The Single Amp. Project
実験アンプの構想と設計

工事中
本ページの回路図、回路定数はころころと変更されます。

使用する真空管の選定:

全段差動プッシュプル・アンプ第1号では、テレビ球の6AH4GTを使いました。6AH4GTはとても音が良い球なので、ほんとうのところこの球を使いたかったのですが、ひとつの球にこだわっていては進歩がないし、需要が特定の球に集中するのも良くないので、ほかに手頃な球を捜してみることにしました。

そこですぐに浮かんできたのが、6AH4GTの親戚筋でもある6EM7とそのファミリーです。6EM7は、6AL7GTのような高μ(=70くらい)の3極電圧増幅ユニットと、6AH4GTクラスの3極電力増幅ユニットを持ったUS8ピンベースの複合管です(画像右側)。なんだかつるんとした風貌ですが、これは比較的新しい製造のもので、元々は黒い樹脂ベースをはいたいわゆるGT管です。6EM7と同特性のユニットを封入し、MT管のような細い9ピンのノーバ管になったのが6GF7Aです(画像左側)。

ほかにもこれに似た球があります。6DF7、6DR7、6FM7などです。いずれも、ほぼ同特性の3極電圧増幅ユニットと3極電力増幅ユニットを持った複合管ですが、ベースは9ピンMTピンあり、12ピン・コンパクトロンありとさまざまです。ヒーター電圧(電流)もいろいろなヴァリエーションが用意されており、まさにテレビ球の世界という感じがします。以下に各管の定格をまとめました。



6EM7の特性と動作条件:

3極電力増幅ユニット(Unit-2):

まず、Unit-2からいきましょう。右図はメーカー発表のEp-Ip特性です。扇子を広げたような、なんだかヘンな特性です。こういう特性の球もあるんだなあ、と思ってしまいますが、たぶんそうではありません。実測してみれば、ごく普通の見なれた3極管らしい特性だと思います。20mAから下は信用できないでしょう。しかし、Ep-Ip特性はこれしかありませんから、これで我慢することにします。

バイアス=0Vのカーブ(左端のいちばん立った線)に着目してEp=100VあたりのIpを読み取ると、グラフからはみだして180mAくらいになりそうです。つまり、非常に低い電圧でもそれなりのプレート電流が得られる球だということです。こういう球の場合は、負荷インピーダンスは低め、電源電圧も低めの設定が一般的です。

そこで、とりあえず「2.5kΩ」のロードラインを引いてみます(赤線)。2.5kΩを選んだのは、廉価で一般的な出力トランスの1次インピーダンスは、2.5kΩ、3.5kΩ、5kΩ、7kΩの4種類が普通だからです。

ロードライン上に「よさげ」なポインをあたってみました。この時のプレート電圧(Ep)は172Vくらい、プレート電流(Ip)は46mAくらいです。したがって、プレート損失は、172V×46mA=約8Wになり、バイアスは-25Vです。内部抵抗(rp)の角度は約1.0kΩと読み取れます。

かりに上記の動作条件を選んだ場合、出力段に必要な電源電圧は、172V+25V+約10V(出力トランスの電圧降下分)=207Vになります。電流値は46mA前後です。おなじみの多くのオーディオ出力管の動作電圧が250V〜350Vくらいであることを考えると、かなり低い電源電圧であることになります。電源トランスの選定にかなりの制約が出る、ということを意味しています。

3極電圧増幅ユニット(Unit-1):

プレート電流(Ip)が1mA、バイアスが-1.3V〜-1.4Vくらいにあたりをつけて動作点を探ってみます。特性図が雑なので見難いですが、この時のプレート電圧は約107V〜115V、内部抵抗は概ね43kΩくらい、μは66くらいと読み取れます。



普通に設計した回路:

本実験アンプでは、6EM7をそのまま使った2段構成のごくシンプルでコンパクトなものを考えています。右図は、6EM7を使ってごく素直に2段構成のシングル・アンプを設計した時の回路例です。

初段、出力段ともにカソード・バイアス方式です。各部の動作条件には無理をさせているところは全くなく、低域特性を決定する時定数には余裕を持たせていますので、これで結構いい音のアンプになると思います。話をシンプルにするために、ここには負帰還回路は書かれていません。

この回路を基本として、実験アンプの回路にアレンジしてゆこうと思います。


電源回路の検討:

電源回路についても検討しておきます。

200Vそこそこの低い電源電圧を得るには、200V程度の低い2次巻き線を持った電源トランスが必要ですが、このような条件を満たしてくれる手頃で入手容易な真空管アンプ用電源トランスは、ノグチ製PMC-190Mただ1つしかありません。しかし、本実験にはいささか大型すぎます。TANGOにN-12という220V巻き線を持ったとても使い易い電源トランスがありましたが、今は供給されていません。

今回も、東栄変成器製の絶縁トランスZT-03ES(100V,110V:200V,220V、容量30VA)を使うことにします。このトランスにはヒーター巻き線がありませんから、別途、6.3V/2Aの容量のヒーター・トランスも用意します。

電源回路は、AC200V巻き線をシリコン・ブリッジ整流し、100μF/350Vの電解コンデンサで受けます。全消費電流は90mA〜96mAくらいになると思われますが、この時の整流出力電圧は過去の実験データから推定して230Vくらいになると思います。高耐圧トランジスタ2SC3158による簡易リプル・フィルタを経て、214V程度のB電源を左右チャネルに供給します。


出力段の定電流化の検討:

前述した「普通に設計した回路」をベースに、出力段の定電流化の検討を行います。

LM317Tを使って46mAのプレート電流を得るには、

1.25V÷27Ω=46.3mA
となって、調整抵抗(RADJ)は27Ωで良いことがわかります。出力管の動作条件は、さきの回路と同じで変っていませんから、カソード電位(25V)もプレート電位(197V)も、電源電圧(207V)も同じです。

100μF/250Vのコンデンサは、B+と出力段のカソードを結ぶようにつなぎかえます。このコンデンサはB電源のリプル除去には全く貢献しませんので、B+〜アース間には、別途、47μF/250Vのコンデンサを追加します。


初段の定電流化の検討:

今度は初段です。TU-870を使った実験では、やや変則的な定数であったとはいえ、初段は、ごく一般的なカソード・バイアス方式の電圧増幅回路でした。まあそれでもいいんですが、この実験では、初段にもちょっといたずらをしてみようと思います。

右の回路では、初段プレートの負荷抵抗のかわりに1mAタイプの定電流ダイオード(CRD)がはいっています。つまり、定電流負荷です。3極管を定電流負荷で動作させると、ほぼμと同じ値の電圧利得が得られ、歪みは最少になります。出力インピーダンスは、その球の内部抵抗(rp)と同じになります。6EM7のUnit-1のμはおおよそ66、内部抵抗は43kΩくらいです。実際には、出力段のグリッド抵抗(470kΩ)がはいるのと、定電流ダイオードの内部抵抗があるので、純粋に定電流負荷とはならず、60倍程度の電圧利得を持った40kΩくらいの出力インピーダンスの増幅回路になります。

ところで、定電流回路を入れる場所ですが、右の回路のようにプレート側に入れる方法と、出力段と同じようにカソード側に入れる方法とがあります。カソード側に定電流回路を入れた場合、どうしてもマイナス電源は必要になってカソード回路がアースから浮いてしまいます。、最終的に負帰還をかける都合があるために、カソード回路がアースから浮くと都合が悪いという事情もあり、プレート側に入れることにしました。おかげで大きな利得を稼ぐことが出来ます。

この時、定電流ダイオードにかかる電圧は、破壊から守るためには100V以下でなければならず、温度特性を考えるとさらに低く50V以下であることが望ましいです。しかし、出力管グリッドをドライブするためには、初段出力信号の振幅は±25V以上、できれば±30V以上欲しいので、40Vの電圧降下となるような電源電圧(156V)条件を与えています。この156Vを安定供給するために、100kΩ/1Wの抵抗に約1.55mAのブリーダー電流を流しています。但し、これは初段プレートが116V前後になってくれる、という前提でのはなしですから、実際に回路を組んでの確認が必要です。

初段管のバイアス方式も変則的です。アース〜カソード間にニッカド電池を1本入れています。このニッカド電池には、プレート電流1mAとブリーダー電流1.55mAが合流して流れるため、アンプ動作中は常時2.55mAで充電していることになります。この程度電流であれば、電池が過充電になることはありません。この回路の実態は固定バイアスで、(記憶は定かではありませんが)某社の業務用PHONOイコライザーで使われた回路を見たことがあります。なお、ニッカド電池の内部抵抗は1Ω以下なので、カソードは交流的にアースされたものとみなせます。


ニッカド(ニッケル水素)電池バイアスの検証:

ニッカド(ニッケル水素)電池バイアス方式が使い物になるのかならないのか、について検証しておきます。何故なら、いくつかの懸念事項があるからです。
  • ニッカド電池等の2次電池は、充電できないタイプの電池に比べて自己放電のスピードが速いので、1週間あるいは1ヶ月放置した場合、どれくらいの電圧になるのか確認しておきたい。
  • 完全放電した状態で、2.55mAで充電を開始した場合、電圧がどのように推移するのか、ちゃんと充電ができるのか知りたい。
2.55mAで2時間通電した場合、ニッカド(ニッケル水素)電池に充電されるのは、2.55mA×2H=5.1mAH分になりますが、たとえば、単三型のニッカド(ニッケル水素)電池の容量は800〜1500mAHですから、フル充電に対して1%にも満たない量です。24H頑張ってようやく61mAHです。毎日2時間通電したとして、「自然放電量」<「5mAh」でないと、電池はいずれカラッポになってしまいます。ンンン、なんだかきびしそうです。

そこで、急遽「"2.5mA"2時間充電+22時間放置繰り返し試験」を行うことにしました。右図がその経過報告です。試験を開始して18時間が経過した時のものです。

使用したのは、秋葉原の秋月で4本750本円で購入した単4型ニッケル水素電池(NiMH)で、容量は750mAHのものです。一旦完全放電させてからっぽにし、しばらく放置します。完全放電直後の電圧は0.9Vでしたが、放置すると解放電圧は1.14Vまで戻りましたのでここをスタート電圧にします。

1H〜24H:

2個の電池を使い、ともに2.5mAでチマチマと充電しますが、1本は連続して充電して様子を見るようにし(青線)、もう1本は2時間充電したら22時間ほど充電をやめる、というサイクルを繰り返すことにします(赤線)。

充電開始2時間で、1.14Vから1.189Vまで上昇します。ここで充電を一旦打ち切って放置しますと(赤線)、ほとんど水平になりますが、厳密にはほんのわずかずつ電圧は上昇しつづけます。。連続充電(青線)の方は以後徐々にペースを落としつつ継続的に上昇していきます。24時間が経過した時で赤線の方が1.197Vで青線は1.298Vです。

24H〜48H:

赤線の方は2度目の2時間充電で1.197Vから1.235Vまで上昇しました。充電を一旦打ち切って放置しますと、今度はほんのわずかずつですが電圧は下降しつづけるようになりました。下降のペースは、充電を打ち切った直後は速く時間が経つにつれて次第にペースを落とします。48Hポイントで1.219Vです。

48H〜72H:

たまたま外出するタイミングにぶつかったので、出かけている間の数時間を充電に当てることにしました。3回目の充電は6Hとなってこれまでの56Hの累積充電量は2.5mA×12H=30mAHになりました。今回は、充電OFF充電の時間をちょっと長めに取ってみることにします。

72H(3Days)〜:

ここから先は、長丁場です。時間(H)単位ではなく、日(Days)あるいは週(Week)ごとのスケールになります。

6日目にはいった時、充電を再開し、充電には約24時間を費やしたところ、1.3Vを超えたところまで電圧が上昇しました。ここでまた放置して様子を見ます。

継続充電を行っている青線の方は面白い現象が出ています。グラフをよく見ると、7日目からわずかですが電圧が規則的に波打ったように変動しています。電圧の測定は朝夕各1回行っていますが、夕方の電圧は低く、朝は高く出ます。これは、気温と関係があるようです。11日目以降、猛暑が去って寒暖の差が落ち着くとグラフの線も落ち着きました。

落しどころ:

測定はまだまだ継続しますが、そろそろ、落しどころが見えてきたように思います。継続して充電しっぱなしにした場合で1.37Vくらいでほぼ一定になること、少ない充電量でも放置すると1.26Vくらいで粘り続けること、時々充電してやると充電直後は1.3Vをわずかに越えるがやがて1.3Vを割ることなどから、ニッカド(ニッケル水素)電池によって得られるバイアス電圧は「約1.3V」と割り切って設計を進めることにします。また、放電し切った状態でも1.2Vくらいの解放電圧は維持できそうで、アンプを暫く放置したとしてもバイアスが1Vを割って極端に浅くなってしまうわけでもなく、家庭用アンプとしての実用性は充分にあると判断しました。

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