私のアンプ設計マニュアル / 工具と製作編
穴あけ (丸穴)

まず回転工具

ハンドドリル
アンプ作りでは、小物部品、金属シャーシ、ケース、パネルなどに非常に多くの穴を開けなければなりません。その数は数十個を超えます。大きさは、丸穴では小さいもので2.6mm径のビスのための3mm径の穴から、大きなものではGT管のソケットや出力トランスの取り付け穴で31mm径くらいです。その中間には、RCAジャック、スピーカー端子、DCジャック、ヘッドホンジャック、ヒューズホルダーなどさまざまな丸穴があります。

丸穴を開ける基本工具はドリルです。ドリルには、ハンドドリル、電動ドリル、卓上ボール盤があります。私が最初に購入したのは柄が木製のハンドドリルで、電動ドリルを手に入れるまでに2本使い倒しました。ハンドドリルはとにかく廉価であるのと、効率は悪いけれども回転速度を自在にコントロールできるというメリットがあります。直径の大きな穴をこれで一発で開けるのは無理ですが、ビス穴などはこれで十分です。やりくりすればハンドドリルでも立派にアンプは作れます。

電動ドリル
ハンドドリルに比べると電動ドリル(振動ドリル)はとても楽ちんです。欠点は、回転スピードのコントロールがやりにくいこと、重いので手で安定して保持するのが難しいことでしょうか。電動ドリルを買う場合は、必ず画像のような簡易ドリルスタンドも併せて購入してください。これがあるのとないのとでは天と地の違いがあります。電動ドリルを購入する時の注意点としては、ドリルスタンドに取り付けられるように首のところが42mm径の筒状になっていることです。バッテリー式のドリルには首がありませんので、せっかく購入してもドリルスタンドに取り付けできません。

調光器(パワーコントローラ)があると回転スピードの微調整ができる上に、ドリルから手を離せるのでこれもあるとほんとに便利です。なかなか大電力のものがないのですが、画像のものは200Wなのでなんとか使えます。

←パワーコントローラ

私は、ホームセンターで売っている木工用の作業台に簡易ドリルスタンドを固定しています。この作業台は、ドリルを使わずに部品を固定してやすりがけをする時などにも重宝します。さらに、右の画像のように作業板を1枚重ねています。

卓上ボール盤
卓上ボール盤も大小あって、私のRYOBI TB-2131は素人が使うにしてはかなり大型に属します。なにしろ重量が34kgもあります。しかし、大きさや重さの割りには安い道具でもあります。ボール盤には金属性の固定器具(バイス)がついていますが、そのままだと部品を傷つけてしまう上に作業がやりにくいので、木製の作業テーブルを作って取り付けてあります。この木製の作業テーブルは売っていませんので自分で作るしかありません。ボール盤が載っているキャスター付きの白い台は、20mm厚の板を9枚貼り合わせて自分で作りました。150kgの重量に耐えます。卓上ボール盤は10mm径のボルトでしっかりと固定してあります。過日の震災でも倒れることなく、壁にも傷ひとつつきませんでした。

なお、卓上ボール盤は猛烈に電力を食うので前述の調光器は全く使えません(過熱して発火します)。アンプに限らず、本気で工作をしようというのであれば、小型でもいいので卓上ボール盤を持つことをおすすめします。何故かというと、パワーも加工精度も仕上がりもまるで違うからです。

TB-2131→


フトコロ寸法問題

ドリルスタンドや卓上ボール盤のことをずいぶんと褒めましたが、この種の道具にはフトコロ寸法という厄介な制約があります。

フトコロ寸法というのは、加工できる奥行きのことです(右画像)。小型の卓上ボール盤のフトコロ寸法は10cmくらいですので、25cm四方のアルミ板の中央には穴を開けようとしても支柱が邪魔をしてドリルの先端が届きません。40cm×20cmのサイズのシャーシであれば、上面のどこにでも穴を開けられますが、40cm×25cmのサイズの場合は中央に5cmの幅で穴を開けられない空白の地帯ができてしまうのです。

こういう場合はどうしたらいいか。結局、電動ドリルを手で持って穴を開けるしかありません。つまり、ボール盤を手に入れたとしても電動ドリルあるいハンドドリルは必要なのです。私が何故34kgもある大型のボール盤を買ったかというと、少しでもフトコロが深いもの(12.5cm)が欲しかったからです。

実はもうひとつ、フトコロ似た問題があります。それは縦方向の余裕です。卓上ボール盤は縦長のものの縦方向に穴を開けるようにはできていません。40cm×25cmのサイズのシャーシの長い40cm側の側面には穴を開けることができません。この場合も電動ドリルを手で持って、立ち上がって穴を開けることになります。

これらのことは重要な制約事項ですので知っておいてください。


ドリルの先につける工具

ドリルの先につける刃物のことをドリルビットといい、普通らせん形のものをスクリュードリルといいます。スクリュードリルには、直径1mmくらいの細いものから13mmくらいまであります。アンプの製作で良く使うサイズをまとめてみました。

サイズ用途
2.0〜3.0mm正確に位置決めしたい時に最初に開けるガイド穴。
3.0〜3.1mm2.6mm径のビス穴。
3.0〜3.2mm3mmタイプのLED穴。頒布しているPG3889S/BG3889Sの場合は3.2mmが適する。
3.4〜3.5mm3mm径のビス穴。
4.5〜5.0mm4mm径のビス穴。

ドリルビットにはさまざまな用途のものがありますが、アンプの製作ではアルミ板や鉄板が相手ですので、一般的な鉄鋼用が適します。鉄鋼用のドリルビットの先端はピラミッド形をしています(下の画像の左側)。少々値が張りますが薄板用とか穴あけ上手とかいう先が平らで中央がちょこっと出っ張ったタイプ(下の画像の右側)は、開けた穴がいびつにならず、カエリの出にくいのでおすすめです。このタイプは位置決めも正確にできて先が泳ぎません。

良く使うドリルビット→ ←鉄鋼用と薄板用

スクリュードリルでは開けにくいより大きな穴は、4mm〜5mmくらいのスクリュードリルで開けた穴を別の工具を使ってさらに大きく広げます。そのような穴には以下のものがあります。

サイズ用途
3.0〜3.2mm2.6mm径のビス穴、3mmタイプのLED穴、ボリュームやロータリースイッチのストッパー穴。
6.5mm小型のトグルスイッチ。
8.0mmRCAジャック(絶縁なし)、スピーカー端子(ジョンソンターミナル)、ボリューム穴。
9.0mmM型のロータリースイッチ、DCジャック。
13mmヒューズホルダー。
16mmヒューズホルダー。
19mm9pin mTソケット、キャノンレセプタクル(旧タイプ、オス)。
24〜25mmキャノンレセプタクル(新旧タイプ、メス)、キャノン/TRSコンボ・ジャック。
30mm真空管UX/UY/UZソケット。オクタルソケット。
31mmオクタルソケット(OMRON製)。

テーパーリーマー

無段階で任意のサイズの丸穴が開けられるのでこれは必需品です。10mm以下の穴を開けたり、穴の大きさを部品に精密に合わせるのに使います。価格もそれほど高くありません。

弱点もあって、10mm以上の大きなサイズになると、きれいな円形にならずに金平糖のよなでこぼこした穴になります。刃がシャープなうちはまだいいのですが、なまってくるとダメですね。これで20mm以上の径の穴あけはちょっと難しいでしょう。アルミの場合、板厚が2mm以上になるとかなりの労力がいります。手でぐりぐりやる道具なので、張り切りすぎるを手のひらが真っ赤に充血して箸が持てなくなります。


ステップドリル(画像右側の2つ)

テーパーリーマーからこのステップドリルに切り替えると、「こんなに楽だったのか」と思うくらい効率的に穴あけができます。但し、お値段がかなりする(2000円以上)道具なのでお財布の方はちょっときついかも。電動ドリルで使う場合は、しっかり保持しないと事故になるので、必ずドリルスタンドを併用してください。加えて、低速での処理になりますので調光器などを使ったスピードコントロールも必要です。
バリ取り(画像左側の2つ)
穴あけ加工につきものなのがバリやカエリです。バリ取りはこれを取って穴の周囲をきれいに仕上げるのに重宝します。おすすめなのは右側の丸穴があいた方で、鰹節を削るようにきれいに作業できますが、左側のギザギザのはまるでダメです。バリ取りは皿ネジの埋め込みの穴も開けることができます。

ホールソー
真空管ソケット(18mm〜31mm)やキャノンコネクタ(18mm〜25mm)くらいの丸穴になるとステップドリルでも苦手な大きさになってきます。大きな丸穴開けの決定打はホールソーです。テーパーリーマーやステップドリルは、1つの工具でさまざまなサイズに穴を開けることができますが、ホールソーは1サイズ1個の専用です。19mmと24mmと31mmを開けたければ3つ買わなければなりませんので、選ぶには覚悟がいります。

私のおすすめはユニカ製のメタコアトリプル(画像左端)で、他のメーカーよりもやや値が張りますが、とにかくスムーズかつ正確に穴あけができ、しかも切り屑の目詰まりがほとんどありません。画像中央のものはよくホームセンターで見かけますが、仕上がり精度において劣ります。画像右端のものは廉価なので買ってしまいましたが、どうしようもないくらい使いにくいです。



穴あけのこつ

正確な位置に開けるには・・・4.5mm径の穴を開けるのに、いきなり4.5mmのドリルビットを使うと位置ずれを起こしやすいです。そこで、まず2.0〜3.0mmくらいのガイド穴を開け、0.5〜1mmきざみでドリルビットを太くして穴を徐々に大きくしてゆくと位置ずれが起きません。なお、さきにご紹介した薄板用とか穴あけ上手というドリルビットは位置ずれが起きにくいです。

きれいな丸穴を開けるには・・・4.5mm径の穴を開けるのに、いきなり4.5mmのドリルビットを使うと必ずといっていいくらい穴が真円にならずにオニギリ型になります。しかし、上記の方法で穴を徐々に大きくする方法ではきれいな丸い穴に仕上げることができます。なお、さきにご紹介した薄板用とか穴あけ上手というドリルビットはオニギリ型になりにくいです。

切削油を使う・・・



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