The Single Amp. Project
出力段定電流化実験

出力段定電流化とは:

カソード・バイアスC」の回路については、前章で説明しました。「定電流化」の回路は、カソード・バイアスCの回路のRkを『定電流回路』に置き換えたものです。一見、似たような回路のように思えますが、実に、動作のしくみはガラリと変化してしまいます。カソード・バイアスCの回路の場合は、電源電圧が変化すれば、出力管のEp-Ip特性に従って出力管に流れるプレート電流は変化しますが、定電流回路の場合は、電源電圧の「変動に関係なく、出力管に流れるプレート電流は一定」です。

カソード・バイアスCの回路では、Rkとプレート電流によって作り出される電圧降下によってグリッドにバイアスが与えられ、そのバイアスによってプレート電流が決まります。定電流化された回路では、出力管のバイアスが決まる前に、定電流回路によってプレート電流は一意に決定されてしまっているため、動作条件の選択肢がありません。プレート電流値が先に決まり、バイアスは2次的に、自動的にバランスした条件に落ち着くだけです。

Rkは抵抗器ですから、直流も交流(つまり信号電流)もある程度流します。しかし、定電流回路は、直流は通しますが交流(信号電流)はほとんど通しません。そのため、定電流化された出力回路では、信号電流は、「出力管」〜「出力トランス(OPT)」〜「コンデンサ(Cloop)」によって作られるループの中に閉じ込められてしまい、外に出てゆくことはありません。信号ループは、ほぼ完全にB電源ラインやアースから独立して作られることになります。

こうすることが一体どういうことを意味するのかは、私にはいまひとつわかっていません。市販されている真空管アンプ設計の指南書にはこういう方式の回路は紹介されませんが(ネットで調べると作例はいくつも発見できます)、すくなくとも理屈で考える限り、このような回路構成にしての何ら問題なくアンプとして動作するはずだと思います。

いや、いいこともあります。出力管のばらつきに関係なく、どの球を挿してもプレート電流は必ず揃います。グリッド電流による暴走に対する安全性は、安全といわれているカソード・バイアス方式よりもさらに上です。信号ループが閉じているために、B電源方面に信号電流が漏れることはありません。つまり、低域における左右チャネル間クロストークは高い水準が得られるはずです。


出力段定電流化の実験:

前章の回路を基本にして、スイッチでカソード抵抗を定電流回路に切り換えができるようにしました。シャーシ内の様子はこちらのページです。

定電流回路は、おなじみの3端子レギュレータ"LM317T"を流用しています。ADJ〜OUT間に45.5Ω(たまたま手元にあった130Ωと69.8Ωを並列にした)の抵抗を入れて1.25V÷44.6Ω=27.5mAの定電流特性を得ています。

従って、560Ωのカソード抵抗の時と定電流回路にした時とでは、プレート電流はほとんど同じになり、カソード電位(=バイアス)も同じです。試しに、(あまりおすすめしませんが)動作中にスイッチを作動させてみたら、わずかなノイズが出るだけで切り替えることができました。


実験結果:

カソード側を定電流化した場合でも、まず、耳で聞く限りでは問題や不都合は生じないようです。心配したハムの出ません。もっとも、B電源回路をオリジナルのままでOKかどうかは確認していません。回路は安定動作しており、小さな出力トランスから受ける印象とは裏腹に、スケールのある音が出ます。


出力段定電流化における注意事項:

出力段を定電流化した場合、電源ON直後の挙動が従来のシングル出力回路とは異なってきます。

真空管が冷えた状態で電源をONにすると、まず、B電源電圧が立ちあがってきて早い段階でB1+に高圧がかかります。出力管がヒートアップするには数秒〜十秒はかかりますので、この段階ではまだ出力管には電流は全く流れません。しかし、B1+〜カソード間をつないだ100μFのコンデンサとLM317TにはこのB電圧がもろに印加されます。この時、100μFが速やかに充電されてくれれば問題はないのですが、直列に定電流回路が割り込んでいるため、充電には少々の時間を要します。この間、定電流回路(すなわちLM317T)には高圧がかかってしまう危険があります。

この問題を回避するいちばんの方法は、B電源の立ち上がりを緩慢にすることです。本実験回路で、電源回路にトランジスタを使ったリプル・フィルタ回路を採用したのには、B電源電圧の立ち上がりをわずかでも遅らせたいという意図が働いています。出力段の信号ループを構成するコンデンサ(100μF/250V)の容量をあまり大きくすると、電源ON直後の充電時間がより長くなってしまい、KM317Tが高圧に晒される危険が増大しますので、この点にも注意がいります。

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