私のアンプ設計マニュアル / 周辺技術編
3.抵抗器の種類と使い方

抵抗器の種類と特徴

炭素皮膜(カーボン)抵抗 最も安価で性能も安定しており、幅広い抵抗値(1Ω〜数MΩ)をつくることができます。オーディオ用として売られているものも多くみられます。ただし、大電力用のものはありません。温度変化に対する安定度が高いのは100kΩまでで、それ以上の抵抗値ではマイナスの温度特性を持ちますが、通常のオーディオ回路では気にすることはありません。ただし、雑音性能において金属皮膜抵抗にやや劣りますので、プリアンプなど低雑音が要求される回路では金属皮膜抵抗を推奨します。
炭素体(ソリッド)抵抗 堅牢であることと、広い抵抗値(2.2Ω〜22MΩ)が特徴ですが最近ではほとんど使われなくなりました。抵抗値の精度の高いものができず、経年変化によっても抵抗値はかなり変化(主に上昇する)します。特に、著しい高温にさらされると一挙に抵抗値が高くなってしまうことがあります。古い機材に使われていることが多いですが、取り外して測定してみると抵抗値が変わってしまっていることが多いです。
金属被膜抵抗 高精度(1%以下)のものを容易に作ることができ、特性も炭素皮膜(カーボン)抵抗に比べて安定しています・・・とはいっても、炭素皮膜(カーボン)抵抗も我々にとっては十分すぎるくらい安定していますが。構造上、抵抗値の下限は1Ωくらいまでです。これも大電力用のものはありません。特徴は、特性的に安定していることとノイズが小さいことです。そんなに高価ではないのに1%級が容易に手に入るので、1/2Wと1/4Wについては、私はもっぱら金属被膜抵抗を使っています。
金属酸化物被膜抵抗 1W〜5W程度の中電力用に作られている抵抗器で安価なので広く普及しています。一般に「酸金」と略して呼ばれています。精度・温度特性ともに金属被膜抵抗よりは劣りますが性能的には十分です。抵抗値の下限は0.1Ωくらいです。100kΩ以上のものも作れますが、店頭では100kΩ以上のものはなかなか見かけません。

抵抗器自体が堅牢で高い温度に耐えるようになったため、同じW数でも昔と今とではより小型になってきています。ということは同じ使い方をすると小型の方がより高温になってしまうわけです。抵抗器自体が高温に耐えても、周囲のコンデンサや配線材の耐温度があいかわらず低いですから、W数を鵜呑みにしないできちんと温度管理してください。私は25%くらいのディレーティングをしていますので、2W型の場合で使用上は0.5Wを上限としています。

巻線抵抗・セメント抵抗 巻線抵抗には、「精密用」と「電力用」の2種類があり、一般に市販されているもののほとんどが電力用です。セメント抵抗も、内部的には巻線抵抗の一種で「電力用」に属します。構造的には、コイルと同じなのでインダクタンスを持ちます。インダクタンスの影響は、数Ω以下の低抵抗で数MHz以上の高周波帯域で現われます。8Ωダミーロード用などでは、インダクタンスをキャンセルするような無誘導巻きを行ったタイプも作られています。耐熱構造なので、定格電力で使うと抵抗器本体は大変な高温になります。抵抗器は大丈夫でも周囲の他の部品が熱でやられてしまうので、温度管理に注意を要します。
タンタル合金薄膜抵抗 精密な抵抗値と経年変化に対して安定した抵抗値が得られる抵抗ですが、かなり高価です。
チップ抵抗 機器の小型化とともにチップ抵抗にもいろいろなタイプのものが作られるようになってきました。チップ抵抗は手作業による自作には適しませんが、今後はこういうものを使わざるを得なくなるかもしれません。

カラーコードの見方

抵抗器には、抵抗値を文字で印字されているものと、カラーコード表示されているものの2種類があります。カラーコードにも上2桁の値をベースにした4桁表示のものと、上3桁の値をベースにした5桁(6桁)表示の2種類があります。

左:4.7kΩ J級(許容差5%)、右:4.7kΩ F級(許容差1%) 温度係数±250ppm/℃


抵抗値:

抵抗値の「上2桁」または「上3桁」の値を、カラーコードで表わしています。カラーコードの各色が数値の「0〜9」に対応しています。

黒色茶色赤色橙色黄色緑色青色紫色灰色白色
0123456789

上2桁のカラーコードでE24系列を一覧にすると、以下のようになります。この24パターンは非常に良く使いますので、暗記してしまうのが得策です。パーツ屋で抵抗を1本ずつ購入する時、誤って違った値の抵抗器を買ってしまうのを防ぐことができたり、回路に組み込まれている抵抗値をそらで読みとることで回路をスムーズに解析できます。

カラーコード上2桁カラーコード上2桁カラーコード上2桁
102247
112451
122756
133062
153368
163675
183982
204391


乗数:

3つめのカラーコードは乗数を表わしています。そこで「上2桁(上3桁)+乗数」を合わせて表現するとどうなるのか、例を作ってみました。

乗数 = 47■ = 470
銀色×10-1-→4.7Ω
金色×10-1→4.7Ω→47Ω
黒色×100■→47Ω■■→470Ω
茶色×101→470Ω→4700Ω(4.7kΩ)
赤色×102→4700Ω(4.7kΩ)→47000Ω(47kΩ)
橙色×103→47000Ω(47kΩ)→470000Ω(470kΩ)
黄色×104→470000Ω(470kΩ)→4700000Ω(4.7MΩ)
緑色×105→4700000Ω(4.7MΩ)-


許容差(%):

許容差(%)は、プラス・マイナスの範囲を表示します。抵抗器と同じコード体系です。「J級」といえば、コンデンサも抵抗も10%の精度になります。

許容差±0.1%灰色B級
許容差±0.25%青色C級
許容差±0.5%緑色D級
許容差±1%茶色F級
許容差±2%赤色G級
許容差±5%金色J級
許容差±10%銀色K級
許容差±20%無表示M級


温度係数(ppm/℃):

温度係数(ppm/℃)も、プラス・マイナスの範囲を表示します。

温度係数±250(ppm/℃)黒色
温度係数±100(ppm/℃)茶色
温度係数±50(ppm/℃)赤色
温度係数±25(ppm/℃)黄色
温度係数±20(ppm/℃)緑色
温度係数±15(ppm/℃)橙色
温度係数±10(ppm/℃)青色
温度係数±5(ppm/℃)紫色
温度係数±1(ppm/℃)灰色


実装技術

許容差の考え方

実際にアンプを組む時、抵抗器の許容差はどれくらいのものを確保すればよいのでしょうか。抵抗値がインパクトを与える要素には以下のようなものがあります。 オーディオアンプで特に目立つのが、「左右のアンバランス」と「イコライザ特性の誤差」だと思います。無帰還アンプであれば、裸利得にかかわる抵抗類の精度が重要ですし、負帰還をかけた場合は、裸利得および帰還定数にかかわる抵抗類の精度が重要になってきます。3段構成のアンプの場合、1段あたりの利得の誤差が5%であったとしても、3段すべてにおいて5%ずつ誤差が生じていると、全体では1.053となって、最悪の場合16%すなわち1.4dBもの利得差が生じてしまいます。

そこで、ステレオアンプでは、同じ個所で使用する左右それぞれの抵抗器の値を揃えることが重要になってきます。100kΩが必要な場合、左=99kΩ、右=101kΩであるよりも、左=104kΩ、右=104kΩであることの方が意味があります。絶対的に100kΩに近いことよりも、左右の値が相対的に揃っている方が良い結果が得られるわけです。許容差5%のJ級のカーボン抵抗であれば1本5円程度で入手可能ですが、許容差1%のF級の抵抗器となると1本20円以上することもあります。だとすれば、J級のカーボン抵抗を10本購入して、そこからペアを揃えた方がお得かもしれません。(私は手間を省くために1%級の金属皮膜抵抗を使っています)

PHONOイコライザ回路やトーンコントロール回路でも高い精度が要求されます。この場合は、絶対的な精度も重要になります。相対的な精度は左右の位相差になって定位に影響がありますし、絶対的な精度はイコライジング精度にインパクトを与えます。このとき、抵抗器と組み合わされるコンデンサの容量値の精度も同程度に高くなければ意味がありません。パワーアンプで、出力管のバイアス調整における回路電流検出抵抗も絶対的な精度が重要です。出力管のカソード側に挿入される検出用の数Ω程度の抵抗がその代表例です。デジタル回路では、超高精度の抵抗値が要求される場合があります。このような場合は、プリントパターン上は2本の抵抗器を直列に実装できるようにしておき、目標値よりもごくわずかに値の小さい抵抗に直列にもう1本抵抗を足すことで、高精度の抵抗値を得るようにします。

キャパシタンスの低減

抵抗器は、ごくわずかですが容量を持っています。つまり、抵抗器に並列にごく小容量のコンデンサが抱きあわせになっていると考えることができます。この問題は、特に高抵抗値の時に顕著に現われます。高抵抗が負荷や負帰還回路に使われている場合が要注意です。このような回路で広帯域で安定した抵抗値が必要な場合は、1/2の抵抗値のものを2本直列にして実装すると、容量を1/4にすることができます。また、できるだけ低い抵抗値で構成できるような回路設計にすることも重要です。

インダクタンスの低減

抵抗器は、ごくわずかですがインダクタンスも持っています。つまり、抵抗器に直列にコイルがつながっていると考えることができます。この問題は、特に低抵抗値の時に顕著に現われます。トランジスタのOTLアンプなどで、0.1〜0.5Ω程度のエミッタ抵抗を挿入する場合がありますが、ここで使用する抵抗器は大抵1W〜5Wくらいの巻線(セメント)抵抗です。巻線抵抗器はご存知のようにコイルそのものですから、抵抗器であると同時にコイルでもあります。カーボン抵抗や金属皮膜抵抗もインダクタンスは持っています。そもそも、コイル状でない直線であってもインダクタンスはありますので、線があるところインダクタンスあり、と思ってください。

これは群馬大学で測定された実データです。キャパシタンス、インダクタンスともに比較的良好な金属皮膜抵抗でも、10MHzまでについて考えるとキャパシタンスについては100kΩ以上は要注意、インダクタンスについては100Ω以下は要注意なのです。低インピーダンス部分の多い半導体アンプでは1MHz以上の帯域での挙動の管理が設計のキモですから、特にインダクタンスについての考慮が要求されます。

出典:http://cs3.el.gunma-u.ac.jp/AnalogKnowledge/Laboratory/Chapter001/Doc/IM_R_3B.pdf
その他参考文献:http://www.cqpub.co.jp/dwm/contents/0029/dwm002900590.pdf

温度管理

抵抗器で消費された電力は100%熱になります。抵抗器とは、要するに電熱器であるわけです。最近の抵抗器は、同じ1/2W型でも以前のものに比べてどんどん小型化されてきていますが、だからといって発熱量が減ったわけではありません。ということは、サイズの大きい1/2W型抵抗器とサイズの小さい1/2W型の抵抗器にそれぞれ同じだけの電力を消費させた場合、サイズの小さい1/2W型の抵抗器の方がより高温になってしまうことを意味します。ですから、抵抗器を選ぶ場合、実際に大きさもしっかりチェックしなければなりません。抵抗器自体がいくら難燃化し、高温に耐えるように改良されたとしても、それは却って周辺部品にとって迷惑になってしまうからです。

一般論ですが、選定するW数は、実際の消費電力に対して25%くらいになるようなディレーティング(余裕を持たせる)が適切だと思います。それでも、セメント抵抗器などはさわれないくらい熱くなることがあります。少々の無理をさせたとしても、50%が上限だと思ってください。

また、抵抗器は、水平に実装された場合を想定して電力容量が決定されていますから、立てて実装した場合は、ディレーティングに余裕を持たせなければなりません。特に、ホーロータイプの巻線抵抗では、熱せられた空気が上昇するために、直立して実装した抵抗器の上半分がより高温になりやすくなっています。抵抗器はリード線の伝導放熱も計算にはいって設計されています。ですから、リード線の先に、真空管ソケット等のより高温になる部品が繋がっているような場合も、ディレーティングに余裕を持たせなければなりません。

抵抗器の配置にも配慮が必要です。ケースに組み込んだ時に、抵抗器の熱で他の部品を炙ることがないように上下関係を考えて配置を決めます。基板に実装する場合は、基板自体を放熱に使う場合と、基板の温度を上げたくない場合とがあります。それによって基板に密着させるか、離して取り付けるのか分かれます。

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