The Single Amp. Project
ここまでの測定データと音の感想

周波数特性(8Ω at 1V):

全般的に思ったよりも広帯域に仕上がりました。高域については、約85kHzでカットされる微分型の位相補正(負帰還抵抗3.9kΩと並列に470pFを抱かせている)を入れているため、仕上がりとしてはこんなものでしょう。もう少し丁寧に追い込めば100kHzで-3dBくらいまではいけると思います。低域の延び具合も決して悪くありません。

非常に面白いのは、「カソード抵抗(Rk)」の時と「定電流回路」の時で、超低域特性に違いが生じたことです。低域特性は「定電流回路」の時の方が良く、15Hzまでフラットですが、「カソード抵抗(Rk)」の時にフラットなのは20Hzどまりです。

一見、測定誤差程度の違いにように見えますが、メーターの針を見ていると明らかにその違いが実感されます。この違いは、聴感上、明瞭に判別ができます。「定電流回路」の時の低域は豊かでのびのびとしています。


歪み率特性(8Ω):

歪み率特性でも興味深い結果が出ました。特性カーブの姿は、典型的なA級シングル・アンプの傾向(右上がりのほぼ一直線)で歪み成分の大半が2次高調波であることを示唆していますが、「カソード抵抗(Rk)」の時と「定電流回路」の時とでは傾向が異なります。

  • 0.1W以下では差はほとんどありませんが、
  • 0.1W〜1Wの範囲では「カソード抵抗(Rk)」の時の方がほんのわずかに歪みが少なくなり、
  • 1W以上では逆転してしまいます。最大出力は「定電流回路」の時の方がが大きいです。
歪み率が5%となる出力はおおむね以下のとおりです。

測定周波数「カソード抵抗(Rk)」「定電流回路」Notes
100Hz1.1W1.1WTHD=5%
1kHz1.3W1.5W
10kHz1.35W1.6W

これは全く意外でした。なお、出力段の動作点が最適化されていない可能性もあるので、プレート電流値を変化させて計測してみたところ、増やしても減らしても歪みは増大し最大出力は減りましたので、本回路の条件でほぼ最適化されているといっていいと思います。このような結果になる原因は、回路方式によって、大振幅時になった時にロードラインおよび動作基点が動くためではないかと思います。検証してみる必要があります。


左右チャネル間クロストーク(8Ω at 2.51V=0dB):

左右チャネル間クロストークはほぼ予想通りの結果が出ました。「定電流回路」にした時の方が、80Hz以下の超低域での数字が良くなっています。

ちなみに、実験アンプでは意図的にB電源の左右分離は行わず、1個所から左右共通に供給していますので、「カソード抵抗(Rk)」の時のように100Hz以下で一気に-30dBくらいまで劣化してしまうのが、シングル・アンプとしてはごく普通の傾向です。

試聴段階から、低域の出方に違いを感じていましたが、どうやら左右チャネル間クロストークの違いがその原因の一つであろうと思います。


音を聞いてみて:

このアンプは、見かけ、小型管、出力トランスのサイズなどから浮ける印象からは想像できないスケール感のある一人前の音がします。しかも、音に誇張や色づけ感はなく、オーソドックスな音であるといっていいでしょう。「カソード抵抗」〜「定電流回路」の切り換えスイッチをつけたので、いつでも動作条件を変更することができます。その動作条件を切り換えた時の音の変化は、慣れてくるとすぐにわかるようになります。

音の違いは、低域の出方に現われます。「カソード抵抗」の時は、このアンプはそれなりに良い音だな、と素直に思います。「定電流回路」に切り換えると、チェロやコントラバスの弓の動きが生き生きした感じになってきます。さっきまで聞いていた「カソード抵抗」の時の音が平板に思えてきます。この感じは、全段差動プッシュプル・アンプで感じる特徴にちょっとだけ似ていると思います。出力トランスの飽和点が低いので大出力は望めませんが、こんな小型の出力トランスを使ったアンプとは思えないスケール感のある低域が得られたのは望外の成果でした。但し、何故、こういう音が得られたのかについてはまだ何も検証されてはいません。

新しいアンプを手にすると、どうしても贔屓目に見て実力以上の評価をしてしまう傾向があるので、比較のために我が家にある他のシングル・アンプも作業室に持ち込んで、毎日、このアンプの音を聞きつづけています。「分相応の音」というのではなく、小音量ながら立派にメインシステムとしての役割を果たしていますので、この改造TU-870の実力はそれなりのものだと思います。ちなみに、7月26日に催したミニオフにおいても短時間ながら参加された皆さんに聞いていただきましたが、聞く人を驚かすに充分なものであったようです。

9月にはいって、某所にてスピーカー(TANNOY Barkleyです)の動作確認をするために出先にこのアンプを持ち込んで鳴らす機会がありました。目的はアンプではなかったので全くの先入観なし、ブラインド状態で鳴らしたわけですが、こっそり「切り換えスイッチ」を操作したところたちまち聞き手に指摘されてしまいました。

これで前哨戦は終りです。これから先は、もう1台、一から設計・製作したシングル・アンプで実験を進めることにします。


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