の設計に際しては、少しでも利得が大きく取れるような動作条件を選定する必要があることがはっきりしました。
回路の概要
アンプ部
アンプに入力(in)された信号は、ボリューム(VR=Variable Resistor)を通り、アース(E)を経て元来た信号源に戻ってゆきます。ボリュームは接点が移動できる抵抗器で、接点の位置によって抵抗器で分圧された入力信号の大きさが変化します。
ボリュームで分圧された信号は、初段管(V1a)管のグリッド(G)に与えられます。初段管(V1a)は同じく初段管(V1b)と対をなしており、カソード(K)が互いに結ばれていて、そこから定電流ダイオード(CRD)を経てマイナス電源(C-)に引き込まれています。この2管に流れるプレート電流の合計値は、定電流ダイオード(CRD)によって常に一定値縛られます。
初段管(V1a)管のグリッド(G)に信号が入力されると、初段管(V1a)管のプレート電流は「増えたり減ったり」します。しかし、2管のプレート電流は一定値に縛られていますので、反対側の初段管(V1b)のプレート電流は「減ったり増えたり」という反対の動作をさせられます。これが差動回路です。
初段管(V1a)および初段管(V1b)のプレート(P)にはプレート負荷抵抗(Rp1a,Rp1b)があり、ともにB電源(B2+)から供給を受けます。初段管(V1a)および初段管(V1b)のプレート(P)はそれぞれ2個のコンデンサ(Cg2,Cg3)によって出力段グリッド(V2,V3のG)と結合しています。初段管(V1a,V1b)で増幅された信号は、コンデンサ(Cg2,Cg3)を通ってグリッド抵抗(Rg2,Rg3)の中を流れます。同時に、出力管(V2,V3)のグリッド(G)は、それぞれ、グリッド抵抗(Rg2,Rg3)によってアース電位が与えられています。
初段管(V1a,V1b)と出力段の入力をつなぐ信号ループは以下のとおりです。
(V1a)〜(P)〜(Cg2)〜(Rg2)〜(Rg3)〜(Cg3)〜(P)〜(V1b)〜(K)〜(K)〜元に戻る初段の2つプレートから送られてきた信号は、出力段管(V2,V3)の両方のグリッド(G)に与えられます。出力段管(V2,V3)も初段と同様、カソードが互いに結ばれた差動回路になっていて、そこから定電流回路を経てアースにつながっています。出力段の2管に流れるプレート電流の合計値は定電流回路によって縛られるているため、初段と同様の動作をします。出力段管(V2,V3)の2つのプレート(P)間には出力トランス(OPT=Output Transformer)があり、出力トランス1次側の中点はB電源(B1+)から供給されています。出力段管(V2,V3)と出力トランスをつなぐ信号ループは以下のとおりです。
(V2)〜(P)〜(OPT)〜(P)〜(V3)〜(K)〜(K)〜元に戻る出力トランスの2次巻線はそのままスピーカ端子につながりますが、その途中、スピーカと並列に抵抗(Ro)とコンデンサ(Co)がはいっています。この抵抗とコンデンサは、主に負帰還(NFB=Negative FeedBack)をかけた時に、回路を安定させ発振を防ぐ働きがあります。2次巻線の出力信号は、RNFを経た負帰還ループも構成しています。(OPT2次巻線)〜(RNF//CNF)〜(NFB)〜(Rg1b)〜(E)〜(E)〜元に戻るこの時、2つの抵抗「RNF」と「Rg1b」で分流された出力信号が帰還されて負帰還量が決定されます。なお、出力トランスの2次巻線のアースは、初段管(V1b)管のグリッド抵抗(Rg1b)のところにつなぎます。出力段付近や電源回路付近ではありません。負帰還抵抗(RNF)と並列に抱かれているコンデンサ(CNF)は、調整の最終段階で、負帰還をかけた時の超高域での位相の回転を抑え、動作を安定させる目的で入れるものです。しかし、本機では、動作の不安定を引き起こすほどの負帰還をかけませんので結果的に不要です。出力段定電流部
定電流回路は、1個のトランジスタと1個の定電圧ダイオード(ツェナ・ダイオード=ZD)を中心にして構成されます。ここでは、2つのタイプの定電流回路をご紹介します。左側の回路(ツェナ電流外部供給型)が基本です。
B電源(B2+)から抵抗(Rzd)を経て供給された電流によって定電圧ダイオード(ZD=ツェナ・ダイオード)が動作し、その両端に一定のツェナ電圧が生じます。ツェナ・ダイオードを動作させるには1mA〜数mAの電流が必要です。定電圧ダイオードによって得た一定の電圧は、トランジスタ(Tr1)のベース(B)〜アース(E)間の電圧を決定します。ところが、トランジスタの「B-E間」の電圧はほぼ0.6Vで一定という性質があるため、エミッタ抵抗(Re1)の両端電圧は、
エミッタ抵抗(Re1,Re2)の両端電圧 = ツェナ電圧 − 0.6Vになります。従って、トランジスタに流れるエミッタ電流は自動的に、エミッタ電流 = (ツェナ電圧 − 0.6V) ÷ エミッタ抵抗(Re1)に決定されるのです。これが定電流回路の基本動作です。このとき、トランジスタを動作させるためにベース(B)に若干の電流(ベース電流という)が流れますが、これについては「設計」のページで詳しく触れます。ツェナ・ダイオードにはさまざまなツェナ電圧を持ったものが売られているので、ツェナ電圧を変えるか、ツェナ電圧はいじらずにエミッタ抵抗(Re1)の値を変更することで、任意の定電流特性を得ることができます。たとえば、もう一つのエミッタ抵抗(Re2)を用意し、これをスイッチで切り換えるようにすれば、2種類の定電流特性が切り換え可能になるのです。これだけのことで、「異なる特性の出力管に対応できる」ようになります。
さて、今度は右側の回路(ツェナ電流自己完結型)です。ツェナ・ダイオードを動作させる電流として、出力管のプレート電流の一部を拝借する方法です。ツェナ・ダイオードを動作させるだけであれば抵抗器で充分なのですが、それではせっかくの定電流特性を台無しにしてしまいます。そこで、抵抗のかわりに定電流ダイオード(CRD)を挿入してやります。これで、ツェナ・ダイオードには一定の電流が供給され、トランジスタとこの定電流ダイオードの両方に流れる電流の合計値が、本回路の定電流特性になります。
電源部
AC100V側には、電源スイッチ(SW)とヒューズ(FUSE)があります。電源スイッチと並列に入っているのは「スパーク・キラー」と呼ばれる部品で、内部的には0.047μFくらいのコンデンサと150Ω程度の抵抗器がセットになったものです。電源スイッチのON/OFFの際にスイッチの接点に生じる火花を吸収し、ノイズの発生を抑え、接点の損傷を防ぐ働きがあります。
電源トランスの2次側には2種類の巻線があります。1つめはB電源用巻線で、220V〜280Vの高圧巻線が背中合わせに2つセットになった構造になっており、その中点のことをセンター・タップといいます。2つめはヒーター巻線で、一般的な真空管アンプ用電源トランスでは、6.3V巻き線がいくつかと5V巻き線があります。
多くの真空管のヒーター電圧は6.3Vですが、整流管は5Vが最も多いので大抵の電源トランスには5V巻き線がついています。本機では、整流管ではなくシリコン整流ダイオードを使いますが、もちろん、整流管を使っても構いません。ただし、整流管を使った場合は、得られる整流出力電圧がシリコン整流よりも低めになりますので、電源回路の電圧配分が再設計になります。
B電源巻線の外側の2つのタップには、2つのシリコン整流ダイオード(SiDi)がつながっており、合流したところに最初のリプル除去用コンデンサ(Cb0)があります。
電源トランス2次巻線〜シリコン整流ダイオード(SiDi)〜(Rb0)〜(Cb0)〜電源トランス・センタータップ上の経路には非常に大きなリプル電流が流れますので、配線する際、この部分だけは他のラインとダブったり交差してはいけません。続く抵抗(Rb1)とコンデンサ(Cb1)は2段目のリプル・フィルターです。これだけではリプルの除去は充分ではありませんので、抵抗(Rb2)とコンデンサ(Cb2)によるリプル・フィルターをもう1段追加します。B電源の取り出し口は、3つめのコンデンサ(Cb2)のところです。ここよりも上流はハムそのものであるもっぱらリプル電流の巣ですので、何もつないではいけません。初段電源は、もう少しリプルを減らしておく必要がありますので、抵抗(Rb3)とコンデンサ(Cb3)によるさらなるリプル・フィルターを設けています。ところで、通常の電源回路では、電源トランスのセンター・タップからリプル・フィルターの最後のコンデンサ(Cb3)のマイナス側まで、一本のアース・ラインでつながれていますが、本回路はちょっと趣が違います。Cb2とCb3それぞれのマイナス側にシリコン・ダイオード(SiDi)が4〜5個も割り込んでいます。これは一体何者でしょうか。
このシリコン・ダイオードは、本アンプの出力段の全電流の帰路に割り込んでいます。このシリコン・ダイオードは、本アンプの出力段の全電流が流れます。出力段の個々の電流値は定電流回路で縛られていますから、出力段の全電流は信号の有無、出力の大小にかかわらず一定です。ところで、シリコン・ダイオードに電流を流すと0.6〜1Vくらいの一定の電圧降下(順方向電圧という)が生じます。電流値が100〜160mAくらいでは0.7〜0.8Vくらいです。これが4本直列になっていたら2.8〜3.2Vになります。
そこで、コンデンサ(Cb3)側をアース(E)に見立てると、電源トランスのセンター・タップ側は相対的に「マイナス2.8〜3.2V」になります。これが、本回路のマイナス電源のからくりです。電源トランスのセンター・タップ側はアース(E)ではありませんので注意してください。この手法は、半導体がなかった時代に、1つの整流回路でプラスとマイナスの2電源を得ようとした古典的な手法です。2.5V以上のマイナス電源が得られれば、初段も定電流ダイオードに充分な動作電圧を与えることができます。
本機で使用する真空管のヒーター電圧はすべて「6.3V」です。電源トランスのヒーター巻き線は複数あるのが普通です。どの球のヒーターをどの巻き線に割り当てるかの自由度が高いですが、巻き線ごとに取り出せる最大電流値を越えることはできません。また、多くの電流を取り出せば取り出すほど電圧は低下してゆきますから、バランスを考えて割り当てる必要があります。ヒーターラインの一端は必ずアースします。これを怠るとほぼ確実にハムが出ます。
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