私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
真空管の最大定格
古今東西、部品や素材の耐久性や最大定格ほどわかりにくいものはありません。20年間持つはずのジェット機が稼動数年目にして機体に亀裂を生じたり、10万回耐久テストに合格しているはずのトグルスイッチがいきなり接触不良をおこしたり、検査で合格して出荷されたはずのテレビが買ってきた初日から動かない。

真空管をはじめとする電子部品も同じで、さまざまな基準が設けられている一方で、バラツキと周囲の条件によって左右される要因があまりに多いのです。真空管に許容される上限の規格には、絶対最大定格、最大定格、設計中心最大定格等いろいろな種類があって、実にわかりにくくなっています。このような煩雑な基準は役所に任せておくことにして、実際にアンプ等を作成するにあたっての、現実的で実践的な観点から、私なりの意見をまとめてみようと思います。


プレート電圧

すべての電子部品には、かならず耐圧というものがあります。これ以上高い電圧をかけたら、こわれてしまう、安全を保証できない等の越えてはならない電圧です。一般には、絶縁が破壊されない十分に低いところに耐圧が設定されます。しかし、絶縁は大丈夫であっても、電極と電極との距離が近いと、今度は放電が起こってしまうこともあります。絶縁技術は、時代とともに飛躍的に進歩してきましたが、昔作られた電子部品の絶縁は今日の基準からみるとかなり甘いものが多いというのも事実です。

真空管には普通足がはえており、これをソケットに差し込んで使います。ご存知のように、8ピンのUSソケットと、7ピン・9ピンのMTソケットでは、ソケットの端子間の距離がずいぶん違います。同様に、GT管とMT管を比べてみると、ガラス管内部の電極間の余裕にずいぶん違いがあります。同じ特性の球であっても、GT管に封入するかMT管に封入するかで、耐圧に違いが生じるかもしれません。

ビーム電力増幅管の6V6は、もともとUSベースで設計・製造されましたが、後に、MT7ピン化されて6AQ5になりました。そのときに、315Vあった最大プレート電圧が250Vまで引き下げされています。一方で、6V6GTは後になって耐圧が315Vから350Vに引上げられています。絶縁技術が向上したのです。

ところで、電力増幅管を出力トランスとあわせて動作させた場合、プレートには一体どれくらいの電圧がかかるものなのでしょうか。「テスターで測ってみればいいではないか」と思われるでしょう。でも、ちょっと待ってください。確かに、無信号動作時にはそれでいいかもしれません。では、最大出力を出している時はどうでしょうか。電源ONの直後ではどうでしょうか。

下図は、2A3の標準的な動作の場合のロードラインです。

動作の起点(点B)では、プレート電圧は250Vです。無信号時には、2A3の動作点はこの点Bに静止しており、プレート電流もプレート電圧も変化せず一定です。しかし、グリッドに信号が入力されると、動作点はロードライン上にそって点A-点C間を移動するため、プレート電圧とプレート電流ともに大きく変化するようになります。プレート電圧の範囲は、最低が約100V(点A)、最高が約370V(点C)です。入力信号の具合によっては最高400Vに達するかもしれません。このように、最大出力時にはプレート電圧は瞬間的に、プラス・マイナス百数十V変化します。

ところで、2A3の最大プレート電圧は300Vと発表されています。それなのに、実際には最大400Vまで達する可能性がある動作条件が発表されているのは何故でしょうか。一般に、最大プレート電圧は「連続してかけられる最大プレート電圧」のことをさしており、瞬間的にはもっと高い電圧がかかってもよいことになっているからです。

では、出力トランスを使わないことが多い電圧増幅管の場合はどうかというと、最大プレート電圧と電源供給電圧の両方を規定することで、最大定格を明確にするようにしています。たとえば、12AU7の場合、最大プレート電圧は300Vですが、電源供給電圧は550Vまで許容されています。ですから、電源電圧が500Vであっても、無信号時のプレート電圧が250Vであるならばどちらも許容値以内なので許されるというわけです。

注意したいのは、真空管の最大定格がOKであっても、他の部品の耐圧が十分でない場合は、耐圧の低い条件に従わなければならないということです。配線用線材にもちゃんと耐圧が規定されていますし、ラグ板にも、抵抗器にも耐圧が存在します。私達が通常使用している抵抗器やラグ板などは350Vが上限のものがほとんどです。電圧が350V以上になるような場合は、線材や端子や電極の間隔と抵抗器のワット数には特に配慮してください。


スクリーン・グリッド電圧

スクリーン・グリッドは、プレートと違って放熱効率が悪く、非常に熱に弱い電極です。従って、最大スクリーン・グリッド電圧はスクリーン・グリッド損失を考えて規定されている場合がほとんどです。スクリーン・グリッドにこれ以上高い電圧を印加すると、スクリーン・グリッドが赤熱してしまって具合が悪い、というぎりぎりの電圧をもって最大スクリーン・グリッド電圧とするわけです。6V6の場合ですと、最大プレート電圧が315V(後に350Vになった)ですが、最大スクリーン・グリッド電圧は285V(後に315Vなった)となっています。

多極管をオリジナルの多極管接続のまま使うならばそれでいいのですが、スクリーン・グリッドをプレートにつないで使う3極管接続の場合は厄介な問題が発生します。プレートに印加できる最大電圧が、低い方の最大スクリーン・グリッド電圧で制限されてしまうからです。そこで、球によってはわざわざ3極管接続の場合の最大電圧を別途規定するものも出てきています。6F6では、5極管接続時の最大プレート電圧は375V、最大スクリーン・グリッド電圧は285Vですが、3極管接続の場合に限って最大プレート(=スクリーン・グリッド)電圧は350Vまで許容すると規定されています。

Ep(多極管接続時)Eg2(多極管接続時)Ep/Eg2(3極管接続時)
6W6-GT300V150V300V
6F6-G375V285V350V
6V6-GT315V285V315Vの動作例あり
6L6-G360V270V275V
6L6-GC500V450V450V
EL34/6CA7800V425V400Vの動作例あり
6550A600V400V500V
KT66500V400V400V
KT88600V600V600V

なお、多極管の3極管接続をする際にスクリーン・グリッドに100Ω程度の抵抗を入れますが、これは発振防止が目的であってスクリーン・グリッドの電力損失を下げる効果はありません。消費電流が数mAから十数mA程度ですから、そこに100Ωを入れたとしても得られる電圧効果はたかだか1V前後だということを考えれば効果の程度がわかっていただけるでしょう。


コントロール(第1)グリッド電圧

真空管を、カソード(自己)バイアス回路で動作させる限り、コントロール・グリッドにかかる電圧の最大値を気にする必要はほとんどありません。プラス、マイナスどちら側についてもその最大値は知れているからです。

しかし、前段がカソード・フォロワの場合はそうはゆきません(右図)。カソード・フォロワ段では、電源ON直後、カソード・フォロア管が十分にヒートアップするまでの数秒〜十数秒間、カソード電位が大きくマイナス側に引っ張られるからです。このカソードが出力段のコントロール・グリッドに接続されている場合には、出力段のコントロール・グリッドも強烈にマイナス側に引っ張られます。

私の経験値ですが、EL34や6F6では全然問題なかったのに、6BX7GTでは、このマイナス電圧に耐え切れずに管内での絶縁破壊が頻発しました。

マイナス電源を使ったカソード・フォロワ回路と次段コントロール・グリッドを直結する場合には、マイナス電源の立ち上がりとマイナス電圧の最大値について充分に配慮した設計が求められます。300Bや2A3のような、もともとバイアスの深い球は結構耐圧が大きいようですが、バイアスの浅い球、gmが高くて内部電極が接近しやすいMT管等は要注意です。

そこで対策ですが、出力管のグリッド電圧の範囲に着目します。右図のケースでは、6BX7GTのバイアスが-21Vですから、グリッドは-21Vを起点として、すくなくともプラス・マイナス21Vに振られます。X点は、-42V〜0Vの範囲で振られるわけです。実際には、マイナス側はもう少し深くまで振られますので、余裕をみてマイナス-50Vまで振られるものとしましょう。そこで、X点とアースの間に75Vのツェナーダイオードを挿入します。こもツェナーダイオードは、電源ON直後であっても出力管のグリッドに-75Vよりも深い電圧がかかることを防いでくれます。


プレート損失

真空管にとって、もっとも重要でクリティカルな最大定格は、プレート損失ではないでしょうか。真空管から発生する熱の大半はプレートで生じます。球のサイズも電極の形も、もっぱらプレート損失に耐えるために決定されているといってもいくらいです。

真空管には、用途ごとに想定されている使用環境や寿命がずいぶんと違っています。大西洋の海底電線の中継用として使われる球では、おそろしく高い信頼性と寿命が要求されますが、一般用の球では数千時間程度が標準的な寿命として考えられています。高負荷用途の球では数十〜数百時間という短い寿命を全うできればよしとするものまであります。我々は、こういったいろいろな球をオーディオアンプ用に使おうとしていますので、単純に最大許容プレート損失を適用できない場合があります。なぜならば、メーカー発表の最大定格というのは、それを越えて使用した場合、その寿命が保証できない値ということであるため、「その寿命」というのが管種によっておどろくほど短かったりするからです。それから、真空管全盛期では、真空管は消耗品として酷使されていましたから、当時と同じ感覚で負荷を与えると、思った以上に早くに痛みがくるものです。

ここでは、いくつか具体的な例を使ってプレート損失について考えてみたいと思います。

<電力増幅管>

2A3という直熱3極管があります。最大プレート損失は15Wです。実際に、2A3のプレートに15Wちょうどを食わせてみると、ベース部分やベースに近いガラス部分はかなりの低温のままで、手でさわっても熱くありません。熱くなるのは上半分だけです。2A3にとっての15Wは、十分に余裕のある値だと思われます。

NECが2A3を強く意識して開発したMT9ピンの傍熱3極管に6R-A8があります。この球も最大プレート損失は15Wです。ヒーターが消費する電力も2A3とほとんど同じですから、2A3と6R-A8が消費する全電力は同じだということができます。さて、6R-A8は9ピンMTベースですから、2A3よりもずいぶん小型であり、実際に定格電力を食わせると球全体がすべて200℃をこえて大変な高温になります。どうやら、NECは和製2A3を意識するあまり、6R-A8にややきびしい注文をつけたといわざるを得ません。6R-A8を長期にわたって安定して使おうとするならば、プレート損失は10W以下とするような配慮がいります。6BQ5や7189についても同じことがいえるでしょう。

同様に、東芝が6BX7GTの片ユニットをベースに開発した傍熱3極管6G-A4ではどうでしょうか。6G-A4の最大プレート損失は13Wです。単純に6BX7GTの片ユニットを独立させただけで13Wを食わせたのでは、管内の温度が上昇しすぎてグリッドまでも高温になってしまって具合が悪いようです。そこで、グリッド電極の上部に放熱フィンを取り付け、さらにグリッドを2本のソケットピンにまたがって接続して、リード線を伝っての放熱まで考えています。そこまでしてやっと実現した13Wです。これも、東芝が和製2A3を意識して無理をしています。

このように、真空管の温度管理を考える場合は、単純にプレート損失だけではなく、真空管の大きさや構造、ヒーター電力も合わせて考えなければなりません。

6G-A46BX7GT6F6GT6V6GT(初期) 6V6GT(後期)
最大プレート損失(A)13W12W(2ユニット計) 11W12W14W
最大スクリーングリッド損失(B)-- 3.75W2W2.2W
(ヒーター電圧)(6.3V)(6.3V) (6.3V)(6.3V)(6.3V)
(ヒーター電流)(0.75A)(1.5A) (0.7A)(0.45A)(0.45A)
ヒーター電力(C)4.725W9.45W 4.41W2.835W2.835W
単純に合計した全消費電力(A+B+C)17.725W21.45W 19.16W16.835W19.035W

まず、6F6GTです。スクリーン・グリッド損失は3.75Wまで許容されており、これは相当にタフなスクリーン・グリッドを持った球だといえます。しかし、通常の動作では、プレート損失が最大許容値の11Wのときでも、実際のスクリーン・グリッドの損失は1.5W程度ですから、全消費電力は18Wどまりとなります。6G-A4は、6BX7GTのやや小型のプレートユニットを流用したがためにこれで限界です。6V6GTでは、通常の動作でのスクリーン・グリッドの損失は1W程度なので、全消費電力は初期の6V6GTで16W、後期のもので18Wどまりとなります。いちばんきびしいのは、6BX7GTでしょう。全消費電力のうちのかなりをヒーター電力が占めています。明らかにヒーター電力が大きすぎて、プレート損失が制限されています。最大出力を考えると、最大プレート損失が大きい球が有利なわけで、同じ大きさの球であるならば、ヒーター電力の小さい6V6GTがもっとも有利だということになります。

面白いのは、6L6一族です。6L6は、当初19Wで登場しました。それが、5881では23W、7027では25W(7027Aは35W)、6L6GCは30Wです。しかし、プレート電極の形も大きさもずっと変わっていません。ということは、プレートの単位面積当たりのプレート損失が違うということで、動作時の最高温度に違いがあるということを意味します。

プレート損失は、動作条件によっても違ってきます。A級増幅回路では、無信号時にプレート損失が最大になるため、無信号時に最大定格を越えていなければOKですが、AB級やB級では、信号が入力された時にプレート電流が急増して、プレート損失が大きくなります。エイヤですが、AB級の場合、無信号時のプレート損失を最大定格の80%以下としたらいいでしょう。

プレートに使われる素材によって、単位面積当たりの最大プレート損失には大きなひらきがあり、銀色にぴかぴかしているニッケルプレートと、黒化されたものやねずみ色のアルミクラッド鉄板とでは5倍くらいの開きがあります。高温にさらされて劣化するのは、プレートだけではありません。ガラスが200℃以上になると、その表面から不純物が飛び出してきます。

真空管の管壁の温度がどのくらいになるかについては、一木吉典著「オーディオ用真空管マニュアル」第1.1章(8ページ)に参考になるグラフが掲載されています。たとえば、2A3(ST-16)の場合、ヒーター電力を含む総消費電力が21.3W(=15W+6.25W)の時のバルブの最高点の温度は170℃、6AQ5(7ピンMT)の場合、総消費電力が15Wの時のバルブの最高点の温度は245℃となっています。是非、参考にされるといいでしょう。

プレート損失は、定格値を守らなければならないだけでなく、球によっては、さらに余裕を見て少な目に設計をしなければならないこともあるわけです。もし、ぎりぎりの条件で動作させなければならない場合は、放熱に気を配るなり、周囲に発熱部品を配置しないようにする、といったことが重要になってきます。

以下に、高温になりやすい球をいくつかあげておきます。

6AQ5, 6BQ5, 7189, 7189A, 6R-P15, 6GW8, 6CW5, 6R-A8, 6G-A4, 50C-A10, 6C-A10, 6080, 5998, 6AS7-G, 6BX7GT, 5881, 7027, 7027A, 7591, 5687

<電圧増幅管>

電圧増幅管は大きな電力を扱わない、プレート電流もそれほど多くない、といった使い方が多いので事情が少し違ってきます。

電圧増幅管で最もポピュラーな球というと、1944年に同時に開発された12AX7と12AU7が挙げられます。この2管は部材が共通化されていて、同じガラス管、同じ基本構造、同じプレートを使っていますので、プレート電圧はともに300Vです。ところが、プレート損失は12AU7が2.75Wであるのに対して12AX7は1Wしかありません。12AU7のプレートは2.75Wまで食わせても大丈夫なのに、12AX7のプレートは1Wよりも大きな電力を食わせたら壊れてしまう、あるいは寿命が縮むなどの問題が生じるのでしょうか。

右図は、12AX7のEp-Ip特性図に12AX7の最大定格および現実的な動作領域を書き込んだものです。青い線がプレート電圧(300V)で、赤い線がプレート損失(1W)です。緑の線で囲まれた三角の内側が現実的な有効動作領域です。プレート電圧は300Vを超えられませんから有効動作領域はそれよりも左側になります。バイアスが-0.7Vよりも浅い領域は増幅回路として適しませんから、このような三角形になります。

12AX7は流せるプレート電流が非常に少ない球なので、可能な限り高圧(300V)×大電流(4mA)で動作させてもプレート損失はせいぜい1.2Wにしかならず、それ以上の使い方は不可能なわけです。そこで、12AX7の場合は、プレート部材の構造上の上限は2.75Wくらいあるのだけれど、1W以下で使うのが現実的であり最大定格を2W以上に設定したとしても意味がない、ということで1Wと決められたと考えることができます。

このように、真空管の最大定格は必ずしも機械的な安全を考慮した値とは限りません。使われる回路の性質から決められることもありあす。


スクリーン・グリッド損失

アンプの設計では、プレート電流は、代表的なコントローラブルな要素ですが、スクリーン・グリッド電流は、結果的に決まってしまうというか、おまけ的というか、アン・コントローラブルな面があります。

一般的な動作の範囲であれば、最大プレート損失以内の動作である限り、スクリーン・グリッド損失が最大定格をこえるようなことは、なかなかありません。しかし、スクリーン・グリッド電圧を不用意に高く設定してしまうと、スクリーン・グリッド電流が増加してしまって、スクリーン・グリッド損失が最大定格を越えてしまう場合があります。特に、スクリーン・グリッド電圧が、プレート電圧よりもうんと低いタイプの球では要注意です。

また、多極管を3極管接続で使用する場合、スクリーン・グリッド損失が足を引っ張って、最大定格がかえって低下してしまう球があります。3極管接続では、単純にプレート損失とスクリーン・グリッド損失を合計した分だけ余裕があるかというと、そうではなくて逆のケースが多いのです。

6F6GT6L66L6GCEL346R-B106W6GT
プレート損失11W19W30W 25W14W10W
スクリーン・グリッド損失3.75W2.5W5W8W5W1.25W
3極管接続時のプレート損失10W12W(19W)30W25W15W7.5W

上の例では、6F6GTと6L6ともに、3極管接続の時の方が最大プレート損失が小さくなっています(注:6L6には12Wと19Wの2説があります)。EL34にしても、プレートで25W、スクリーン・グリッドで8Wいけますから、3極管接続ならば25W+8W=33WまでOKではないかというと、そうはゆきません。3極管接続では概してプレート電圧が高めになるため、どうしてもスクリーン・グリッド側に多くの電流が流れてしまうからです。6R-B10では、スクリーン・グリッドの分も貢献するために、3極管接続ではなんと15Wの許容値が得られています。


ヒーター・カソード間耐圧

直熱管しかなかった時代は、原理上、ヒーター・カソード間耐圧という言葉は存在しませんでした。ヒーター・カソード間耐圧は、ヒーターとカソードの間が絶縁された傍熱管特有の定格です。

特に耐圧が低い球を調べてみると、WE310A(30V)、WE348A(30V)、76(45V)、6Z-DH3A(45V)、WE349A(60V)、6G6G(90V)、50L6-GT(90V)、6Z-P1(90V)、6V6-GT(90V)、6F6-GT(90V)等が見つかります。初期の傍熱管ほど耐圧は低くなっています。トランス・レス用の球になると、最低でもプラス・マイナス150Vくらいの耐圧があります。AC100Vのピーク値(141V)に耐えることが要求されるからです。

実装時にどれくらいの電圧まで許されるのかというと、意外に低いことがわかっています。ヒーターを交流で点火した場合、たとえ耐圧の範囲以内であっても、ノイズの原因となることが多いのです。ヒーターが熱せられて赤熱すると、カソードと同じようにここからも熱電子が飛び出そうとします。ここを飛び出した熱電子は、カソード、グリッド、プレート等に飛び込みます。これがハムや不可解なノイズの原因になります。これを防ぐためには、ヒーターの電位をカソードやグリッドよりも高くしてやる必要があります(ただし、効果の程はごくわすかです)。カソードに電流帰還(コンデンサがはいってない状態)がかかっていると、ハムをたいへん拾いやすくなります。電圧増幅回路のカソードは、できるだけ交流的にアースするか、小さいインピーダンスで接地するような工夫が大切です。このような現象を防ぐために、カソード・スリーブの上端をぺたんこにつぶしている球も見うけられます(6FQ7等)が、これまた効果の程は大したことないようです。

カソード・フォロワ回路では、ヒーターの電位よりもカソードの電位の方がずっと高くなりがちです。この電位差が50V以上になると、微少ながら「じゅるじゅる、ちゅるちゅる、じー」といったノイズが発生することがあります。一瞬、アンプが発振しているのではないかと疑ってあれこれ調べても原因がわからないことがありますが、これは発振ではなくて犯人はヒーター・カソード間の電位差です。特に、プリアンプのカソード・フォロワ段が要注意です。


第1グリッド抵抗(グリッド・リーク)

グリッドに流れる電流には、大きく分けて3つあります。

(1)グリッド→カソード・・・初速度電流といいます。熱せられたカソードを飛び出した熱電子が、プレートに行く途中でグリッドにつかまることによって流れる電流です。バイアスが0.7Vよりも浅くなると目立って流れるようになります。電流は、グリッドに吸い込まれる方向に流れるため、バイアスをより深くする効果を生みます。

(2)グリッド→カソード・・・いわゆるグリッド電流です。グリッドが、入力信号などでプラスに振られた時に、グリッドからカソードに流れ込む電流です。バイアスがかかっていて、信号がない時には流れません。

(3)プレート→グリッド・・・グリッドは、カソードに接近しているため、カソードに熱せられて高温になることがあります。そうすると、グリッドからも(カソードと同じように)熱電子が飛び出そうとします。この電子はプレートにかかった高圧のために強力に引っ張られるため、一旦流れ始めるとやっかいです。なぜならば、この電流は(1)とは反対に、グリッドに吐き出されるれる方向に流れるため、バイアスをより浅くする効果を生んでしまうからです。バイアスが浅くなると、プレート電流が増加して球はより熱くなります。グリッドの温度もより高くなり、より多くの電子が飛び出すようになります。つまり、バイアスが更に浅くなるわけです。そして、プレート電流はどんどん増加し、ついには暴走状態になります。これが、真空管の熱暴走です。

真空管の最大定格に、第1グリッド抵抗(グリッド・リーク)の最大値が決められているのは、(3)の暴走を防ぐためです。グリッドに吐き出される方向に電流が流れて悪さをするわけですから、少々の電流が流れてもバイアスが浅くならないように、グリッド側に挿入される抵抗(グリッド・リークといいます)値をできるだけ小さくした方がいいわけです。

一般に、固定バイアスでは50kΩ〜100kΩ、カソード・バイアスでは250kΩ〜500kΩに規定されている球が多いです。カソード・バイアス回路の方が値が大きくても大丈夫なのは、プレート電流が増加しても、カソード抵抗があるおかげで暴走しにくいからです。

グリッド電流が流れやすい球の筆頭は、50です。そのため、50のグリッド抵抗値は何と10kΩという低い値に制限されています。50のグリッド・リークを500kΩなどにしようものなら簡単に暴走します。6550Aも、グリッド電流が流れやすい球です。定格の50kΩを守っていても、プレート電流は結構ふらついてくれます。逆に、グリッド電流が流れにくい球もあります。その筆頭はEL34(6CA7)でしょう。固定バイアスでグリッド・リークを300kΩにとっていても、プレート電流はびくともしません。

回路設計上難しいのは、安全を考えてグリッド・リークを低めにすると、ドライバ段の負荷が重くなってしまって、ドライバ段の動作の設定で苦労させられるということです。たとえば、2A3を固定バイアスで動作しようとすると、グリッド・リークの最大値は50kΩということになります。もし、12AX7の単段でドライブしようとすると、負荷が重過ぎてゲインは足りない、ドライブ電圧も足りない、という事態になります。6SJ7GTや6AU6といった5極電圧増幅管によるドライブもできません。従って、出力段をグリッド・リーク値が小さくなる固定バイアス回路や、そもそもグリッド・リーク値の最大定格が低い球の採用は、ドライバ段の回路構成にも大きく影響することになります。

この問題を根本的に回避しようとするのが、カソード・フォロワによる出力管のドライブです。出力インピーダンスの低いカソードと出力管のグリッドとを直結することによって、グリッドから流れ出す電流(グリッドに流れ込む電流も)の影響をなくしてしまおうというわけです。また、トランスによるドライブも効果的です。トランスの巻き線抵抗は、グリッド・リーク抵抗に比べれば、ほとんどゼロに等しいからです。そこまで徹底的にやらなくても、球ごとに定められた最大定格はきちんと守りたいものです。

また、前科のある管種では、メーカー発表の最大定格よりもよりきびしい定格で考えた方が良いといえるでしょう。たとえば、6550A、KT88、8045G、6CA10(50CA10)などがその代表です。ここで挙げた球は、プレート電流の思わぬ増加によってプレートが赤熱したり、過電流が流れて煙が出たり、とにかくそういう話題が尽きません。

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