私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
6.デシベルその1 (しくみと計算)
中学3年生の時のこと、オームの法則のところで出会った理科の先生が私にある問題を出しました。それは「2の30乗はいくつか概算でいいから30秒で求めよ」という問題でした。それくらい力づくでやったるわい、と計算を始めたものの15乗くらいからしんどくなってきて時間切れになりました。先生は机から丸善の7桁対数表という本を取り出して、これを使ってあっという間に答えを出して見せてくれました。そこで私が知ったのは、対数なるものを使うと掛け算が足し算になってしまうという不思議な数学の世界でした。2の常用対数=0.30103という値はその時に覚えたのでした。

その後、電子回路の設計や解析では計算尺が手放せなくなるのですが、計算尺も対数のしくみを巧みに応用したツールですね。計算尺は日本ではヘンミが製造して大いに普及しましたが、おふくろの同級生が二代目の逸見君です。


デシベル(dB)という単位は、アンプの設計や測定、性能の評価の指標等さまざまな用途で使用されます。デシベルの「デシ」とは「デシ・リットル(dl=1/10リットル)」の「デシ」と同じ意味で、デシベルの元の単位は「ベル」です。そして「ベル」というのは電話を発明したあのグラハム・ベルのことです。今日のエレクトロニクス技術のルーツは、グラハム・ベルにまでさかのぼることができます。後になって米国ではベル研究所が設立されましたが、このベル研には世界の最高レベルの頭脳が集められ、電話、軍事通信の分野で真空管の研究開発(後のウェスターンエレクトリックのルーツになる)をはじめ今日のコンピュータに至る情報技術や宇宙開発(後のNASA)にまで裾野を広げてゆきます。閑話休題。

またまた暗記ものですいません。デシベル算のスタートラインはこれです。

0dB=1倍
そして、
6dB=2倍、12dB=4倍、18dB=8倍
また、
-6dB=1/2倍、-12dB=1/4倍、-18dB=1/8倍
というふうになっています。つまり、デシベルとはn倍のことを表わす指標(厳密にはちょっと違うのですが)だと考えるとわかりやすいです。そして、デシベル(dB)は等差数列なのに対応する倍数は等比数列という妙なことになっています。これは、デシベルという単位が、
y(dB)=20・log10x(倍)
で表わされるからです。ですから、もうすこし正確にいうと、6dB=2倍ではなく、6.0206dB=2倍です。しかし、ここで対数についてくどくどと説明するつもりは毛頭ありません。私は文系出身ですし、数学は大の苦手です。このマニュアルも、私のような数学が苦手な人でも気楽に回路の解析や設計ができるようにと思って書いています。

さて、0dB=1倍ということは「増幅率が1倍である」という言い方と「利得が0dBである」という言い方は同じ意味であることになります。同様に、利得が6dBのアンプでは、増幅率は2倍ということになりますし、信号が2分の1になるようなアッテネータの利得は-6dBであるというふうにも使います。

では今ここに、増幅率が2倍の増幅回路と4倍の増幅回路があって、これをつなげて2段構成にしたとします。すると、全体の増幅率は2×4=8倍になります。増幅率(倍)の場合はこのように掛け算になります。

今度は同じ計算をデシベルを使ってやってみます。利得が6dBの増幅回路と12dBの増幅回路を2段につなげた場合の利得は、6+12=18dBになります。18dBというのは冒頭の表からもわかるとおり8倍のことです。このように、デシベルを使うと増幅率(すなわち利得)の計算が、掛け算(割り算)ではなく足し算(引き算)でできるようになります。これをデシベル算といいます。

デシベル算では、20dBがちょうど10倍にあたります。ですから40dBが100倍にあたり、60dBでは1000倍ということになります。デシベルと倍数の関係を以下に表に整理してみました。

デシベル倍率デシベル倍率
0dB10dB1
0.1dB1.012-0.1dB0.989
0.2dB1.023-0.2dB0.978
0.3dB1.035-0.3dB0.966
0.4dB1.047-0.4dB0.955
0.5dB1.059-0.5dB0.944
0.6dB1.072-0.6dB0.933
0.7dB1.084-0.7dB0.923
0.8dB1.097-0.8dB0.912
0.9dB1.109-0.9dB0.902
1dB1.12-1dB0.892
2dB1.26-2dB0.795
3dB1.41-3dB0.708
4dB1.59-4dB0.631
5dB1.78-5dB0.563
6dB2-6dB0.5 (0.501)
7dB2.24-7dB0.447
8dB2.5 (2.51)-8dB0.398
9dB2.82-9dB0.355
10dB3.16-10dB0.316
11dB3.55-11dB0.282
12dB4 (3.98)-12dB0.25 (0.251)
13dB4.47-13dB0.224
14dB5 (5.01)-14dB0.2
15dB5.63-15dB0.178
16dB6.31-16dB0.159
17dB7.08-17dB0.141
18dB8 (7.95)-18dB0.126
19dB8.92-19dB0.112
20dB10-20dB0.1
40dB100-40dB0.01
60dB1000-60dB0.001
80dB10000-80dB0.0001
100dB100000-100dB0.00001
たとえば、28dBが何倍か知りたい時は、これを8dBと20dBの2つに分けて考えて上表を見ます。8dB=2.5倍、20dB=10倍ですから28dB=2.5×10=25倍と簡単に計算できます。48dBの場合も同様に考えれば250倍であることがすぐにわかります。慣れてくるとデシベル(dB)で言われた方がわかりやすくなってくるので不思議なものです。


Microsoft Excelで計算する

Microsoft Excelを使うと簡単に利得(倍)をdBに変換できます。dBは利得の常用対数を20倍したものですから、Excelの関数「LOG10」を使います。関数の使い方は、
=20*LOG10(参照セル)
です。右の画像を参考にしてください。
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