私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
電源の設計その1(基礎知識パート1)

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電源の種類

真空管回路の電源には(少々古い言い方ですが)大別して、A電源、B電源、C電源の3種類があります。A電源は、ヒーター電源のことです。B電源は、プレートに供給される100V〜1000Vの高圧電源のことで回路図上は「B+」あるいは「Vbb」「V+」などと表現します。C電源とは、グリッドバイアス等のためのマイナス電源のことで、回路図上は「C-」あるいは「Vc」「V-」などと表現します。

300Bなどの直熱出力管を固定バイアスで使ったり、カソードフォロワ回路のカソード側をマイナスに引き込むような設計では、B電源並の高い(低い?)電圧のC電源(-80V〜-400V)となることも少なくありません。ヒーター電源は、直熱・傍熱管を問わずヒーター(フィラメント)のために電源で、交流・直流の両方があります。


整流素子

交流から直流を得るための最初のステップは「整流」です。整流を行うためには、一つの方向にだけ電流を流し、反対方向には電流が流れないという性質を持った整流素子を使います。整流素子には、振動型整流器、整流管(2極管)、セレン整流器、ゲルマニウム・ダイオード、シリコン・ダイオード、ショットキー・バリア・ダイオードなどいろいろありますが、今日では、信頼性・整流効率・耐圧の点でもっぱら整流管(2極管)とシリコン・ダイオードとショットキー・バリア・ダイオードが使われています。しかし、この世にはさまざまな整流作用を持った素子が存在しており、その性質をしっかり理解した上で回路に応用してみるのも面白いと思います。

振動型整流器というのは、電磁石で動作する振動子の先に接点がついており、1秒間に50/60回振動するように調整してやることで50/60Hzの交流サイクルに合わせて接点を開閉して直流を得るというなんとも原始的な方法ですが、蓄電池への充電にはこういう方法が普通だった時代もあるのです。


整流管(2極管)

整流管は、プレートとカソード(直熱管ではフィラメント)だけを持ったグリッドのない真空管(すなわち2極管)です・・・古くは、3極管のグリッドをプレートにくくりつけて2極管の代用をさせたこともあります。電流は、プレートからカソード(直熱管ではフィラメント)に向かって流れ、その反対方向には流れません。この性質を使って整流を行います。

傍熱整流管・・・5AR4/GZ34、5V4G、6CA4/EZ81*、6X4/EZ90*、5M-K9、35W4* etc.
直熱整流管・・・5U4(G/GB)、80/5Y3GT、5Z3、5R4GY、12F etc.

5AR4/GZ345U4/5U5G/5U4GB6X4/EZ90
傍熱管直熱管傍熱管

ほとんどの傍熱整流管では、ヒーターの一端がカソードに接続されていますが、なかにはヒーターとカソードが絶縁されているものもあります(*印)。こうすることでヒーター回路を他の球と共用できるようになります。しかし、ヒーター-カソード間には非常に高い直流+交流電圧がかかりますから、整流管のヒーターは他の電圧増幅管や出力管とは独立させるというのが普通です。

傍熱整流管は、ヒーターがカソードを十分熱するまで動作しませんので、電源をONしてから安定した整流作用がはじまるまで10秒〜数十秒かかります。直熱整流管はフィラメントが熱すれば数秒で整流作用がはじまります。この違いを十分理解しておかないと、思わぬタイミングでB電源に高圧がかかって部品をだめにしたり、バイアスのためのC電源の立ち上がりが間に合わなくて出力管を赤熱させてしまうことがあります。

整流管は出力管など他の真空管に比べて短命です。整流管は取り出す直流電流の数倍に及ぶピーク電流にさらされることと、劣化してくると内部抵抗が増加して電圧降下が徐々に大きくなってくるため整流管自身の消費電力も増加して劣化が加速されるからです。


シリコン・ダイオード

現在では、電源回路の整流素子の地位はシリコン・ダイオードがほとんど独占しているといってよいでしょう。高逆耐圧で大電流に耐え、小型で破壊に強い(そうでもない?)シリコン・ダイオードが整流管を駆逐するのにほとんど時間はかかりませんでした。

ダイオードに電流を流した時に生じる電圧降下のことを「順電圧」といいます。シリコン・ダイオードでは、0.6V〜1.4Vくらいの間になります。整流管にくらべれば圧倒的に低い値です。一方で、半導体の常としてシリコン・ダイオードの逆耐圧はクリティカルです。たとえば、交流100Vを片波整流あるいは2タップ式の両波整流する場合の整流ダイオードの逆耐圧は元の電圧の1.41倍の283V以上なければなりません。これを守らないとダイオードは音もなく瞬時にして破壊に至ります。整流動作を行っている整流素子には常時一定の電流が流れているわけではなく、非常に短い時間に大きな電流が1秒間に50あるいは60回流れています。そのため、順電流の最大定格は動作時の電流の数倍以上の余裕が必要です。

意外に忘れられがちなのがダイオードの発熱の問題です。順電圧1Vで平均200mAを流すと、ダイオードは0.2Wの電力を消費します。抵抗器であれば1W型が必要になる発熱量です。これがヒーターの直流点火ともなると、順電圧1.3V、平均電流2Aなどということになり、ダイオード1素子あたりの消費電力は2.6Wにもなります。これは、10W型のホーロー抵抗がアチチ状態になっているのに匹敵します。感電したくないので動作中のダイオードを素手で触る人はいないでしょうけれども、ダイオードという素子がいかに熱くなるものであるかは知っておいてください。ダイオードのリード線には太めのものが多いのは、リード線を伝って熱を逃がすことまで考えているからです。

半導体は真空管に比べて半永久的な寿命があると思われていますがそうでもありません。シリコンダイオードも劣化すると順電圧が上昇する傾向が観測されました。低電圧、大電流回路では要注意です。


ショットキー・バリア・ダイオード(SCHOTTKY BARRIER Diode、以下SBDと略す)

SBDの順電圧はシリコン・ダイオードよりも低く0.2V〜1Vくらいです。そのため、順電圧によるロスが目立つ低電圧・大電流に整流回路で威力を発揮します。SBDのもうひとつの特徴はスイッチングスピードが短いことです。

長所だけ挙げるとシリコン・ダイオードよりも優れていますが、重大な欠点があります。それは逆電圧をかけたときのリーク電流が非常に大きいという問題です。シリコン・ダイオードは全く無視できるくらいに逆方向のリーク電流が小さいのですが、SBDはリーク電流が大きいことによる発熱が問題になります。しかも、SBDのリーク電流は温度が上昇すると急増する性質があるため、リーク電流に起因する熱暴走の危険すらあります。リーク電流による発熱は逆電圧が高いほど大きくなりますから、高電圧の整流回路ほど危険が増します。SBDでは、耐圧以内の動作であれば大丈夫というわけではありません。


真空管整流とダイオード整流の違い

まず、客観的事実として、エネルギー効率はダイオードの方が圧倒的にまさっています。電圧ロスは、ダイオード固有の順電圧(0.6V〜1.4V程度)だけですみます。整流管には、ダイオードでいう順電圧のような概念はありませんが、十数V〜数十Vの範囲で電圧降下があります。そして、整流管が劣化してくるにつれてこの電圧降下は大きくなってきます。同じ電圧のトランスを使った場合、得られる整流出力電圧はダイオード整流の方が高くなります。

しかし、同じ電源トランスを使用した場合に取り出せる最大電流となると、ダイオード整流よりも真空管整流の方が数%〜10%大きいのです。取り出せる最大電流についていえば、整流効率が悪い方が有利だというのは面白いですね。説明すると長くなってしまうので他の文献に預けますが、ダイオード整流の方が電源トランスの巻線に流れるピーク電流が大きく、真空管整流の時のピーク電流は平坦化されているという事情によります。ダイオード整流であっても、ダイオードごとに直列に数十〜数百Ωの抵抗を挿入することで真空管整流とほぼ同じ効果が得られます。

整流管もごく特殊なものをのぞいて、ヒーター(フィラメント)がありますので、そのための電源タップが必要です。多くの整流管では、ヒーター(フィラメント)とカソードとが共通になっているため、他の球のヒーター巻線との兼用はできません。5U4のような大型整流管ともなると、5V×3A(つまり15W)もの電力を必要とします。

ダイオード整流では、電源ONと同時に整流作用がはじまります。整流管では、前述したように動作開始までにタイムラグがあるため、増幅回路のB電源の電圧を徐々に立上げたいような場合に意図的に使用されることがあります。2A3と80のように、出力管と整流管とがセットで使えるように、フィラメントの立ち上がり時間を揃えてあるようなものもあります。

自作アンプビルダーの間で諸説入り乱れているのが、真空管整流とダイオード整流どちらがいいかという議論です。ダイオード整流よりも真空管整流の方が音が良い、という説をよく耳にしますがありますが、私はこの説には与しません。


整流素子の直列・並列接続

整流ダイオードは並列接続できない

整流ダイオードを2本並列にして使用すれば2倍の電流容量が得られるように思えます。確かにそのとおりなのですが、以下に述べる理由のために整流ダイオードはそのままでは並列接続できません。

ダイオードの順電圧は、負の温度特性を持っています。温度が上昇するにつれて、順電圧は低下します。2本のダイオードが並列に接続されていた場合、何らかの理由で片方のダイオードの温度がちょっとだけ上昇したとします。すると、温度が上昇した側のダイオードの順電圧が少し低下して、2本のダイオードに流れる電流にアンバランスが生じます。電流が多くなった側のダイオードは、自己発熱によって温度が上昇し、その結果、順電圧がさらに低下、電流がさらに増加、温度が上昇、順電圧が低下、電流が増加、温度が上昇・・・・が繰り返され、結局、1本のダイオードだけにしか電流が流れなくなってしまいます。多くの場合はそこまで極端な現象は起きませんが、動作の安定を欠くということに変わりはありません。

整流ダイオードを並列にして使いたい場合は、それぞれのダイオードと直列に取り出す出力電流に応じて0.1Ω〜数十Ωの抵抗を入れなければなりません。

整流ダイオードの直列接続

整流ダイオードを直列にして使用することは可能です。電流容量の増加には何の効果もありませんが、逆耐電圧を高めることはできます。但し、個々のダイオードの逆耐電圧は同じではありませんので、単純に2倍にはなってくれません。整流ダイオードを直列接続して耐圧を高めたい場合は、かなり余裕を持たせる必要があります。

整流管の並列接続

整流管を並列にして使用することは可能です。整流管は、ダイオードのような温度依存性がありませんから、並列接続にしてn倍の電流容量を得ることができます。ただし、球のばらつきによる負荷の偏りを防ぐために、それぞれの整流管と直列に数十Ω〜百数十Ωの抵抗を入れることをおすすめします。


整流方式

半波整流

かつて、廉価な真空管ラジオに多用された、整流素子を1つだけ使う簡易的な整流方式です。交流に含まれる電力サイクルのうちの片側半分だけを取り出すため、トランスおよび整流素子への負担が大きく、AC電源を汚染し、トランスはうなりを生じ、しかも整流直後の脈流(リプルを多量に含んだ直流)の平滑にはより大容量のコンデンサが必要です。整流方式としての不完全さを揶揄して半端整流などと呼ばれます。50/60Hzの交流を半波整流した時のリプルの基本周波数は50/60Hzです。

交流を整流素子だけで整流した直後は、脈流と呼ばれるかまぼこ型の波形が得られます。これでも直流の一種です。頂点の電圧は元の交流電圧(200Vの場合)の2倍=約283Vありますが、面積で考えると片側の波形が失われているために元の交流の1/2すなわちになっています。このままテスターで測定すると表示は約100Vとなります。なぜなら、テスターはピーク値ではなくほぼ実効値を表示するからです。(上図)

コンデンサによる平滑回路を追加すると、波形の頂点をつないだ状態の直流になるので、面積で考えると元の交流の2倍、整流直後の脈流の22倍、すなわち約283Vの直流になります。(下図)

(注:ここでの電圧は、電源トランスでの損失がなく、ダイオード(あるいは整流管)での電圧降下によるロスもなく、脈流が完全に平滑された理想的なものとした状態で計算しています。取り出す直流電流がごくわずかの時は、元の交流電圧を2倍した電圧とほとんど同じになります。)

整流素子にかかる逆電圧は、上図の場合では0V〜-566Vの範囲で変化します。整流素子の出口側は常に+283Vですが、入り口側は-283V〜+283Vの間で変化するからです。整流素子の逆耐圧は安全をみて800V以上のものでなければなりません。整流素子に流れる平均電流は、直流出力電流と同じ値になります。

そもそも、物資の乏しかった日本において半波整流は多用されましたが、本場米国では古くから両波整流が一般的でした。しかし、回路が簡易であり、電源トランスに専用に巻線が必要でないため、バイアス用電源のような微少電流回路では現代でも時々使われます。半波整流では、電力会社から供給される交流のうち片側の波形のみを使いますから、厳密な意味で生活電源全体にアンバランスを発生させ、電源を汚染しますので採用はおすすめしません。両波整流よりも半波整流の方が音が良い、という声を耳にしたことがありますがそうした風説に耳を傾けてはいけません。

センタータップ式両波整流

両波整流にもいくつかの方式がありますが、一般的なものの一つが2つの巻線を使った両波整流方式で、センタータップ式両波整流ともいいます。位相が反対の2つの半波整流を組み合わせたもの、と考えたらいいでしょう。半波整流の脈流がすかすかなのに比べて、両波整流では脈流が密に連なっている分整流効率が良くなっています。50/60Hzの交流を両波整流した時のリプルの周波数は100/120Hzです。


交流を整流した直後の脈流は、かまぼこ型が連続したような波形が得られます。頂点の電圧は元の交流電圧(200Vの場合)の2倍=約283Vあり、面積で考えると元の交流と同じになっています。このままテスターで測定すると表示は約200Vとなります。(上図)

コンデンサによる平滑回路を挿入すると、波形の頂点をつないだ状態の直流になるので、面積で考えると元の交流の2倍、整流直後の脈流でも2倍、すなわち約283Vの直流になります。(下図)


整流素子にかかる逆電圧は、上図の場合では半波整流と同じ566Vです。また、整流素子に流れる平均電流は、直流出力電流の1/2になります。整流素子の逆耐圧は安全をみて800V以上のものでなければなりません。

ブリッジ両波整流

同じ両波整流でも、電源トランスにセンタータップを必要としないかわりに整流素子を4個使う整流方式です。最終的に得られる脈流はセンタータップ式と同じです。


ダイオード(この方式で整流管が使われることはまずありません)1本あたりにかかる逆電圧は、上図の場合では283Vです。また、ダイオードに流れる平均電流は、直流出力電流の1/2になります。ダイオードの逆耐圧は、上記の2つ整流方式に比べて低くてもよい(1/2なので400V)というメリットがあります。欠点といえば、常にダイオードが2本直列にはいってしまうということです。100V以上の高圧であれば問題はないのですが、ヒーターの直流電源のような低電圧・大電流回路では、2本分のダイオードの順電圧(0.6〜1.4V×2)による電圧低下が無視できなくなります。

倍電圧両波整流

たった1つの巻線で、2倍の整流出力電圧を得ようという虫のよい回路です。この回路は、半波整流回路を2つ重ねた変形と考えることができ、半波整流回路で使われなかった負のサイクルも使ってしまおう、という発想に立っています。

ダイオード(この方式で整流管が使われることはまずありません)1本あたりにかかる逆電圧は283Vです。ダイオード(この方式で整流管が使われることはまずありません)に流れる平均電流も、直流出力電流と同じ値になります。ダイオードにかかる逆電圧は、上図の場合では283Vです。

コッククロフト回路

世の中には面白いことを考える人がいるようで、このコッククロフト回路はn倍電圧が得られる不思議な整流方式です。下図の上から順に、2倍電圧整流、3倍電圧整流、4倍電圧整流となっています。この調子で5倍、6倍・・・n倍整流が可能です。ただし、倍率が高くなるにつれて得られる出力電流は激減してゆきます。電流はほとんどいらないが高い電圧が欲しい、という時のために知っておくと便利です。


コンデンサ・インプットとチョーク・インプット

整流出力のすぐ後には、脈流をなめらかな直流にならす平滑回路がきます。平滑にはコンデンサの充放電作用を応用したものが常識的に使われますが、整流直後にコンデンサを置くか(コンデンサ・インプット)、チョークをはさんでからコンデンサを置くか(チョーク・インプット)の2つの方法があります。

上:コンデンサ・インプット、下:チョーク・インプット

これまでの説明はすべてコンデンサ・インプットを前提としていましたので、交流200Vを整流・平滑すると283Vになりました。それは、脈流のピーク値(283V)がコンデンサに流れ込んでいるからです。チョーク・インプットでは、途中に挟まったチョークのせいでコンデンサには実効値(200V)しかかからないため、平滑すると200Vになります。この2つの方式の違いは、

コンデンサ・インプット・・・構造が簡単で廉価、高い整流出力電圧が得られる、整流出力電圧は直流出力電流の変化の影響を受けやすく(レギュレーションがいまいち)、ダイオード(整流管)に電源ON直後のコンデンサを充電するための突入電流や尖頭電流(後述)が流れる。平滑回路といえばこれが標準。

チョーク・インプット・・・重いリプル電流でも振動しにくく漏洩磁束が少ないチョークインプット専用のチョークが必要、整流出力電圧が低い、整流出力電圧は直流出力電流の変化の影響を受けにくく(レギュレーションが良い)、電源ON直後のコンデンサを充電するための突入電流は緩慢。但しこの方式を採用しているアンプは少ない。

といったところにあります。一見、チョーク・インプットも悪くなさそうに思えますが、チョークの振動と磁束の漏れの問題が大きく、しかも市販の電源トランスのほとんどがコンデンサ・インプットを意識しているせいもあって、世の中のアンプの電源回路はコンデンサ・インプットが大勢を占めます。しかし、手持ちの電源トランスが高圧タップしかなく、これを使って低圧で動作する球を使ったアンプを作りたいような場合は、チョーク・インプット方式が便利です・・・まあ、こういう使い方はチョーク・インプット本来の使い方ではありませんが。

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