私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
電源の設計その4 (リプル・フィルタ回路の基礎/前編)

電源の残留リプル

整流直後の直流は、少なからずリプルを含んでいます。このリプルが残ったままの直流が増幅回路の電源として供給されると、リプルが信号経路に侵入してハムの原因になります。電源に残ったリプルのことを残留リプルといいます。残留リプルが、どのようにして、どれくらい、信号経路に影響を及ぼすかを知らないと、電源に含まれる残留リプルをどれくらい除去して、どの程度きれいな直流にすればよいかがわかりません。

電源のリプル・フィルタ回路の設計には、

残留リプルは何mV(何μV)以下でなければならないか
設計回路では、残留リプルは何mV(何μV)くらいになりそうか

この2つについての理解が必要であることになります。

増幅回路は、その方式によって電源の残留リプルの影響を受けにくいものもあれば、影響を受けやすいものもあります。ですから、似たような製作事例の電源回路を真似てリプル・フィルタ回路を適用しても、思わぬところでハムに悩まされたり、逆に過剰投資になったりしてしまいます。「徹底的にリプルを除去した」ということを意地悪く言うと「闇雲にリプルと取ってみた」になります。そうではなくて、「目標値に対してどれくらい十分に除去されているのか」というところまでしっかり把握できていることが必要なのではないかと思うのです。なぜなら、どのような努力をしても、交流電源を整流して得た直流を使っている限り、残留リプルはゼロにはなりません。必ず、何mVか、何μVか残留しているからです。


残留リプルを測定する

電源の残留リプルは、テスターの交流電圧レンジで簡単に測定できます。ただし、テスターのタイプによって測定方法と測定レンジに違いがでます。

アナログ・テスター

被測定電圧を全波整流したものを直接メーターで計測するタイプのもので、メーター表示面や取扱説明書に「4kΩ/V」とか「10kΩ/V」といった表示があり、測定できる最小電圧レンジはせいぜい5Vか10Vくらいのテスターです。このタイプのテスターの場合は、「1μF/630V」くらいのフィルムコンデンサで直流を遮断して使います。0.1V以下のリプルが読み取れないのが難点です。

デジタル・テスター

デジタル表示、メーター表示にかかわらず、最近の中級機種以上のテスターはほとんどこの方式です。10MΩ程度の高い内部抵抗を持ち、交流レンジでもいきなりアンプのB電源に接続するだけで、交流成分だけを測定できます。メーター式のものでもAC300mVレンジを持つものであれば、30mVくらいまでのリプルを正確に読み取れます。デジタル表示のものの多くは、1mVまで表示してくれるものがほとんどです。

アンプを自作されるのであれば、内部抵抗による測定誤差がほとんど出ないデジタル・テスターを最低1台は持つようにしてください。秋葉原の秋月電子ならば、きれいな箱入りではありませんが、3000円〜6000円でそこそこ使えるものが入手できます。


回路方式による残留リプルの被影響度

<シングル出力段>

出力トランスを使用したおなじみのシングル構成の出力段では、出力トランスの1次側巻線にかかるリプル電圧がそのまま2次側に現われて残留ハムとなります。以下のようなケースについて計算してみましょう。 <2A3の場合>

出力トランスの1次側巻線にかかるリプル電圧がそのまま2次側に現われる様子が、上図左です。出力トランスの2次側インピーダンスは2.5kΩ(実際には1.5〜2.2kΩくらいになり、さらにスピーカのインピーダンスの影響も大きく受ける)ですが、出力管(内部抵抗0.8kΩ)が直列にはいりますから、出力トランスの2次側に印加されるリプル電圧は、2.5kΩ÷(2.5kΩ+0.8kΩ)=0.76倍となるので76mVということになります。

さて、出力トランスの1次:2次巻線比は、インピーダンス比(2500:8すなわち312.5:1)の平方根ですから、17.7:1です。1次側に印加された交流電圧の1/17.7が2次側に現われますから、2次側の8Ωスピーカ端子における残留ハムは4.3mVと計算できます。

残留ハムが4.3mVというと、音楽よりもハムの方が気になって、音楽を楽しむどころではないくらいの値です。残留ハムは、多くとも1mV以下におさえたいところですから、このような条件とするには、電源における残留リプルは(逆算するとだいたいですが)20mV以下でなければならないことがわかります。

では、おなじことをビーム管6V6の場合について計算してみることにします。

<6V6の場合>

ごらんのとおりです。電源の残留リプルも出力トランスも同じ条件なのに、2次側の8Ωスピーカ端子における残留ハムはなんと0.4mVという計算結果になってしまいました。6V6のような多極管アンプでは、多くの場合、オーバーオールの負帰還をかけます。かりに12dB(つまりゲインは1/4になる)をかけたとすると、残留ハムも1/4に減りますから、計算上の残留ハムは更に減って0.1mVということになります。内部抵抗の高い5極管やビーム管が、ハムに強いと言われる理由はこんなところにあったのです。

ですから、ビーム管シングル・アンプの電源経路をそのまま流用して3極管シングル・アンプに改造した場合、ビーム管の時は何でもなかったのに3極管に変更してからハムが出るようになった、ということもおおいにありうるわけです。

ここで行った計算は、出力段だけではなく、インターステージ・トランスを使用したドライバ段等にも応用することができます。以下で説明するプッシュプル回路も同様です。


<プッシュプル出力段>

出力トランスを使用したプッシュプル構成の出力段では、リプル電圧が出力トランスの1次側巻線にかかるところまではシングル動作の時と同じです。そして、プッシュプル動作をしている2本の出力管ごとにそれぞれ同じようにリプル電圧が印加されます。 <プッシュプルの場合>

プッシュプル用出力トランスでは、1次インピーダンスの値は2本の出力管のプレート〜プレート間の値で表示されます。B+電源は、1次巻線の中点から供給されますので、出力管1本あたりの巻線は全体の半分になります。その場合、1次インピーダンスの値だけは半分にはならずに1/4になります。上図の動作で、出力管1本あたりの1次インピーダンスが8kΩの半分の4kΩではなく、2kΩとなっているのはそういう事情によります。

さて、上図によれば出力管ごとの出力トランスの1次巻線に印加されるリプル電圧はそれぞれ71mVになります。しかし、2つの1次巻線はお互いに位相が反対(だからこそプッシュプル動作ができる)ですから、印加されたリプル電圧はきれいに打ち消されて0mVになってしまうのです。

かりに、出力トランスの1次巻線の巻数に(多く見積もって)5%の誤差があったとしても、1次側に印加されるリプル電圧はわずかに3.6mVですから、2次側に現われる残留ハムは0.23mV以下ということになります。プッシュプル回路がきわめてハムに強いと言われるのは、こういった理由によります。


<電圧増幅段・・プレート出力の場合>

電圧増幅段の多くはトランスを使わないCR結合で構成されています。CR結合回路では、電源の残留リプルの影響の受け方が若干異なります。下図を見てください。
<電圧増幅段の場合>

電源の残留リプルを入力信号とみなして、増幅回路の出力側にどれくらい残留リプルが現われるか考えてみます。電源側から入力された信号(実は残留リプル=10mV)は、プレート負荷抵抗(47kΩ)を通って出力側に現われる際に、電圧増幅管(6FQ7)の内部抵抗(rp=10kΩ)とで減衰させられます。減衰率は、10kΩ÷(10kΩ+47kΩ)=0.175倍です。

かりに、この電圧増幅段が2A3シングルの出力段をドライブしているとします。この電圧増幅段の残留ハムがどのくらいでなければならないかを計算してみましょう。

RCA発表の2A3の動作で考えます。Ep=250V、Ip=60mA、RL=2.5kΩ、Rg1=-45V、Po=3.5Wという動作です。8Ω負荷で3.5Wというと、その時の信号電圧(実効値)は、√(3.5W×8Ω)=5.3Vです。このときの2A3のグリッド入力電圧は、45V÷1.414=32Vですから、グリッド〜8Ω間の利得は、5.3V÷32V=0.17倍です。つまり、8Ω出力において0.5mVとなるようなグリッド入力電圧は、0.5mV÷0.17=2.9mVであることがわかります。これすなわち、ドライバ出力における残留ハムの値です。

これを、さきに求めた減衰率(0.175倍)で割ってやれば、ドライバ段における電源の残留リプルの上限値が求まります。すなわち、2.9mV÷0.175=17mVです。

もっとも、実際の設計ではもっと余裕を持ったリプルの除去を行いますので、残留リプルの上限値は計算値の1/5〜1/10くらいに考えた方がいいでしょう。また、内部抵抗の高い電圧増幅管の場合は、電源の残留リプルがほとんど減衰することなくそっくりそのまま出力側に現われますので注意してください。


<電圧増幅段・・カソード・フォロワの場合>

カソード・フォロワ回路ではどうなるでしょうか。カソード・フォロワでは、カソード電位はプレート電圧に(あまり)関係なくグリッド電位によってなかば強制的に決定されてしまいます。

<カソード・フォロワの場合>

しかし、グリッドとプレートとの間には、電源の残留リプル分の交流電圧がかかります。この影響が、カソードからの出力にどの程度影響するかは、その球の3定数のうちの「μ」で決定されます。カソード側に現われる信号電圧は、グリッド〜プレート間にかけられた交流電圧(10mV)のおおよそ「1/μ」になります。12AX7(μ=100)であれば1/100の0.1mV6FQ7(μ=20)であれば1/20の0.5mVです。カソード・フォロワ回路は、一般に電源の残留リプルには強いといえます。

ただし、カソード側が直接接地されていなくて、マイナス電源となっている場合はこのような計算はできません。前述の電圧増幅段(プレートから出力を取り出す)と同様に、マイナス電源中に残留するリプルの影響をストレートに受けますからご注意ください。


残留リプルはどれくらいでなければならないか

話を戻して、増幅回路の各ステージごとに「残留リプルはどれくらいでなければならないか」について考えます。

<スピーカ出力>

8Ω出力において「1mV」以下、できれば「0.3mV」以下です。非常に静かな環境で音楽を聴こうとするならば「0.3mV」では足りない場合もありえます。

<ドライバ出力>

出力管の感度にもよりますが、「最大出力時の入力電圧の1/10000」あたりが最低ラインです。2A3でいえば3.2mVがボーダーラインになります。6BQ5の5極管接続等は極端に高感度ですから、最低ラインは0.3mV以下のオーダーになってきます。

<プリ出力>

メインアンプの利得によって大きく左右されてしまいますが、どんなメインアンプを接続しても、スピーカから気になるような残留ハムが出ないためには、「0.1mV」が最低ラインでしょう。これでも、1V出力に対してのS/N比は、たった60dBしか取れません。

すでに述べたように、回路方式によって電源の残留リプルがどのくらい出力信号に混入するかは異なります。スピーカ出力、ドライバ出力、プリ出力等々それぞれのステージにおいて、残留ハムが問題とらならいようにわきまえた電源回路・リプル・フィルタ回路を設計しなければなりません。

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