EL34 3結シングル・アンプその1

写真がみつからない!
配置図でごかんべんください


シャーシサイズ:250mm×150mm×40mm

学生時代に勉強そっちのけで親に心配をかけるほどラジオやオーディオに没頭していたのに、社会に出て日々の生活に追われるようになると、あっさりと自作をやめ、あきれるくらい素直に月並みな既製品オーディオを受け入れるようになっていました。趣味にうつつを抜かしていられるほど世間は甘くなかったのでしょう。

家庭を持ち、家族と共に関西に転勤してちょっと生活のペース(お金ではありません)に余裕ができた頃、忘れていたものがふっとよみがえってきました。そして、かつての自分が満足なロードラインも引けずにやみくもに回路をいじっていたことに気づきました。

本屋に行き、一木吉典著「オーディオ用真空管マニュアル」を買い込み、やがて出来上がったのがこの「EL343結シングル・アンプ」です。すべての回路定数を自分で計算して決めたこと、そして、結構まともな音が出たことは大きな喜びでした。なにしろ、今まで作った真空管アンプといえば、初歩のラジオからコピーした6GW8シングル・アンプだけだったのですから。

通電後の測定もそこそこに、アルフレート・ブレンデルのHaydnの「ピアノ・ソナタ集」、ワルター・クリーンのピアノにグリュミオーのヴァイオリン・オブリガート付き(失礼!)Mozartの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ集」、と立て続けに聴き入りました。今まで使っていた某社のレシーバーでは決して聴くことのできなかったピアノの音です。奏者の呼吸、鍵盤のコトコトいう響き、ベーゼンドルファー・インペリアルの見えない8鍵の豊かな響き・・・。遠くから「いい音ねえ。」と眠っていたはずの妻の声。夜も更け、いつのまにかウィーンフィルとそのゆかりのメンバー達が奏でる古きよき時代のウィーンの舞曲にかわっていました。

人間とは欲深い生きものです。そんなすばらしいアンプであっても、やがて、あれこれ不満を感じるようになり、次から次へと深みにはまってゆくのです。このEL343結シングルは、そのすばらしき泥沼への第一歩となったアンプです。



■特徴

<いきさつ>

押し入れに長いこと眠っていた部品といえば、くたびれた6GW81本、かつて使ったOPTのTANGO U-6081個をいつかステレオで使おうと思ってあとからもう1個買い足して都合2個、秋葉原で\1500で買ったペア箱入り6R-A8、これでおしまいです。

最初は6R-A8シングルとU-608の組み合わせでいこうと思い、出張のついでにひさびさに秋葉原に立ち寄って、まず、シャーシ(25cm×15cm×4cm)を買いました。さらにあれこれ物色しているうちに、6R-A8が法外な値段に高騰していることに気づきました。こんな高価な球の予備など買うわけにはゆきません。一方で、昔あこがれたTelefunken製6CA7/EL34が結構お安く(今やこれも法外な相場になってしまいました!)並んでいるではありませんか。というわけで6R-A8からEL34に予定を変更し、ガード下で信号待ちをしながら頭の中で動作条件を計算しなおします。その結果、PTは比較的高電圧が得られるTANGO LH-150になりました。しかし、そもそも6R-A8でゆくつもりで小さめのシャーシを買ってしまったので、あとでえらい苦労をする羽目に。

<ドライバ段と全体の構成> 1998.11.19 修正
当時、まだ真空管アンプを自分で設計するのがはじめての初心者にとっては、12AX71段増幅+EL34(3結)という2段構成を思い付くのが精いっぱいでした。工夫といえば12AX7をパラレルにすることぐらいです。出力段が3極管(接続)の場合は、ドライバ段の出力インピーダンスは低くした方がいい、と雑誌記事に書いてあったのがパラレルにした最大の理由です。

プレート負荷抵抗値は2本分で56kΩにしました。1本あたりだと2倍の112kΩということになります。次段のグリッド抵抗値を150kΩとしましたので、ドライバ段の実質負荷インピーダンスは、56kΩと150kΩの並列値(40.8kΩすなわち12AX7の1ユニットあたり81.6kΩ)です。ドライバ段の電源電圧をかりに280Vとして、12AX7のプレート特性図にエイヤッとロードラインを引いてみて決めました。プレート電圧176V、プレート電流0.94mA(1本あたり)、バイアス電圧-1.4Vが得られました。もちろん、ロードラインをからこの動作でEL34を十分にドライブできるような最大出力電圧が得られることを確認しておきます。(右図)

利得を計算してみると、ドライバ段がおおよそ60倍、EL34のバイアスがだいたい35Vくらいになりそうですから、最大出力時の入力電圧は実効値で25V(35Vをルート2で割る)、さらに最大出力はエイヤで5Wくらいだとして、5W時16Ω負荷で8.9Vですから、これらすべてを逆算すると、5W出力時の12AX7のグリッド入力は0.42Vと計算されます。アンプ全体の電圧利得は、8.9V / 0.42V = 21倍です。

案外トータルの利得が得られず、かけられる負帰還量はせいぜい6dBどまりとなりました。ドライバ段ではできる限り利得を稼ぎたいので、12AX7のカソードはコンデンサでバイパスしてカソード側帰還抵抗値は小さくなるようにします。

アンプが組みあがって実際の動作を検証してみたところ、12AX7のプレート電圧がロードラインを引いて算出した電圧よりもかなり高く出ます。一般に発表されている12AX7のIp-Ep特性データをそのまま信じて設計しても、実際はずいぶん違うのだということをはじめて経験しました。それでもEL34を十分ドライブできそうなのでまあいいことにしました。この疑問は、後になってさまざまな12AX7のプレート特性を測ってやっと解明されることになります。

<出力段>

一木吉典著「オーディオ用真空管マニュアル」に掲載されているEL34の3結プレート特性はたいへん魅力的なカーブです。実際はあれほどきれいではありませんが、それでも傍熱多極管の3結のなかではなかなかすぐれた特性を持っています。さて、EL34の動作ですが、手持ちのOPTがTANGO U-608ということもあり、選択できる負荷インピーダンスは、2.5KΩ、5KΩ、7KΩの3つです。2.5KΩ負荷ではプレート電流が多くなりすぎてPTがもちませんし、U-608の1次許容電流(50mA)もオーバーしてしまいます。また、得られる最大出力が5KΩ負荷の時の方がずっと大きくなりますので、迷わず5KΩ負荷に決めました。

5KΩ負荷でEL34を効率良く使うためには、有効電源電圧が高いにこしたことはありませんが、自己バイアスにするとカソード電位が上がってしまって有効電源電圧が35Vくらい目減りしてしまってうまくありません。かといって、ドライバの12AX7をパラレル接続にしたとはいうものの内部抵抗の高い12AX7のことですから、安全を考えるとEL34の第1グリッド抵抗はできるだけ高くしておきたい(150kΩ以上)ところです。悩んだ末に半固定バイアスという選択になりました・・・後になって、EL34という球はグリッド抵抗値はかなり大きくても安全に動作する球であるということがわかりました。

具体的には、-30V程度のマイナス電源を用意して第1グリッドをマイナスに引き込み、一方でEL34のカソードには手持ちの100Ω+68Ωで半分自己バイアスをかけます。100Ωのプラス側は、シャーシ上面の端子で電圧が測定できるようにしてあり、アンプをひっくり返さなくてもバイアスを測定しながらいじれるようにしました。こうしたおかげで気軽にバイアスをいじってあれこれ実験ができるようになりました。プレート電流は50mAですから、5KΩ負荷時の理想最大出力は単純計算で、

0.05A×0.05A×5000Ω÷2=6.25W

ということになります。

出力トランスのTANGO U-608は、TANGO製では最もエコノミーなシングル汎用トランスで、トップの銘板に、30A5、6AR5、6V6GT、6QB5、6GW8、2A3と印字されています。30A5や6AR5が出てくるあたりがこのトランスの位置づけを物語っています。1次インダクタンスが公称10Hしかないため、本来内部抵抗の高い出力管には向きません。また、1次、2次の端子が上面にむきだしになっているため、感電の危険があります。U-808のように、もうすこし目立たない場所に端子をつけて欲しいところです。低域特性はきびしいものがありますが、高域特性の良さには目をみはるものがあり、H-5Sのような変なピークもなく、100kHzまで素直に伸びています。とてもいいトランスだと思います。

<電源>

電源は、シリコン・ダイオードを使用したごく普通の両波整流です。できるだけ高い電圧が欲しいので300Vタップを使います。整流出力の後、簡単なπ型のリプル・フィルタを経て、そこから200Ωの抵抗で左右チャネルに振り分け、その先にデカップリング・コンデンサを入れました。わざわざ左右チャネルに振り分けたのは、低域においても十分な左右チャネル間クロストーク特性を確保するためです。ドライバ段へも同じような考え方で電源を供給しています。バイアス用のマイナス電源は、ヒーター巻き線の5Vと6.3Vを直列にして倍電圧整流して得ています。

<どんな音がしたか>

これまで使っていたONKYO製のお手ごろな値段のレシーバーは、まあまあ、文句のない音だったと思います。しかし、何と言ったらいいのでしょうか。このアンプを鳴らした時「ああ、もうこれは元には戻れない。」と感じました。きっと、これがあらゆる人々を惹きつける真空管アンプの音の魅力なのでしょう。音がみずみずしく、張りがあるのです。家族も認める大きな音の変化です。

5〜6Wという最大出力にも不安がありましたが、あまり能率の良くないRogers LS3/5Aでも全然不足はありません。ハムも、スピーカに耳を押し付けてやっと聞こえる程度のわずかなものです。生まれてはじめて、自分で設計し、作ったアンプにしては全く文句のない出来でした。

これまで使っていた半導体アンプとの最大の違いは、中域の厚みでしょうか。ピアノの存在感がまるで違うのです。こんなちっぽけな出力トランスにもかかわらず、真空管アンプの虜になるのに十分なクォリティです。


■構成および各段の動作条件

ドライバ段出力段
使用真空管(Tubes)12AX7 Telefunken
パラレル
EL34 Telefunken
3極管接続
バイアス方式(Bias)自己バイアス自己バイアス+固定バイアス
電源供給電圧(Eb)281V364V
プレート電圧(Ep)180V356V
プレート電流(Ip)1.8mA(0.9mA×2)48〜50mA
バイアス電圧(Eg1)-1.35V-35V
負荷抵抗(RL)56kΩ5kΩ
出力トランス(OPT)-TANGO U-608(5KΩ)


■特性

裸利得(RawGain)約27dB-
最終利得(Gain)約21dBNFB=6.0dB
周波数特性(FrequencyResponse)不明-
クロストーク(CrossTalk)不明-
出力(OutputPower)およそ5W5%歪み at 1kHz
歪み率(Distortion)不明-
ダンピング・ファクタ(D.F.)推定6-
残留雑音(Noise)不明-

■回路図

回路図へ

情熱の真空管に戻る