私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編
測定器その2 (オーディオ信号のジェネレータ)

正弦波信号の使い道

私が中学生の頃、テスターを1台持つのがやっとでしたが、とにかくアンプらしきものを作っていました。利得を測定したくてもオーディオジェネレータなどというものなど買えるわけもなく、いろいろ考えた結果、NHKの時報をテープレコーダーで録音して、それを使ってなんとか測定したのを覚えています。

学校の図書館で、トランジスタ1個を使った簡単な発振器回路を見つけて400Hzの発振器を作ったのが高校1年の頃のことです。発振は不安定でしたができることが大きく広がって当時初めて作ったミキサーに組み込んだところ、格段に使い易くなったのを覚えています。

正弦波信号が自由に使えると、オーディオアンプの利得が測定できるようになります。利得が測定できると、ちょっと工夫するだけでダンピングファクタや負帰還量が測定できます。低い周波数から高い周波数まで幅広い正弦波信号があれば周波数特性も測定できますし、チャネル間のクロストークも測定できます。


オーディオ信号のジェネレータの機能要件と注意事項

(1)飛び飛びスポットではなく、連続して任意の周波数が設定できること。

周波数特性はなだらかなものとが限りません。特にトランスを使った回路では非常に小刻みにピークとディップが生じますので連続的な周波数設定ができることが必須です。右図はある出力トランスの実測周波数特性ですが、10kHz、15kHz、20kHz、30kHzのスポットで測定するとなだらかな下降カーブになってしまい、ピークの存在に全く気づかないため誤った判断をしてしまいます。安心して負帰還をかけたらたちまちリンギングが出たり、発振したりで混乱するでしょう。

(2)目的に応じた充分な周波数帯域をカバーしていること。

難しい問題です。半導体アンプをまともに測定しようとすると、最低でも1Hz〜10MHzくらいの帯域が必要ですが、そんな広帯域に対応した電子電圧計は容易には手に入りません。廉価かつポピュラーなオーディオ・ジェネレータが10Hz〜1MHzをカバーするので、最低でもこれくらいのものが欲しいです。しかし、利得を測定するだけなら1KHzの1波があれば足りますから、やはり目的によって要件が変わります。

(3)出力電圧が幅広く可変であること。

PHONOイコライザやマイク・プリ・アンプを測定するにはmVオーダーのローレベルの信号が必要で、パワー・アンプでは数十mV〜2Vくらいのレベルの信号が必要です。私が愛用しているLeader製のオーディオ・ジェネレータは1mV以下の信号まで対応していますが、より広帯域の岩通製のファンクション・ジェネレータは最低出力電圧が数十mVもあります。結構、帯に短し襷に長しなのです。このような場合は減衰器(アッテネータ)がいります。また、被測定機材によっては数V以上の高い信号レベルが欲しくなることもあります。さまざまなレベルの測定信号を得るために、微調整機能がついたこのようなアッテネータを作って使っています。

(4)出力インピーダンス(内部抵抗)が充分に低く正確であること。

古来、オーディオ装置の測定では600Ωのものが主流でしたが、アンプは広帯域化した結果、600Ωでは不十分(高すぎる)になってきました。1MHzどまりの測定であれば600Ωのもので大概は間に合います。信号源インピーダンスが低くないと正確な測定ができない場合も存在します。たとえば、トランス単体の測定では出力インピーダンス(内部抵抗)によって特性がころころ変化してしまうので600Ωでは具合が悪いことがあります。MCカートリッジ用のヘッドアンプやレコーディング用のマイク・プリアンプなどがこれに該当します。


<機材のまとめ>

これでなければならぬ、ということではありませんが、参考のために代表的なものをまとめました。

分類 Maker Model 発振周波数 出力電圧 Memo
フリーソフト efuさん WaveGene 10Hz〜22kHz
(サンプリングレートによる)
任意
PCオーディオインターフェースに依存
現行品(2009.4)
オーディオジェネレータ リーダー電子 LAG-120B 10Hz〜1MHz 約1mV〜3V(600Ω終端)、6V(無負荷) 生産終了
オーディオジェネレータ TEXIO(旧KENWOOD) AG-203E 10Hz〜1MHz 約1mV〜5V(600Ω終端)、10V(無負荷) 現行品(2009.4)
ファンクションジェネレータ 岩通 SG-4105 0.01Hz〜15MHz 約35mV〜7V(50Ω終端)、14V(無負荷) 生産終了、TEXIO FG-281と顔も中身も同じ
ファンクションジェネレータ HP(現AGILENT) 3314A 0.001Hz〜19.99MHz 0.01mV〜10Vp-p 生産終了
オーディオアナライザ HP(現AGILENT) 8903A/B 20Hz〜100kHz 0.6mV〜6V 生産終了、低歪み率
オーディオアナライザ Panasonic VP-7721A 5Hz〜159kHz 50mV〜2V 生産終了、低歪み率
オーディオアナライザ Panasonic VP-7722A/7723A 5Hz〜110kHz 50mV〜2V 生産終了、超低歪み率


<パソコンを使う・・・データをダウンロードする>

専門の測定器がなくても、パソコンがあれば正弦波信号は手に入ります。とりあえず、このページ(http://www.op316.com/tubes/tips/wav2.htm)にアクセスしてみてください。10Hzから20kHzまで14スポットの正弦波信号のWAVフォーマット・データをアップしてあります。お持ちのパソコンのヘッドホン・ジャックをアンプにつなげば、10Hzから20kHzまでの周波数特性を測定できます。

但し、サンプリング・レートに44.1kHzを使う限り、周波数の上限は20kHz程度に制限されます。また、パソコン内臓のオーディオ・インターフェースの性能によっては100Hz以下および10kHz以上の帯域でのレスポンスは正確ではないかもしれません。


<パソコンを使う・・・フリーソフトを使う>

今度はこのページ(https://efu.jp.net/soft/wg/wg.html)にアクセスしてみてください。ここに"WaveGene"という有名なフリーソフトがあります。WaveGeneは当サイトのBBSにも時々来られるefuさん作のフリーソフトで、非常に低い周波数からパソコンのオーディオ・インターフェースがサポートする上限の周波数まで、自在にオーディオ信号を生成できます。前節のダウンロード・データもWaveGeneを使って生成しました。

右の画像はWaveGeneの画面です。操作はとても簡単で、希望する周波数を入力し、PLAYボタンを押せばパソコンから正弦波信号が出てきます。「dB」を指定すれば振幅も変えられます・・・0dBがデジタル信号の最大振幅=フルbit。また、秒数を指定してすぐ左のボタンを押すと、信号データをWAVファイルとして書き出すこともできますので、これをCDに焼けばテスト信号CDの出来上がりです。

弱点としてはこの方法でもオーディオ・インターフェースがサポートするサンプリング・レートの制限を受けてしまうことで、通常のパソコンの場合は20kHzくらいが上限になってしまいます。オーディオ・アンプの周波数特性の測定では1MHzくらいまでは欲しいですから、この方法では足りないわけです。


<オーディオ・ジェネレータを使う>

オーディオ・ジェネレータと呼ばれる測定器がオークションなどに出ています。

右の画像は比較的ポピュラーでよくオークションでも見かけるLEADER製のオーディオ・ジェネレータLAG-120Bです。発振周波数は10Hz〜1MHzの範囲で、正弦波と方形波が得られ、自作オーディオ・アンプの周波数特性を測定するのに十分なスペックを持っています。発振周波数も、飛び飛びのスポットではなく無段階の連続可変なのでトランスなどによって生じる鋭いピークやディップを逃さず測定できます。

LAG-120Bはすでに製造中止品ですが、中古品が1万円程度で入手可能です。同等のものが現行品でTEXIO(旧KENWOOD)からも出ており、正価で3〜4万円です。操作もシンプルで扱いやすく、あると何かと重宝するので精力的に複数台のアンプを自作されるのであれば是非入手していただきたい道具です。

私の失敗・・・周波数特性を測定していて発振周波数が100kHz〜1MHzレンジになったまま放置し、次に1kHzだと思い込んで利得を測定し、誤った数字を得ていることが(しょっちゅう)あります。

私の失敗・・・アッテネタータツマミが手前に出ている(=方形波にセットされている)ことに気付かずに、測定電圧がおかしい、周波数特性も変だと頭の中が「?」になっている。


<ファンクション・ジェネレータを使う>

オーディオ・ジェネレータの発振周波数は500kHz〜1MHzが上限ですが、ファンクション・ジェネレータになると2MHz以上の周波数が可能なものがたくさんあります。新品を正価で買うと10万円以上しますが・・・TEXIO FG-281や岩通SG-4105(右画像)など、10MHzクラスのものが中古やオークションを利用すると2〜4万円くらいで入手可能です。

OPアンプやトランジスタを使った回路を自作する場合は最低でも10MHzくらいまで帯域特性をチェックしなければなりませんので、このような道具が必要になってきます。

私の失敗・・・高機能なファンクション・ジェネレータは、交流信号だけでなく「オフセット」といって交流信号に一定のDC電圧を重ねて出力する機能があります。この機能が作動して出力にDCが出ているのに気がつかないでアンプに入力してしまい、幸いにしてアンプは壊れませんでしたが、異常な測定結果が出てわけがわからず慌てたことがあります。

私の失敗・・・波形のセットが正弦波になっていないために、測定電圧がおかしい、周波数特性も変だと頭の中が「?」になっている。


<オーディオ・アナライザを使う>

オーディオ・アナライザと呼ばれる測定装置があります。発振器と電子電圧計と歪率計が一体となった総合的なオーディオ試験装置です。代表的なものにHPの8903A/B(画像左)やPanasonic製のVP772Xシリーズ(画像右の2台)、目黒電波のMAK-6630、KENWOODのVA2230Aなどがあります。本気で測定機材を揃えたいのであれば、世界標準であるAudio Precision(略してAP)を使うことになります。

ただ、これらが装備している発振器は、非常に低い歪率を誇る反面帯域が狭いという弱点があります。発振周波数の上限は、8903で100kHz、VP7721Aで159.9kHzですので、相手がよほどに帯域特性がとんでもなく悪いオーディオ・アンプでもない限り帯域が足りません。高価なオーディオ・アナライザといえども万能ではないのです。結局、最低でも1MHzクラス(あるいはそれ以上)のファンクション・ジェネレータを保有しなければ片手落ちになります。

なお、オーディオ・アナライザの正価は50万円〜数百万円くらいしますが、中古であれば数万円から十数万円くらいで入手可能です。それでも決して安いものではありませんし、使い方をわきまえていないと宝の持ち腐れになります。

私の失敗・・・8903もVP7721AもBTLアンプが測定できるように測定入力端子が2系統あって、通常は一方の入力をGNDにつなぐスイッチを入れておきますが、そのスイッチがOFFのまま測定していたことがあります。また、帯域を制限するローパスフィルターがついているのですが(VP7721Aだと30kHzと80kHz)、どのフィルターをONにしたか確認しないで測定し、後で結果だけみて???になることもあります。測定条件は必ずメモしておきましょう。

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