CR型トーンコントロール
CR Type Tone Control
昔から知られているCR型のトーンコントロールは、周波数特性がうねってしまってフラットにならないという欠点があります。メーカー品や製作記事のアンプの特性を見ても、どれもひどいものばかりですね。そのため、CR型のトーンコントロールは使えない、という風があってほとんどのメーカー製のアンプはCR型ではなくNF型を採用するか、CR型であってもフラットさが保証されるような回路を採用しています。かくいう私も、CR型は好きになれなくてNF型の一種であるQuad型を使っていたものです。しかし、CR型が使えないというのは、フラットにならないような定数を与えているから、あまりにでこぼこになるようなひどい定数だからともいえます。CR型トーンコントロールの仕組みを考えれば、フラットにするのは実に簡単なことです。
CR型トーンコントロールではA型のボリュームを使います。A型ボリュームは通常、12時のポジションにおける抵抗比は全体を100%とした時に、12〜18%くらいになります。精度が高いAlps製RKシリーズ(画像右側)の場合はほぼ15%になります。ということは、冒頭の回路図でいうと、Rb1とRb2の比が1:5.6くらいで、Cb2とCb1の比も1:5.6になっていれば、12時のポジションでの周波数特性は黙っていてもフラットになります。これはBass(低音)側もTreble(高音)側も同じです。しかし、過去、メーカー製アンプや製作記事で紹介されてきたCR型トーンコントロールでは、CRの比率は1:10くらいがほとんどでしたから、周波数特性がフラットになるはずもなく、うねるのがあたりまえであるといえます。なんでわざわざ1/10なんていう意味のない比率にして、±0時の特性をうねらせているのかよくわかりません。最初に誰かが発表した回路を、そのしくみも考えずに真似たからなんでしょうか。さらに、従来型のCR型トーンコントロールでは、Treble側はボリュームとCt1およびCt2だけしかなく、Rt1とRt2にあたる抵抗がないためminとmax時の特性が極端になって暴れが出ます。
CR型トーンコントロールのしくみをもう一度考えて、このような欠点を解決したのが冒頭の回路です。すべての上下のCRの比率が1:5.6になるように設定してあります。これだけのことで、12時における周波数特性は非常に正確にフラットになります。図中には±0.3dBと書き入れてありますが、実際はもっと正確です。ブースト/カットいずれのポジションでも暴れはほとんどなく素直な特性が得られます。実際に製作する場合は、入手したボリュームの12時ポジションにおける抵抗比を実測して平均値を求め、それから各CR値を調整したらいいでしょう。トーンコントロール特性ですが、Bass側は100Hzにおいて±6dB、Treble側は10kHzにおいて±6dBとやや控えめな値です。利得は0.153倍で-16.3dBの減衰です。
CR型のトーンコントロールは利得がないばかりか、かなりの減衰が起きます。本回路でも0.153倍(-16.3dB)も減衰します。従って、この回路を使う場合は何らかの方法で6〜7倍程度の利得を補ってやらなければなりません。また、本回路の入力インピーダンスは、フラット・ポジションにおいて10Hz〜100kHzで42kΩ〜160kΩ、出力インピーダンスは5.4kΩ〜20kΩです。そのため、送り出し側の出力インピーダンスはできるだけ低い(すくなくとも4kΩ以下、できれば2kΩ以下)ことが望ましく、受け側の入力インピーダンスはできるだけ高い(すくなくとも200kΩ以上、できれば400kΩ以上)ことが望ましいのはいうまでもありません。特に受け側のインピーダンスが重要で、50kΩ程度のボリュームを入れてしまうと周波数特性がフラットにならないだけでなく、期待どおりのブースト量が得られません。
このような条件を満足するような構成にするには、プリアンプであれば前後をバッファアンプで固めてやらなければなりませんし、パワーアンプに内臓させる場合もそれなりの構成が必要です。上図上側はラインプリアンプの構成例で、利得×1倍のバッファアンプで送り出してから本トーンコントロールを配置し、さらに高入力インピーダンスかつ利得を持ったバッファアンプで受けています。上図下側はパワーアンプとの抱き合わせの構成例で、利得を持ったバッファアンプで送り出してから本トーンコントロールを配置し、パワーアンプは利得は通常どおりですが入力インピーダンスは非常に高いものである必要があります。なお、本トーンコントロールを受けるインピーダンスが高くできない場合は、トーンコントロール回路全体のインピーダンスを下げてやります。具体的には、ボリュームを100kΩから50kΩに変更し、各抵抗値はすべて1/2とし、各コンデンサ容量値はすべて2倍にします。思い切って10kΩにするという方法もありますが、この場合は送り出し側の出力インピーダンスを十分に下げてください。