私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その14 (2段直結増幅回路)

実用性がある増幅回路

トランジスタによる1段増幅は、真空管と比べて、歪が10倍くらい多い、入力インピーダンスが低い・・・といった弱点があるためにオーディオ用途としての高品質な増幅回路を構成するのは困難です。2段構成として十分な利得を稼ぎ、負帰還を活用することでようやく一人前な物理特性が得られるようになります。

この時、回路にDC帰還のしくみを組み込むことで高いDC安定を得ることが可能です。真空管ではなかなかできない芸当ですが、半導体では容易にできてしまうので、半導体による2段増幅回路ではAC帰還とDC帰還の両方を組み込むのが普通です。以下に、基本となる3つの方式について解説します。


NPN-NPN 2段直結増幅回路

最初に見ていただくのは、1960年代に登場したトランジスタ2段直結増幅回路の原点とも言える回路です。

この回路はNPN(同極性)トランジスタ2個による2段直結です。コレクタはベースよりも必ず電圧が高くなりますから、直結してつなげてゆくとコレクタ電圧は後段になるほど高くなってゆきます。電源電圧を有効に使いつつ初段のコレクタと2段目のベースを直結するためには、初段コレクタ電圧はできるだけ低くしなければなりません。

当時はまだ優れた特性のPNPタイプのシリコン・トランジスタが登場しておらず、オーディオ回路で使える低雑音・高hFEのシリコン・トランジスタはNPNタイプしかありませんでした。そのため、この回路はNPNトランジスタだけで構成しなければなりませんでした。

右の回路では、2段目のコレクタ電圧は電源電圧30Vの1/2の15Vですが、初段のコレクタ電圧は1.56Vしかありません。こんなに低い電圧で十分な振幅が得られるのかと思ってしまいますが、2段目の利得は非常に大きくわずかな入力電圧で足りるのでこれで十分なのです。


<DC安定のメカニズム>
トランジスタ回路設計のキモはどのようにしてDC安定を得るかにあります。この回路のDC安定は、初段コレクタから初段ベースへの局部帰還によって得ており、その基本動作のエッセンスだけを抜き出したのが左下図です。初段のベース〜エミッタ間電圧が約0.6Vでほぼ一定であることを利用して、2段目のエミッタ抵抗とで電流値は決定される定電流回路と言うこともできます。2段目のエミッタ電圧は約0.6V一定となり、そこに2段目のベース〜エミッタ間電圧の約0.6Vが加わって初段コレクタ電圧になります。実際の回路では、初段のエミッタには1kΩが入っており、初段ベースと2段目エミッタの間には100kΩがありますが、動作の基本は変わることはありません(右下図)。

何らかの理由で2段目のコレクタ電流が増加するとエミッタ電圧が上昇するので、それにつれて初段のベース電圧が上昇し、初段コレクタ電流が増加しようとします。初段コレクタ電流が増加すると初段コレクタ電圧は下がりますから、直結した2段目のエミッタ電圧が下がり、2段目のコレクタ電流を減らす力が働くわけです。この回路では、DC安定のための帰還ループとオーディオ信号増幅のための帰還ループが別個になっている点が特徴的です。

<2段目の利得
コレクタ負荷抵抗(7.5k)に加えて負帰還抵抗(100kΩ+1kΩ)も負荷となるため、2段目の負荷は6.98kΩとなります。コレクタ電流は2mAなので、2段目の利得は、7kΩ÷(26Ω÷2mA)=537倍となります。

<初段の利得
初段の負荷は、コレクタ負荷抵抗(240kΩ)と2段目の入力インピーダンスのご合成値になります。2段目トランジスタのhFE=500だとすると、2段目の入力インピーダンスは、(26Ω÷2mA)×500=6.5kΩとなります。初段の負荷は、(240kΩ×6.5kΩ)÷(240kΩ+6.5kΩ)=6.33kΩとなり、初段の利得は6.33kΩ÷((26Ω÷0.101mA)+1kΩ)=5.04倍となります。


PNP-NPN 2段直結増幅回路

2番目は、1970年頃に登場した異極性トランジスタによる2段直結増幅回路で、旧来の真空管回路の延長から脱却したトランジスタらしい回路の姿になりました。また本格的なDC帰還時代の幕開けともなりました。この回路方式を不十分ながら採用したのはJBL SG520プリアンプ(1970年)ですが、すでにSANSUIはより成熟した形でAU-999やAU-888において実現していたのでした(1970年)。私がAU-999の回路を見たのは17歳の時のことですが、NPN-NPNで固まった頭には斬新すぎてしばらく意味がわかりませんでした。QuadやPioneerなど他社はまだNPN-NPNの2段増幅を採用していた頃のことです。

初段にPNP、2段目にNPNという風に逆極性のトランジスタによって直結してゆくと、電源電圧のかさ上げ現象が起きないので電源電圧を有効に使うことができるようになります。加えて終段コレクタと初段エミッタの電位を近づけることができるため、DC領域からオーディオ帯域まで単一の帰還ループで無理なく負帰還をかけることができます。

<DC安定のメカニズム>
この回路のDC安定は、2段目コレクタから初段エミッタにかけているオーバーオールの負帰還がDC領域まで効いていることで得ており、その基本動作のエッセンスだけを抜き出したのが左下図です。初段のベース電圧は、RB1とRB2によって電源電圧を分圧した電圧によって決定され、これがこの回路の動作を決定する初期値となります。2段目トランジスタのベース〜エミッタ間電圧は約0.6Vとなりますが、これは初段のコレクタ負荷抵抗Rc1の両端電圧でもあります。初段コレクタ電流Ic1は、0.6VとRc1によって一意に決定されます。ところで、初段ベース電圧はすでに決定されているので、初段エミッタ電圧は自動的に初段ベース電圧に約0.6Vを足した電圧になります。負帰還抵抗RNFには初段コレクタ電流Ic1が流れるので、負帰還抵抗RNFに生じる電圧VRNFも自動的に決まり、さらには2段目のコレクタ電圧も自動的に決まってこの状態で安定します。

実際の回路では、2段目のエミッタには抵抗が入っていますが、動作の基本は変わることはありません(右下図)。また、初段のエミッタ周辺の回路に抵抗器を1本追加するだけで±2電源で動作する方式にアレンジすることもできます。

何らかの理由で2段目のコレクタ電流が増加するとコレクタ電圧が下降するので、それにつれて初段のエミッタ電圧も下降し、初段コレクタ電流が減少しようとします。初段コレクタ電流が減少すると初段コレクタ負荷抵抗の両端電圧が下がりますから、2段目のコレクタ電流を減らす力が働くわけです。

上図中のRxを追加することで初段コレクタ電流値や電圧バランスを自在に変化させることが可能です。初段コレクタ電流値を増やせばわずかですが初段の利得を大きくできますし、電圧バランスを変えることでプラス電源ではなく±電源に変更することもできます。

オーディオ帯域では初段エミッタに入れてある1kΩが効いてくるので負帰還素子は1:100となって一定の利得を持ちますが、DC領域では1kΩはないものとみなすため100%の負帰還がかかっていて利得はありません。つまり、DC領域ではきわめて強力な制動がかかっている回路なのです。このような負帰還の考え方はこの回路が登場するまで知られていませんでした。この回路の登場によって、これまでほとんど考慮されなかったDC〜10Hz以下の帯域についても、回路としての挙動が注目されるようになりました。

<2段目の利得
コレクタ負荷抵抗(7.5k)に加えて負帰還抵抗(100kΩ+1kΩ)も負荷となるため、2段目の負荷は6.98kΩとなります。コレクタ電流は1.92mAなので、2段目の利得は、7kΩ÷(26Ω÷1.92mA)=517倍となります。

<初段の利得
初段の負荷は、コレクタ負荷抵抗(20kΩ)と2段目の入力インピーダンスのご合成値になります。2段目トランジスタのhFE=500だとすると、2段目の入力インピーダンスは、(26Ω÷1.91mA)×500=6.77kΩとなります。初段の負荷は、(20kΩ×6.77kΩ)÷(20kΩ+6.77kΩ)=5.06kΩとなり、初段の利得は5.06kΩ÷((26Ω÷0.082mA)+1kΩ)=3.84倍となります。


PNP差動-NPN 2段直結増幅回路

前述したPNP-NPN 2段直結増幅回路の初段を差動回路としたのがこの回路です。差動回路として考えるのではなく、右側のトランジスタをエミッタフォロワと考えて、DC帰還をエミッタフォロワを挟んでから初段のエミッタに帰還させていると考えてもいいでしょう。

この回路方式に至ってようやく現在の増幅回路の基礎ができたと言えます。いまどきの半導体によるオーディオアンプもOPアンプも、そのほとんどすべてがこの回路の延長線上にあると言っていいでしょう。


<DC安定のメカニズム>
初段差動回路の左側トランジスタのベースに基準電圧(この場合はアース電位)を与えることで、右側トランジスタのベースが検出する電圧(すなわち2段目トランジスタのコレクタ電圧)が左側のベースと同電位になるようDC帰還かけた回路で、その基本動作のエッセンスだけを抜き出したのが左下図です。2段目トランジスタのベース〜エミッタ間電圧は約0.6Vとなりますが、これは初段左側トランジスタのコレクタ負荷抵抗Rc1の両端電圧でもあります。初段コレクタ電流Ic1は、0.6VとRc1によって一意に決定されます。右側トランジスタにも同じコレクタ電流を流してやるために、Ic1の2倍の電流が流れるように共通エミッタ抵抗RE1を決めてやります。これだけのことで、2段目トランジスタのコレクタ電流およびコレクタ電圧は安定します。

何らかの理由で2段目のコレクタ電流が増加するとコレクタ電圧が下降するので、差動回路の右側トランジスタのベースがそれを検出して差動バランスが崩れ、右側トランジスタのコレクタ電流が増加、左側トランジスタのコレクタ電流は減少します。左側トランジスタのコレクタ電流が減少すると初段コレクタ負荷抵抗の両端電圧が下がりますから、2段目のコレクタ電流を減らす力が働くわけです。

オーディオ帯域では初段エミッタに入れてある1kΩが効いてくるので負帰還素子は1:100となって一定の利得を持ちますが、DC領域では1kΩはないものとみなすため100%の負帰還がかかっていて利得はありません。つまり、DC領域ではきわめて強力な制動がかかった回路ということになります。

<2段目の利得
コレクタ負荷抵抗(7.5k)に加えて負帰還抵抗(100kΩ+1kΩ)も負荷となるため、2段目の負荷は6.98kΩとなります。コレクタ電流は2mAなので、2段目の利得は、7kΩ÷(26Ω÷2mA)=537倍となります。

<初段の利得
初段の負荷は、コレクタ負荷抵抗(20kΩ)と2段目の入力インピーダンスのご合成値になります。2段目トランジスタのhFE=500だとすると、2段目の入力インピーダンスは、(26Ω÷2mA)×500=6.5kΩとなります。初段の負荷は、(20kΩ×6.5kΩ)÷(20kΩ+6.5kΩ)=4.91kΩとなり、初段の利得は4.91kΩ÷(26Ω÷0.082mA×2)=7.74倍となります。

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