私のアンプ設計マニュアル / 雑学編
2連ボリュームの左右アンバランス補正

ステレオ2連ボリュームの左右アンバランス問題:

ステレオアンプでは、左右チャネルの音量が揃わないで音が右か左のどちらかに偏ってしまうということがよく起きます。市販のオーディオ製品の定格をみると、左右のアンバランスを3dBくらいまで許容しているものが目立ちますが、現実的には1dBのアンバランスがあれば多く人が気づいて違和感を覚えます。アンプ部の利得のアンバランスは負帰還で抑えることができますが、音量調整ボリュームで生じた機械的なアンバランスだけはどうしようもありません。アルプス電気の2連の可変抵抗器の規格をみると、2つのユニットの偏差の許容値は3dBとあります。秋葉原の千石電商で扱っている廉価な2連ボリュームをいくつか買ってきて実測したところ、最大で4dBの偏差のものがありましたから、こんなのを実装してしまった日には落ち着いて音楽を聞くどころではありません。

最近のメーカー製のオーディオ機器は、コストの関係もあって機械式ボリュームを廃して左右のアンバランスがほとんど生じない電子式に切り替わってきています。しかし、自作ではあいかわらず機械式の2連ボリュームに頼ることがほとんどなのでこの問題は結構深刻です。いろいろなメーカーの2連ボリュームを調査したところ、アルプス電気製のRK27シリーズがダントツに精度が高いことがわかったので、本サイトの製作では一部の例外を除いてこのRK27シリーズを使っています。もちろん、RK27シリーズと言えども完璧ではないので、個体によっては1dB程度の偏差が生じます。

ここでは、偏差が生じている2連ボリュームをなんとかして使えるものにするための知恵と方法を考えたいと思います。


シミュレーションExcelシート:

お手元の2連ボリュームをテスターで実測し、そのデータをもとに「どの位置に、どれくらいの値の抵抗器をつけたらいいか」を見つけるためのツールをMicrosoft Excelで作成しました。下図のような1枚のExcelシートで、ここに測定結果を入力するとステレオの音量調整ボリュームとして使った時に、どれくらい左右でアンバランスが生じるのかを表示してくれます。さらに、アンバランスを補正するために適当な抵抗値を入力すると、アンバランスがどう変化するかをグラフで表示します。


↑ これはイメージ / ダウンロードはここ → vol-adj.xls

画面の説明:

「基礎データの入力」ところに手順に従って測定した抵抗値を入力すると、左下のグラフにボリュームの特性カーブが表示されます。特性が良く揃っていれば、青と赤の線は重なりますが、アンバランスが生じていると線が離れてしまいます。図の例では赤い線の方が音量が大きくなります。この左右のアンバランスの程度をdBで指標化したのが中央のグラフです。黒い線が元のアンバランスの状態、緑の線が補正された状態を表しています。

補正抵抗は図の右にあるようにボリュームの2つの端子間に取り付けます。補正抵抗を取り付けた側のUnitの方が中間点での音量は大きくなります。MAXポジションでは補正抵抗が全く機能しなくなるので左右の差はなくなります。


どうやって補正するか:

左右のアンバランスが生じている2連ボリュームは、ポジションによって左右のバランスが入れ替わるということはあまりになくて、どのポジションでも左右どちらか一方の音量が大きい、という現象が生じています。ただ、偏りの程度がポジションによって変化するわけです。実測データを入力すると、左下のように特性カーブが表示されます。左右のひらき具合をdB表示したのが右下です。画面の例では、10時ポジションで1.6dBほどのアンバランスが生じていますが、これくらいのアンバランスですとほとんどの人が気づきます。12〜2時ポジションでは0.8dBくらいですがこれは微妙な値です。できたら±0.5dB以内に入れたいところです。

ところで、音量調整ボリュームが最も使いやすい状態というのは、12時くらいのポジションで普段最も良く聞く音量が得られ、すこし静かにして聞きたい時で10時くらい、2時くらいにしたら大きめな音量が得られるくらいの利得バランスです。ここでは、10時〜2時くらいの範囲でできるだけ左右のアンバランスがなくなるようにするにはどうしたらいいかについて説明します。

補正の方法は抵抗器1本を追加するだけの簡単な方法です。通常は音量が小さい側のチャネルに1本の抵抗器を追加することで、12時付近を持ち上げて音量を少しだけ大きくしてやります。10時とか12時とか2時とか、特定のポジションだけ選んで音量を大きくすることはできませんので、全体として最も違和感が少なくなる抵抗値を選んで割り切るという考え方をします。

右の画像は、Unit1側に"240kΩ"の補正抵抗を入れた時の状態を見ているところです。Unit2には入れないことにしていますので"999999"という十分に大きな値を入れて影響が出ないようにしてあります。左右のアンバランスは±0.3dBくらいの範囲に減っています。これくらいまで追い込めれば文句ないでしょう。

抵抗1本で補正→   ←抵抗2本で補正

ひとつ面白い現象なのですが、単純に両方に同じ値の抵抗器を追加しただけでもアンバランスが減ります。従って、一方にだけ補正抵抗を入れても十分でない場合、もう少し追い込みたい場合は、両チャネルに補正抵抗を入れみると効果がある場合があります。右上のケースでは、抵抗器を2本入れることで±0.26dBまで追い込んでいます。

なお、10時くらいで大音量になり、12時まで上げたことがない、というのはあまりいい状態とはいえません。このような条件では、可変抵抗器の精度が出にくい領域を使うことになるので補正も難しくなりますので、ここでご紹介する方法では解決できません。


作業の手順:

(1)まず、Excelシートをダウンロードして、Excelで開きます。Microsoft Excelをお持ちでない場合は開けませんのであしからず。(Excelシートのダウンロードはここをクリック→ vol-adj.xls

(2)テスター(Ωレンジ)でボリュームの抵抗値を測定し、その結果をExcelシートに入力してゆきます。測定する場所はExcelシートの右図に説明があります。ボリュームを左に回しきった状態(MIN)ではほとんど0Ωになるでしょう。次に10時くらいのところまで回した状態で、Unit1とUnit2の両方の抵抗値を測定します。2つのUnitで正確に同じポジションでないと比較できません。次に12時の状態で同様の測定をします。これを2時、5時(MAX)でも行います。全く同じポジションで2つのユニットの状態を測定・比較できればいいので、10時とか12時といっても正確にその角度である必要はありません。

(3)測定結果が2つのグラフで表示されますので、どんな特性なのか分析してみましょう。左側のグラフがボリュームをMINからMAXまでまわした時の音量変化の様子を表しています。2つのUnitの減衰の状態が揃っている時は赤・青の2つの線がきれいに重なります。中央のグラフの緑色の線が左右のアンバランスの状態をdBで表しています。

(4)「補正抵抗値入力」のところにいろいろな値を入れてみてください。入力した値によって赤い線と青い線が動きます。線全体が0dBに近くなるような値を探します。同時にどちら側のユニットに補正抵抗を取り付けたらいいかもわかりしかけになっています。


課題と制約:

ボリュームポジションによって左右のバランスが入れ替わるタイプのばらつきは、この方法では解決できません。というか、そういう場合は買い換えるしかないでしょう。

補正抵抗は、ボリュームをMINに絞った時にボリュームと完全に並列になります。そのため、たとえば50kΩのボリュームに240kΩの補整抵抗を取り付けた場合、入力インピーダンスは以下のようになります。

補整抵抗がある分だけ入力インピーダンスが下がり、その影響はMINの時が最大で、MIXに近づくにつれて小さくなり、MAXでは全くなくなります。通常の使い方をする限りこの影響は無視できますが、精密さを要求される回路では影響度を検証しておく必要があります。
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