私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
増幅回路と位相

同相と逆相

本章では、位相に関してごく基本的なことがらについて説明しようと思います。

今ここに1サイクルの正弦波があります・・・A。そして、もうひとつの正弦波・・・Bがあり、さらにもうひとつ・・・Cがあります。

A  B  C
まずAを見てください。音声信号は交流信号ですから、必ず、ゼロから出発してプラスとマイナス(と表現させてもらいます)が繰り返されてゼロに戻ってきます。これが1つのサイクルです。この1サイクルを一周と考えて、角度の360度になぞらえて考えます。最初の山の終わりまでが180度で、谷が残りの180度となり、全部で360度です。

BはAと同じですね。

Cはどうであるかというと、Aをちょうど180度ずらしたものと一致し、上下が反対になっています。こういう関係を、位相が180度回転する(遅れる・進むともいう)といいます。2つの信号の位相が180度回転した関係にあることを「逆相」ともいいます。現実には、90度あるいは45度というような中途半端なずれ方も存在しますが、話が高度になってしまうので、別の機会にふれたいと思います。

さて、AとBとは「同相」であるといいます。一方、AとCとは「逆相」です。信号の振幅に関係なく、山と谷の向きで決まります。

同相の信号をそれぞれ2つのスピーカに入力すると、2つのスピーカのコーン紙は同じタイミングで前後に振動しますが、逆相の信号の場合は、2つのスピーカのコーン紙は互い違いに前後に振動することになります。この状態を実験したかったら、ステレオの一方のスピーカの接続(プラスとマイナス)を入れ替えてみてください。音楽を鳴らしてみてどのように聞こえるか、ご自分で確かめてください。


増幅回路と位相

ここに、グリッドに信号を入力してプレートから出力を取り出す、というごくオーソドックスな真空管増幅回路があります。そして、グリッドに図のような信号が入力されたとします。グリッドは、バイアス電圧を基準として、最初プラス方向に振られ、次にマイナス方向にも振られて、やがて元に戻ります。
  
ところで、グリッドがプラス方向に振られると、バイアスは浅くなりますから、プレート電流は増加することになり、負荷抵抗での電圧降下が大きくなって、その結果プレート電圧は下がります。次に、グリッドがマイナス方向に振られると、バイアスは深くなりますから、プレート電流は減少することになり、負荷抵抗での電圧降下はちいさくなって、その結果プレート電圧は上がります。

従って、プレート側から得られる信号は、最初マイナス方向に振られ、次にプラス方向にも振られて、やがて元に戻ることになります。これは、ちょうど入力信号と位相が「逆相」すなわち180度回転した状態になっています。このように、一般的な増幅回路では、入力信号と出力信号とでは位相が180度回転します。このように、入力と出力とで位相が逆になる(反転する)回路のことを「反転増幅器」といいます。通常、1段の増幅回路は反転増幅器になります。

今度は、カソードフォロワ回路について考えてみます。

  
グリッドがプラス方向に振られると、カソードも引っ張られてカソード電圧は上がります。次に、グリッドがマイナス方向に振られると、それに追随するようにカソード電圧は下がります。従って、入力信号と位相が「同相」になっています。このように、カソードフォロワでは、入力信号と出力信号とでは位相が同じになります。このような、入力と出力とで位相が同じである(反転しない)回路のことを「非反転増幅器」といいます。

一般法則として、「グリッドとプレートの位相は逆」になり、「グリッドとカソードの位相は同じ」になる、と覚えておけばいいと思います。この関係は、5極管やビーム管でも、そしてトランジスタやFETでも同じです。(トランジスタ/FETでは、グリッド=ベース/ゲート、カソード=エミッタ/ソース、プレート=コレクタ/ドレインと読み替えます。)

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