私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
真空管で発生する歪み(負帰還の予備知識)

2次歪みの発生原理

ロードラインの章で、右のようなグラフが出てきました。3極電力増幅管2A3のプレート(Ep-Ip)特性に、ロードラインを引いたものです。

グラフにあるような負荷(ロードライン)を与え、B点を基点とするような動作をさせると、(たとえば)グリッドにプラス・マイナス44Vの信号を入力した時に、真空管の動作は「A点〜B点〜C点」上を行ったり来たりするのでした。

プレート(Ep-Ip)特性曲線をよく見てみると、右下の方が目が詰まっています。そのため、グリッドにきっかりプラス・マイナス44Vの信号を入力した時、プレート電圧は250Vを基点として101V(A点)〜250V(B点)〜365V(C点)の間を往復するため、プレート側から得られる出力電圧は、プラス側115V、マイナス側99Vとかなりいびつになります。信号波形の片側半サイクルはつぶれ、反対の片側半サイクルは伸びてしまうのです。

片側半サイクルがつぶれ、反対の片側半サイクルが伸びてしまった波形は、左図の黒線のようになっています。

しかし、もとの入力された信号波形はきれいなサイン波でしたから、左図でいうと青線のような形です。

この2つの波形を互いに引き算してみます。そうすると、引き算の結果は赤線のようになって現われます。この波形をよく見てみると、元のサイン波と比べて周波数がちょうど2倍になっています。

逆に、このように考えたらいいと思います。サイン波(青線)に2倍の周波数のサイン波(赤線)を合成すると、歪んだ波形(黒線)になるのです。

これが、2次歪みです。アンプの歪み率は何%という風に表現されますが、これは、出力波形(黒線)の電圧に対する歪み成分(赤線)の電圧の比率を表したものです。


3次歪みの発生原理

今度は、サイン波に3倍の周波数成分(すなわち3次高調波)を付加してみます。そうすると、波形の両側がつぶれてしまいました。

増幅回路でこのような現象が生じるのは、

(1)(主に)5極管シングル回路の大出力領域
(2)プッシュプル回路の最大出力付近
(3)A2級動作の3極管シングルの最大出力付近

などがあげられますが、これ以外のどのような回路方式であっても、もうこれ以上出力は出ないというぎりぎりの領域では、必ずといっていいほどこの3次歪みは発生します。300Bシングルも例外ではありません。


負帰還の原理

以上のことから、「入力信号」と「出力信号」とを比較すれば、そのアンプがどのような歪み、すなわち高調波を発生させているのかがわかります。そこで、「入力信号」と「出力信号」とを比較した結果をもういちど入力信号と合成させてやれば、アンプ内部で生じている歪みを打ち消すことができるのではないか、という発想が生まれても不思議ではありません。

これが、負帰還の原理です。負帰還回路では、「入力信号と出力信号とを比較(引き算)し、比較した結果を入力・合成する」機能によって成り立っているのです。「引き算」を行うので「負」帰還というのです。「足し算」を行った回路は「正」帰還といいます。負帰還については、次章でもっと詳しく説明したいと思います。

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