私のアンプ設計マニュアル / 半導体技術編
トランジスタ増幅回路その21 (定電圧回路)

定電圧電源の評価指標

定電圧電源の性能を評価する時に、交流と直流の2つの顔があることを考える必要があります。緩慢な変化をするのが直流動作で、10Hz以上高周波帯域までが交流動作です。オーディオ信号に追従するのは交流動なのですが、パワーアンプの消費電流の変化に追従するのは直流動作です。このあたりの識別は難しいです。

定電圧電源の直流動作を考える時は、コンデンサはないものとして解析します。高周波帯域では、回路図にないコンデンサ(デバイス内部容量)やリードインダクタンスも考慮します。

直流動作と交流動作が錯綜するので、参考にしたドキュメントも電源インピーダンス、出力インピーダンス、動作抵抗、内部 抵抗という風にいろいろな表現が出てきます。用語の統一が難しいのです。


定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)

<動作の仕組み>
流す電流の大きさにかかわらず常にほぼ一定の電圧が生じるダイオードです。右図は、接合シリコン・ダイオードの一般的な特性です。普通は上半分の順方向領域で動作させて使います。整流回路で逆電圧がかかっている時は飽和領域に入っています。ダイオードの耐圧を超えて逆電圧をかけると、降伏領域に入って突然大量の電流が流れて破壊します。

定電圧ダイオードは、数Vから数十Vという低圧で意図的に降伏領域を作り出したダイオードです。定電圧ダイオードも、順方向で動作させると普通のシリコン・ダイオードのような性質を示します。耐圧がものすごく低いダイオードだと思えばいいでしょう。定電圧ダイオードが、記号と逆向き電流を流して使うのは接合ダイオードの降伏領域を利用しているからです。

<ノイズ>
実際には滑らかな一定の電圧が生じているのではなく、ある電圧を中心に微細に振動しています。その振動は不規則で広い帯域に渡っているので、ホワイトノイズ発生源として使われるくらいノイジーです。ノイズは動作電流が少ないほど大きくなり、動作電流の大きさにほぼ反比例します。またツェナー電圧が高いものほどノイズは大きいです。

定電圧ダイオードのノイズを減らすには、6V以下のものを使う、動作電流を多く(3mA以上)する、並列に大容量(470μF以上)を抱かせる、ノイズが回路に流入しないようにフィルタを付けるといった工夫が必要です。

<実測データ>
右図は、手持ちの定電圧ダイオードの実測データです。4Vは動作電流をかなり多く流してやらないと電圧が安定しません。6Vになると1mA以上流してやれば非常に安定した電圧が得られますが、できるならば2mAは流してやりたいところです。10V以上になると0.5mA以下でも安定した電圧が得られるようになりますが、電圧が高いほど右上がりの傾きが大きくなります。

<動作抵抗>
動作抵抗とは、定電圧ダイオードの内部抵抗のことです。動作抵抗が大きいと動作電流の値の変化によって電圧変動が大きくます。左下は、HZシリーズのデータですが、他のメーカーもほぼ同じです。8V〜12Vが最も小さくそれよりも低くても高くても大きくなります。

<温度特性>
右上は、HZシリーズの温度特性データです。ニュートラルポイントは5Vです。5V以上は電圧が高いほど温度上昇と共に電圧も上昇し易くなります(正の相関)。5Vよりも低いものは逆になります(負の相関)。動作電流を増やしてゆくと、動作抵抗の影響で電圧は上昇しますが、同時に自己発熱による電圧上昇も起こります。そして10V以上になると、動作抵抗よりも自己発熱の影響の方が目立つようになります。

<定電圧ダイオードによるシャント電源回路>
真空管ミニワッターのいくつかは、定電圧ダイオードを使ったシンプルなシャント電源回路を採用しています。アンプ側への電流供給は約8mAで、定電圧ダイオードには4mAほど流しています。こんな簡単な回路でも立派に機能しています。

定電圧ダイオードの動作抵抗12Vと17Vの2つ合わせて20Ωくらいだと思います。直流では20Ωですが、交流では20Ωを上限として470μFのリアクタンスと同じになります。

気になる温度特性ですが、19mV/℃です。29V一個だけだと24mV/℃ですが2つに分けることで少しですが温度特性を改善しています。20℃の温度変化に対して0.38V(1.3%)の電圧変化です。このアンプが、電圧が少々変動しても動作に支障を生じない構造をしていることもあるかと思います。


定電圧IC

TL431という定電圧ICがあり、廉価に入手できます。2.5V〜36Vを作ることができ、動作電流は1mA〜100mAです。動作抵抗は0.22Ωで非常に低いです。アノードがプラス側、カソードがマイナス側で、もう一つレファレンスという電圧を制御する端子が出ています。レファレンス〜カソード間(Vref)は常に2.5V一定です。

TL431は、下図のように使います。左側は、レファレンスをアノードにつないでいます。これがTL431の最小電圧の2.5Vです。通常は、右側のように2本の抵抗でレファレンスをつないだ分圧回路で電圧を決めてやります。レファレンスに流れこむ電流は1.8μAですからほとんど無視できます。

TL431はアンプの一種ですから帯域に限界があります。右図は、TL431の動作インピーダンスの帯域データです。0.22Ωが得られるのは30kHzまでで、そこから上は10Ωまで増加します。2MHzから上はデータがありません。広い帯域で1Ω以下を維持するには、並列に2.2〜4.7μFのフィルム・コンデンサあるいはOSコンデンサを抱かせる必要があります。参考に2.2μFのリアクタンス値を書き込んでおきました。

<シャント・レギュレータ>
左下は、TL431をそのまま使ったシャント・レギュレータで、右下はトランジスタの助けを借りた電流容量を増やした回路です。共にR1=30kΩ、R2=10kΩとして10Vにセットしています。30kHz以上の帯域での動作インピーダンスの上昇を防ぐために2.2μFを追加しています。TL431は、スペック上は100mA 流せることになっていますが許容損失は小さいので熱設計上は注意がいります。

左下の図は、TL431を使った定電圧電源の例です。後述する定電圧電源の標準形にとても良く似ています。TL431も内部的に利得を持っていますから実は同じものなのです。

Vref=2.5Vに対して、10kΩ:82kΩですから出力電圧は23Vになります。TL431の動作に1mA以上が必要ですから、トランジスタのベース電流に取られても1mA以上が残るように回路定数を決めています。

回路図中にコンデンサが1つ見えますが、このコンデンサの意味がわかりません。記号を見ると電解コンデンサのようです。テクニカル・ドキュメントを見ても解説がありませんし、アノード〜レファレンス間にコンデンサを入れているのは他に例がありません。お判りになる方がいらしゃったらお教えください。

掲示板でTikさんが、ルネサスのドキュメントに解説のデータがあることを教えてくださいました。このコンデンサは位相補正が目的で帯域を相当に狭くしないと発振するそうです。容量は0.01〜0.1μFくらいだそうです。


簡易型定電圧電源回路

下図は、MC/MM平衡型PHONOイコライザの電源回路です。全部で3つの定電圧回路を使っています。高圧側は、定電圧電源回路の標準形で、低圧側とマイナス側は簡易型です。ここでは簡易型について解説します。

簡易型の定電圧電源回路は、トランジスタのベースを定電圧ダイオードで縛ったエミッタ・フォロワということができます。エミッタ・フォロワはコレクタ電圧が変動してもエミッタ出力は影響を受けません。この性質を利用してリプルを除去します。

右の回路は、2個直列にした12Vの定電圧ダイオードで作った24Vでベース電圧を与えています。アンプ側には8mAを供給しています。2SC3425のhFEは40〜55なので、ベース電流は0.2〜0.15mAです。180kΩには1mAを流していますが、hFEが小さい個体でも定電圧ダイオードの動作電流は0.8mAが確保されます。

温度特性は16mV/℃です。内訳は、定電圧ダイオードによるものが14mV/℃で2SC3425のベース〜エミッタ間電圧によるものが2mV/℃です。

電源インピーダンスは、エミッタ・フォロワの出力インピーダンスと同じ方法で計算できます。

電源インピーダンス=(ベース側インピーダンス÷hFE)+(26÷コレクタ電流)
コレクタ電流8.3mAに対する出力インピーダンスは3.13Ωです。220μFの10Hz、100Hzにおけるリアクタンスはそれぞれ72.3Ω、7.23Ωです。これと20Ωの並列合成値は15.7Ωと5.31Ωです。直流では20Ωをそのまま使います。hFE=45とすると、直流では0.444Ω、10Hzでは0.349Ω、100Hzでは0.118Ωになります。これらを足すと、直流では3.6Ω、10Hzでは3.5Ω、100Hzでは3.2Ωになります。

203Vから23.5Vまで一気に落としているので電圧ドロップでの消費電力が1.49Wもあります。これを全て2SC3425に背負わせるのはきびしいので、そのうち0.565Wを8.2kΩの抵抗に分散させています。電源OFF時にコンデンサに溜まった電荷の放出が起きます。その際に放出経路が適切でないと電圧が逆転します。定電圧電源回路の出口につけた82kΩは、それを防ぐためのものです。

左の回路は、ヒーター及びマイナス電源です。2個直列にした7Vの定電圧ダイオードで作った14.1Vでベース電圧を与えています。アンプ側には8mAを供給しています。2SA1451AのhFEは150〜250なので、ベース電流は4〜2.4mAです。300Ωには7mAを流していますが、hFEが小さい個体でも定電圧ダイオードの動作電流は3mAが確保されます。

温度特性は6mV/℃です。内訳は、定電圧ダイオードによるものが4mV/℃で2SA1451Aのベース〜エミッタ間電圧によるものが2mV/℃です。電源インピーダンスは、0.1Ωくらいです。

この定電圧電源回路のリプル除去能力について検証しておきます。整流直後の残留リプルは300mVくらいですが、これをどこまで減らせるかです。定電圧ダイオードの動作抵抗は2つ合わせて30Ωくらいですから、300Ωとの組み合わせでは1/11にしかなりません。1000μFの100Hzにおけるリアクタンスは1.6Ωですから、これを入れることでようやく1.6mVまで減らせます。


定電圧電源回路の標準形

右図は、電源回路の教科書に出てくるような定電圧電源回路の標準形です。下側のトランジスタは直流域でエミッタ共通回路として動作し利得を持っています。上側のトランジスタはエミッタ・フォロワです。

下側トランジスタの直流利得は400倍くらいです。エミッタ・フォロワを経て270kΩと27kΩで負帰還がかかっています。ベース電圧は17.8Vですから27kΩに流れる電流は0.659mAです。270kΩ側は185.2Vなので0.686mAです。その差の0.027mAがベース電流ということになります。直流域には40dBくらいの負帰還がかかって出力電圧の安定を保っています。

温度特性の要素となるのは、定電圧ダイオードと下側トランジスタのベース〜エミッタ間電圧です。定電圧ダイオードは12mV/℃ですが、下側トランジスタのベース〜エミッタ間電圧の‐2mV/℃はこれを打ち消す方向に作用するので10mV/℃となります。出力電圧はこれの11倍ですから、最終的には110mV/℃になります。10℃の温度変化に対して1.1V(0.54%)の変動です。

交流的には、簡易型と同じで18kΩと66μFによるリプル・フィルタとして動作します。66μFの100Hzにおけるリアクタンスは24.1Ωですからフィルタ効果は1/747です。電源インピーダンスは1Ωくらいです。

<大電流化>
この形のまま大電流化するには、エミッタ・フォロワ側をダーリントン接続にします。

<温度特性を良くする>
温度特性を損ねる要素は、下側トランジスタのベース〜エミッタ間電圧と定電圧ダイオードの温度特性ですから、両方を合わせた電圧の温度特性を良くすることがポイントです。トランジスタのベース〜エミッタ間電圧の温度特性は-2mV/℃ですから、+2mV/℃の7Vの定電圧ダイオードとの組み合わせで温度特性はニュートラルになります。定電圧ICのTL431は優れた温度特性を持ちますが、これをそのまま使うとトランジスタのベース〜エミッタ間電圧の-2mV/℃が打ち消されません。この場合は、ベース側の分圧抵抗(27kΩのこと)と直列にシリコン・ダイオードを入れることで打ち消しができます。

<電源インピーダンスを下げる>
交流的にはただのエミッタ・フォロワですから、ベース〜アース間のコンデンサ容量を増やす、hFEが高いトランジスタを使う、取り出す電流を増やすことが効果的です。直流的には、下側トランジスタの利得を大きくすればいいので、定電圧ダイオードに動作抵抗が小さいものを選ぶ、コレクタ負荷抵抗(18kΩ)を定電流負荷に置き換えるといった方法があります。


3端子レギュレータ

今やあらゆる電子機器の至る所で当たり前のように使われているのが3端子レギュレータです。全段差動PPアンプの定電流回路として使ったこともあるLM317を材料にして解説します。

LM317は、1.2Vから37Vまでに対応し、最大1.5Aが取り出せる汎用3端子レギュレータです。入出力の電圧差の最大定格は40Vです。実装方法に応じたさまざまな形状のものがありますが、私たちが使いやすいTO-220タイプは右図の形状の3本足です。各端子の意味は以下の通りです。

  • Vin・・・電源入力
  • Adjust・・・レファレンス端子(Vout〜Adjust間=1.25V、0.05mAを吐き出す)
  • Vout・・・電源出力
各端子と回路動作については左下の図を参照してください。Vout〜Adjust間は常に1.25Vの基準電圧が生じています。そしてVoutの電圧が2本の抵抗で分圧されるようにして出力電圧を設定します。Adjust端子からは約0.05mAの電流が出てくるのでこれも計算に入れます。

図中に計算例を赤字で書き込んでみました。

レファレンス電圧のところに1kΩを入れました。ここに流れる電流は1.25mAです。その下には10kΩがあります。こちら側は、0.05mAが合流して1.3mAですから、10kΩでは13Vになります。出力電圧は13Vと1.25Vを足して14.25Vです。

入力電圧は17V〜35Vと書いてありますが、どういう根拠でその数字が出てきたのでしょうか。

左下の図は、ドロップアウト(入出力電圧の差)のデータです。余裕を持って1.5Aを出力するには2.5V以上が必要ということがわかります。この数字に無理をさせると性能が落ちやすいので17Vとしました。LM317の入出力間の耐圧が40Vなので、出力側がショートした時のことも考えて上限を35Vとしました。

<基本回路>
右図は、LM317の推奨回路です。LM317を使う上で注意すべきだとのほとんどがきちんと盛り込まれています。

入力のところのC2(0.1μF)は高周波特性が良いフィルム・コンデンサまたは積層セラミックコンデンサを使います。実装する場所はLM317の近くです。Vinから6cm以内という指定があります。

Adjust端子を交流的にアースすると出力インピーダンスを下げることができます。それをやっているのがC1(10μF)です。右上の図は、C1の有無を比較したデータです。100Hz以上の全帯域にわたって著しい改善があります。オーディオ帯域で0.1Ω以下、1MHzでも1Ωですからなかなか優秀です。C1は10μFあれば十分で容量を増やしても効果は同じです。それよりも高周波特性が良好なことが重要で、テクニカル・ドキュメントはタンタル電解コンデンサの使用を求めています。

C3(1μF)は、高周波帯域の出力インピーダンス低減のために入れます。こちらもタンタル電解コンデンサが推奨されています。テクニカル・ドキュメントを注意深く読んでゆくと、大きな容量(500μF〜5000μF)の負荷を与えると応答特性を損ねるという記述があります。

D1のダイオードは、電源OFFやVoutがショートした時に、Adjust〜Vout間に大きな逆電圧がかかるのを防ぐためのものです。

<0V〜30V可変電源>
右図は、出力電圧が0Vから設定できるようにした定電圧電源です。LM317をそのまま使うとレファレンス電圧以下の設定はできませんが、レファレンス電圧分だけマイナスに引き込んでやることで0Vの設定が可能になります。

回路図中のLM113は、正確に1.22Vを作ってくれる定電圧ICです。これを使って-1.22Vを作ります。LM317のレファレンス電圧が1.25Vですから差し引き0.03Vから設定可能になります。

LM113を使わずに1S1586や1S2076Aを2本直列にして1.5mAくらい流すとちょうど1.25Vになります。


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