私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
11.ロードラインその4 (電力増幅回路・・シングル応用編)

A1級とA2

雑誌記事をみていると、「A1級シングル」だとか「A2級動作」という言葉がでてきます。さて、この「A1級」や「A2級」とは一体どういう意味なのでしょうか。

これまで、真空管の基本動作やロードラインについていろいろと書いてきましたが、グリッド・バイアスは常にマイナスで使うというのが基本でした。特に電圧増幅回路では、グリッド・バイアスは「-1V(あるいは-0.7V)よりも浅い領域は使わない」のが基本であるということにもふれました。このように、グリッド・バイアスを常にマイナスの領域で使用するような動作のことを「〜1級」という風に「A」とか「AB」の後ろに「1級」をつけて表現します。A1級動作では、第1グリッドには電流がほとんど流れることはありません。ですから普通はA1級動作では、グリッドには電流は流れないという前提で回路の設計をします。

グリッド・バイアスが-1Vよりも浅くなると、微少ではありますが第1グリッドからカソードに向かって電流が流れはじめます(初速度電流・・このへんの原理についてはグリッド電流の項で説明します)。そして、グリッド・バイアスが0Vに近づくにつれてこの電流値はどんどん大きくなってゆきます。それでも真空管自体の増幅作用はそんなに衰えたりしません。

グリッド・バイアスが0Vをこえてプラスの領域にはいっても、真空管の増幅作用は徐々に衰えながらもまだまだもちこたえます。しかし、プラスの領域ではグリッド電流のおおきさは目立った値になってきます。このような、グリッド・バイアスをプラスの領域にまで使うような動作のことを「〜2級」という風に表現します。よくアンプの製作記事等で「グリッドをプラスまで振る」という表現を見ますがこれも同じ意味です。A2級動作では、第1グリッドにかなりの電流が流れ込む瞬間が生じます。ですから前段との間で電流を遮断してしまうようなコンデンサによる結合(CR結合)というわけにはゆきません。

一般に、A2級動作は、グリッドに電流が流れても不具合が生じにくいカソード・フォロワとの直結ドライブか、またはトランスによるドライブにします。カソード・フォロワならば、少々の電流が次段(すなわち出力段のグリッド)に流れ込んでもへこたれませんし、トランスならば前段がタフでありさえすればやはり電流を供給できるからです。


A2級のときのロードライン

グリッドをプラスの領域まで振るといことをロードラインにかくと、右図のようになります。図中の緑色の細い線はRCA発表の2A3のA1級シングルの標準動作、紫色の太い線はA2級シングルの参考動作です。

2A3におけるグリッドバイアスが+10Vの特性は発表されていませんので、見当をつけて仮の線(灰色)を引いてあります。実際の特性がどうであるかわわかりません。あくまで仮りということでご了解ください。実際、プラスの領域では、プレート特性曲線の間隔は狭まるのが普通です。

さて、グリッドを+10Vまで動作させるとしますと、A点は図のようになります。このときのB点でのプレート損失が2A3の許容値15Wを越えないようにすると、B点はEp=232V、Ip=64.5mAあたりということになります。元の動作条件と比較して、A点〜C点の距離がずっと広がっている点に注目してください。


最大出力の簡単計算

A1級のときと、A2級のときの最大出力(概算)をそれぞれ求めてみると以下のようになります。
60(mA)2× 2.5(KΩ)÷ 2000 = 4.5(W)・・・・A1
64.5(mA)2× 2.5(KΩ)÷ 2000 = 5.2(W)・・・・A2
これだけみると、A2級の方が無条件によさそうに見えますが、ドライバ段の構造が複雑になってしまうことなどを考えると簡単に結論づけることはできません。


A2級での歪みの傾向

A2級では、最大出力付近になってはじめてグリッドがプラス領域まで振られます。しかし、グリッドがプラスの領域での直線性は決して良くないので、かなり大きな3次歪みが発生します。2次歪み中心のところに3次歪み成分が割り込んでくると、みかけ上歪みが減ったようにみえるということはよく知られています。

右図の歪み率特性は、本ホームページの「6G-A4 etc.汎用シングル・アンプその1」のものですが、最大出力近くになると歪み率は一旦減少あるいは横ばいになります。A1級では、こういう凹型にならずに、一気に歪みが増加してゆきますが、A2級では一端減少したように見えてから、もう少し出力の大きなところから増加をはじめます。

しかし、歪み率が2〜5%以上になってくると、聴感上明らかに識別できるようになってきます。その上に波形が潰れたことによる3次歪みが加わるわけで、そのような耳障りな領域で少々出力を稼いだところで、どれほどの効果があるのかはなはだ疑問です。(こういうことを書いている私はA2級懐疑派です)


A1級とA2級の比較

A1A2
最大出力1.0倍とすると1.1〜1.5倍
ドライバCR結合でいい
(シンプル)
カソードフォロワ、トランス
(複雑)
小出力時の歪み-A1級と変わらない
適用管向く球と向かない球がある向く球と向かない球がある
向く球-10(VT25),801(VT62),6F6(3結)等の高rp管
50のようなグリッド電流が流れやすい球
向かない球10(VT25),801(VT62)等の非常にrpの高い球5998,6AS7等の低rp管

世間一般に、10/VT25や801/VT62のような高電圧動作、高rp管はA2級領域でも直線性が良い、と言われていますが、実際にはそんなに良くはありません。やはり、波形は潰れて盛大に3次歪みが出ます。それに加えて、グリッド電流を供給しなければならないドライバ段の直線性も相当に劣化します。ですから、10/VT25や801/VT62であっても、ドライバ段は出力インピーダンスが相当に低い回路(あるいは球)でなければならず、単にカソードフォロワ回路を挿入したくらいでは足りないでしょう。A2級を甘くみてはいけません。

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