私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
電圧増幅回路の設計と計算その3 (SRPP回路)
これまでの章の説明で、電圧増幅回路におけるロードラインの引き方や、バイアスの選び方、電圧配分のしかた等、基本的なこといついてご理解いただけたと思います。ところで、雑誌やキットの回路では、プレートに負荷抵抗を与えないで、電圧増幅管を上下に2段重ねにした回路によく出会います。多くの場合、これをSRPPと称し、なかなか優れた回路だと言われています。

しかし、SRPP回路は雑誌記事だけみても非常に多くの作例がありながら、設計方法や計算の詳細について触れられた記事はほとんどありませんでした。最近では、SRPPの動作を丁寧に解析したサイトがいくつも出てきており、雑誌出版社や記事の書き手よりも巷の研究家の方が良い仕事をしているような気がします。ただ、どういう風にロードラインを引けば良いのか、どうすれば利得の計算ができるのかがいまひとつわかりにくいこともまた確かです。本章では、難しい計算式が苦手な諸氏のために、SRPP回路のしくみや計算方法について、少々ずるいですが実用性を失わない範囲でできる限り簡易かつ楽ちんな方法を説明したいと思います。


SRPP回路を2つに分解する

下図は、12AU7を使った典型的なSRPP増幅回路の例です。この回路を上下に2つに分解し、下半分を回路A、上半分を回路Bと呼ぶことにします。ただし、以後の説明をわかりやすくするために、回路Bでは出力側のCの記載を省くことがあります。

まず回路Aですが、これはごく普通の真空管電圧増幅回路の下半分と同じですね。この回路のプレートの上に負荷抵抗を乗せれば、おなじみの電圧増幅回路になります。

回路Bはどうでしょうか。上端と下端に合計2つの端子を持った不思議な回路です。「in」と「out」の区別がありません。このように、1つのまとまった回路が、外部に対して2つの端子を持つような回路のことを2端子回路といいます。


2端子回路(真空管抵抗)負荷の実験

回路Bがどんな性質を持った回路なのかは、実は、Ep-Ip特性曲線から割り出すことが可能です。

カソード抵抗が1kΩということは、

となるわけですから、このような条件を満たすようなポイントを、Ep-Ip特性曲線上で探して線で結んでやると、右図のようにほとんどきれいな直線(青色)が現われるのです。

青色の直線は、回路Bの上下の両端にかかった電圧と、そこに流れる電流の関係を表わしています。すなわち、60Vの電圧をかけた時には2mA、120Vの電圧をかけた時には4mA、そして175Vの電圧をかけた時には6mAの電流が流れるのです。なんとこれは、29kΩ〜30kΩの抵抗と(ほとんど)同じ特性です。

このように、3極管と1本の抵抗によってあたかも抵抗のような特性を持った回路を作ることができるわけですが、この回路は以前から「真空管抵抗」という名で知られています。

それならば、回路Bを30kΩの抵抗器と置き換えてしまったらどうなるでしょうか。下側の12AU7側(回路A側)からみて、自分の上に乗っているのが、回路Bであるのか、1本の抵抗であるのか区別がつくのでしょうか。このことを確かめるために、実際に右図のような回路を組んで、利得と歪み率特性を測定してみました。

右図の左側の回路は、冒頭のSRPP増幅回路の例とちょっと違っていて、出力は下側12AU7のプレートから取り出しています・・・out1。何故ならば、純粋に2端子回路(真空管抵抗)負荷と抵抗負荷の違いを調べたいからです。右側の回路は、回路Bにあたるところを30kΩの抵抗に置き換えています。どちらのケースも、下側の12AU7の動作条件(バイアス、プレート電圧、プレート電流)は同じになるようにしています。 さて、結果をみてください。まず利得ですが、

となって、なんとほとんど同じ値になり、厳密に誤差を求めてみてもわずか0.3%ですから、測定誤差以下です。次に歪み率ですが、

となって、これも、全くといっていいくらいに同じ値となりました。グラフに描くと、きれいに重なって1本の線に見えます。利得も歪みの値も、その傾向も瓜ふたつという結果となりました。「2端子回路(真空管抵抗)」=「抵抗」ということが証明できたわけです。

次に、同じ2端子回路負荷の場合でも、通常のSRPP回路のように出力を上側12AU7のカソードから取り出してみました・・・out2。

利得がわずかに低下しただけで、歪み率特性はあいかわらず同じとなりました。利得が下がるのは当然で、2端子回路の負荷というのは、実は、30kΩ(12AU7)と1kΩ(カソード抵抗)に分割することができるため、出力をout2から取り出した場合の利得は、out1の時に比べて「30/31」に低下するからです。実測値は、12.27倍と12.70倍でしたから、比率を求めるとほとんど「30/31」と一致します。なお、ロードラインで求めた2端子回路の抵抗値には、カソード抵抗の値は含まれていなかったことに注意してください。


SRPP回路の正体

これでSRPP回路の正体がだいぶ割れてきました。

すなわち、SRPP回路の上側球は、カソード抵抗によって電流帰還が施された2端子回路(真空管抵抗)であって、外部からみたらほとんど1本の抵抗器と等価であるということ。その抵抗値は、Ep-Ip特性曲線から容易に求まること。従って、SRPP回路の下側球からみたら、上側球は抵抗負荷を置き換えて考えて差し支えなさそうであるということです。

実は、この上側球にあたる負荷抵抗の値は、以下の式によって計算でも求めることができます。

負荷抵抗値 = 上側球のrp + ( 上側球のRk × 上側球のμ ) + 上側球のRk

これは、増幅回路における真空管の内部抵抗(rp)の計算式と同じものです。ということは、SRPP回路のロードラインは、Ep-Ip特性曲線で求めた抵抗値に上側球のRkを加えたもの、または、上の式で求めた抵抗値のいずれかを負荷抵抗として引けば良いのだ、ということになるのです(右図)。

まず、2端子回路としての特性を求めます(細い青線)。その角度から、約30kΩの抵抗と等価であることがわかったら、通常の増幅回路のロードラインと同じように、電源電圧(右図では180V)から30kΩのロードラインとして引けば良いのです(緑線)。

右図で、本回路の動作ポイントは、Rk=1kΩの線(細い青線)とロードライン(緑線)の交点(A点)になります。この動作ポイントは、ロードライン全体からみるとバイアスがやや浅いところに位置しています。SRPP回路において、上下球のカソード抵抗値を同じにした場合は、往々にしてバイアスはやや浅めの動作ポイントになってしまいます(カソード抵抗値が大きいと逆になることもある)。

もし、後段が2A3や300Bのような大きな入力信号を必要とするような出力管の場合は、もっとバイアスの深いポイント(B点)に移して、ロードライン全体をできる限り有効に使えるような動作にしてやらなければなりません。

本回路で最大出力電圧をより大きく取れるようにするためには、上側管のカソード抵抗値は1kΩのままにして、下側管のカソード抵抗の値だけを1.6kΩくらいに増やしてやる必要があります。SRPP回路では、上下管のカソード抵抗値が同じであるということは、必ずしも、動作を最適化していないのです。

このことは一体何を意味するのか。それは、極論すれば、もっぱら増幅作用を営んでいるのは下側球だけであり、上側球は抵抗負荷の代わりをしているだけ、ということです。SRPP(シャント・レギュレーテッド・プッシュプル)という名であるにもかかわらず、他のプッシュプル回路のような2管が対等に増幅作用を営んだプッシュプル動作は営んでいないのです。もちろん、上下球による歪みの打ち消しなどあろうはずもなく、事実、歪み率は抵抗負荷の場合と何の変わりもないことは既にデータで示しました。上側球と下側球のカソード抵抗の値は同じでなければならないという必然性は全くなく、もっと言ってしまえば、上側球と下側球とは同種の球である必要すらないのです。それが証拠に、本HomePageのSRPPレポートその2では、下側球は5極管(またはFET)、上側球は3極管という実験が成功しています。

さて利得ですが、求めた負荷抵抗を使って求めた値について、目減り分を減じてやります。その割合は、

目減りの割合 = 求めた負荷抵抗 ÷ ( 求めた負荷抵抗 + Rk )

で求めることができます。

※ただ、ここでひとつお断りしておかなければならないことがあります。上記の実験や計算は負荷インピーダンスが充分に大きな値である場合に限ります。いかえると、負荷に余裕のある電圧増幅回路ではこのようなことが言えますが、出力トランスやスピーカーを負荷として電力を取り出すような条件では話が違ってきます。そこのところは、SRP回路を精密に解析した文献に譲ります。しかし、SRPP回路を一般的な電圧増幅回路として捉える限り、ここで説明した動作の説明で充分に実用になります。


SRPP回路は何が優れているか

それでは、わざわざSRPP回路にしなくても、普通の抵抗負荷の増幅回路でいいではないか、ということになるかもしれません。確かに、2端子回路負荷の増幅回路で出力を「out1」から取り出した場合は、抵抗負荷とほとんど変わるところはありません。しかし、出力を「out2」から取り出すとなると、事情は一変します。

ここに、12AX7と6DJ8の場合の、「out1」と「out2」の比較実験データがあります(詳しくはここを参照してください)。下の表は、それぞれの場合における増幅回路の出力インピーダンスの違いをまとめたものです。

抵抗負荷out1out2
12AX7の場合47.0kΩ48.6kΩ15.3kΩ
6DJ8の場合8.0kΩ8.0kΩ1.5kΩ

「抵抗負荷」と「out1」の出力インピーダンスはほとんど同じ値です。2端子回路が単なる抵抗と等価であるならば、同じ値になって当然です。ところが、「out2」の場合の出力インピーダンスは、12AX7の場合も6DJ8の場合も著しく低い値になっています。これが、SRPP回路のすぐれた点なのです。SRPP回路は、増幅のメカニズムに関しては、通常の抵抗負荷の電圧増幅回路そのものなのですが、出力を取り出すポイントが上側管のカソードであるということで、出力インピーダンスを低くすることができる回路となっています。


補足

本章では、上側球の2端子回路としての性質は「抵抗器とほとんど同じ」と述べましたが、管種や与えるカソード抵抗の値によっては「抵抗器とは同じにならず」に、ノンリニアな曲線になる場合もあります。この場合はロードラインも曲線となり、場合によっては、「抵抗負荷」の場合と比較して、歪み率が増加したり減少したりするようになります。

SRPP回路を応用して、意図的にノンリニアな負荷を作り出し、下側管で発生する歪みをわずかでも低減しよう、という試みもなされています。

また、米国では、上側管の回路に抵抗2本とコンデンサ1本ずつ追加した「μドライブ」または「μフォロワ」と称される回路が古くから知られています。この回路は、上側管に交流的に多量の電流帰還をかけることで、交流的に「準定電流回路」を作り出し、下側管からみた交流負荷インピーダンスが相当に高い値となるようにしたものです。これも立派なSRPP回路の一つのヴァリエーションということができます。

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